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第103話 王子が検察と組んだ理由

おそくなりました。第103話です。


2020/10/21 一部の表現を前後の話と統一するために修正しました。

「……タイトル、ねぇ」


 酒挽(さかびき)は思わず呟く。

 判断基準がタイトルだけというのは、聊か曖昧な気がしてならない。だが、理香が指摘したとおり、「白雪」という単語が存在するにもかかわらず、「姫」という単語一文字が結合しない不自然さも、間違いなく存在する。


「タイトルが同じでも、中身が違う。本当に弁護人の資格があるものかねぇ」


 酒挽が知る童話「白雪姫」は、王子のキスで意識を取り戻す。

 一方、童話裁判で審理の対象となっている「白雪姫」は、りんごの芯が口から飛び出して、意識が回復した。


「むしろ、そこに答えがあると思うがな」


「……どういうことだ?」


 理香の漏らした感想に、酒挽が疑問をぶつける。


「キイナ。今一度確認するが、童話裁判の弁護人となる資格は、()()()()()()()()で間違いないな?」


「なのです」


「それは、童話の()()()()()()()()()()()()()()()


「なのです」


 理香は、開いた手の親指を畳む。


「ボクのように、類似のストーリーを作った者では、弁護人の資格はない」


「なのです」


 今度は人差し指を畳む。


「ボクの作ったストーリーと全く同じ物語を記憶として留めていた当利には、弁護人の資格がある」


「なのです」


 中指が畳まれた。


「さて当利。君の知っている『白雪姫』、そしてボクの書いた『森の姫君』では、狩人に殺されかけた事件は存在した」


「そうだな」


「胸ひもの事件と、櫛の事件は存在しない」


「ああ」


「りんごの事件。王子のキスで意識を回復したが、裁判では、そんな事件は起きていなかった」


「そうだったな」


「……まだ、気づかないのか」


 理香がため息交じりに、そんなことを零しながら、ジト目で酒挽のことを見つめている。


「何が?」


「君自身が言及したことではないか。『メイドの目撃証言全部が嘘だ』と」


「いや、確かに言ったけどさ……」


 そう応じて、酒挽は、ハッと気が付く。


「そうか……()()()()、か」


 白雪姫が意識を取り戻した瞬間を目撃したのは、メイド一人。その唯一の目撃者が偽証をしていることになれば、全ての前提が崩れ去ることになる。


「その理屈は、おかしいのです!」


 キイナが異議あり、と言わんばかりに手を挙げて反論する。


「メイドの証言と王子の証言は一致しているのです。確かに、王子は、白雪姫が意識を取り戻した瞬間は見ていないかもしれないのですが、その前後の証言は、お互い矛盾などしていないのですよ!」


 理香は、薄笑いを浮かべて応じる。


「それはそうだろう。王子も偽証をしているのだからな」


「理香の言っていることは、めちゃくちゃなのです。王子は第一審の弁護人なのですよ? 誰よりも白雪姫を弁護しなければならない立場の人間が、なぜ偽証をしなければならないのです!? そもそも、裁判記録を見る限り、第一審と今回で、王子の証言が変わった部分はないのです!!」


「以前、言ったはずだがな。『王子は無能だったわけではなく、検察側と組んで、姫を敢えて有罪にするよう仕向けた可能性がある』と」


 第三の殺人事件の審理後、理香に話をした中で、そんなことを言われた。


「何故そんなことをする必要があるのですか!?」


「それが、最も確実に姫を守ることができるからだ」


「白雪姫は、極刑の判決を受けたのですよ!? 全然守れていないのです!!」


「それは、()()()()()()()()だ。王子は見事に守って見せたさ。姫が魔女の子供という事実から受ける、()()()()()()()()()な」


「な……」


 キイナが二の句を継げずにいた。


「王子は、物語の登場人物に過ぎない。よって、童話裁判で姫が極刑の判決を受けたとしても、王子は姫と共に過ごすことができる」


「なるほどな。だから童話裁判では、王妃の犯行の全てが、不自然に現実的だったわけか」


 酒挽の言葉に、理香は頷く。


「魔法という超常現象を用いた殺人未遂。王妃は、姫の意識を奪った後に、徐々に命を落とす手段を用いている。本人が死んでしまった今となってはその理由は不明だが、もしかすると、アリバイの確保を企んだのかもしれないな」


 おそらく王妃は、城に戻った後、魔法の鏡に問いかけたのだろう。「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは誰?」と。その問いかけまでの間に白雪姫が絶命していれば、答えは「王妃」となっていたはず。王妃はその目的だけのために、白雪姫の殺害を企てたのだ。


「……わからないのです」


 俯きながら、キイナは呟く。

 理香は彼女に視線を向けただけで、その言葉の真意を尋ねようとはしない。酒挽も黙ったまま、キイナを見つめる。

 しばしの沈黙。

 キイナは顔を上げて、理香に尋ねる。


「白雪姫が処刑になる可能性は、理香の説明で分かったのです」


 白雪姫は中世ヨーロッパが舞台。時代は魔女狩り全盛期。であれば、魔女の直系である白雪姫は、つかまり、火炙りにされてもおかしくはない。


「でも、検察側と王子が組んでいたのなら! 童話裁判では有罪で留めてよかったではないですか!? なぜ極刑にされてしまうのですか!?」


 理香の主張では、王子とテールが示し合わせて、白雪姫を有罪にしようとしていたことになっている。

 確かに、物語の忘却を伴う「極刑」という判決を受ける理由はないようにも思える。

 しかし、理香は首を横に振る。


「王子からすれば、主役である姫は極刑を受ける必要があったのだ」


「何故なのです!?」


「童話とは、()()()()()()()()物語だ。つまり、人間側の都合で、()()()()()()()()()()()()()()()()

 王子にとって、姫と永遠の時間を過ごしていくためには、姫の立場が簡単に変えられる人間の存在が邪魔だったのだよ」

予定していた話の展開と前後してしまったので、今後の流れ次第で書き直すかもしれません。

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