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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
141/812

141 幼女、動く

「ゆかりさん!」

 部屋に据え付けられたインターフォンを押してゆかりを呼び出すと、すぐさま返答が返ってくる。

『どうしましたか、穂乃香お嬢様?』

 平静を装っているが、モニターで穂乃香の独り言のような会話は拾っているので、ゆかりとしても十分に緊張した上での返答だった。

 しかし、幸か不幸か、ゆかりのいつもより硬い反応に気付くことなく穂乃香は自分の用件に話題を移す。

「すぐに、茉莉お姉ちゃんの住所を調べて貰えますか?」

 余裕のなさを示すように、穂乃香の物言いはストレートだった。

 これを指摘することもゆかりにはできたが、あえて、触れずに『穂乃香お嬢様の端末に転送しますね』と返す。

「ありがとう、ゆかりさん」

 穂乃香は返答と共にインターフォンを切ると、机に駆け戻って愛用のタブレットの電源を入れた。

 ほどなくしてゆかりのアカウントから、茉莉の住所を得た穂乃香は、次の行動へと移る。


 ネット検索サイトを駆使して、自宅から茉莉の家までのルートを調べ上げた穂乃香は、ぬいぐるみと布団にユラの幻術を掛けた身代わりをベッドに残し、自身は榊原家の屋根の上に立っていた。

 状況が急を要する以上、夜中に抜け出すという禁忌を犯すことも穂乃香は厭わない。

 それがヒトを救うことに繋がるという確信を持っているからでもあるが、どちらかと言えば大事な友人である茉莉を救いたい気持ちが強かった。

『主殿、覚悟はいいかの?』

 傍らに浮かぶユラが、覚悟を問うたところで、穂乃香は頷きながら愛用の魔法のステッキを取り出す。

「飛ぶための力……か……」

 穂乃香がそう呟いたのにはちゃんと理由があった。

 これから纏う風の魔法使いの衣装は、サイネリア、つまりは茉莉の演じる桜花の衣装である。

 茉莉を助けに行くのにその衣装を着るという不思議な一致がもたらす表現しがたい引っ掛かりを、穂乃香は小さな溜息で吹き飛ばすと、表情を凛々しく整えた。

 穂乃香は手にしたステッキを軽やかに振りながら魔力を集中させていく。

 ステッキの先端が魔力による光の粒をまき散らし始めたところで、穂乃香は変身の呪文を唱えた。

「私と共に歩む運命の花、サイネリア。峻厳にて気高い冬駆ける風の祝福と共に!」

 アネモネ用だった魔法のステッキの先端に付けられた花の色がピンクから水色へと変化していく。

 左右に光を散らしながら振られる魔法のステッキから零れた光で包まれた穂乃香の靴下に包まれた足が輝きだし、サイネリア用のショートブーツへと姿を変えた。

 次いで、穂乃香の身に纏うワンピースが光に包まれると、まずはおへそがちらりと覗く位置で二つに分かれ、ワンピースの下部はフワフワのスカートへと姿を変えていく。

 白のフレアスカート、スカートをふんわりと持ち上げるパニエ、そして、ふわりと膨らむ可愛らしいカボチャパンツが現れ、魔女ごとに違う運命の花をあしらったサイネリアの水色のオーバースカートが出現した。

 スカートがふわりと揺れながらも定位置に収まったところで、ワンピースの上半分も変化していく。

 ばさりと風を孕んで現れたマントが、内側の水色の生地を覗かせながら揺らめいた。

 そのマントの内側ではワンピースは七分丈の白いシャツへと姿を変え、胸元には球体の光が浮かぶ。

 やがて、胸元の光が弾けるように飛び散り、水色の丸いブローチが姿を現すと、それを中心に白くて大きなリボンが現れた。

 最後に穂乃香の頭に集まった光がミョンと円錐状へ姿を変え、ふさふさの水色の房が生えると、白い三角帽子に姿を変える。

 そうして変身を終えた穂乃香は、屋根の上に置いてあった書類サイズのカバンを拾い上げると、マントを器用にすり抜けさせた肩掛け紐で肩に掛けた。

「皆、準備は良い?」

 穂乃香はユラ、青葉、蜜黄、黒華の順に視線を巡らせる。

 順番に視線を向けられた従者たちは、それぞれ視線が合うたびに頷いて同意を示した。

 直後、タンッと躊躇なく穂乃香の脚が屋根を蹴る。

 宙に躍り出した穂乃香の体が重力に引かれて落下を始めるより早く、全身から解き放った魔力が穂乃香の体を支えた。

 そんな主に従ってユラたち四人もその後に続き宙に舞う。

 宙に浮かびながら肩に掛けたカバンに収まったタブレットを確認した穂乃香は、軽く周囲を見渡すと、目標とする方角へ顔を向けた。

 直後、ものすごい勢いで加速した穂乃香の体が、榊原家の敷地を飛び出していく。

 目まぐるしく変わっていく下の景色を目にしながら、グンと高度を上げた穂乃香は、地図と目にした地上の景色を見比べつつ、茉莉の家への最短を直線で突き進んだ。

 じわりと心に染み込んでくる黒い不安に囚われないように、気持ちを強く持って飛ぶ穂乃香の視界に一棟の高層マンションが映る。

「あそこね」

 地図と真下の光景を比較した穂乃香は、そばを離れず飛んできたユラに向き直った。

 穂乃香の視線が自分に向かってることに気付いたユラは、無言のままどうしたのか問うような視線を返す。

 ピタリと移動を取りやめて空中に静止した穂乃香は、そんなユラに対して「中を覗いてもらえる?」とお願いを口にした。

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