152 幼女、怯える
「さすが、我がチーム、さすがだーー」
武装組織の隊長キャラあたりになりきっている様子の千穂は、そんな歓喜の声を上げると、穂乃香を無言で立たせて、そそくさとプリッチメンバーが集まる楽屋の外へと連れ出した。
「あ、ゆかりさん、穂乃香ちゃんをお願いします」
楽屋の外で、保護者兼護衛であるゆかりに、その対象である穂乃香を会釈をしつつ受け渡す。
「え、へ?」
流れるように背中を押され楽屋の外に出されてしまった穂乃香は、普段は粘着性の高い千穂があっさりと自分を解放したことに驚愕した。
しかし、千穂は気にした素振りも見せずにゆかりを見つめる。
「こちらで希望リストを作成しましたら、ゆかり殿に送付させていただくでありますっ!」
まだなりきりは続いているのか、軍隊っぽい敬礼を決める千穂に対して、穂乃香があわあわと動揺を見せる間に、部下であるところのゆかりが主そっちのけで返事を返した。
「千穂さん、いえ、チームプリッチの本気、楽しみにしていますよ」
言いながら差し出されたゆかりの右手を、千穂は両手で包み込むように握る。
「お任せください。必ずや、ご満足いくリストを作成してみせます」
「頼みました。すべては穂乃香お嬢様を輝かせるために」
「輝かせるために!」
ゆかりの言葉を復唱した千穂はそのままバタンと楽屋の扉を閉めた。
扉にいつの間にか下げられたプレートいっぱいに『面会謝絶』の四文字が、可愛らしい丸みのある文字で書かれていて、ゆらゆらと揺れている。
その四文字を見つめつつ、いつの間にか当事者なのに蚊帳の外に移動させられた穂乃香が、大きなため息をついた。
「……なんで、こうなったの?」
深く肩を落とした主人に対して、ゆかりは大丈夫ですよとばかりに満面の笑顔を見せる。
「皆さん穂乃香お嬢様をより輝かそうと真剣なのです」
「……それは、ありがたいとはおもうけ……」
あと一文字口にしようとしたタイミングで、ゆかりの鋭い一言が針のように突き刺さった。
「わずかでも目を離すと見失ってしまうくらいの成長をお見せになる穂乃香お嬢様ですからね。彼女たちも穂乃香お嬢様から目を離せないのでしょうし、できれば、その一瞬を彩りたいと思ってくれているのでしょう」
大枠は衣装を考案してくれる理由の推察だが、穂乃香がぎくりと身を強張らせたのは序盤の言葉である。
成長などと言葉が付け加えられているが、穂乃香には『茉莉を助けるために抜け出した一件』を示唆しているように聞こえて仕方なかった。
『確かに、それは釘を刺された可能性が高いわね』
電話越しに今日の出来事の相談を受けた茉莉は、そう結論を出した。
「……ですよね」
自分一人ではなく、茉莉という同意者が現れたことで、穂乃香の朧げな予測が確信へと変わる。
勿論、ユラや青葉たちにも穂乃香は、自分の見解を相談しているが、現代に生きる者たちではないこともあって、穂乃香は一般的な見解として、茉莉からの意見を求めたのだ。
『でも、ゆかりさんの場合は、ある程度分かっていてくれてそうだから、さっきメールしたものよりは問題がないと思うよ』
電話越しに届く茉莉の声に、穂乃香は「メール?」と首をかしげて、愛用のタブレットを操作する。
そこに新着で茉莉のメッセージを開くと、ウェブサイトのアドレスが一つ添付されていた。
「あ、今見ました、茉莉お姉ちゃんのメッセージ」
家庭用の固定電話の子機を肩と耳で挟みながら、タブレットを操作する穂乃香は続けて問いかける。
「このアドレスがどうかしましたか?」
『一応、ウィルスチェックはしてあるし、安全なサイトだから開いてみて』
茉莉の言葉に、添付されたアドレスを選択した直後、穂乃香は絶句した。
穂乃香の目に留まったのは一般の人らしきブログサイトだったが、言葉を失ったのはそのタイトルと貼られている画像である。
『魔法少女キタコレ!!』
そんなタイトルがつけられた記事には、暗い夜の空を映した写真が貼りつけられていた。
暗い空には何か光が映り込んでいるものの、それが何かははっきりとしていない。
だが、穂乃香にはそれが誰であるかすぐにわかってしまった。
何しろ、茉莉の部屋に入る直前に、撮影された写真を消しているのだから、連想するのはたやすい。
ドキドキと早くなる動悸に胸を抑えつつも、穂乃香は映り込んだ自分の小ささにホッと胸を撫で下ろした。
「こ、これくらいなら……」
思わず零れた穂乃香の言葉に、茉莉からの声が届く。
『穂乃香ちゃん……写真、一枚じゃないから……』
「え!?」
穂乃香は驚きの声を漏らすなり、忙しなく指を動かして記事の続きを表示させた。
すると、画質はとにかく粗いものの、最大拡大された光源が映し出された画像が姿を見せる。
『それ、後姿だけど、サイネリア……だよね?』
茉莉の言う通り、画像は荒いものの、サイネリアと判別できる程度には鮮明な画像だった。
「…………は、はい」
受け入れがたくも、受け入れる以外ない穂乃香は重々しく同意する。
『私もさっき、私のアカウント宛に情報をくれた人がいてね。それでメッセージを送って電話したの』
茉莉の状況説明に、ブルリと身を震わせた穂乃香はギュッと受話器を握りしめた。
「どうしよう……茉莉お姉ちゃん」




