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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
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154 幼女、ズレを感じる

「成る程、光学迷彩って、ミラージュシステムの事だったのね!」

 茉莉との電話を切って後、早速、愛用のタブレットでワード検索を掛けた穂乃香は、納得顔で大きく頷いた。

 穂乃香が光学迷彩とイコールで結んだミラージュシステムとは、アーマードファイターの劇中で主役である『クレナイ』が使う能力の一つで、スーツ表面に背後の景色を撮影し投影するシステムである。

「姿を消せば、カメラに映らない……単純だけど、思いつかなかった……」

 穂乃香はそう溜息を零しながら、茉莉というアドバイザーがいなければ考えもしなかったであろう対策に、周囲からの意見の大切さを痛感していた。

「長く生きた記憶や知識、経験があっても、思い至らないことは多いなぁ」

 はぁと再び溜息をつく穂乃香に、ユラが声を掛ける。

『済まぬの、主殿。我が機械の目にも詳しければよかったのだがの』

 従者として至らなさに表情を暗くするユラだったが、穂乃香にそれを責める気持ちなどなかった。

「何言ってるのよ、ユラ。ユラには知らないことを一杯教えて貰っているし、そもそも、無茶なお願いだって聞いてもらってるじゃない……特に、演技の手伝い」

 言いながら語尾に行くにつれて声が細っていく穂乃香に、ユラは苦笑する。

『いっそ、命じてくれれば、我も考える必要もないゆえ、助かるのだがの』

 そんなユラの発言に、穂乃香は食い気味に首を振った。

「ダメ! ユラの気持ちを蔑ろにするなんてできない!」

 穂乃香は自分の考えに従って思いを必死に訴え、それをユラは申し訳なさと困惑が混じった複雑な顔で受け止める。

『主殿はそうは言うがの、同じ無茶をさせられるなら、絶対に逆らえない方が気が楽というものなのだがの』

 そうして出たのは、ユラなりの解決策を含んだ苦情の言葉だった。

 ユラにしてみれば『選択の余地を残すことの方が残酷なんですよ、主殿』ということを訴えているだけなのだが、その真意が穂乃香にまるで伝わらないまま、妙な沈黙が起こる。

 奇妙な膠着が続く二人の間に、しびれを切らしたのか、新たな契約者でもある青葉が、人形サイズの可愛らしい顔を困り顔にしつつ、あえて主である穂乃香に意見しているユラの側についた。

『そうですよ、主様! 主様を攻撃せよなど、ユラ様だからどうにかこなせる酷い命令なんですよ? その命を忠実に実行したユラ様がどれほどつらい思いをされたのかお考えください!』

 当然と言えば当然だが、契約により穂乃香と結ばれた存在であるユラたちにとって、上位者、主人であり、親である穂乃香に向かって攻撃を放つなど、暴挙中の暴挙なのである。

 それを命じるならば『自由意思で』などというのは、逆に迷惑な配慮なのだ。

 しかし、かつての世界で、契約した魔獣や妖精と言った使い魔を道具の様に使役していた者を目にし、憤りを感じていた穂乃香からすると、嫌だと思ったのならばやらないで欲しいという純粋な思いが根底にあるので譲れない。

 両者の考えの根本的なすれ違いは、穂乃香がお願いのつもりで発した言葉が受け止められる場合に、相手にとってどの程度の重さなのかを共通化していない点にあった。

 そして、穂乃香は嫌なら断れるものだと思っているし、ユラたちは主の言葉に逆らわないのが当然と思っているせいで、その隔たりは解消されることはない。

 結果、穂乃香は更なる無茶を言い出した。

「じゃ、じゃあ、信じてくれればいいのよ!」

『どういうことだの?』

 穂乃香の言葉に、ユラが首をかしげる。

「つまりね、私に向けて攻撃をしてってお願いするじゃない?」

『う、うむ』

 ユラの内心は『そんな命令はしてくれるな』なのだが、前のめりで主張してくる主の言葉を途中で遮るのは良くないと、とにかく最後まで聞く姿勢を取った。

 当然、筆頭のユラがそう考えれば、ある程度の意思の共有状態にある青葉もそれに倣う。

 そんな二人に対して、穂乃香は思いついた超理論を展開した。

「で、その時に、私を信じてくれればいいのよ!」

『……う、うむ』

 言わんとすることが、理解できてはいないが、まだ話は続くとみて、ユラは生返事の様な相槌を返す。

 対して、ユラの反応になぜか好感触を感じ取ったらしい穂乃香は、自信満々で結論に到達した。

「つまりね、私なら絶対にすべての攻撃を回避して見せるって、信じてくれればいいの!」

 正直、目が点になる思いのユラだが、残念なことに傍らの青葉の反応は異なっている。

『なるほど、さすが主様です!』

 心の底からの尊敬が籠った明るい声色に、ユラは表情を崩すことなく内心で溜息をついた。

 穂乃香ならば確かに避けきれるだろうとは思う。

 思うが事故はあるのだと、誰よりも長い時、この世に存在しているユラは訴えようと思った。

 思ったのだが、その時には状況を理解しているのかどうかも少し怪しい二人の乱入者によって、穂乃香の意識改革のチャンスは遥か彼方に流されてしまう。

『主様はさすがなのです!』

『姫しゃま、すてきれす~』

「もう、姫はやめてってばぁ~」

 照れで体をくねらせながら、青葉に加勢した人形モードの蜜黄と黒華を抱きしめる穂乃香に、ユラは胸の内で静かに事故を起こさない誓いを立てることしかできなかった。

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