表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
161/812

161 幼女、恐怖に身を震わす

『しかし、力の蓄積となると、かなりの霊木か、霊石が必要ではないかの?』

 穂乃香の考えは十分に理解できる。

 だが、ユラとしてはその力の蓄積ができる『何か』を生み出すのがどれほどに難しい事かを熟知していた。

 実際に過去の術師の中では、その特殊な道具を生み出すために、幾百幾千という人間を犠牲にしたものもいる程である。

 つまり、ユラの経験と知識に基づけば、多少無茶苦茶であっても、根は心優しい穂乃香が、他者を犠牲にする手段を使うとは思えないので、消去法によってとる手段は術の改善だろうと踏んでいた。

 そう、ユラは肝心なことを忘れていたのである。

 穂乃香は無茶苦茶の範疇では収まらず、もはや理不尽の域に達していたのだ。

「とりあえず、サンプル!」

 言いながら回復してきた魔力の全てを込めて、わずかに空間を隔てて向かい合わせにした両掌の間に、穂乃香はたやすく発光する物体を生み出す。

 強烈な光は、手と手の間でぐるぐると回転を始め、小さな球を作り出した。

 そうして、魔力は物質化すると、小さな宝石のように輝く球体へと姿を変える。

『そ、それは……?』

 恐る恐る穂乃香に問うたユラに、笑顔と共に想像していたにもかかわらず衝撃を受ける一言が返ってきた。

「魔力を貯めれる玉……名付けて『蓄魔球(ちくまきゅう)』かしらね」

『な、なるほど……』

 平然とする主に対して、ユラの胸中では『霊石』を生み出したと大騒ぎだった。

 それを押し殺せたのは長く存在したことによる精神の落ち着きと、青葉たちの目が有ったお陰である。

 もっとも、その青葉たちは、主の能力の高さに興奮を示していた。

『さすが、主様です、ものすごい力を感じます!』

『綺麗、すごく綺麗なのでし! さすが主様なのでし!』

『姫しゃまは本当におしゅごいのれす!!』

 無邪気にはしゃぐ三人の眷属に囲まれて、やや鼻を高くした穂乃香、そんな四人を見つめながら、ユラは人知れず溜息を零す。

『あの無邪気さが羨ましくあるの』

 規格外の主に疲れた表情を見せながらも、ユラは苦笑という名の笑みを浮かべた。


「これがどれくらいの魔力を貯められるかわからないけど、魔力と相性のいい物体に魔力を貯めておくのは、前にもやってたことだし、運用は問題ないと思うのよね」

 手の中で、自らの力だけで生み出したオーパーツを転がしながら、穂乃香は呟いた。

 それは確信があっての言葉だけに、ユラを含め誰一人否を言う者はいない。

 だが、大失敗をやらかしたばかりの穂乃香は賢明であり、慎重だった。

「とりあえず、次は術の改善にも取り組みましょう」

 言いながら穂乃香は愛用のタブレットを取り出す。

『主殿、ここで始めるのかの?』

 早速とばかりに何事か検索を始めた穂乃香に、ユラはそう尋ねた。

 穂乃香はユラの問いかけにぴたりと手を止めると、わずかに体を震わせてから、ポツリと答えの言葉を口にする。

「なにかしてないと……体が少し震えるの」

 誰も見ず、まるで独り言のように零れ落ちた言葉に、ユラが、青葉が、蜜黄が、黒華が、誰からともなく穂乃香に抱き付いた。

「わあ、ちょっとみんな!」

 急な行動に、準備などまるでできていなかった穂乃香から反射的に抗議の色が混じった声が上がる。

 だが、すぐに「……ありがとう」というどこか気恥しそうな言葉と共に柔らかい雰囲気へと変わった。


「さて、どうしますか……」

 見えてはいないだろうが、ロケ車を出た穂乃香を目撃した少年に、穂乃香とは知らずとはいえ、トイレでバカ騒ぎをしていた三人組の少年と、ゆかりは穂乃香のロケ車の扉の前で腕組みをして、事後の処理をどうするか悩んでいた。

 そして、何事か思いついた様子で、ゆかりは衿元のマイクに向かって小さく声を掛ける。

「エリー」

 わずかな間を挟んで、呼び出した副長からの返事が戻ってきた。

『何かしら、隊長殿?』

 穂乃香が無事ロケ車に連れ戻されたこともあって、エリーの返しは冗談の色を含んだ砕けたものである。

 もちろん、ゆかりはそれを叱責したりはしないし、緊張の後ゆえに弛緩するのも十分に理解していた。

 しかし、愛する主を窮地に立たせてしまった己を含むすべてに対しては、明確な憤りを感じている。

 それゆえ、発した言葉が多少過激だったのは、仕方のない事だった。

「関与した少年三人を始末して頂戴」

 はっきりとしたゆかりの指示に、だが、エリーからの答えはない。

 通信系統のトラブルか、絶句か、あるいはすでに動いていてその準備待ちをしているのかはわからないが、ゆかりは命令を下した以上、受領の言葉が返ってくるのを待った。

 そして、ようやくエリーの声が通信に乗る。

『……それは社会的に? それとも物理的に?』

 実に物騒な二択に、ゆかりはそこでようやく自分が感情に流されて、指示を出していたことに思い至った。

 自分と同じ様に、護衛隊のメンバーも憤っていたのだと、エリーの返事に気が付いたゆかりは、長く息を吐き出してから指示を出し直す。

「エリー……さすがに消すのはまずいから、記憶を特殊班に弄って貰って、後、破損した器物の修繕もお願い……」

『…………修繕はもう指示してるわ。せんの……カウンセリングは、説得が得意なチームを呼んでるわ』

「引き続きお願い」

 なぜか残念そうな余韻を残したエリーからの通信に苦笑を浮かべたゆかりは、無意識に穂乃香の乗る背後のロケ車へと視線を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ