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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第六章 幼女と信頼
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150 幼女、告白を思い悩む

「おはようございます、穂乃香お嬢様!」

「お、おはよう、ゆかりさん」

 輝かんばかりの眩しい笑顔なのに、妙な迫力を纏うゆかりに気圧されながら、穂乃香は努めて平常を装って挨拶を返した。

 すると、ゆかりが実に真面目な顔で頭を下げる。

「昨晩は失礼いたしました。お、そ、ら、く、機器の故障だとは思いますが、穂乃香お嬢様のお部屋から、穂乃香お嬢様がいなくなっていたと感知したため、全スタッフ総出で穂乃香お嬢様の捜索などという、実に愚かな行動に出てしまいました。穂乃香お嬢様はお部屋でお休みになっておられていたというのに!」

 ビシビシと次々突き刺さってくる棘のある言葉に、どこまで知ってるんだと叫びたくなる思いを堪えて穂乃香はつくろった平常を纏って優雅に言葉を返した。

「い、いえ、間違いは機械にもあるという事だと思います、ええ」

 一応、意図はともかく、方向性としては機械の誤作動ということに落ち着いている気配を察して、穂乃香は針の筵の上に座らされた気分のまま、用意されたシナリオに乗る。

 とはいえ、既に茉莉に秘密を打ち明けている身としては、ゆかりに教えてもいいかもしれないという気持ちがあるのは確かだった。

 ただ、せっかく相談して来いと言ってくれた茉莉という頼れる存在があるのだから、一度相談してみてとも思うので、ここではあえて、用意されたシナリオに従う事にして、穂乃香は誤魔化し続ける。

 そんな頑なな穂乃香の態度に、ゆかりは目を閉じて気持ちを切り替えた。

「そうですね、では幼稚舎に向かいましょう」

「は、はい」

 そうして主従は連れ立って送迎用の車へと向かう。

 心なしか自分を見る目の数が増えたような気がするが、穂乃香は努めて冷静に足を運んだ。

 その際に、多少曲がる廊下を間違えたり、右手と右足を同時に出していたとしても、それを指摘する使用人はいない。

 ゆえに、送迎車に乗り込む頃には、穂乃香はすっかり誤魔化せている気になっていた。


『それはゆかりさん、気付いてるね』

 穂乃香は目の前に置かれた小さめのホワイトボードに書かれた丸みの強い茉莉の文字を見て驚愕した。

「え、でも……」

 茉莉に持たされた緑の水性ペンを無意識に握りしめながら、穂乃香は思わず声を漏らす。

『問題は、何故、それを隠すかだよ』

 茉莉は口を閉ざしたまま、さらさらと青の水性ペンで返事を書き上げた。

 自分は完璧に隠せているからだと否定しようとしたのに、認識と違う推測を前提に論理展開されてしまえば、穂乃香は後手に回ることになる。

 そこに、少年探偵漫画を愛読する茉莉の推理が冴え輝いた。

『多分、ほのかちゃんを守るため』

 書かれた文字に穂乃香はハッとする。

「それって、特別な力だから?」

 穂乃香の口から零れた疑問に、茉莉は筆談では無く頷きで答えた。

 かつて、みどりと奈菜をきっかけに『魔女狩り』について調べたことで、魔法が現代では存在しないとされていることを、穂乃香は知っている。

 だが、事実として穂乃香はその魔法を使っているのだ。

 つまり、魔法は実際には存在していて、穂乃香はそれを扱える特殊な例ということになる。

『情報を知る者が少なければ、情報が漏れる可能性は減る』

 得意げな顔で茉莉は、少年探偵漫画で目にした名言をさらさらと書き出した。

 だが、書かれた言葉の出所が何であれ、穂乃香に十分な衝撃を与える一文である。

 再び息を飲み込んだ穂乃香は、しばらく考えてから、キャップを外して、自らの考えをホワイトボードに書きつけた。

『まもるために、しらないふりをしてる?』

 茉莉は穂乃香の書きあげた文章を見つめてから顔を上げ、しっかりと頷く。

「あえて、真実を耳にしないという護り方もあるわ」

 真剣な目で言い加えた茉莉は、キュッキュと音を鳴らしてホワイトボードの文字を消した。

 消えていく文字を見つめながら、穂乃香は思案する。

 かつて長い時を生きた記憶の中でも、穂乃香は茉莉が言う様な諜報活動をする部署が構成員には必要最低限の情報しか与えず、全体像は限られた人間だけが握るという実例を見ていた。

 だからこそ、ゆかりが漠然と穂乃香が特別な力を持っていることを察していても、詳細を知らずにおくことで、自分から情報が拡散することを防いでるというのは実に納得できてしまう。

 それほどの忠誠心も、愛情も、護りたいという気持ちも、穂乃香はしっかりとゆかりから感じ取っていた。

 ゆえに、穂乃香の結論は「それじゃあ、言わない方がいい……よね」となる。

「うん。穂乃香ちゃんがもっと大人になるまでは……知る人はなるべく増やさない方がいいと思う」

 真剣な顔で茉莉が穂乃香に頷いたところで、ノックと同時に二人きりだった会議室に乱入者が現れた。

「何で、茉莉と穂乃香ちゃんが二人きりなの!?」

 半泣き状態で飛び込んできたのは、ウィッチのリーダーを務める千穂である。

 そして、想像してもいなかった千穂の様子に、穂乃香はぎょっとして身を縮こませた。

 だが、その一方で、穂乃香大好きの千穂が、会議室で自分と二人きりでいることを知ればどうなるか想像していた茉莉は、シレッと理由を口にする。

「サプライズ、をね」

「さぷらいずぅ?」

 目をウルウルとさせて自分を見つめてくる千穂の縋るような目に、ゾクゾクと妙な心地よさを覚えつつ茉莉は断言した。

「ハロウィンパーティーを開こうと思ってたの。で、千穂には本番まで内緒にするつもりだったのよ」

 すらすらと紡ぎ出される茉莉の言い訳に、穂乃香と千穂は同時に「「え!?」」と驚きの声を上げる。

 それを満足そうな頷きで受け入れた茉莉は、最初に穂乃香に視線を向けた。

「ごめんね、穂乃香ちゃん、内緒の予定だったのに、言っちゃって!」

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