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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
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171 幼女、立て直す

 彩花が、アリサが、クルミが、そして千穂がそれぞれの役目を把握して散っていく。

 これまでであればその後姿を見送る度に、茉莉は無力感と不甲斐なさに打ちのめされてしまっていた。

 だが、今回は違う。

 何しろ、千穂に与えられ、そして自分でも他にいない大役があると自覚しているのだ。

「穂乃香ちゃん、移動しよう」

 そう言われて驚いた顔を見せる穂乃香に、茉莉は微笑みかける。

「動くんでしょう? サポートは私に任せて」

 トンと胸に手を置いて強い意志を覗かせる茉莉に、迷いは一ミリも存在していなかった。

 自らの役割を自覚し、例え千穂や仲間たちに臆病者だと思われてもかまわないという思いと、穂乃香の秘密を知る自分にしか務まらないという使命感で、茉莉は微笑んでいる。

 一方で、穂乃香は躊躇いの中にあった。

 ほんの少し前に、自分の行動の浅慮さで、窮地に立ったばかりであるし、自分の愚かさも無力さも痛感したばかりである。

 何かをしなければという思いがむくむくと膨れ上がっているのに、そのネガティブな記憶が、苦い思いが穂乃香の中で重しとなって行動へと繋がらずいいたのだ。

 ある意味で、直感的に、反射で人助けをしていた穂乃香の中に芽生えてしまった自己を否定する思い。

 本来であれば、その鎖のせいで穂乃香は手を差し伸べることを辞めてしまっていたかもしれなかった。

 しかし、今、穂乃香の目の前には、純粋に穂乃香を信じ、穂乃香ならば行動を起こすと信じて疑わない目がある。

 たった一人、けれど、自分が確かに助け、自分をよく知る少女からの信頼のまなざしに、穂乃香の心が奮い立たないわけがなかった。

 先ほどまで、助けるか否かで踏みとどまっていた思考が、どうやって助けるかに変わっていく。

 戸惑いに揺れていた目が強い光を放ち、穂乃香は自覚のないまま、その口元に不敵な笑みを浮かべた。

 そんな穂乃香の表情の変化に軽く頷いた茉莉は、独り言でも口にするように小さな声で呟く。

「ユラさん、青葉ちゃん、蜜黄ちゃん、黒華ちゃん、誰か来たら私が穂乃香ちゃんの壁に……目隠しになるから、周りの警戒をお願い」

 茉莉の言葉に、ユラが穂乃香に視線を向ければ、すぐに頷きが返事として返された。

『茉莉殿、協力感謝するの』

「茉莉でいいですよ」

『では、我のこともユラと呼ぶがいいの』

「了解です、ユラ」

 ユラと茉莉はそう言い合うと、まるで示し合わせたかのように、同時に真剣な眼差しと僅かな笑みを浮かべる。

 そんな二人の様子に笑みを浮かべた穂乃香は、静かに状況把握に意識を集中し始めた。


『穂乃香お嬢様が、杖を手にされました』

 イヤホン経由で伝わってくる情報に、ゆかりは静かに穂乃香に視線を向ける。

 それぞれ役割を果たそうと散っていったウィッチメンバーの中で唯一残った茉莉が、周囲から穂乃香の動きを隠すように壁役に徹していた。

「誰かを頼れるようになったのは喜ばしいですが、少し妬けますね」

 ポツリと本音を零したゆかりだが、直後、胸元にマイクがあるにもかかわらず、わざわざ大声で指示を飛ばす。

「屋上に上がって、折れた鉄柱を金属ワイヤーで固定して、まず宙づりの生徒の保護を、同時に鉄柵をなぎ倒して、草木の上に緊急飛び降り用のマットを展開して!」

 ゆかりの指示にまず穂乃香護衛隊の面々が動き、次いで、撮影スタッフ、学校側の教職員がその指示を受けながら動き出した。

 そして、ゆかりの指示を聞いていた穂乃香は心の中で礼を告げる。

(ゆかりさん、そのつもりはないだろうけど、情報ありがとう!)

 茉莉の影に隠れて状況が見渡せるように一歩下がった穂乃香は、宙づりの生徒たちの重みで徐々に下降しつつある金網に向けて、風の魔法を放った。


 ガクンと大きく揺れた金網に、屋上と金網の上と、幾人かの生徒が気を失った。

 ただロケの見学に来ただけなのに、不運としかいえない状況に、巻き込まれた凶悪な事故に、気を失えなかった少女川島祥子は、己の不運を呪う。

 金網に取り残されたのは自分を含めて四人、その『四』という数字の持つ不吉な印象に、窮地にあって祥子は思わず笑ってしまった。

 むしろ、笑いでもしないとおかしくなってしまうと、体が自己防衛力を発揮した結果かもしれない。

 祥子がそう妙な冷静さで状況を分析したところで、再びガクンと金網がたわみ、さらに下へと沈んだ。

 しかし、再度起こった沈み込みで状況は急激に悪化する。

 折れた鉄柱の先端が校舎の壁に引っかかり、四人の少女を受け止めていた金網に傾斜がついた。

 直後、気絶した一人の少女の体が、地面に向けてわずかに滑る。

 その絶望的状況に、屋上から、地面から、校舎から多くの悲鳴が上がった。

 四人の中で唯一意識のある祥子は、周囲から上がった悲鳴に、徐々に徐々に投げ出されようとしている少女に気付き、慌てて手を伸ばして引き戻す。

 そうしてどうにか、堕ちかけていた少女を引き戻すことに成功した祥子だったが、安定のない金網の上で発揮してしまった反射的行為の代償は大きく、ぐらりと揺れた体が金網のない中空に投げ出されてしまった。

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