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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第七章 幼女と前世の影
181/812

181 幼女、取り合われる

 週明けの幼稚舎はいつも以上に穂乃香たちに注目が集まっていた。

 いかに榊原家が規格外と知ってはいても、穂乃香本人だけでなく、比較的仲の良いみどりや奈菜も共に大人気作品であるプリッチに出演するというのは、幼稚舎のクラスメイトにとっても、その保護者にとっても震撼の大事件である。

 特に、プリッチ大好きで有名な月奈の興奮具合と言ったら、とんでもなかった。

「穂乃香さま、すごくステキでした~」

 奈菜の目も三角に吊り上がるほど、興奮した月奈は朝からずっと穂乃香に抱き付いている。

 興奮しているせいか、幼女であることを加味しても随分と熱の籠った月奈の体温が、触れ合った肌を通じて、じわりと穂乃香の体に伝染していた。

「あの、月奈ちゃん、ちょっと暑い……」

 既に暦の上では秋になったとはいえ、まだ制服は夏用であるほど、残暑厳しい時期である。

 当然、抱き付かれていれば、汗ばむのは自然なことで、その感触に穂乃香は苦笑を浮かべた。

 それを穂乃香の拒絶と判断した奈菜が介入する。

「ちょっと、月奈ちゃん! それ以上は穂乃香ちゃんに迷惑ですよ!」

 腰に手を当てて、眉同士の間を鋭角に吊り上げた奈菜の剣幕はなかなかにキツイものがあった。

 だが、穂乃香に抱き付く月奈がそれで怯むことはない。

「ねぇ、穂乃香さま……るな、めいわく?」

 肉体年齢的には同年齢であっても、精神的には老成している穂乃香が、そう尋ねられて無下にできるわけがなかった。

「えと……迷惑ってことはないけど……」

 穂乃香の言葉に月奈は勝利の笑みを浮かべ、奈菜は今にも泣きだしそうなほど顔をゆがめる。

 そうなれば、今度は心配が穂乃香の中で勝った。

 素早くするりと月奈から抜け出すと、今にも泣いてしまいそうな奈菜に心配そうに声を掛ける。

「大丈夫、奈菜ちゃん? 心配してくれたのにごめんね」

 穂乃香はそう言いながら、優しい手つきと声で奈菜を慰めた。

 暑そうにしていたのを面倒見のいい奈菜が察して、気を遣ってくれていたのだろうという認識ゆえに、穂乃香としてはどちらにも笑ってほしいし、どちらにも満足して欲しいと思っている。

 だが、その本質は、穂乃香自身の取り合いなのだ。

 当然ながら、今度は月奈が面白くない。

「穂乃香さま! 穂乃香さま! るながだきついていては、ダメですか?」

 うるると大きな目に涙をいっぱいにためられては、慰められて平常を、今や笑顔を浮かべてしまった奈菜に、穂乃香を引き留められるだけの力はなかった。

 あっさりと奈菜を後にして、穂乃香は月奈に「そんなことはないよ」と笑いかける。

 穂乃香自身は両者をあやす保母さんあるいは保父さんのイメージなのだろうが、少し遠巻きに見ているあかねの目から見れば、二人の恋人の間を華麗に行き来する修羅場のホストにしか見えなかった。


「ほのかちゃん、だいじょうぶ?」

 みどりが首を傾げたのは、穂乃香を中央に、両腕にぶら下がってる奈菜と月奈を見たからだ。

 少しくたびれた様子の穂乃香に、みどりは心配そうな目を向ける。

「大丈夫だよ、みどりちゃん。心配ありがとうねー」

「ぅ、ぅん……」

 いつもと変わらない穂乃香の優しい言葉に、みどりが怯んだのは、その両端に侍る二人の目が怖かったからだ。

 穂乃香の取り合いで疲弊してしまっていた二人には、嫉妬の目や思いをしまい込むだけの余裕がない。

 当然、他のクラスメイトにも強烈な視線をぶつけ、結果的に穂乃香の周りに人が集まらない状況を作り上げてしまっていた。

「え、ぇとね、ぃまからぉぇかきするから、はんになってって、ぁかねせんせぃが……」

 今度はわずかに体を震わせながら、一生懸命状況を説明するみどりに対して、穂乃香の心の天秤が傾く。

「あ、そっか、よびにきてくれたんだね。それじゃ、一緒に描こう!」

 いつの間にかするりと、奈菜と月奈の腕の拘束から抜け出していた穂乃香が、少し驚いた顔を見せたみどりの目の前に立って微笑みかけた。

「ん? どうかしたの、みどりちゃん?」

 そう尋ねられて、みどりは素直に「うん、えと、るなちゃんとななちゃんが……」と口にする。

 だが、二人に腕を掴まれてたのに何で抜け出せたのという質問を接ぐ前に、穂乃香は振り返って、2人に声を掛けていた。

「奈菜ちゃん、月奈ちゃん、お絵かきの時間だって、一緒に頑張ろう」

「え、あ、はい」

「あ、うん!」

 奈菜と月奈が頷いて同意したのを確認してから、穂乃香はさっさとみどりと手をつないで、空いてる四人掛けの机に向かって歩き出す。

「みどりちゃん、呼びに来てくれてありがとうね」

「う、うん!」

 穂乃香の感謝の言葉とともに送られた笑顔につられて、みどりも明るい笑顔を見せた。

 そのまま、隣同士で着席してしまう穂乃香とみどりを見て、取り残される格好になってしまった奈菜と月奈が声をハモらせる。

「「あ!」」

 そうして、二人はもみ合う様に塊となって、穂乃香とみどりの正面の席に飛び込むように移動すると、二人の前で熾烈なジャンケン合戦を開始した。

 あまりにもあいこが繰り返される光景に、穂乃香が「二人ともすっごい気が合うんだね」ととぼけたコメントが放たれる。

 直後、穂乃香の迷言に慣れている奈菜がどうにか平静を保ち、まだ新参の月奈を下した。

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