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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
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164 幼女、アイディアを貰う

「でも、いつまでも、そういうわけには……」

 今しがた光明をくれたクルミに、穂乃香は恐る恐る反論に近い言葉を口にするが、返事はまさしく予想外だった。

「そりゃそうよ」

 思いがけず同意され頷かれたことで、穂乃香は目を点にする。

 事前の話では仕方がない事だからあきらめるという流れだったんじゃないかと、パチクリと目を瞬かせる穂乃香と、笑みを浮かべたクルミの視線がばっちりと交わった。

「後悔なんてそのままにしてたら苦しいだけだし、負けっぱなしはカッコ悪いじゃない」

 いつもの明るくて前向きで自信に満ちたクルミが、言い放つ言葉には強い力が籠っている。

 だからこそ、穂乃香は自然と頷きつつ、その言葉に意識を集中させた。

「というわけで、対策を立てればいいのよ。今回はゆかりさんに助けて貰ったのも恥ずかしいし悔しかったんでしょ?」

 ずばりと言われて、体を少しビクつかせながらも穂乃香は頷く。

「だったら、これがいいわ!」

 そう言ってクルミが取り出したのは、手のひらサイズの楕円形の物体だった。

「これはボイスレコーダー、ここにセリフを収めておくのよ。それで、いざと言いう時に使うの」

 クルミはウキウキした顔で、操作を始めると、すぐにドスの利いた声が機械から発せられる。

『カギ掛かってたら、使用中だとわかるだろうが?』

 まさしく今回にピンポイントなセリフに、穂乃香はクルミを凝視した。

「ほら、喫茶店とかで、男女兼用のトイレとかあるじゃない? その時に変な人が来たら使うんだよ」

 頷きながら語るクルミの勝ち誇った様子に、穂乃香は思わず視線を千穂に向ける。

 しかし、千穂は穂乃香側の、戸惑っている側の人間ではなかった。

「おー、これ、倉橋さんの声じゃない?」

「そそ、この前のアフレコの時にお願いしたら、ノリノリで録ってくれたのよ」

 そう言い合いながら盛り上がる二人を前に、穂乃香は真剣な表情で悩み始める。

 そうして二人の雑談の切れ目に、穂乃香は問うた。


「あの、それで……その声で今回の場合、追い払えたでしょうか?」

 真剣な穂乃香の問いかけに、クルミは実にあっさりと答えた。

「そんなのわからないわよ」

「え?」

 パチクリと大きな目を開閉しながら、説明を求める穂乃香の顔がわずかにクルミに無言で近づいていく。

「だから、大事なのは次はそうならないように対策と心構えをすることなの。作戦が完璧かなんて、実際にその状況になんなきゃわからないにきまってるじゃない」

 クルミの言うそれは実に理屈の通った答えだったが、それゆえに事前の自信に満ちた秘密兵器の紹介とはちぐはぐで、穂乃香は思わず吹き出してしまった。

「なぁに? おかしなこと言った?」

「いえ! すごく正しいと思いました」

 コロコロと笑いながら、穂乃香はクルミにそう答えると晴れやかな表情を浮かべる。

「トライ&エラーですよね」

「そうそう、試行錯誤を忘れたら、女優力も女子力も成長しなくなっちゃうわ」

 穂乃香の言葉に、クルミは腕を組んでから、大袈裟に頷いてみせた。


「間近で見ると制服可愛いですね」

 ふと、穂乃香がそう言うと、クルミがピョンと立ち上がり、スカートの裾をつまんで軽くターンを決める。

 ふわりと膨らんだスカートが空気を放ちゆっくりと太ももに着地するのを見てから、クルミはにこりと笑った。

「いいでしょ、普段の制服とは違うんだけど、こっちもお気に入り」

「普段?」

 コテンと小首を傾げた穂乃香に、千穂が「学校の制服の事だよ」と告げる。

 言われてそうかと頷いた穂乃香に向かって、制服のブレザーの内ポケットにしまっておいたスマホを取り出したクルミが、それをわずかに操作してから差し出した。

 そこには紺のセーラー服に赤いスカーフ姿のクルミと同じ格好の女の子が3人一緒に写っている。

「これがうちの学校の制服、ちょっと古くてダサいんだけどね」

 そう言って苦笑いをするクルミは少し気恥しそうに見えた。

 対して、穂乃香はブンブンと首を振ると「そんなことないです。クルミお姉ちゃんに合ってて可愛いです!」と力説して見せる。

 その横で、スマホを持ってきていなかった千穂が頭を抱えていた。

「しまった、私もスマホを持ってくるんだった!」

 一方、穂乃香は自らのスマホを操作すると、みどりや奈菜、月奈と4人で撮ったばかりの制服姿を披露する。

 制服姿の見せ合いっこに、血の涙を流しそうな勢いで千穂が身悶えるが、クルミはそれを無視して会話を弾ませた。

「おー、夏服だ」

「そうです」

「聖アニエス学院の夏服は可愛いとは思ってたけど、穂乃香ちゃん達は皆可愛く着こなしてるね」

「あ、はい。皆可愛いです」

 クルミがあえて『達』を加えたことで、穂乃香は素直に頷く。

 それを羨ましそうに見た千穂が会話に割り込んできた。

「わたしもみるーーーー」

「え、はい、いいですよ、千穂お姉ちゃん」

 藤色のノースリーブのジャンパースカート、白のメトロハット以外は生徒……正確には保護者の自由なので、背景に映り込む他の子たちは皆まちまちであるのに、写真に納まる四人はそろって白の丸みのある袖のシャツに、紺の膝丈ソックスを合わせているので、とても制服らしい見栄えになっている。

 それを見た瞬間に、千穂は目を輝かせた。

「あれ、これは……」

 穂乃香はその反応だけで、千穂が何に気付いたか理解して微笑みで答える。

「さすが千穂お姉ちゃん、気付いたみたいですね」

「この穂乃香ちゃん達が着てるシャツとソックスは、プリッチブランドの奴でしょ?」

「正解です」

「ふふーん」

 パチパチパチと穂乃香に拍手をされた千穂は、胸を反らせて勝ち誇って見せた。

 そんな千穂の態度に、顔を見合わせた穂乃香とクルミは声を上げて笑いだす。

 最期には千穂も混ざっても楽し気な笑いが聞こえ始めたロケ車の車外では、ゆかりがホッとした顔で同じように笑みを浮かべていた。

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