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第112話 白雪姫の殺意――反証(その2)

 酒挽(さかびき)は、白雪姫に向き直る。


「ところで、あなたは、自分と王子の結婚式の招待状を、誰宛に出したのですか?」


「……え?」


 戦争の話から結婚式の話に唐突に話が変わったことに、白雪姫の表情に困惑が浮かぶ。


「あなたと王子の結婚式の招待状、あなたも出したんですよね?」


 言い方を変えて、酒挽は質問を繰り返す。


「はい。お父様とお母様に出しました」


「そうですか」


 その回答に違和感を覚える。なぜ「両親」ではなく「父親」と「母親」と言ったのか。単に言い回しの違いなのか、それとも……。

 酒挽は検察側の席に視線を飛ばす。


「テール検事。検察側が事件の概要で説明してくれた時は、『白雪姫自らが王妃に招待状を出した』と言っていませんでしたか?」


 ほんの些細な違い。封筒の宛先は父親である王と、母親である王妃、両者が併記されていたのかもしれない。なら、より正確な説明をするためには「王妃に」と、あたかも単独で送られたような印象を持つ表現をする理由はない。


「言っておりませんよ?」


 テールは微笑を浮かべて答える。


「私は『白雪姫自身が結婚式の招待状を出した』とは言いましたが、『王妃に』とまでは言及しておりません」


「……確かに言っていないのです」


 弁護士側の席でキイナが立ち上がって、そう告げる。だが、次の瞬間、その視線はテールを見据えていた。


「でも、こう言ったのです。『白雪姫は、本件事件が起きるまでに4度、王妃から命を狙われたと主張しています。にもかかわらず()()()()()()()()()()()()()()()()()。いくら実の母親とはいえ、自分の命を4度も狙ったはずの相手に招待状を出すでしょうか?』――こんな言い方をしたら、トーリみたいに勘違いするのが、当然ではないですか!」


「解釈を()()()違えたのは、弁護側ですよね? その後も王子が『白雪姫が()()()招待状を出したのを聞いて――』と証言しているんですよ? そもそも、自分の結婚式に招待状を出す時、同居している相手に対して、別々に招待状を送ったりすると思いますか? 常識的に考えれば、一世帯に1通だと思いませんか?」


 そう。常識的に考えれば、それが普通なのだ。だから酒挽は敢えて白雪姫に問いかける。


「実際、あなたは、誰に何を送ったんですか?」


「……お父様宛の封筒に入れて……お父様の招待状とお母様の招待状を送りました」


 酒挽は首を捻る。

 確かに、テールの言ったとおり、郵便としては1通だけが送られている。が、同じ封筒に2通の招待状を入れることなんてあるのだろうか。仮に夫婦を招待する場合でも、招待状は1通。宛書だけが連名になるのではないだろうか。

 風習の違いの可能性もあるので、確認してみる。


「あなたの国では、出席者別に招待状を出すのが普通なのですか?」


「多分違うと思います。あの、何分私も初めてのことなので」


 白雪姫は答える。確かに年端もいかない子の初婚なのだ。やり方なんて知らないだろう。おそらく王子かメイドから、やり方を教わったのだろう。風習的なものがあるだろうから、白雪姫の国から来たメイドから、出身国のやり方を教わったのかもしれない。


「ただ……あの……やはり、狩人のおじ様から言われた言葉があったので……お父様にお任せすることにしたのです。お父様宛の手紙に、私が無事なこと、今は隣国にいること、明日結婚式を執り行うこと、お母様のご様子を鑑みていただいて、無理に出席をされないように、と」


「王妃の様子を鑑みて、ですか?」


「はい。これなら、娘の私が森で行方不明となったことで、心労により体調を崩しているのなら無理をしないように、と気遣う内容に見えますから」


 白雪姫自身も、文面を一字一句覚えているわけではないようで、大体そのような内容だったと証言した。


「一応確認しますが、王様への手紙に、王妃から命を狙われた件について言及したんですか?」


「……狩人のおじ様から聞いた話として書きました。他の3件については、語る必要がないと判断しましたので、書いておりません」


「もしかして、小人の家で保護されたことも?」


「はい。小人さんの家の話を入れると、どうしても3つの事件についても触れざるを得ません。それに、小人さんの家は領地内にあります。事情聴取などで、お忙しい小人さんにご迷惑をかけるわけにもいかないと思いましたので、それで……」


「つまり、王様宛の手紙には、狩人に連れられて森まで行った後『王妃の命令で殺す』と言われて、命乞いをして見逃してもらった。そして、隣国の王子に保護されて結婚をします、と書いたというわけですか」


「いえ……あの、命乞いの部分も書きませんでした。狩人のおじ様には申し訳なかったのですが、手紙を素直に読めば、私が狩人のおじ様から自発的に逃げた、と読み取れると思います」


「それは、なぜですか?」


「やはり……お母様があんな命令をするとは、思えなくて……」


 白雪姫は俯いて、呟くようにそう証言する。


「少し話が逸れましたが、つまり、招待状は、王様と王妃宛に1通ずつ存在した、ということですか」


「は、はい。そうなります」


 白雪姫は顔を正面に向けて答える。

 なるほど。それなら王子が「白雪姫が自国に招待状を出した」という証言も、検察側の言う「王妃に招待状を出した」という証言とも矛盾しない。


「あの、一つよろしいでしょうか?」


 証言台で、白雪姫がおずおずと手を挙げる。

 酒挽がキイナを見ると、「大丈夫なのです」と答えが返ってくる。

 ホッとした表情を浮かべて、白雪姫が語る。


「今回の招待状ですが、挙式が翌日ということもあり、出欠の返信を求めないものだったのです。なので、会場の入場券を兼ねているため、招待する相手の人数分を入れるようにと言われました」


 つまり、白雪姫の国宛に送られた招待状が2枚であっても、不自然ではないということになる。

 手紙の直接の宛名は王妃ではないが、招待状は王妃宛ということになる。そして、白雪姫はその招待状を王妃に渡すかどうかを父親――国王に委ねた。

 結果、王妃は招待状を入手して隣国の結婚式会場に入場し、殺された。


 隣国の戦争を回避するために、白雪姫の背中を叩いた咎で4人を公開処刑しようとしたのに、隣国の王妃を公開処刑したら本末転倒にしか思えない。

 そして実際に戦争は起きていない……某裁判ゲームのように、真犯人を暴いた結果無罪、という綺麗な終わり方は望めないかもな、なんて漠然と思いながら、酒挽は宣言した。


「弁護側は以上です」

次の日曜日までに、3回の更新を予定しています。

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