表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
182/812

182 幼女、サインを求められる

「そういえば、何で、月奈ちゃんは、私を穂乃香様って呼ぶの?」

 ジャンケン合戦の結果、穂乃香のはす向かいの席に座ることになって落ち込んでいた月奈が、声を掛けられたことで、一気に表情を輝かせて答えた。

「え、だって、せーれーの姫の穂乃香さまが、かっこよすぎて、ファンになっちゃったんです! あ、サインください!」

 そう言って月奈は、お絵かき用に与えられていた真っ白の画用紙とクレヨンを穂乃香に差し出す。

「え、サイン?」

 急に振られたお願いにも、その内容にも戸惑う穂乃香に、月奈は机を揺らしながらグイグイと迫った。

「だって、穂乃香さまも、もうじょゆーなんですから、もってるでしょ?」

 月奈にそう迫られても、穂乃香は首を傾げるしかない。

 穂乃香の得た知識によれば、サインとは記名の事であるし、そもそも『魔法使い』にとって、それは契約の仕上げを意味する重要な儀式であった。

 それを気安く欲しいと言われても困るしかない。

「え、えーと、サインは……」

 どう断るか、穂乃香が苦笑を浮かべつつ考え始めると、何かを察したらしい月奈が差し出していた画用紙を手元に引っ込めた。

「えっと、これが、凛華ちゃんやくの千穂さまのでしょ」

 サラサラとクレヨンを操って、月奈はひらがな表記である『たかもりちほ』の六文字を崩したものをベースに、星やハートが散りばめられた可愛らしいサインをかき上げる。

「クルミちゃんさまは、すこしむずかしいんですよねー」

 続いてクルミものだというサインを、月奈は一切の迷いなく書き上げていった。

 大きな星の中に横書きで、ひらがなの『ほしのくるみ』の六文字が可愛らしい丸文字で書かれ、星の下にはウィンクする女の子のイラストも付属している。

「アリサさまは、えーご、なんですよ」

 ウキウキとクレヨンを走らせる月奈の手元を、気付くと穂乃香も、みどりも、奈菜も言葉もなく見つめていた。

 周りの視線を集めている状況でも、月奈の手は軽やか舞う。

 東京タワーのような形に誇張された『A』を先頭に『Alisa F』の文字が流れるような文字で描かれ、最後に大きなハートマークが描かれると、月奈は止まることなく次へと移った。

「彩花さまもえーごでかっこいいんです」

 上部に『AyA』と書かれ、伸ばされた『y』の縦線に『く』の字が追加され『K』を形作り、最後に小文字の『a』が添えられている。

 文字数が少なくそれでいてシンプルに整っているのが実に彩花らしいと、穂乃香が思っていると、月奈のサインは最後の一人のモノに移っていた。

「で、さいごは茉莉さま」

 大きな『ま』の字の丸の中にはウィンクする顔を模した目と口が描かれ、丸から延びる棒の上に『えんどう』の四文字が縦長に書かれ、その下に『つ』と『り』のに文字が書かれると、ウィッチ五人のサインが画用紙一杯に描きあげられる。

「ふぅ~」

 一仕事終えたとばかりに、満足そうな笑みを浮かべて、月奈がクレヨンを箱に戻した。


 穂乃香はあっという間に書き上げられ、画用紙を埋めたよく知る五人の少女のモノだというサインを見て、なるほどと胸の内で頷いた。

 サインと聞いて契約を思い浮かべた穂乃香であったが、家紋やエンブレムに近いものだと理解する。

 そして、そこまで来て、一つの疑問にたどり着いた。

「えと、その、サインって、必要なものなの?」

 穂乃香の言葉に、敏感に反応したのは、月奈でなく奈菜である。

 立ち上がるなり、盤と机をたたいた。

「当り前じゃないですか! 穂乃香ちゃんはこれからもっともっと有名になるんですから、絶対要りますよ。うちのお姉ちゃんだって、大好きなアイドルさんのサインを大事に飾ってますし、私も家宝にしたいので欲しいです!」

 フンスと鼻息荒く言い切った奈菜に、月奈は反発を見せず、逆に同調する。

「うん。るなも、穂乃香さまにはサインがいるとおもうし、るなも欲しいです!」

「あ、みどりもほしいな!」

 奈菜、月奈が手を上げたのにつられるようにして、みどりまでもが欲しいと言い始めた。

 そうまで言われて、断れるほど穂乃香は拒否感があるわけではないので、別に構わないとは思うのだが、重大な問題点がある。

「私は別に書くのは構わないけど、無いよ……サイン」

 申し訳なさそうにいう穂乃香の言葉を耳にした奈菜と月奈がどちらからともなく顔を見合わせた。

 そうして、ほぼノータイムで頷き合う。

「じゃあ、きめちゃいませんか、穂乃香様?」

「気軽に考えてみましょう! サインって一生それだけである必要もないですし! 試してみる感じで……」

 奈菜と月奈は、純粋に芸能人になりかけの穂乃香にサインは必須だと考えているが、サイン考案を促したのはそれだけが理由ではなかった。

 穂乃香のサイン開発に立ち会える嬉しさも、穂乃香の役に立ちたい思いもそこにはある。

 だが、その前に、その場にはため息混じりに水を差すものがいた。

「さ、サイン作りもいいけど、今はお絵かきの時間だから、まずは絵を描きましょうね」

 あかねは若干顔を引きつらせながら、穂乃香達を順番に見やる。

 どれほど真っ当な意見と指導であっても、穂乃香が絡むと怒られることもあるので、あかねの言葉は実に気を遣ったものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ