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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第八章 幼女と魔法修業
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206 幼女、親友らの成長を見る

「それじゃあ、一度、穂乃香ちゃんに最初から最後まで一人で白雪姫を演じて貰って、それを真似して練習しましょう」

 あかねは白雪姫を演じることになった穂乃香を含めた6人を前にそう言い切った。

 一人の生徒に頼るなど、とてもまともな指導方針ではないのだが、そうせざるを得ない程、圧倒的に穂乃香は上手い。

 何の手も打たないと、穂乃香を含めたプリッチ出演中のまたは出演予定の四人だけが浮いてしまうことは容易に想像できることだった。

 個人の実力だから仕方がないと言ってしまえばそれまでなのだが、さすがに、幼稚舎でそれはまずい。

 特に、榊原家を中心とした勢力の暗躍で、劇が上演される幼稚舎講堂だけでなく、学園の大講堂やネット配信まで活用して公開するという大規模イベントにされてしまっているのだ。

 自分自身の責任、そして明日の職の維持のためにも、あかねは理性と常識をかなぐり捨てる。

 こうなってしまえば、あおいと同じ藤倉の血が、暴れ出すのに十分な下地が整ったのと同義だった。

「次に、月奈ちゃんは魔女のセリフ全部、みどりちゃんは小人さんのセリフを全部、奈菜ちゃんは、お后様のセリフ全部、残りの狩人、それから王子様は、そのシーンに役のない人にお願いするわね」

 淀みなく放たれるあかねの指示に、月奈も、みどりも、奈菜も笑顔で「はい!」と明るく返事を返す。

 普通であればただの無茶ぶりなのに、三人がともに平然としているのは、撮影の合間に、千穂たちと繰り広げている遊びのお陰だった。

 穂乃香を含めた四人は、女優としての先輩でもウィッチメンバーの五人と、それぞれが役をシャッフルして、即興の配役でする寸劇、アドリブや他の人の演技方法を学ぶのに最適な練習方法を、遊びとしてこなしている。

 結果、みどり、奈菜、月奈の三人は、舞台勘と演技力がものすごい勢いで成長していた。

 そして、その情報を姉あおいから得ている追い詰められたあかねに、利用しないという選択肢はない。

「それじゃあ、皆はそれぞれの役の人の動きとかを見て、覚えてね」

 にこやかに微笑んで、四人を除くもも組の生徒たちにあかねは指示を出した。

「「「はーーーい」」」

 各所から生徒たちの素直な返事が返ってくる。

 が、そんな観劇の姿勢を取った生徒たちの中で、副担任だけが目をそらして俯いているのをあかねは見逃さなかった。

「……懐柔……」

 ボソッと不穏な言葉を落としたあかねは、副担任を幼稚舎長との飲みの席に連行して、説得しようと心に決める。

 その邪悪に染まった笑みに、何かを察した副担任は顔を上げるなり、背筋を冷たいものが駆けたのを感じて体を震わせ始めた。


「お后様、ここで……」

 みどりはそこで一拍置いてから「一番美しいのはあなたです」と続ける。

 そのほんのわずかな間が、魔法の鏡がお后様が求める言葉を口にするために、言葉を選んだのだと印象付けた。

 次いで、躊躇うような口調で「けれども……」と続けてから、目を反らす。

「白雪姫はもっと美しい」

 クルミによる魔法の鏡の解析はこうだった。

 魔法の道具である以上、質問者、すなわちお后様の問いには正確に答えなければならない。

 一方で、正直に答えると、最悪自分が壊されてしまう可能性を、魔法の鏡は考えた。

 それを盛り込んで演技すると、今のみどりの様な演技に仕上がる。

 何も考えず無邪気に答えるアリサの演技プランもあったが、練習の見本として、みどりが選んだのは、クルミのプランだった。

 クルミの演技プランの方が、なんか魔法の道具っぽくて、頭が良さそうでいいという千穂の意見も参考にされている。

 なによりもみどり自身が、クルミの演技パターンの方がしっくり来ていたのが大きかった。

 ゆえに、演技をする上で納得することが一番大事と、彩花に教えられたみどりには、何のためらいも迷いもない。


「なんてことなの!」

 ヒステリックな奈菜の声が響く。

 すでに何度か奈菜の演技は目にしていても、もも組の生徒の中には、ビクッと体を震わせるものも幾人か紛れていた。

 それほどに、奈菜の演技は迫力がある。

 そうして、奈菜の迫力に見ている皆が飲まれている間も、奈菜の演技は止まることなく続いていた。

 イライラを示すように、奈菜がステージの中央を円を描いて歩く。

 ほんの一周回っただけなのに、酷くイラついているのを感じさせられたところで、奈菜が再び声を発した。

「そうよ、狩人、狩人を呼びなさい!」

 観客の座る予定のステージ側に向かって、奈菜は声を張り上げる。

 そうして、最初のシーンが幕を下ろした。

 しかし、迫真と言っても過言ではない圧倒的な奈菜の演技の前に、完全に呑まれてしまった生徒たちは誰一人声を発することはない。

 そのまま少しの沈黙を挟んだところで、パチパチと手を叩く音が響きだした。

 自ずと、皆が拍手の主を目で探れば、そこには笑みを浮かべたあかねが立っている。

「素晴らしかったわ、2人とも!」

 あかねのねぎらいの言葉に、みどりと奈菜が気恥しそうに目を合わせた。

 途端に空気が弛緩して、固まっていた生徒たちもパチパチと拍手を送り始める。

 そんな和んだ空気の中に、あかねは笑顔で一人の少年に爆弾を落とした。

「えーと、このシーンは元々奈菜ちゃんが演じるシーンだから、柿崎君頑張ってね」

 確かにあかねの言う通り、みどりのポジションを本番で演じるのは、自分だと理解している柿崎少年だが、その表情は青を通り越して白に近い。

 だが、すべての理性を捨て去ったあかねは、頑張れと励ますだけで、柿崎少年を顧みることはなかった。

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