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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
170/812

170 幼女、目の当たりにする

 ふと、千穂を見つめていた茉莉が、長い息を吐いてからゆっくりとした口調で語り始めた。

「私達だって、穂乃香ちゃんが大好きだし、千穂ほどじゃなくても、テンションが上がる……だから、別にそれを押し込める必要はないと思う。でも、どんなに好きな気持ちがあっても、それで起こした行動で、相手の子を戸惑わせたら意味がないでしょ?」

「うん」

 茉莉の言葉に、その通りだと思った千穂は素直に頷く。

 その反応に対して茉莉は「じゃあ、もう大丈夫じゃない?」と笑って見せた。

 一方、急な展開についていけずに、千穂は「へ?」と驚きを声にする。

 首を傾げる千穂に、茉莉は当たり前のことを口にするような気軽な口調で「相手に迷惑をかけるかもって思えたら、千穂なら止まれるでしょ」と告げた。

 千穂はその茉莉から向けられた信頼に「う……」と声を詰まらせる。

 それから、決意をもって表情を引き締めると「……頑張る」と真剣な顔で言い切った。


「「「キャーーーッ!!」」」


 複数の悲鳴が上がったのは、決意を新たにした千穂と茉莉たちが、撮影現場に移動を始めた直後だった。

 反射的に、声の方へと五人は同時に駆け出す。

「何ですか、今の悲鳴?」

「今はともかく、確認しないと」

 アリサの疑問に、茉莉はざわつき混乱を始めてる気配を感じ、速度を上げて校舎を走り抜けた、

 直後、一同は撮影現場であった中庭に飛び出すが、同時に状況の原因を視界に捉える。

 そこへ、先に来ていた穂乃香の声が届いた。

「お姉ちゃんたち!」

「「穂乃香ちゃん!」」

 穂乃香の声に、茉莉と彩花がその名を呼び、クルミが原因と思しき状況から視線を外さずに尋ねる。

「落ちたのは今?」

 そう尋ねられて、穂乃香は軽く頷くと簡潔に状況の説明を始めた。

「あおいさんの話だと、撮影を見られるように屋上が解放されてたんですけど、あまりにも大人数で寄りかかったせいで、金網が柵ごと……」

 穂乃香は説明をしながらちらりと、皆の正面に見える校舎の屋上付近へと視線を向ける。

 本来は、落下を防止する幾本もの鉄柱とその間に渡された金網で落下を防止している柵が、両端の他より太い鉄柱を残して倒れてしまっていた。

 しかも、最悪なことに、倒れた金網の方に乗っかってしまった四人の女子生徒がハンモック状態の不安定な金網の上に取り残されている。

 元々はそれより多い人数が金網に乗っていたのだが、五階建ての校舎の屋上ゆえに、およそ二十メートルの高さに放り出されてしまったことで、パニックになり我先にと屋上へ戻ろうとした。

 それに手を貸すものも出て、幾人かは屋上に再び足をつくことができたが、すぐに状況が悪化してしまう。

 辛うじて、金網の落下を支えていた両端の太い鉄柱までがぐにゃりと曲がり、金網がさらに下へと下がった。

 結果、腰を抜かしたり、あるいは危険を察知して伸ばす手を引いてしまった四人の女生徒が金網の上に残され、救出しようとしていた他の生徒たちも呆然とその姿を見つめるしかできない状況に陥ってしまう。

 しかも、場所が悪いことに、金網の下は洋風の迷路庭園が設置されていて、低木とはいえ木々が並び、更にはそれを囲むように、鋭い先端部を天に向けた鉄柵が張り巡らされていた。

「あおいさんたちと、うちのゆかりさん達は学校と連携しながら、救出に動いてますけど……」

 穂乃香はそう言って、怒鳴り合うように声を掛け合いながら動いているスタッフたちに視線を向ける。

 そこで、少ない情報を組み合わせて、状況を理解した千穂が真剣な表情で口を開いた。

「とりあえず、私達は、生徒さんを落ち着けよう!」

 千穂の発言に、皆の視線が集まる。

「落下予測地点には、迷路庭園があるせいで、簡単にクッションになるもので受け止めることも出来ないから、私達が行っても戦力にならない。だから、みんなで落ち着くように言って、あおいさんやゆかりさん達の邪魔にならないように誘導しよう」

 改めて状況判断を加味した行動の意味を、千穂が明確に説明すると、最初にクルミが笑みをみせてから表情を引き締めた。

「さすが、リーダー、了解」

 言い終えるなりどこかへ駆け出したクルミに次いで、彩花が「私は先ず、中庭に出ないように、ロープを張ります」というなり、撮影隊が規制線代わりに使うロープ目掛けて駆け出していく。

「彩花さん、私も手伝います」

 そう言って続いたアリサに、彩花は「それはいいですが『口調』忘れてますよ」と言い放った。

「了解デース」

 彩花に指摘されてアリサが口調を戻したのは、ふざけているからではない。

 常に演技を心掛けているアリサは、帰国子女の自分を演じる時が一番隙がなく冷静なのだ。

 彩花の指摘はそのスイッチを入れ直させるものであり、長い時を共にしてお互いを知るからこそ放てる最高のパスである。

「千穂!」

 戻ってきたクルミが、千穂に自分の手にある二つの拡声器の一つを投げ渡した。

 千穂はそれを難なくキャッチすると、笑顔を穂乃香と茉莉に向ける。

「それじゃ、私とクルミちゃんは、周囲を警戒して、指示出しと注意をしてくるから……」

 そこで一旦言葉を切った千穂は茉莉の様子を窺うように視線を向けた。

「茉莉ちゃんは、穂乃香ちゃんをしっかり守っててね」

 千穂はそう言って微笑みかけると踵を返す。

 窮地ではどうしても身が強張ってしまう茉莉の性格を知る千穂はそれ以上何も言わないし、クルミもすでに役割を果たすべく千穂の反対側へと駆け出していた。

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