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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
193/812

193 幼女、見届ける

「どうやら源泉とは違う場所に何かありそうですね」

『うむ、我もそう思うの』

 だいぶ書き込みの増えた見取り図を見ながら、茉莉は腕を組んで呟く。

 茉莉には薄っすらとしか見えていないが、その対面でユラもまた、同じように腕を組んで頷いていた。

 青葉たちからもたらされる情報を吟味した結果、二人の目が向いたのは、現在、空調機械や大型変圧器などの様々な機械の設置されている区画である。

「確か、このスタジオのメンテナンスは月1回のはずだから、人目はなさそうだし、混乱が起きてないのかもしれません」

 茉莉の言葉にユラが感心してみせた。

『よく、そのようなことまで知っておるの』

「以前、あおいが月一回のメンテナンスでスタジオが使えないって話をしていたんです。ですから、今もそうなのか、それがいつなのかまでは、正確にはわかりませんけど……スタジオ内に掲示されている撮影なんかの予定表から推測すれば、メンテは一週間後のこの日だと思います」

 地図とは別に取り出したスマホに、撮影しておいたスタジオの使用予定表を表示させて、茉莉は予想日を指で示す。

『ふむ、我では得難い情報なのにくわえ、理解の及ばぬ部分も多いゆえ、申し訳ないが、主殿にも報告願えるかの?』

「はい、もちろんです、ユラ」

 笑顔で頷く茉莉は、そのまま作り上げた画像を一度保存して、穂乃香の端末に転送した。

 ほんの少し前までは警戒から、茉莉は穂乃香の端末に魔法に触れるような情報の送信は行っていなかったのだが、既にゆかりたちが状況をほぼ正確に把握していることや、穂乃香宛の送信データには漏れなくフィルタが掛かっていることを知って後は、逆に活用するようにしている。

 茉莉の中では、自分の行為がまるでスパイの様だという罪悪感や嫌悪感もあるのだが、それよりも何よりも、いざという時にゆかりたちが穂乃香のことを知らないのでは、対処が遅れてしまうという事の方が問題としては大きかった。

 可愛い妹のような、それに加えて自分の命の恩人でもあり、魔法の師匠でもある大切な少女を守るためならば、自分の中の小さなひっかかりなどは天秤に乗せる価値もないと茉莉は考えている。

 そんな茉莉は、穂乃香よりは年上とはいえ、少女であることには変わりがない自分のできることなど、たかが知れているということも自覚しているし、事実、ほんの少し前の一件では、自覚もないまま命を失いかけているのだから、ゆかりたち大人に頼ることに躊躇はなかった。


「フローラ様のご命令だから付き合ってあげるんですよ!」

 腰に手を当てて少し怒った様子でセリフを口にしたのは、演技テスト中の月奈だった。

 演技をうまくするコツを聞かれた穂乃香は、マネが一番だと思って、そのセリフが似合いそうな人物を思い浮かべてマネしてみるといいとは言ったのだが、驚くほどの完成度で月奈は演じて見せている。

 穂乃香のイメージとしては、クラスの誰かを思い浮かべるのだろう程度に思っていたのだが、月奈の持つ引き出しはその程度で収まるほど小さいものでは無かったのだ。

 古今東西の特撮物を愛して止まない両親の英才教育を施された月奈は、『プリッチ』が特に好きというだけだったのである。

 つまり、その知識は広く、更には深かった。

 特撮の視聴対象と言えば子供なども含むために、どうしても子役の数が普通のドラマよりも多くなる。

 その一つ一つを細かく覚えている月奈の頭の中には、子役の演技プランがこれでもかと詰め込まれているのだ。

 更に、穂乃香の助言によって、これまでは単に知識のコレクションとして月奈の中に納まっていたものが、演技の参考、演劇技術の源泉として花開いたのである。

 当然あおいをはじめとする一同が絶賛するのは、自然な流れだった。

「月奈ちゃん、葉月さん、もしよければ、次の回から参加でもいいですか!」

 目をランランと輝かせて、あおいは二人に駆け寄る。

 人前では綺麗に特撮マニアのしっぽを隠していた葉月も、プリッチに憧れる月奈にも、当然ながら否はなかった。

 けれども、月奈はまだ幼い少女である。

 あおいのそれが合格を告げるものだとわかると、途端に不安を覚えた。

「あ、あの、あ、あおい監督……」

 先ほどの堂々とした演技とはまるで違う怯えた小動物の様なおどおどした態度で月奈はあおいに声を掛ける。

 対して、演技と素の落差が激しい子を幾人も見てきているあおいは、落ち着いた様子で聞き返した。

「なにかな、気になることがある?」

「え、えーと、その、穂乃香ちゃんは……?」

 上目遣いから、目をそらし、また上目遣いに戻してと忙しなく瞳を動かす月奈の足りない行間を読み取って、あおいは安心を与えるように微笑む。

「大丈夫、月奈ちゃんの出るシーンは、穂乃香ちゃん、みどりちゃん、奈菜ちゃん、皆がそろうシーンだから、一緒だよ」

 そういわれて、安堵したのか、月奈は大きく息を吐き出して、胸を撫で下ろした。

「それじゃ、改めて、プリティウィッチ・フローラルへの出演をお願いします」

 あおいはもう一度月奈と葉月に向かって頭を下げる。

 すると、母娘が声を揃えて頷いた。

「「よろしくおねがいします」」

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