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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
191/812

191 幼女、要求される

「はぁ~~~~~」

 長いため息を吐き出した穂乃香が、よろよろとその場にしゃがみ込んだ。

「どうしたの、穂乃香ちゃん」

 茉莉は驚いた様子で、脱力した穂乃香に慌てて手を伸ばす。

「……茉莉お姉ちゃんに、相談するかどうか悩んでたのに、あっさりと相談していいなんて言うんだもん」

 苦笑を浮かべて茉莉の手を取った穂乃香は、その手に支えられてゆっくりと立ち上がった。

 そうして、立ち上がった穂乃香に、茉莉は「心配ありがとうございます、穂乃香様」と笑う。

「もう、茉莉お姉ちゃんまで『さま』付けしないで!」

「穂乃香様って、すごくしっくりくるし、どうしようかなぁ」

 視線を上にあげて考える素振りを見せる茉莉に、穂乃香は「もう」とリスのように頬を膨らませた。

 その様子に、茉莉はクスクスと笑ってから、真面目な顔で穂乃香に向き直る。

「じゃあ、様付けしない代わりに、私にも魔法を教えて」

「え……」

 思いもしなかった茉莉の言葉に、穂乃香は驚きで動きを止めた。

 対して茉莉も、口にしたばかりのそれが冗談や悪ふざけでないことを示すように、じっと穂乃香を見つめたまま動かない。

 お互いがただ見つめあうだけの時間を挟んで、ようやく穂乃香の唇が震えながら動き出した。

「本気で、言ってるよね?」

「もちろん」

 茉莉は穂乃香の問いに間を開けることなく即答して見せる。

 穂乃香はまっすぐなその返事に、次の言葉を探して視線を彷徨わせ、そうして溜息まじりに問うた。

「どうして?」

 動揺含みの穂乃香の問いは、絶対的に言葉が足りない。

 けれど、自分なりの解釈で不足を埋めた茉莉は、わずかな間も置かずに即答して見せた。

「端的に言うと、穂乃香ちゃんの助けになりたいと思って……そのために、私もその力を知ることが必要だと思ったの」

 理路整然と並ぶ茉莉の言葉を、穂乃香は微動だにせず受け止める。

 一方で、穂乃香の脳はその言葉をものすごい速さで噛み砕き、言葉の表層に現れていない茉莉の心情を推し量り始めた。

 だが、茉莉の続く言葉に、その推測も中断させられてしまう。

「もちろん、穂乃香ちゃんみたいに魔法を使ってみたいって言う欲もあるよ」

 そう告げた茉莉の瞳には、ただ無邪気な憧れと好奇心があふれていた。

 かつて、大魔法使いと呼ばれた記憶を持つ穂乃香はその目を良く知っている。

 純粋に魔法に触れたいと願った後輩たちが、弟子たちが向ける、懐かしくも胸熱くなる眼差しだった。

「その目で言われたら、受け入れざるを得ないなぁ」

 おそらく、おそらくだが、かつての自分も、大魔法使いに至る最初の一歩を踏み出した自分もしていただろう眼差しに、穂乃香は困った顔で、茉莉の願いを聞き届けると答えた。

「ありがとう穂乃香ちゃん! もちろんだけど、教えて貰ったことを悪用なんてしないよ! 穂乃香ちゃんの助けになるように頑張るし! そ、それから……」

 茉莉を受け入れた以上、穂乃香は目の前の年上の少女の師である。

 ゆえに、わずかに言葉を詰まらせた年上の弟子に、優しく続きを促すのは、穂乃香の師としての行動ならば当然のことであった。

「それから?」

 穂乃香の促す言葉に、茉莉は少し迷った様子を見せてから、頬を赤く染めてはにかむ。

「穂乃香ちゃんのように、私も誰かを助けられるようになりたい!」

 まっすぐな茉莉の言葉に、じわりと胸が熱くなり、思わず穂乃香はくるりと背を向けてしまった。

 自分のようにと言われたことが、なぜか無性にくすぐったくて、恥ずかしくて、そして、嬉しい。

 そんな複雑な心情を伏せるために、穂乃香は背を向けたままで、茉莉に告げた。

「私の修行は厳しいよ!」

「はい、師匠」

「し、師匠は……そう、人に聞かれたらまずいから、禁止!」

 顔を耳まで真っ赤にした穂乃香が振り返りながら、茉莉に向かって禁止を言い渡す。

「うん、わかった」

 それを頷きと砕けた言葉で受け止めた茉莉は、改めて「では、2人っきりの時だけにしますね、師匠」と悪戯っぽく微笑んで、穂乃香を困惑させた。


 穂乃香に魔法の指導を申し出る少し前、茉莉はスタジオに着くなり、ゆかりに声を掛けられた。

 人払いされた個室に着くなり、ゆかりたち護衛隊をはじめとした榊原家の人間が穂乃香の魔法の力を知っていること、但し様々な事情からそれを穂乃香自身に告げることは時期尚早と判断していること、そして、その上で、穂乃香に魔法を習ってほしいと提案される。

「そうですか……」

「茉莉さん以外にお願いできる人がいないのです」

 ゆかりは申し訳なさそうな顔で、茉莉に告げるが、その陰にはもう一つの思いがあった。

 茉莉はその気持ちを的確に嗅ぎつけて問いに変える。

「……ほんとは、ご自分でしたいですよね」

 孤島での日々を始め、ゆかりの、エリーの、榊原家の穂乃香への接し方を見ていれば、茉莉の感じ取ったそれは、疑いようのないものだと、茉莉は自信を持って言えた。

 と、同時に、自分に置き換えれば、誰かに託すことにどれほどの決意がいるのかも察することができる。

 茉莉は、あえてそれ以上は踏み込まず、ゆかりの答えを待った。

 そうして、少しの沈黙の後、ゆかりは苦笑して見せる。

「どうやら、バレバレのようですね……もちろん、できることなら、私が穂乃香お嬢様に教えを乞いたいです」

「……それを私に託してくれるんですね」

 茉莉の問いに、ゆかりはまっすぐと見つめ返し深く頷いた。

 それだけで、もともと十分に傾いていた天秤が、完全に形勢を固める。

「頑張ります、任せてください!」

 力強い言葉とともに放たれた茉莉の言葉を、ゆかりは熱い握手をもって感謝し受け止めた。

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