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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
183/812

183 幼女、意義を学ぶ

「それでは、第1回穂乃香お嬢様サイン会議を開催します」

 穂乃香、みどり、奈菜、月奈に混じって、真顔で開会を宣言したのは、メイド姿のゆかりだった。

 榊原家に備え付けられた会議室を手配しての会議である。

 ゆかりが背にするホワイトボードには、開会を宣言された会議のタイトルがすでに黒の太字で書き出されていた。

 パチパチと可愛らしい拍手で歓迎した穂乃香を除く幼女三人に、ゆかりは微笑みを返すとそれぞれを見ながら問いかける。

「少し照明を落としますが、皆さん、暗いのは大丈夫ですか? 勿論、真っ暗にはしませんが……」

 投げかけられた質問に対して顔を見合わせたみどり、奈菜、月奈の三人はお互いに頷き合って、確認を交わすと、ゆかりへと向き直った。

 三人そろって手を上げて、ゆかりに大丈夫だと示すために、声を揃えて返事を返す。

「「「はーい」」」

「はい、わかりました。では、試しに暗くしてみますね、怖かったら言ってくださいね」

 ゆかりの言葉に、三人がそれぞれ頷くと、灯りの強さが絞られ、常夜灯の様なやや暗めでオレンジがかった色の照明に切り替わった。

「皆さん、大丈夫ですか?」

 改めてゆかりが問いかける。

「みどりはだいじょうぶだよー。よるねるときもこのひかりだもん!」

 少し自慢げに大丈夫であることを告げたみどりに続いて、奈菜と月奈はお互いを見ながら言葉を発した。

「月奈ちゃん、怖ければ他の部屋で待っててもいいんですよ?」

「るなは穂乃香さまのサインを考えるんだから、ぜんぜんへいき、奈菜ちゃんこそ、そとにでてもいいよ?」

 ニコニコと笑顔を浮かべて、火花を幻視させる二人のにらみ合いに、穂乃香の頭上でユラが呆れたようで、感心したような声を漏らす。

『うぅむ、女子(おなご)というものは、如何に幼かろうとも、女子なのだの』

 ユラの感想に『そうだねぇ』と頷きながら、穂乃香は二人の意識を反らすために、ゆかりに向かって手を上げた。

「はい、どうしましたか、穂乃香お嬢様?」

「まずその第一回って言うのは、まだこれからもやるつもりなのですか?」

「はい、そうです」

 何の躊躇もなく、それどころか穂乃香の問いに対して、食い気味にゆかりの返答が返ってくる。

「そ、そんなに、回数が必要なのでしょうか?」

 別にサインを考えることに拒否感があるわけではない穂乃香だが、とはいえ、そんな何度も考案会議をする必要があるのかという疑問もあった。

 それを率直に問いにしたのだが、ゆかりにはヤレヤレと首を振られてしまう。

「いいですか、穂乃香お嬢様」

「は、はい」

「サインと言っても、色紙に大きく一つ書くだけではなく、時にノートに小さく、あるいは寄せ書きのように何人かで一枚の色紙に……などなど、様々な状況下で書かねばならない可能性があります」

 ゆかりの力説に、穂乃香は「はぁ」と気のない返事を返すが、それが引き金となった。

「色紙の左半分が、あるいは上半分が……と、開いているスペースは常に一定ではありません! それゆえに、いかな状況でも対応できるように大小だけでなく、縦横に延ばしたり縮めたりしても崩れない変化の幅が広いものを考え、あらゆるシチュエーションを吟味、調整、練習、修得するのが重要なのです!」

「そ、そうなのね」

 穂乃香はゆかりの剣幕にとりあえず頷いてから、目下最大の疑問を口にする。

「でも、そこまでする必要があるのかしら?」

「あるのです。なぜなら、サインはファンに対する感謝を示すものであるからです」

「……感謝」

「穂乃香お嬢様は、このわずか二日ほどだけでも、多くの穂乃香お嬢様ファンの方に応援してもらった記憶がありませんか?」

 ゆかりの言う様に、撮影現場である学園でも、通園している幼稚舎でも、穂乃香は幾度となく応援の言葉を貰った覚えがあった。

 かつて、大魔法使いと呼ばれた頃ですら、あれほど熱狂的に支持された記憶はない。

 それに今肉体的には同世代だが、大人だけでなく小さな子供からも声援を送られるのは、くすぐったかったが、同時に誇らしくもあった。

 できれば、それらの言葉全てに応えたいと思う程、嬉しい気持ちになっているし、可能であればすべての声に感謝の言葉を伝えたいと、穂乃香は思う。

 だが、穂乃香の幼さでは当然限界があって、その感謝の言葉を伝えられるのは身の回りの数えるほどでしかなかった。

「穂乃香お嬢様、もうすでにあんなに多くの人たちが、穂乃香お嬢様を応援してくれていますが、けれど、残念ながら、そのすべての応援に『ありがとう』を言うのは難しいのです」

 ゆかりの言葉は穂乃香自身が思っていたことであり、それを達成できていないという事実が、とても自然に首が上下させる。

「だからこそ、感謝のサイン、ありがとうのサインを書いて、ありがとうの気持ちを伝える相手を増やすのです!」

「そう……ですね、なるほど!」

 ゆかりの熱弁に感化され始めた穂乃香の頷く回数が増えた。

「感謝の気持ちを込めて、穂乃香お嬢様のありがとうの気持ちを伝えるものですから、やはり、練習を重ねて、どのような状況でも美しく書けるように準備するのが、淑女のたしなみなのです」

「確かに、感謝の気持ちを込めるなら、ちゃんとしたものを修得するのは重要ですね」

 根が真面目である穂乃香は、やるからには完璧を目指す気質もあるため、やる方向で気持ちを整えてしまえば、後は突き進むのみである。

 それゆえ『複数回開催する必要があるのか』という当初の疑問など、既に頭の片隅にも残っていなかった。

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