第13話 童話にとっての極刑
見返したはずなのに、直し漏れはどこかしら出てくる。
学校帰りに直接理香の家に寄ろうかと思った酒挽だったが、理香にやんわりと断られた。
「乙女にはいろいろ準備することがあるのだ」
仕方なしに一度下校し、着替えてから理香の家へと向かった。
出迎えてくれた理香が部屋へと案内すると、そこに制服姿のままのキイナが待ち構えていた。
「残念だったな。あと10分早ければ、裸ワイシャツ的な光景を目撃できただろうに」
「別に期待していない。大体何だよ『裸ワイシャツ的』ってのは?」
「裸に直接白ワイシャツを羽織って、官能的なポーズで相手の淫欲を刺激することだ」
「そこじゃねぇよ!」
というか、そんな定義があるとは知らなかった。
「あの、ちゃんと下着を着用していたから『的』付きなのです!」
「あ~、キイナ。別に本気で意味が分からなかったわけじゃないから」
真面目に解説をしてくれた彼女に、申し訳ないと思ってしまう酒挽であった。
ちなみに、キイナの髪は銀髪に戻り、ウサ耳も頭のてっぺんに生えている。
「お風呂を借りて、髪を洗ったのですよ」
「ていうか、ウサ耳、家の人にバレたら大変じゃないか?」
異世界人のキイナは、正真正銘のウサギ人間である。頭上にウサ耳がある代わりに、側頭部には耳がない。
「家の者は、どのような奇抜な格好であっても、大体、芝居の衣装合わせだと勝手に納得する」
それはそれで大問題だ。つまりは、不審者が勝手に侵入しても誰も見咎めないということに等しい。
「まぁ、揃ったところで始めるとしよう」
理香がイスに座り、キイナはベッドに腰掛ける。床に腰を下ろそうとした酒挽だったが「キイナの横に」と理香に指定された。
同級生女子のベッドに、というのもどうかと、一瞬だけ思ったが、今さら意識しても仕方がないことなので、平然とした態度でキイナの横に座った。
理香は机の上にあるパソコンに手を伸ばし、いつでも使える状態になっていることを確認してから、二人に向き直る。
「まず、キイナに確認しよう」
「何をです?」
「姫に有罪という汚名を着せた無能な弁護人は、一体誰だ?」
辛辣な言葉だった。しかし、圧倒的有利と言われた裁判で、あっさり極刑を宣言されたのだから、厳しい評価なのもしかたがないのかもしれない。
「第一審は、王子が弁護人を務めたようなのです」
「王子?」
白雪姫にキスをして目を覚まさせるキーパーソン。後半にしか登場しないくせに、物語の転換点を担う超重要人物だ。
だが、弁護においては力が及ばなかった。
検察が百戦錬磨の常勝検事、テールだったことが不幸だったのか、それとも元々王子にそこまでの力がなかったのか。
結果、白雪姫に下された判決は『極刑』。刑の中で最も重い。最愛の人物を守ろうとした王子の思いは、伝わらなかったことになる。
「姫が目覚めてから行動を共にしているのは王子だけだしな。止むを得ない人選ではあるか」
理香は『森の姫君』の台本をめくりながらそう言う。
「あれ? キイナは第一審には関わってないの?」
「はい。童話裁判弁護保佐人は、控訴審から裁判に関わるのです。控訴するしないを決め、控訴する場合の弁護人を選任するのが、保佐人のお仕事なのです」
そして『白雪姫』の場合は、キイナが控訴することを決め、酒挽を弁護人に選んだ。
ちなみに、検察側が敗訴した場合、控訴はできないという決まりになっているらしい。
「代わりに『童話裁判』では、刑は即実行されます」
「……え?」
刑の中で『極刑』とは一番重い罪。であれば、白雪姫は『死罪』を言い渡されたことになる。
しかし。
「白雪姫とは、監獄で会ったじゃないか」
その反論に答えたのは、理香だった。
「当利。確かに人間にとっては『極刑』とは死刑だろう。だが、童話では、登場人物の死は日常茶飯事。とても究極の罰とは言い難い」
「理香の言うとおりなのです。童話にとっての究極の罰。それは、忘却なのです」




