第102話 心当たり
投稿が遅くなりました。
2019/09/16 8:30頃
言い回しや、説明不足と思われた部分を補完しました。話の大筋に影響はありません。
「それで理香は、『魔法の鏡』について言及している証人がいるかを確認するように言ったのですね?」
納得の表情を浮かべて、キイナが頷く。
「そんなこと調べさせていたのか」
酒挽は、メイドへの尋問の直前、キイナは裁判記録を確認しに行ったことを思い出す。
その結果、キイナは封筒を3つ持ってきた。一つは、自分が頼んだ第一審での王子の証言内容――王子はりんごを「破片」と言ったのか「芯」と言ったのかについてのものだった。
残り二つは、理香の指示によるものだろうとは思ってはいた。ここに来てようやくその中身が一つ判明する。
もっとも、あの時の封筒は、この場にはない。裁判記録も童話世界の物。決まりにより、人間界には持ち出せないので、自分たちに宛がわれている裁判所の控室に置いてある。
「結果はどうだった?」
理香が答えを促したが、キイナの首は横に振られる。
「第一審で証言した者の誰一人、魔法の鏡について触れている者はいなかったのですよ。それどころか、魔法自体への言及すらなかったのです」
「……面倒だな」
ポツリと理香が呟く。
「どういうことです?」
「せめて誰かが魔法について言及してくれていれば、その人物を取っ掛かりにして証言を求めることもできるだろうが、誰も触れていない、ということになれば、誰から話を聞くのが確実かを考えねばならなくなる……何せ、証人に対する証言は、原則1回しか認められていないのだからな」
童話裁判のルールでは、同じ証人に対して証言を求めることは、原則1度しか認められていない。再証言は、他の証言と矛盾点がある場合に限られている。
「白雪姫に直接聞けばよいのではないですか?」
証言ルールには例外がある。それが被告人に対するものだ。今回の場合は白雪姫。
確かに王妃の実娘であれば、何かしらの情報を持っている可能性は高い。
だが、酒挽が「いや」と言ってそれを否定する。
「もし白雪姫が魔法の鏡のことを知っていたのなら、連日の連続殺人未遂事件なんか起こらなかったと思うんだが」
王妃は、狩人に白雪姫殺害を命じた次の日、小人に家にいた白雪姫の元を訪れ、胸ひもによる殺害を実行した。その翌日は櫛による殺害、そのまた翌日はりんごによる殺害、と3日連続、殺したはずの白雪姫の殺害を実行している。
白雪姫が魔法の鏡の存在を知っていれば、小人による忠告がなくても、間違いなく警戒はしていただろう。
「それに、3日連続で訪問した王妃を、彼女は『全員別人だと思った』と証言している。魔法による変装や認識阻害の可能性を全く考えていない。となると、魔法そのものの存在を把握していないのかもな」
「むぅ……ダメですか」
キイナが腕組みをして天井を仰ぎ見ながら思案にふける。
だが、酒挽には一人だけ思い当たる節があった。
「いっそテールに聞いてみるか?」
「何故にテールさんなのです?」
「いや、控室で聞いてみたら答えたからさ。魔法の鏡を召喚できるかどうか」
実際にはオブラートに「物」に対して証言を求めるために召喚が可能な否かを確認した。
理香が「へぇ」と感心した声を上げて酒挽を見つめてくる。
「で、幼女検事は何と答えた?」
「可能だが、無駄だとさ」
キイナが首を捻る。
「どういうことなのです?」
「『仮に召喚できても、証言はできない』そうだ」
酒挽は肩を竦めて見せた。その理由を問うても、テールははぐらかすだけだった。
「召喚ができても、証言できないなら、無駄撃ちにしかならないのです。召喚に成功した時点で、こちらのターンは実行されたことになるのです。物言わぬ証人に尋問して、答えのないまま、終了なのですよ」
「え? でも小人の証言の時は、やり直しができたじゃないか」
胸ひもの事件で「小人」を召喚したら、7人全員が召喚された。話が進まないために、一旦それを取り消して、テールに第一審での小人の証言を説明してもらった経緯がある。
その後も、小人を単体で召喚する方法を理香が考案したことで、小人の召喚が可能だった。
酒挽は、小人の召喚が取り消されたものと考えていた。
だが、キイナは首を横に振る。
「あれは、テールさんが取り消しを承認したからなのです。あんなの前代未聞なのです。現に裁判長がテールさんに、この後どうすればいいか、なんて確認をしていたではないですか」
そういえば、そんなことがあった気がする。その様を見て、裁判長よりもテールの方が場数を踏んでいる、と思ったものだ。
「カラ撃ちの後は、検察側が任意で好きな証人を召喚して尋問可能になってしまうのです。本来なら、反対尋問での別証人召喚は、相当の確証がなければやれない、大博打なのですよ」
その機会をみすみす与えることになる。
「リスクが大きすぎるか」
部屋に沈黙が訪れる。それを打ち破ったのは、口元に手を当てて考え事をしていた理香だった。
「……なぁ当利。幼女検事は、間違いなく『証言はできない』とまで言い切ったのだな?」
「ああ。言った」
酒挽が断言すると、理香は満足げに微笑む。
「……どうした?」
「いや、あの幼女検事から、よくそんな失言を引き出せたものだと思ってな」
キイナの耳がピクリと動く。
「失言?」
だが、声を上げたのは酒挽だった。
「それはそうだろう。裁判記録では登場人物の誰一人として言及していない魔法の鏡の現状について、なぜ幼女検事が知っているのだ?」
「え? 別に不思議なことじゃないだろ? テールは検察だし、童話の内容を知っていたって……」
「キイナは、魔法の鏡について知っていたか?」
「……私は、裁判記録でしか『白雪姫』の話を知らないのです」
「……え?」
予想外の答えだった。
童話裁判における弁護保佐人は、第一審には携われない。第一審で敗訴して初めて、その裁判に関わることができる。
そして弁護保佐人は、裁判記録を確認して、控訴するかどうかを決める。
その裁判記録に、魔法の鏡はおろか、魔法すら記載がないと言ったのは、キイナ自身だ。
理香が説明を加える。
「最初キイナに会った時、童話『白雪姫』について問われた。昼間に当利が言っていた話だったからな。ボクの書いた『森の姫君』を読ませたら『これは、あなたが作った物語』だと見事に看破された。それで当利を紹介するに至った、というわけだ」
童話裁判の弁護人になれるのは、その童話を知るものに限られる。
童話裁判では、第一審の判決が下ると、その刑は即執行される。
今回白雪姫は「極刑」――その判決が下ったことで、物語として究極の終焉である「忘却」が人間界に対して強制的に行われた。
結果、そんな中でも 「白雪姫」を覚えていた酒挽が選ばれたわけだが、酒挽の知る「白雪姫」と、全く同一の台本を書き上げた理香は、資格なしとされている。
「え? じゃあ、弁護人の資格はどうやって判断するんだ?」
あまりにも不明確な線引き。判定を下すはずの弁護保佐人が知る物語と違う内容なのに、なぜ酒挽は弁護人となり得たのか。
「タイトル、だな?」
理香が尋ねると、キイナは頷く。
「タイトルを正確に知っている人物であれば、童話を知っているも同然なのです」
「いや、偶然一致する可能性だって……」
「それだけ徹底されているということだ、当利。君とボクが「白雪姫」を探した時のことを思い出すがいい」
そういうと、理香はパソコンに向かって何かを打ち込む。
「あの時、スマホでネットの検索結果を見せたが、完全一致はゼロ。『白雪』の名前なら様々な候補も出てきた」
理香が手招きをして画面を見るように促す。
立ち上がった酒挽がその画面をのぞき込むと、そこには一杯に女性の裸の画像がびっしりと埋まっていた。全部18禁ビデオのパッケージ写真だ。
「何を見せている!?」
「これだけAV女優に『白雪』の芸名を付けている者がいるにも拘わらず、『姫』までつけられているものは皆無。企画ものビデオなら『白雪姫と姫はじめ』というわかりやすいタイトルぐらい、付けそうではないか」
「いや、知らねぇよ!?」
「まぁ、これは極端な例ではあるが……」
再び理香がキーボードを叩く。
「『白雪姫』の完全一致で検索をかけてみた結果は、依然と何ら変わっていない」
該当するページは一つも存在しない、という結果が表示されていた。
「童話裁判で下った刑の執行は相当強力なようだ。こんな状況下で、童話『白雪姫』というタイトルに言及できる者がいれば、童話を知っていると言っても過言ではないだろうな」
次回は9月22日の23時前後の予定です。




