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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
155/812

155 幼女、実験を開始する

 土曜日を迎え、幼稚舎も休みを迎えたこの日、穂乃香は榊原家が用意した専用ロケ車の中にいた。

 本日は、千穂の演じる凛華たちが通う『花園学園』での撮影のシーンなので、見学を兼ねて穂乃香はやってきている。

 先日、穂乃香が精霊の姫として撮影に参加したのは、この学園の中にある教室という設定なので、繋がるシーンのいくつかを撮影予定だ。

 ちなみに、穂乃香が現場ではなくロケ車で、いくつも設置されたモニターを食い入るように見つめているのは、いよいよ翌日である日曜に1時間のスペシャル回である『アネモネパワーアップ! 精霊の姫の試練を越えろ!』の放送を控えているからである。

 学園内だと、孤島や撮影スタジオと違い、ロケ場所を提供してくれている学園の職員だけでなく生徒やその保護者といった数多くの関係者の出入りもあるためで、なるべく放送前の情報流出を避けたいあおいをはじめとしたプリッチ監督陣やプロデューサーらの思惑で、穂乃香にはなるべくロケ車で待っていて欲しいとお願いがあった。

 もちろん、学園の外観が映るシーンにも、穂乃香の登場は予定されている。

 だが、放送までは穂乃香というジョーカーの情報をなるべく隠匿したい制作陣の考えでは、ロケ見学者が多ければ撮影を翌日以降に見送る選択肢もありえたため、当初、撮影は翌日曜からとしてあった。

 にもかかわらず穂乃香がこうして控えているのは、榊原家、より正確に言うと本人が参加を希望したからに他ならない。

 表向きの理由として、ロケ地を自分の目で確認したいとか、自分の出てないシーンでもつながりを確認するために見たいとか、もっともらしい理由を穂乃香は並べた。

 だが、真の理由はまるで違う。

 スタッフだけでなく、ネットに情報を拡散しかねない不特定多数の目がある状況で、穂乃香は大胆にも実験をするつもりなのだ。

「『ミラージュシステム』果たして、オレに使いこなせるのか……」

 一人称まで改めるほど役に没頭しながら、穂乃香は可愛らしいフワフワ生地の白ワンピースには確実に似合っていない腰に巻いた『アーマードファイター・クレナイ』の変身アイテムである変身ベルトをポンポンと叩く。

 気分を盛り上げるためだけに、穂乃香が魔法で作り上げた変身ベルトは、劇中の完全コピー品と言って過言ではないほど正確に再現されていた。


「これで、よしっと」

 自宅から持参した背面にプリッチのイラストが描かれたメモ用紙に、年齢にそぐわない整った文字で『おてあらいにいってきます』と書き上げると、穂乃香はふぅと息を吐いた。

 次に控えるステップは、変身、そして脱出、潜入である。

 茉莉救出のタイミングでは、緊急性で頭がいっぱいになっていたので、考慮しなかった……というよりは思いつきもしなかったが、ゆかりをはじめ誰にも知られずに実行するのはなかなかにスリリングだと、穂乃香は今更ながらに感じていた。

 だが、問題はそのスリリングさの方向性である。

 例えば悪いことをするならば、その罪悪感から心理的ブレーキがかかるが、穂乃香が実験し確立させようとしているのは、人助けに赴くための脱出方法だ。

 即ち、善行を行うための下地作りであるので、罪悪感など生まれる余地がない。

 結果として、穂乃香の内深くに眠る、かつて少年だった精神が、素直にワクワクと疼いてしまう様な、冒険というロマンを感じさせるスリリングさだけが、その胸の内に脈打っていた。

「うふふふ」

 思わずニマニマと第三者が見れば引いてしまいそうな怪しげな笑みを浮かべた穂乃香は、数刻の後、パァンと乾いた音を立てて両手でそれぞれの頬を同時に叩き、自らに気合を入れる。

「そういえば、前回は変身できなかったのよね!」

 穂乃香がクレナイに変身したのは、かつて、青海島で『膿』に対峙したその時だけであった。

 自身の性別、過去から引き継ぐ知識の傾向や身近にプリッチ関係者が増えたことで、穂乃香の変身や能力開発は、ウィッチにかかわりが深い魔法や魔女に関連したものだけになっていたのである。

 だが、茉莉から『光学迷彩』というキーワードを得て、改めて『アーマードファイター』の技術や能力にも研究の価値ありと、穂乃香は考えた。

 そして、その考えの変化が、穂乃香の中に眠る爺の少年心に引火して、今、静かに、だが確実に、燃え上がったのである。

「ふぅーーーーー」

 静かに目を閉じた穂乃香が深く息を吐き出した。

 左手はベルトのギミック盛りだくさんの大きめなバックルに添えられ、右手にはやや黒味がかった丸い球が握られている。

 球を持った右手を、素早い動きでまっすぐ頭上に掲げた穂乃香は、カッと目を見開いた。

「変身!!!」

 穂乃香の口がそう言い放つと同時に、腕が素早く降ろされ、パカリと前に倒れたバックルとベルトの間に、ちょうど手の中の球が収まるような台座が現れる。

 手慣れた動きで、そこへ右手が赤い球を収めた直後、添えられていた左手がバックルを引き起こした。

 そして、元の形に戻ったバックルの中央、中が見える様に配置されたであろう透明なパーツのある部分で、赤い球が発光し始める。

 目の前に置かれたものを赤く染める程、強い光をベルトが発し始めたところで、穂乃香の体に変化が生じはじめた。

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