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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
165/812

165 幼女、戸惑う

「えぇっ!? プリッチブランドにですか?」

「そう、プリッチブランドに」

 戸惑いの声を上げた穂乃香に対して、あおいは努めて冷静に頷いた。

 穂乃香とあおいが口にしている『プリッチ・ブランド』とは、プリッチの玩具製造販売を手掛ける会社が展開している女児向けの洋服ブランドである。

 プリッチ劇中の出演者の衣装をベースに販売価格を抑えめにデザインされたものを取り扱っていて、購入する保護者層からも支持されていた。

 ちなみに、千穂が指摘した通り、穂乃香達が制服の下に着ていたシャツやソックスもこのブランドのモノである。

 そして、今現在話題に出ているのは穂乃香にとっては驚きの提案だった。

「私のラインを作るんですか?」

「そうよ! 穂乃香ちゃんに似合いそうなお洋服をベースに、新たなラインを立ち上げたいのよ!」

 大きく頷きつつ興奮のあまり立ち上がったのは、プリッチブランドのプロデューサー兼メインデザイナーのジュリエル(ビジネスネーム)である。

「で、でも、私の意見だけでは……」

「あ、おじい様や第一秘書さんはじめ、穂乃香ちゃんのお家には許可をもらっているわ」

 ぐいぐいと勢いよくすでに穂乃香の了承だけだと迫るジュリエルの目は血走っていた。

 スラリと高い細身の体に黒をベースとした体にフィットした衣装を纏う彼女の口元は、白い肌には劇薬の様に鮮烈な紫がかった赤い口紅が塗られている。

 そのまま、プリッチの悪の幹部に仲間入りしても通じそうな出で立ちは、下手なことは言えなさそうな雰囲気を過分に纏っていた。

「え、えーと、でも、私の名前が出ると……」

「そこは大丈夫! 基本的には穂乃香ちゃんの演じる精霊の姫フローラに似合う衣装のコンセプトで売り出すから! でも、ほら、穂乃香ちゃんがいてこその企画だから、ちゃんと本人にはそのことを伝えたいと思ったの!」

「そ、そうなん……ですね」

「そうなんですよ!」

 ますます興奮した様子で穂乃香にジュリエルが迫ったところで、あおいの拳がその突き出すようにしていた顎に突き刺さった。

「ぎゃふっ!」

 一撃で沈むジュリエルを見下ろしながら、荒く息をするあおいは、穂乃香に向き直るとすぐに頭を下げる。

「ごめんね、コイツ、自分が最高だと思った素材に出会うと必ず暴走するのよ」

「……はぁ」

「本当は私だけでいいって言ったんだけど、勝手に乗り込んできちゃって、一応、立場上追い返せなくてね」

 ものすごく申し訳なさそうに言うあおいに、穂乃香も「気にしないでください」と返した。

 そんな穂乃香に顔を上げたあおいは「ところでー」と不意に話を切り替える。

「なんですか?」

 首を傾げながら、様子の変わったあおいに尋ね返すと、すぐに再びその頭が下がった。

「お願い穂乃香ちゃん! コレぶん殴ったのは内緒にしておいて!」


「あー、ジュリエル、暴走したのねー」

 クルミと違い角襟のブラウスに、緑色のネクタイ、そしてキャラを示す赤いベストを身に着けた制服姿のアリサが、穂乃香の話を聞いて苦笑して見せる。

「まあ、仕方ないわね。特別可愛いことの代償だと思ってあきらめなさいな」

 そう言いながら笑う茉莉の制服は、アリサと同じ角襟のブラウスに紺のネクタイを締め、ベストは淡い水色(サックス)だ。

「自分だけ、暴走させられなかったからって、ひがむなよー」

 そんな茉莉に、クルミが容赦ない茶々を入れる。

「わ、私だけじゃないし、彩花も、千穂もだし!」

「なんだか、あまり気持ちのいい仲間入りじゃありませんけど、事実ですからね」

 とてつもなく不本意そうにコクリと頷く彩花も撮影用に制服姿だ。

 紺色のリボンにオフホワイトのベスト、角襟のブラウスをきっちりと着こなしているので、ただ立っているだけなのに優等生感が滲み出ている。

「まあ、ジュリエルがデザインを思い描きやすい相手ってだけで、茉莉も彩花も、もちろん千穂も皆可愛いよ」

 アリサがにこにこと笑いながら、そう告げると、茉莉も彩花も少し頬を赤らめて視線を逸らした。

 そんな一同の中で、一人全く違う空気を纏う者がいる。

「問題はそこじゃないわ!」

 空気が一人違う少女、千穂が大声を張り上げた。

 突然の奇行に、当然のごとく一同の視線が千穂へと向かう。

「私もデザインチームに入るって言ったのに、却下されたのよ!!!」

 怒りの籠った千穂の発言に、皆言葉を失った。

 より正確に言うのなら、今の千穂に何か言えばめんどくさくなるのだとプリッチメンバーは知っている。

 結果、誰もが遠巻きに見ることを選択したのだが、この中で唯一それを知らない少女が、反応してしまった。

「え、えーと、千穂お姉ちゃんは、デザインに興味が?」

「もちろんあるわよ。私も日々考えているもの、穂乃香ちゃんにどんなお洋服を着せたいか!」

 そう言いながら、千穂は自分のカバンを漁ってスケッチブックを取り出す。

 瞬間、千穂以外のプリッチメンバーが一斉に視線を逸らし、スケッチブックの千穂の絵を目の当たりにした穂乃香が思わず驚きの声を漏らした。

「え!?」

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