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第101話 魔法要素のなかった審理

お待たせしました。101話です。

「……気に入らないのです」


 キイナは唇を尖らせて、上目遣いに理香を睨む。


「何がだ?」


「その言いっぷりだと、理香は答えを知っているはずなのです! なら、とっとと教えやがれなのですよ!」


 酒挽(さかびき)も理香の推察は答えにまで到達しているという点では同意見だった。が、生まれてこの方の付き合い。こんな思わせぶりなセリフを吐く時、二の句は決まっている。


「残念だが、確証が持てないのでな。ドヤ顔で披露した推理が外れた時のことを思うと、なかなか披露できないものさ」


「だが、それが的外れとも思えないな。メイドの目撃証言全部が嘘だという考えは」


 酒挽の憶測に、キイナは口をあんぐりと開けて呆けた表情を見せているのに対し、理香は僅かに微笑を浮かべた。


「何故そう思った?」


 理香がイスの背もたれに体重を預けてから聞いてくる。


「メイドは偽証を強要されている。そしてそのメイドは、()()()()()()を、()()()()()()()()で、()()()()()()()()()に努めていると言った」


 それはさっき理香が、メイドが偽証を強要されている証左として挙げた証言。


「キイナ、覚えているか? メイドはもう一度同じ内容を証言している」


 酒挽の問いに、勘づいたところがあるのだろう。一瞬の間を置いて、キイナは頷く。


「『ところで証人は、王子から、被告人を守るようにと命じられているのですよね?』とテールさんが確認した後の件なのですよね?」


 酒挽が首肯する。メイドはテールの疑義に、こう回答した。


『その理解で差し支えないと存じますが、先程も申し述べたとおり、私個人が私自身の価値観に基づいて、白雪姫様の有利、不利を判定できる立場にはございません。なので、私は己に認められた裁量の範囲内で、事実と考える内容を、極力客観的に述べることこそ、白雪姫様に最も有利になるものと信じて証言をしております』


「『事実』は考えるものじゃない。つまり、メイドは、与えられた設定や()()()()()()()()で、『事実と考えらえれる』客観的な目撃内容を作って証言していると考えられる」


「ちょっと待つのです!」


 キイナが慌てて手を挙げ、酒挽の発言を遮る。


「偽証なら、与えられた設定は理解できるのです。ですが、()()()()()()なんて話がどこから出てくるのです!?」


「決まっている。メイドには、証言が許されていない情報が一つだけあるからだ」


 酒挽の回答に、更問いをしようとしたキイナより先に、理香が口を挟む。


「ふむ。気が付いたか」


「理香にすれば『ようやくか』と言いたいところだろうがな」


 そう言うと、理香は肩を竦めてしまう。


「何なのです!? 二人だけで分かったような会話しないで、私にも教えて欲しいのです!!」


「「魔法の存在」だよ」


 白雪姫は、りんごで意識を奪われている。王妃は白雪姫を確実に殺そうと考えていた。当然、確実に白雪姫を仕留めるため、りんごには何らかの措置が施されていなければならない。

 だが、物は単純な毒リンゴではない。

 百姓に化けた王妃は、白雪姫を安心させるため、りんごを二つに割って、その片方を食べて見せたのだ。

 そこに仕掛けがある。

 白雪姫は、りんごを見せられた時、それを「おいしそうな真っ赤なりんご」と感じた。

 そしてそれを半分にし、王妃は「少し青い方の実を食べて」そのりんごが問題ないと主張した。

 つまり、半分に割るときに、毒が入っている側と入っていない側が分離できるようになっていたことになる。

 そんなことが可能なのは、魔法以外ありえない。


「思えば、今回の裁判、全然魔法要素がないなとは思っていたんだ」


 酒挽のそんな呟きを聞いた理香は、一瞬目を見開いて、わざとらしく盛大にため息をついて見せた。


「当利……まさかお前、今までの審理、ボクの屁理屈を本気で信じていたのか?」


「正直なところ、ついさっきまで、な」


 そんな回答を聞いた理香が苦笑いを浮かべて呟いた。


「ま、それならそれで、ボクも苦労した甲斐があったというものだ」


「ちょっと待つのです! 一体何の話をしているのですか!?」


「苦労したのだぞ? 魔法という要素を完全に排除して、姫が意識を失った理由をこじつけるのは」


 そう。答えがわかれば、なるほど、それが今まで感じていた違和感の正体だったのか、と思わず納得できてしまう。


「胸ひもで『失神ゲーム』の理屈をひねり出し、櫛の時は『アナフィラキシーショック』をこじつけた。不自然な理屈付けだとは思っていたんだ」


「だが、問題なのは『櫛』の事件だ。物証として残っている櫛に、わざわざ蜂毒が塗られていたところから考えれば、審理では『アナフィラキシーショック』を前提に証拠が残されていたことになる」


「そういえば理香は、あの櫛はすり替えられてた、と言っていたっけな」


 加えていれば、検察側もすり替えられた偽物と知っている可能性が高いとも言及した。


「それはそうだろう。魔女が出てくるストーリーである以上、その世界の常識で考えれば、魔法だ呪いだという理論を用いた方がしっくりくる。にもかかわらず、わざわざ物証として『蜂毒が塗られた櫛』が登場する。逆に言えば、今回の櫛のように現実的な証拠を提示することで、魔法という非現実的な存在から意識を逸らしたかったと考えられるわけだからな」


「なぜ、そんな意識逸らしをする必要があったのです?」


「簡単な理屈だよ。王妃の正体が魔女だと知られては、不都合な人間がいるからさ」

次回の更新ですが、来週の日曜日23時前後が目標です。

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