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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
140/812

140 幼女、唇を噛む

「目星は……つけられる?」

『……こちらの三人の目にしたものをたどれば……おそらくだがの』

 ユラは静かに人形姿になっている青葉たちを見る。

「三人が目撃してる?」

『断言はできぬが、あの撮影の直前には我も存在を確認していたからの。そして、存在が消えたのはその後だの……それゆえに、消えたとすれば……』

「撮影の間ってことね」

『然り』

 ユラの頷きに「それで、どうすればいいの?」と穂乃香も3体の人形を見る。

『具体的には何も……あえて言えば許可が欲しいの』

「わかったわ」

 穂乃香はユラにそう答えるなり、まずは青葉に触れた。

 直後、青葉の体は急激に伸びて膨らみ、穂乃香と年恰好があまり変わらない幼女の姿になる。

「むにゅ……主様?」

 寝ぼけ眼を手の甲でこすりながら、青葉は感じ取った気配の主を穂乃香だと認識した。

 対して穂乃香は、真剣な表情と声で、青葉に頭を下げる。

「大事なお願いなの、青葉。嫌かもしれないけど、貴女の記憶を見せて欲しいの」

 思わぬ穂乃香からのお願いに、青葉は急に覚醒した。

「あ、の、はい、わかりました!!!」

 コクコクと上下に繰り返し頭を動かしながら了承を訴えていると、その頭をユラがむんずと鷲掴みにする。

「はへ?」

 急に感じた頭の違和感に恐る恐る視線を背後に向ける青葉だったが、それが先輩であり格上でもあるユラのモノだと知ると、ピシッと固まって動かなくなった。

 ユラはこれ幸いと、短く呪文を囁いて意識を青葉の記憶に絞り込む。

 そこから、数分で、ユラは閉じていた目を開くと、穂乃香を見て首を左右に振った。

『青葉は見ていないようだの』

「わかりました」

 穂乃香は静かに頷くと、視線を今度は蜜黄に向けて手を伸ばす。

 やや強く荒めに体を揺すられたことで、蜜黄が目を見開いた時には、幼女姿への変身は終わっていた。


 青葉にしたように、穂乃香がお願いの言葉を掛けると、蜜黄はピッと身を正して頷いた。

「わかりましたでしっ蜜黄の記憶を見てくださいなのでしっ」

 ユラに頭を突き出したそう言うと静かに目を閉じる。

穂乃香と青葉の目が見守る中、その頭の上にユラの手が置かれた。

『ではそのままでいるのだの』

 蜜黄はユラの指示に「わかったでしっ」と頷く。

 そうして青葉の時と同じく、数分の時をはさんだところでユラが目を開けた。

「どう?」

 短く尋ねる穂乃香に、ユラは静かな声で見たものを元に答える。

『目撃したのは蜜黄だの』

 ユラの言葉に息を呑んだ穂乃香は、恐る恐るといった風に先を求めた。

「それじゃあ、誰に入り込んだか、わかったのね」

 穂乃香にユラは頷きで答えつつ、それでも口を開かない。

 その様子に嫌な予感を強く抱かされた穂乃香が、じれったそうに急かした。

「……教えて、ユラヒメノミコト」

 口籠ったのは自分の為だろうと予測を付けた上で、ユラが抵抗できないようにあえて真名で、穂乃香は命令に近いお願いをする。

『遠藤茉莉……だの』

 そうしてユラから聞き出した名前に、千穂に抱きしめられて泣いていた茉莉の表情が、穂乃香の脳裏をよぎった。


 いまだ寝続けている黒華はそのままに、幼女姿になった青葉と蜜黄に囲まれた穂乃香は、対面に浮いているユラに問いかけた。

「なぜ、茉莉お姉ちゃんなの?」

 穂乃香の問いにユラは迷うような表情を見せてから、ゆっくりと言葉を発していく。

『まず、茉莉自身に悪意や害意と言ったものは無かった。それは間違い無いの』

「うん」

『しかし、自分の身に敵意が向いたと感じて酷く怯えておったの』

 ユラの指摘に穂乃香は頷きつつ「あの事故の影響だね」と努めて冷静に返した。

『左様……そして、結果的に精神的不安定な状況へと陥ってしまっのだろうの』

 穂乃香はユラの言葉が正しいとわかっていながらも、受け入れがたさから否定の言葉を探してしまう。

 そして思い至った一つの事実を口にした。

「でも、千穂お姉ちゃんが慰めてくれたから……」

 確かに千穂がついてくれたことで、茉莉がいくらか表情を柔らかく緩ませたのを穂乃香は目撃している。

 精神が上向いたのなら、安定したのなら、茉莉に入り込んでいないのではないかと、穂乃香は胸の内でくみ上げた希望に縋った。

 だが、現実を見たユラの見解は違っている。

『確かに、茉莉は落ち着いた……が、撮影で千穂が離れたことで、再び不安定になんてしまったのだろうの』

 理路整然としたユラの推論に、穂乃香は頷く以外の対応を見つけることはできなかった。

 穂乃香は受け入れに抵抗を感じてはいても、飲み込めなければ先に進めないと割り切って蜜黄を見る。

「蜜黄が目撃していたのね、あの『凝』が茉莉お姉ちゃん……ヒトに入り込むのを……」

 切羽詰まったような穂乃香の様子に、蜜黄は眉を下げて「みたでしっ」と消え入りそうな声で答えた。

 その反応に、穂乃香は慌てて蜜黄の頭を撫でる。

「怒っているわけじゃないの、むしろ、蜜黄のお陰ですぐに対策が打てるわ」

「主様、優しいでしっ」

 感動に目を潤ます蜜黄と、尊敬の目を向ける青葉の視線にさらされるも、内心浮足立っている穂乃香は固い表情を崩すことはなかった。

「はやく、なんとかしないと……」

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