表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
127/812

127 幼女、詰め寄る

「穂乃香ちゃん、ごめんね、ビックリさせちゃったでしょ?」

 撮影現場の重い扉を開くと、すぐさま、珍しく慌てた様子であおいが駆け寄ってきた。

「あ、大丈夫です……というか、私より茉莉お姉ちゃんのほうが……」

 あえてすべてを言わずに濁した穂乃香の言葉に、あおいは無言で頷く。

「いま、千穂さんがついてくれています」

 ゆかりが穂乃香の発言を補足する様に、情報を追加した。

 あおいはそれにも頷きで応える。

 そこへ、魔女姿のアリサが手を振りながら駆けつけてきた。

「あ、穂乃香ちゃん~」

「アリサお姉ちゃん、お久しぶりです」

 ぺこりと頭を下げた穂乃香に、アリサは「これはご丁寧に」と同じようにお辞儀を返す。

 直後、声を潜めてアリサは穂乃香に問いかけた。

「大丈夫でしたか?」

 穂乃香はそれに頷きで応えてから、声を抑えて「茉莉お姉ちゃんのほうがショックみたいです」と告げる。

 それだけで、穂乃香がいるのに千穂がいない事情を察したアリサは「情報ありがとうね。また後でね」と軽く手を振りながら魔女姿のクルミの元に駆け出した。

 代わって穂乃香の元には同じく魔女姿の彩花がやってくる。

「お久しぶりです、穂乃香ちゃん」

 いつもと変わらない調子なのに、珍しく表情が固い彩花を見て、穂乃香は「みんな無事でしたよ」と微笑みかけた。

 穂乃香の対応に少し驚いた顔を見せた彩花だったが、すぐに表情をいつも通りのすまし顔に改める。

「穂乃香ちゃんに言う事じゃないかもしれないのだけど……」

 彩花は穂乃香とおそらくそばに付き従うゆかりにだけ聞こえるように声を調整して、静かに語りだした。


「最近、事故が多発している……か」

 穂乃香の独り言の様な呟きに、頷きつつゆかりが提案をして見せた。

「少し榊原家で調査をしてみますか?」

「うーーん。でも、原因は不明だったんですよね?」

 穂乃香の返してきた言葉に、ゆかりは少し身構える。

 何しろ、穂乃香にその意図はなかったとしても、今返された言葉に含まれているのは、調査をして原因の究明ができるんかという榊原家の対処能力そのものに対する疑問であった。

 要は主が納得できる答えが出せるのかと、暗に聞かれているようなものであり、ゆかりの能力ではそれは難しい。

 特務チームを投入できれば、霊現象あるいは超常現象の方向性から解決に至れるかもしれないが、ゆかりには命令権が存在していなかった。

 勝手にチームを動かせない以上、菊一郎か陽子の承認を求めねばならないが、それには当然手続きを踏む必要があり、自然、この場で即決して応えられる内容ではない。

 結果、ゆかりは口籠ることになった。

 一方で、穂乃香はその辺の調査をユラに一任しているため、純粋に次へと視線を移すことができる。

 即ち被害者の保護であった。

「未だ被害者はいないけど、千穂お姉ちゃんたちの周りで『事故』が多発しているみたいだから、できるなら身辺警護をこのスタジオ限定でもしてもらいたいんだけど……」

「それなら、すぐにも手配できます。この建物には穂乃香お嬢様が滞在されることがあるので、周辺警備の名目で何人か手配できます」

 言うなりゆかりはスカートのポケットから取り出した端末に、手早くメッセージを打ち込んでいく。

 調査で満足のいく答えを穂乃香に返せなかった分、ゆかりの反応速度と対応のスピードは段違いに早まっていた。

「まだ状況は掴めないけど、原因は千穂お姉ちゃんたちに対する嫉妬のようなものだと思う」

 指示を出し終えたゆかりは、穂乃香の言葉に頷く。

 原因と結果を繋ぐプロセスの解明は出来なくても、ターゲットから動機を推測することはできるし、ほぼ同じ材料を目の前にしている以上、ゆかりの推測も穂乃香と大きくずれてはいなかった。

「しかし、思いだけで、事故が起きているのが心配ですね」

「うん。お姉ちゃんたちに護衛が付くのは安心だけど、護衛さんが無理をして怪我しないかが心配……」

「穂乃香お嬢様……」

 ゆかりは穂乃香の純粋な言葉に、深い感動を覚える。

 護衛とは身を挺して護衛対象をお守りするのが務めなのに、穂乃香はそんな人員も心配してくれたのだ。

 おそらく、ゆかりのメイド服に仕掛けられた高性能マイクで録音されたであろう穂乃香の言葉を、皆にも伝えねばと、先ほどよりもさらに早い指さばきでメールをエリーに送りつける。

 直後、穂乃香をモデルにしたと思しきディフォルメされた幼稚舎の制服と思しきセーラー服姿の少女がサムズアップをして見せたスタンプ付きで『了解』と返事がもたらされた。

 そんなやり取りを自分の頭の上で行っていたゆかりに、穂乃香は首を傾げながら尋ねる。

「どうかした、ゆかりさん?」

「いえ、私も穂乃香様スタンプが欲しいなと……」

「はい?」

「失礼しました、完全に私事でした」

 ゆかりはそう言ってぺこりと頭を下げるとそれっきり黙り込んでしまった。

 対して、気になる単語を耳にした穂乃香は、彫像の様に動きを止めたメイドに詰め寄る。

「ねぇ、ゆかりさん、穂乃香様スタンプって何!?」

 だが、目を閉ざし薄く微笑んだまま、ゆかりは頑なに応えることを拒否し続けるのだった。

「ちょっと、教えてよ、ゆかりさん!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ