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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
157/812

157 幼女、個室に追い込まれる

「魔力消費が……」

 気ままに校舎内を闊歩していた穂乃香は、自分の考えの浅はかさに膝を抱えてうずくまるしかなかった。

 普段、魔女姿への変身は良くしていることで、魔法の使用も幾度もこなしている。

 更に直前の少年がまるで気付かなかった様子に気を良くしていたことが災いした。

 花園学園の校舎を我が物顔で闊歩していた穂乃香だったが、大事なことを忘れていたのである。

 魔女であっても、クレナイであっても、変身に要する魔力はそれほど大きな差はないのだ。

 そして、魔法については、クレナイの各システム、能力の使用の方が魔力を使用すると言っても、それほど圧倒的な差があるわけでもない。

 その魔法への慣れが、実験成功で浮かれてたことが災いした。

 ミラージュシステムは、穂乃香の理解力が乏しいため、物理現象を超越して、魔力によるごり押しで補う部分が大きく、それに加えて、常時発動していたのである。

 気付いた時には、穂乃香のミラージュは剥がれ、直後に変身も崩れ出したのだ。

 瞬時にパニックに陥った穂乃香は、とにかく身を隠さねばと、慌てて飛び込んだのが、たまたまそばにあったトイレの個室の中である。

 蓋を閉じた洋式便器に腰を掛け、穂乃香は深いため息をつくことになった。

 何しろ、タイミングが悪いことに、ヒトが入ってきてしまったのである。

 それも声からして男子生徒の様だった。


「おいおい、誰か入ってるじゃん」

 実に軽薄な声が扉越しに響いた瞬間、穂乃香は身を強張らせた。

 今現在、異物は自分である。

 更には一番の頼りにしていた魔力は枯渇気味で、まだ自在に魔法を使えるレベルには達していなかった。

 その心細さで、穂乃香はその身を抱きしめるようにして震える。

(なんで……お、おかしい……)

 不安に支配されつつある自分に戸惑う穂乃香は、普段なら簡単に打開策を打ち出す頭が機能していないことを実感して、より強く恐怖を抱いてしまった。

 結果、その精神の不安定さが、ユラや青葉たちとの繋がりも弱めてしまう。

 そして、状況に圧されるまま孤立してしまった穂乃香の耳に大きなノック音が響いた。


 ドォン!ドォン!


 無駄に力を込めたノックが、穂乃香の立てこもる個室の薄い壁を揺らす。

「おい! 早く出て来いよ!」

 調子に乗った男子生徒の声が響き、そこに笑い声も混じり始めた。

 そんな中で、控えめながら制止を促す声が混じる。

「や、やめなよ、今日は撮影も来てるから、外部の人かもしれないだろ?」

 だが、そんな穂乃香の救いになる物言いも、調子に乗った男子生徒には届かなかった。

「大丈夫だって、撮影のヒトは特別棟周辺しか使わないから、こいつはうちの生徒だって!」

 ドガドガと繰り返される無用な強打で、ドアのかぎが蝶番が悲鳴を上げ始める。

「おら、早くしねぇと、ドアやぶっちっまうぞ!」

 ドガァと更にひときわ強い音がしてドアが大きく揺れた。

 手で殴るのから足で蹴るのに切り替え、調子に乗った男子生徒が容赦なくドアを揺らし続ける。

 ただただ怯えるだけの穂乃香は、頭を抱えたまま、身を震わすことしかできなかった。


「大丈夫ですか、穂乃香お嬢様?」

「……へ?」

 穂乃香が震えながらも顔を上げると、そこにはいつもの如く柔らかな笑顔を浮かべるゆかりが立っていた。

「ゆかり」

 幼稚舎に入る前の頃のように名を呼んだ穂乃香は、黒と白のメイド服に身を包んだゆかりの胸に全身で飛び込んでいく。

 そうして全身で、ゆかりの柔らかさをぬくもりを感じながら、じわりと体が心の底から温まっていくのを感じて、ほっと息を漏らした。

 トントトントン。

 衿元に装着しているマイクを叩き、モールス信号で穂乃香の確保を伝えたゆかりは、いつもとはまるで違う年齢通りの弱さと幼さを見せる穂乃香を優しく抱き上げると、何事も言わず乱入したトイレを後にする。

 ゆかりが視線すら向けなかった床には一人の男子生徒がしりもちをついていたが、無事、穂乃香を救出した今、彼女にとってそれはどうでもいい事でありどうでもいい存在であった。


「穂乃香お嬢様、一人で出歩いてはいけませんよ……とまでは申し上げませんが、冒険が過ぎますよ?」

 抱きかかえられ、ゆっくりとした歩調で運ばれながら囁かれた言葉に、穂乃香は「ごめんなさい」と返して、ゆかりの首に回した腕にギュウッと力を込めた。

 ゆかりは自分に飛び込んできた穂乃香が目の端に輝かせた雫を見ている。

 返事は返しても、胸元にぎゅっと押し付けた顔を穂乃香が一度たりとも上げていないことも、ゆかりは十分に認識していた。

 だからこそ、ゆかりは穂乃香の守護者として謝罪の言葉を口にする。

「……穂乃香お嬢様、救出が遅れてしまい申し訳ありませんでした」

 それはゆかりとしては当然の、そして本心からの言葉だった。

 対して穂乃香は、やはり顔をゆかりの胸に押し付けたまま、静かに言葉を返す。

「いえ……私も軽率でした」

 そこからふたりは、穂乃香が立てこもった男子トイレからロケ車までの間、一切言葉を交わさなかった。

 だが、最後、ロケ車のドアをスライドさせたところで、ゆかりが穂乃香に告げる。

「それでは、今回の件はおあいこにしましょうか?」

 首を傾げながらただただ優しく掛けられたゆかりの言葉に、穂乃香は目をウルウルと潤ませてただ一言「ありがとう、ゆかり」とだけ答えて微笑んだ。

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