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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
133/812

133 幼女、撮影に臨む

「ユラって何?」

 背後から声を掛けられた穂乃香は思わず「ひっ!」と小さな悲鳴を上げた。

「ん、どうしたの?」

 普段落ち着いたところしか見せない穂乃香の常ならぬ反応に、声の主であるあおいは、首を傾げながら歩み寄ってくる。

 あおいの不意打ちのような声掛けに、ドクドクと高速で動く心臓を抑えながら、穂乃香は笑顔を貼り付けて振り返った。

「あ、あおいさん」

「ユラって、人の名前よね、お友達?」

 あおいの質問に、穂乃香は「はい」とだけ答える。

 対してあおいもそれ以上踏み込む気がないのか「そう」と頷いて、すぐに話題を切り替えた。

「お待たせしてごめんなさいね、次のシーンから登場だけど、大丈夫そう?」

「あ、はい、平気です」

「じゃあ、一緒に行きましょう」

 あおいは笑みを浮かべて穂乃香に手を差し出す。

 穂乃香が躊躇なく自分の手を握ったところで、あおいは踵を返すと、その手を引いて歩き出した。

「え、えーと、わざわざあおいさんが迎えに?」

「ああ、普段は助監督とかに呼びに来させるんだけどね、ちょっと私が気になったから」

 スタジオ内のセットに向かって歩きながら、あおいがさりげなく落下事故のあった通路を見る。

「私は大丈夫ですけど……」

 穂乃香はそこまで言ったところで、茉莉の事が脳裏をよぎり、監督であるあおいに伝えていいのかという疑問が言葉を止めた。

 その様子にすべてを察したらしいあおいがポンポンと優しく穂乃香の頭を叩く。

「小さいのに、気を遣い過ぎよ、穂乃香ちゃん」

 あおいの言葉に、穂乃香は返す言葉も思いつけずに黙り込んだ。

「気を遣ってくれてありがとうね。でも、茉莉も私が見込んでる女優だもの。心配はないわ」

 力強い断言の言葉に、顔を上げた穂乃香は嬉しそうに「はい!」と頷く。

 そんな穂乃香に微笑み返しながら、あおいは「でも、プライベートでは、強さを演じ続けるのは難しいと思うの」と直前と真逆の言葉を口にした。

「だから、穂乃香ちゃんのできる範囲で、支えてあげてね」

 あおいの言葉に、穂乃香は口を結んで頷く。

「って……気を遣い過ぎって言った後に頼むことじゃないわね」

 言いながらあおいが見せた苦笑に釣られて、穂乃香は「それもそうですね」と噴き出した。


「第32話シーン14、カット3、本番、5.4……」

 助監督のカウントダウンで、セット内に作られた学校の教室で、穂乃香演じる精霊の姫フローラに、アリサ演じるローザが飛びかかった。

 カメラに映らない脚部を厳重に固定された机の上を、ローザが駆け抜けながら、穂乃香に向けて回し蹴りを放つ。

 本来は攻撃を仕掛けるローザも受けるフローラも、スタントを立てるところだが、二人はそれを拒否して自身で演じていた。

 当然、カメラ越しに二人を見るあおい以下スタッフも、出番を待つ千穂たちやこの場では観客に過ぎないゆかりたちも、手に汗を握りながら、二人の殺陣を見守る。

 タイミングよく穂乃香の頭を狙った鋭いアリサの蹴りが宙を切った。

 穂乃香にあたらないか、アリサが当てないか、傍観者たちがヒヤヒヤさせられる攻防は、とてつもない迫力のシーンとなっている。

 動きにくそうな精霊の姫衣装で軽々とした身のこなしを見せる穂乃香に、つい熱が入ってしまったアリサの鋭い足技が次々と放たれた。

 躱されるたび、無意識にアリサの攻撃は鋭さが増し、穂乃香の回避がギリギリになる。

 熱の入り具合に危険度を感じたあおいが立ち上がり、カットのタイミングを計るが、穂乃香が完璧な回避を見せている上に、気迫の籠ったアリサの攻撃が作り上げる()は最高であるがゆえに止められず、突っ立ったまま何もできなかった。

 最もあおいが止めない理由は、画だけではない。

 殺陣指導に入っている高齢の武術師範が大丈夫だからと、あおいを止める合図を出し続けていたのだ。

 プロ同士尊敬の中で仕事をしているあおいは、それゆえにカットを掛けない。

 懸命に攻撃を繰り出すアリサも、躱し続ける穂乃香も、あおいは信頼し、不安を押し込めた。


「Why! 当たらないデスか!?」

 距離を取ったところで、アリサは半分素でセリフを放った。

 対して、穂乃香は大きく息を放つと、すまし顔で「むしろその程度が当たると思っているのかの?」と言い放つ。

 その大胆不敵な態度に、内心でも悔しくなったアリサは段取り通りとはいえ、再度穂乃香に突進した。

 アリサの突進を紙一重で躱した穂乃香は、手刀を攻撃直後の無防備な首へと放つ。

 段取り通りならば、その一撃で昏倒し床に倒れ伏す段取りだったのに、あろうことか、熱の籠ったアリサは穂乃香の手刀を躱してしまった。

 アリサ本人すら思わず「あっ」と声を漏らす中、回避されてしまったことで目標を失った穂乃香の手刀が宙を切る。

 アリサの段取り違いに戸惑ったあおいが、カットの声を掛けられなかったわずかな時間で、状況はさらに変化をみせた。

 右手で放った手刀の勢いを殺さず、縦方向に空中で一回転した穂乃香が、左の手刀を一歩踏み込みつつ、アリサの首筋に放つ。

 想定もしていなかった穂乃香の動きに驚き、回避した直後でもあったアリサは、その迫りくる左の手刀を回避することはできなかった。

 そして、穂乃香の追撃の左の手刀は利き手でない上に、咄嗟だったこともあり、まるで力は籠ってなかったが、アリサのバランスを崩し、結果、事前の段取り通り床に倒れ伏せさせる。

 直後、あおいを含む現場の人間が総立ちになって歓声を上げた。

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