167 幼女、言葉を失う
彩花が見つけた子供服ブランド『エンジェリック・プリンセス』のウェブサイトには、白と水色で構成された英語のロゴと共に、天使の羽の生やしたお姫様イメージであろうドレスの女の子が微笑む柄が描かれている。
「こういう西洋風なドレスを扱うサイトだと、ブランドイメージの女の子って金髪寄りの髪色だよね」
茉莉の指摘で、画面を見たクルミの視線が穂乃香とイメージイラストの純白の天使の羽根を生やしたお姫様を行き来した。
そうして、一瞬諦めたような表情を浮かべたクルミは、ため息を吐き出した後に表情を改めて、とても素敵な笑みを浮かべると、穂乃香に断言してみせる。
「うん、これ穂乃香ちゃんモデルだわ」
それに慌てて、穂乃香が疑問の声を上げた。
「ちょっと待ってください! ど、何処がですか!」
クルミに食いついたところで、状況も事実も変わらないと薄々察しながら、穂乃香は視線をイメージキャラクターの天使の羽根が生えたドレス姿のお姫様に向ける。
確かに、その姿は黒髪ロングで、前髪は穂乃香と同じ様にきちっと切り揃えられているので、そっくりと言えなくもなかった。
だが、描かれているキャラクターはかなりデフォルメされているので、必ずしも穂乃香がモデルとは断言できない。
穂乃香はそんな風に思っていたのだが、続くクルミの指摘には、口を閉ざすしか選択肢が存在していなかった。
「だって、このモデルのお姫様のドレス、この前のお誕生日会で、穂乃香ちゃんが着ていたものと一緒だよ」
「……え?」
言われて、食い入るようにイラストを確認した穂乃香は、言われてみればそんな気もすると、背筋が冷たくなるのを感じる。
そこへ、茉莉が「……穂乃香ちゃん」と若干の憐みの籠った声で呼びかけながら、自らのスマホに納められた穂乃香の誕生日会のドレス姿を表示して見せつけた。
「これは見たことありますね」
「こっちなんて、一緒にご飯食べた時のじゃないかな?」
「ある意味穂乃香ちゃんの私服アルバムだねー」
エンジェリックプリンセスの掲載商品がいつ穂乃香に着られていたかというテーマで、彩花と茉莉とアリサがワイワイと盛り上がっている。
その横では、すでに自分がモデルのブランドがある上に、その商品が販売までされていることに、恥ずかしさが最大限になった穂乃香が全身を赤に染めて蹲っていた。
それをひたすらにクルミが励ますように優しく肩を叩いていたのだが、急に彩花が「あっ」と声を上げる。
「うわー。行動早いなぁ」
茉莉のつぶやきに、嫌な予感を感じ取った穂乃香が、ガバリと顔を上げた。
「えーと、エンジェリック・プリンセスと、プリッチブランドのコラボが発表されました~~~」
語尾に行くにつれて視線を逸らし、明るく跳ねる口調だった声が徐々にしぼんでいくアリサの報告に、穂乃香は完全に固まってしまう。
「…………千穂を野に放ってしまった以上、遅かれ早かれ訪れた運命……受け入れるしかないわ」
クルミは低い声でそう告げると、再び穂乃香の肩を優しく叩いた。
「まずは、これなんかどうかな!!」
穂乃香がようやく再起動したタイミングで、ちょうど戻ってきた千穂が満面の笑顔で、手にした三枚の紙を突き出した。
そこには色鉛筆で描かれた洋服のデザインがスケッチされていて、どれもモデルは黒髪ロングの少女に合わせてデザインされている。
イラストの下部にはアルファベットの筆記体で綴られたジュリエルのサインが描かれていた。
「それが、ジュリエルのデザイン画って言うのはわかりますけど、まずってどういう意味です?」
千穂にイラストを突きつけられた面々を代表して、アリサが首を傾げる。
対して千穂は満面の笑顔で「説明するね」と頷いた。
「えーと、今、デザインを選べば、もれなく、私達のコンサートまでにサンプルが出来上がるんだって!」
千穂のやや乱暴な説明に彩花が、補足もかねて確認の言葉を紡ぐ。
「つまり、コンサートでコラボ商品のお披露目も兼ねるんですね」
「うん、そう!」
大きく頷いた千穂に、今度はクルミが問いを投げかけた。
「それじゃあ、私達の考えたハロウィン衣装は無し?」
「えーとね、ハロウィン衣装はコンサートのコーナーで着てもらうんだけど、それとは別に、コンサート開演前に、コラボ商品の発表会って形式で、穂乃香ちゃんだけじゃなくて、みどりちゃんや奈菜ちゃんも、エンジェリックプリンセスのコラボ衣装を着てステージに立つことに決まったみたい」
次々と耳にしてもいなかった新情報が、千穂の口から飛び出してきては、その度に穂乃香は目を丸くする。
その横で、茉莉が驚いた様子で、千穂に確認を求めた。
「みどりちゃん、奈菜ちゃんも出るの決まったんだ」
「実はもうすでに本人達も親御さんもオッケー出してたんだけど、その条件が穂乃香ちゃんと一緒ってことだったみたいで、さっき、穂乃香ちゃんがブランドのモデルを承諾してくれたことを伝えたら、ジュリエルさんとあおいさんがあっという間に関係各所に連絡して、正式に確定させたよ」
千穂の報告に、もう止まらないとわかっていた穂乃香だが、それでも言葉として耳にすれば、より実感を持って覆しようがない現実として重くのしかかってくる。
生気の抜けた顔で、穂乃香は「そうなんだ」と返すことしかできなかった。




