202 幼女、報告する
「で、結局、穂乃香ちゃんは白雪姫か」
「ホントは、魔女が良かったんですけどー、お姫様とか恥ずかしいし……でも、まあ、私から見ても、奈菜ちゃんやみどりちゃん、月奈ちゃんは、他の子たちよりもずば抜けて上手かったですからね……」
最近恒例になりつつある深夜の茉莉のマンションへの訪問も、かなりこなれてきた穂乃香は、入れて貰った甘いココアを飲みながら今日の出来事を報告していた。
「まあ、仕方ないねー。穂乃香ちゃんだけじゃなくて、千穂とかクルミとか、特に演技の上手い人たちを見てるからねー」
「それだけじゃないんですよ」
「ん?」
穂乃香の切り返しに、茉莉は続く言葉が想像できなくて首を傾げる。
「彩花お姉ちゃんやアリサお姉ちゃんが撮影の合間に、3人に演技指導してるんです」
「……彩花って隠してるつもりだけど、ものすごい可愛いモノとか、小さい子が大好きだからね……アリサは自分がみんなから助けて貰ってるって自覚が強い分、恩返ししたくて周りに手を貸すことが多いからね。まあ、仲間としては誇らしい部分だよ……あおいの妹さんには申し訳ないけど」
苦笑で締める茉莉に、穂乃香は同じく苦笑して見せた。
「お姉ちゃんとして心配だったんだと思うんですけど、そのあおいさんに、あかね先生が困ってるから助けてあげてってお願いされたんですよね」
「なるほど、それが白雪姫になった理由かな?」
「あとは、実は幼稚舎長先生が、陽子さんの妹さんなんで、前々から協力してあげて欲しいって陽子さんからも言われてたんですよ」
「どこのお姉ちゃんも、妹思いだねぇ」
「ですねぇ」
お互いに暖かいココアを口に含みながら、しみじみと言葉を交わし合う穂乃香と茉莉は、同じ時刻に妹同士が愚痴をこぼし合う飲み会を開いていることを知らない。
片や姉の視野の広さや妹を思う行動を微笑ましく語り、片や姉の身勝手さと横暴を愚痴交じりに語る相反する夜が過ごされていた。
「月奈ちゃんは引き続き魔女さんなんですけど、みどりちゃんは小人さん、奈菜ちゃんはお后様と、みんな役を移ってくれたんですよ」
「あれ、魔女とお后様って同一人物じゃなかったっけ?」
「衣装が違うのと、役の数より人数が多いので……」
「ああ、なるほど」
「だから、主役も5人いますよ、一回の劇で交代していくんです」
穂乃香の説明に頷きながら、茉莉は興味本位で尋ねる。
「それで穂乃香ちゃんは、どのあたりを担当するの?」
「えーと、魔女さんが尋ねてきて林檎をかじって死んじゃうあたりですね」
「あー、なるほど、難しそうなとこだね……というかリアルな死ぬ演技になりそうでそれはそれで……」
納得して手を打とうとした茉莉は、穂乃香の実力と配役の場所に少しの不安を覚えたが、飲み込むことにした。
実際に劇を見た上で判断することにしようと、浮かんだ嫌な予感を無理矢理抑え込む。
そんな茉莉に対して、穂乃香が不思議そうに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「いや、どんな劇になるのか楽しみになって来たってだけ」
「あー、茉莉お姉ちゃんも来ますか?」
「父兄じゃないけど……」
茉莉は自分を指さしながら、目を瞬かせると、穂乃香から予想外の発言が飛び出す。
「カメラを会場に設置するそうで、うちで、ライブ放映するらしいですよ」
「…………な、なるほどねー」
榊原家の行動力や設備を普通の発想で考えてはいけなかったことを痛烈に思い出した茉莉は、引きつった笑顔のままで、無邪気に微笑む穂乃香に向かって頷いた。
「えっと、あおいさんと千穂お姉ちゃん、彩花お姉ちゃんはタイミングがいいので見に来てくれるそうですよ」
耳にしたメンバーにさすがに行動が早いと半ば呆れつつも、茉莉は自分も参加することにする。
「あー、じゃあ、私も行きたいな」
「わかりました、ゆかりさんに言っておきますね」
最近、依存度の高い茉莉の参加表明に、穂乃香はにこにこの笑顔で明るく答えた。
この場にいたのが千穂や彩花であったならば、衝動に負けて穂乃香に抱き付いていたであろうが、茉莉は踏みとどまれる鋼の精神力を発揮する。
こうして過度のスキンシップを受けないということが、より穂乃香の信頼度を高めていくのだが、当人たちは気付いていなかった。
「さて、それじゃあ、時間も遅くなってきたので、今日は帰りますね」
スクッと立ち上がった穂乃香が、右手を広げると、瞬時にその掌の上に魔法の杖が出現する。
「ほんと穂乃香ちゃんは特撮も、CGも要らないんだねぇ」
出現した魔法の杖を握って、変身の待機状態になった穂乃香を見つめながら、しみじみと呟いた。
魔法に集中している穂乃香は、その呟きに気付くことなく、周囲に感じる魔力の高まりとともに、魔法の杖を振るう。
「私と共に歩む運命の花、サイネリア。峻厳にて気高い冬駆ける風の祝福と共に!」
杖の先端に取り付けられた花が水色の花弁へと色を変え、左右に振られる度に光を散らした。
そうして、足先から徐々に穂乃香の体を光の粒子が包み込み、あっという間に穂乃香は、魔女サイネリアへの変身を終える。
茉莉がその一部始終を目の当たりにして、パチパチと手を叩いた。
「勉強になりました、師匠」
穂乃香は茉莉に師匠呼びされて「あー」と声を発しつつ手を叩く。
そうして茉莉に向き直って微笑みと共に爆弾を解き放った。
「明日から、魔法の修行を始めますね、我が弟子、茉莉お姉ちゃん」
「へ?」




