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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第八章 幼女と魔法修業
207/812

207 幼女、演じる

「森の中へ誘いだして、あの子を殺しておいで」

 奈菜の演じる冷酷なお后の言葉に、膝をついて畏まっている狩人役を務める月奈が無言のまま深々と頭を下げる。

 声の抑揚を極力抑え、月奈の演じる狩人は「はい」と同意の言葉を口にした。

 後のシーンで、白雪姫を助け、森に逃がす狩人の役どころは、茉莉の考えた無口で感情を表に出さない職人気質という人物像が一番カッコいいと月奈は思っている。

 なので、月奈の演技の参考は茉莉が演じた寡黙だが、優しく正義感の強い狩人であった。

 表向きは粛々とお后様の命に従い、その胸中での反発を示すように、ぎゅっと握られた月奈の小さな拳だけが、わなわなと震えている。

 実際に狩人を演じる子に、手の震えなどという細かい演技が伝わっているかどうかはわからないが、茉莉が演じて見せた狩人を月奈は完璧に近い完成度でトレースしていた。

 茉莉が見せたのと同じ程度の間を開けて、ゆっくりと立ち上がった狩人は、お后様に深く礼をすると踵を返してステージの中央から離れていく。

 ややあって、狩人の退場が終わったと判断した奈菜は、静かに立ち上がり、観客が座っている方へと体を向けた。

「これで、あの子がいなくなれば、私はこの国で一番美しくなる。ふふふふ、あはははは」

 ある意味で無邪気な、そして同時に耳に残る嫌な笑い声を響かせてシーンは幕を閉じる。

 先ほどの魔法の鏡とお后様のシーン以上に、観覧する一同は言葉を失ってしまっていた。

 その光景を見ながら、穂乃香はポツリとこぼす。

「人見知りだった奈菜ちゃんがあんなに成長するなんて……」

 鬼気迫る奈菜の演技に恐れを抱いた一同とはまるで違う視点で、目を潤ませながら穂乃香は一人幾度となく頷きを繰り返した。


「あとは私に任せて森の中へ逃げなさい。可哀想なお姫様」

 月奈は固い表情で、穂乃香演じる白雪姫の肩を優しく押した。

 背を押され、数歩前に歩を進めた穂乃香はためらいがちに振り返る。

 継母とはいえ、母親に命を狙われたと知った白雪姫だったが、心優しい彼女は、自分の身の上の不幸よりも、命を奪えと命じられた狩人のその後の方に意識が向くと、穂乃香は想定していた。

 その不安をセリフではなく、戸惑いの表情と悲し気に揺れる目線で表現して見せる。

「さあ、早く」

 月奈は思わず台本にはなかったセリフを口にして、穂乃香の白雪姫を森へと追い立てた。

 目を強く閉ざした穂乃香は、決意を固めると目を見開いて、悲しみと申し訳なさの滲む視線を狩人の月奈に向けて小さく頷く。

 どこか悲しそうな表情で唇をかみしめた穂乃香は、時折足を止めて振り返りながらも、森の奥という設定のステージの端へと駆けていった。

 穂乃香の退場を見送ってから、狩人の月奈は何かに気が付いたように、周囲に視線を巡らせる。

 そのまま、穂乃香とは逆の方向に移動して、草をかき分ける仕草を見せながらしゃがみ込んだ。

「お前に罪はないが、白雪姫の為に……」

 月奈はそう言うと何かを振り下ろすしぐさを見せる。

 台本では明確には書かれていないが、白雪姫を殺した証拠として、内臓を持ち帰ることを狩人は命じられていて、月奈はそれを示すために、身代わりに子猪を仕留めた様子を演じてみせた。

 あかねはその一連の動作を見て呟く。

「……うん、白雪姫が森に入るシーンで、終わらないとダメだわ」

 淡々と獲物を始末する演技が、妙にリアルで、あかねはそれ以外の選択はないと結論付けた。


「ふむ、我らの家に、見知らぬお嬢さんが寝ているぞ?」

「見たことのない子だ」

「でも、すごくきれいな子だ」

 奈菜、みどり、月奈の順に、ステージの上に椅子で仮設置されたベッドに横たわる穂乃香を囲みながら、小人としてのセリフを口にしていく。

「すごくいい匂いがするな」

 クンクンと目を閉ざして鼻を鳴らす奈菜に続いて、みどりが穂乃香の髪を手に取った。

「とても綺麗な黒髪だ。まるで絹の様だ」

「肌も白く雪のようだ」

「唇はまるで真っ赤に熟れた林檎の様だ」

 本来は七人で演じる小人を、三人は順番にセリフを言って消化していく。

 その際には、それぞれが髭を撫でたり、帽子を撫でたりと、小さな性格の差を見せる演技を混ぜて、七人を演じて見せていた。

 やがて、ワイワイと盛り上がる小人の気配に、穂乃香の演じる白雪姫が覚醒する。

「ん……」

 言葉ではなく、声を漏らして、穂乃香は体を起こしつつ目をこすって見せた。

 その仕草だけで、目を覚ましたことも、意識がまだはっきりとしていないことを印象付けつつ、セリフでそれを補完する。

「私のお部屋……ち、ちがう、ここは……あ、あなた達は!」

 椅子でできた簡易ベッドの上で、布団を身に寄せるようにして不安を表現する穂乃香に、小人たちも慌てる演技を見せ始めた。

「うわ! 起きた!」

「仕草が可愛い」

「声も可愛らしい」

 セリフ通りのみどりに続いて、奈菜と月奈がアドリブというよりは、感想のようなセリフを口にする。

 それをセリフをほぼ頭に入れている穂乃香とみどりは十分にわかっているので、思わず演技を忘れて顔を見合わせた。

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