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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
168/812

168 幼女、声を奪う

「……私の服が、ほぼエンジェリックプリンセスのラインナップと同じだからといって、私がモデルとは限らないんじゃないでしょうか!」

 ムクリと布団から起き上がった穂乃香は、おもむろにそう声を上げた。

 しかし、時刻は間もなく夜明けともあって、一人常夜灯の灯った自室のベッドで寝ていた穂乃香に反応を示す人影はない。

 もっとも、穂乃香をカメラ越しに見ているものはいたし、映像に映り込まないだけで、眷属であるユラは甲斐甲斐しく世話をやいていた。

『主殿、まだ時間は早いゆえ、いましばらく休まれるがよいの』

 目を閉ざしたままグラグラと大きな頭が揺れ始めた穂乃香を受け止めつつ、ユラはゆっくりとその体を横たえる。

 その上で穂乃香の体にしずしずと布団を掛け直してやるが、機械の目ではユラを捉えられていない為に、布団が自ら動いたようにしか見えなかった。


 この日、当直だった特殊班から編入してきた新人の護衛隊員の女性は、同じく穂乃香用の見守りカメラのチェックをしていた新たな同僚に、目の前の光景についての意見を求めた。

「ついに榊原グループは自動で布団が掛かるシステムを開発したのかしらね?」

「……実際のところ可能かもしれないけど、実戦配備の報告がない以上、特殊事案でしょうね」

 やや間を開けてから、そう返してきた同僚に「デスヨネー」と返すと、すぐさま古巣である特殊班の解析に映像を回す。

「その様子じゃ、また『視えなかった』のね」

「…………正直自信なくなります」

 元々そうである同僚にそう察せられて、やり手と評判だった女性は深いため息をついた。

 先日も、穂乃香お嬢様が部屋を抜け出し、屋敷上空で変身して見せた際にも、後手に回った経験があるため、日課の瞑想や精神鍛錬の修行として水垢離、滝行を増量して、当直に臨んだにもかかわらず、今布団を掛けた存在を認知できずにいる。

 もちろん、それを単に未熟で片づけることも出来るが、しかし、視えなければ、いざという時に穂乃香を守れないことに直結するため、女性の精神的なダメージは計り知れなかった。

 元より、視る能力を持っていない身からすれば、そんな高度な次元で悩む新たな相棒に掛ける言葉など、持ち合わせてもいない。

 しかし、それでも護衛隊員として、求められた能力を、パフォーマンスを発揮できない苦痛を実感している以上、同情の目を向けるのは禁じえなかった。


 翌朝、この日は穂乃香達の出演回が放送されるため、学園の撮影現場では、精霊の姫姿に着替えた穂乃香が、前日と同じ様にロケ車にて待機をしていた。

 簡単にSNSで情報を拡散されてしまう為、極力スタジオでの撮影を前倒しして、放送まで秘匿してきた穂乃香の精霊の姫がお披露目となれば、すぐさま、穂乃香の登場シーンの撮影に入る予定となっている。

 本来、子役が多いシリーズであり、穂乃香の年齢を考えれば、シーンの順番通りに撮影するのが基本ではあるのだが、ウィッチチームを含む子役全員の演技者としての技量から、シーンを順番通り撮影しなくとも問題ないと判断された結果でもあった。

「いよいよだね」

 真新しいフェアリーフォーム姿に身を包んだ千穂が穂乃香の横に陣取り、ワクワクと緊張が織り交ざった複雑な表情で、話し掛ける。

「う、うん」

 それに答える穂乃香もまた、やや緊張した口ぶりで答えた。

 一方、穂乃香を挟んで千穂の反対に陣取る制服姿のクルミが、モニター上部の時計を確認しつつ、ワクワクとした様子で「いよいよだよ」と口にした直後、数字が動き放送時間を示す。

 そうして、一度は穂乃香の誕生会で見た森のシーンが始まり、穂乃香のテレビ初出演回が幕を上げた。


「精霊姫ちゃーーん」

「姫ちゃん、こっちむいてーー」

「ヤバッ! リアルめっちゃ可愛くね!?」

「お持ち帰りしたい」

 キャアキャアと警備員の張ったロープの向こう側から、黄色いヤジがいくつも飛んでくる。

 放送を終えて、撮影準備完了の報告とともに、ロケ車を出たところで、もう早速声が掛かるようになった事実に驚いた穂乃香の手足の動きが、急に固くなった。

 何かで固定されてしまったようにピンと伸びた右手と右足を穂乃香が同時に動かせば、ギャラリーからは可愛いという声が次々上がる。

 それが一層、穂乃香の緊張を煽った。

 千穂はそんな穂乃香の様子を見るなり、ギャラリーと穂乃香の間に体を滑り込ませて声を上げる。

「ごめんね、みんな! 精霊の姫役の子はまだ慣れてないから、抑えめでお願いします!」

「あー、できれば、パワーアップしたばかりのアネモネにも注目してあげて~」

 明るい口振りで、更に穂乃香の壁になるように小さな体を全力で動かして、クルミがそう呼びかけると、ギャラリーたちも、それに逆らうことなく注目を新衣装の千穂に向けてくれた。

 学園内に入れるのは生徒だけということも手伝って、この場には素直で協力的なファンが多い。

 一連の流れに、それを感じ取った穂乃香がクルリとギャラリーを振り返った。

 同時に、それを察した千穂が穂乃香を見て、クルミも視線を向ける。

 結果、ギャラリーの目も自然と向いたが、そこにはもう緊張で固まる穂乃香の姿はなかった。

 劇中の堅い威厳のある笑みではなく、つい表情が綻んでしまう様な愛らしい笑顔を浮かべた穂乃香が、ゆっくりとした所作で頭を下げる。

「皆さん、応援ありがとうございます。まだまだ未熟ですが、一生懸命頑張りますので、これからも応援よろしくお願いいたします」

 綺麗な口上で、ピタリと自分を見る全員の言葉を奪ったところで、穂乃香はくるりと踵を返し颯爽と歩み去ってみせた。

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