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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
126/812

126 幼女、躊躇する

「大丈夫そうね」

「ありがとうございました」

 全身くまなくチェックをしてもらった穂乃香は、太鼓判を押した女医に深くお辞儀をして見せた。

「あら、礼儀正しいわね」

 女医は微笑みながら、穂乃香の頭を撫でる。

 それから立ち上がると、保護者であるゆかりに耳打ちをした。

「外傷はありませんでしたが、後で心的なショック症状が出ることもありますから気を付けてください」

「わかりました」

 女医の言葉にゆかりが頷く。

「まあ、榊原家の方でしたら大丈夫でしょうけど、ね」

 微苦笑を浮かべながら、女医は自らの椅子に座り直した。

「それじゃあ、他の子たちも待っているから、早く行ってあげて」

「わかりました」

 そわそわと穂乃香のことを心配していた千穂を思い浮かべながら、女医はそう告げると、ゆかりに頷いて退出の許可を出す。

 ゆかりは目礼を返すと、穂乃香と連れ立って医務室を後にした。


「穂乃香ちゃん、大丈夫だった!?」

 医務室から出るなり抱き付いてきた千穂に、もみくちゃにされながら穂乃香は「大丈夫だよ」と返す。

 いつも通り苦笑を張り付けた茉莉がそれを止めるが、いつもより声に力が籠っていなかった。

 おそらく落下事故に遭遇した三人の中で、ダメージが大きいのは茉莉である。

 それを察して穂乃香が、茉莉に視線を向けた。

「ど、どうかした、穂乃香ちゃん?」

「無理しないで茉莉お姉ちゃん」

 心配そうな穂乃香の目に、茉莉は言葉を失う。

 同時に、目の前で起きた出来事の恐怖が蘇り、体が震えだした。

「茉莉?」

 そんな茉莉を見ながら、千穂は穂乃香から離れる。

「ごめん、気付いてあげれてなかった、ね」

 優しい口調で申し訳なさそうに眉を寄せながら千穂は茉莉を抱きしめた。

 その姿に、穂乃香とゆかりは背を向けて二人から離れる。

 自分たちがいては、茉莉が弱さを見せられないと察しての行動だった。


(どう、ユラ?)

『うむ、邪念は渦巻いておるが、核が見当たらんのう』

 ユラの簡潔な報告に、穂乃香は首をかしげる。

(邪念を操る者、もしくは支配者がいないってこと?)

『そうじゃの。現象を起こし得るだけの力は渦巻いておるの。しかし、方向性を定める意思が存在しておらぬ』

(ボールがあって、誰が押しても動き出しちゃうみたいな感じ……よね)

『じゃの』

 自らの隣で、うんうん唸り出した穂乃香に、ゆかりが声をかけた。

「どうなさいました?」

 急に問われて、穂乃香は素直に応えてしまう。

「さっきの事故に、誰かの意思が介在してたんじゃないかと……」

「つまり、事故ではなく、事件と?」

 そう尋ねてきたゆかりの目の色が変わった。

「いや、あの、犯人がいるとかじゃなくてね……」

 ゆかりの変化に穂乃香は慌てて首を振る。

 だが、ゆかりは即座に返事をせずに少し黙考してから、落ち着いた様相で口を開いた。

「つまり、あの事故は情念のようなもので引き起こされたということですね」

 思いがけず的を射たゆかりの返しに驚きつつも、穂乃香は頷く。

「そ、そう……だけど……」

「わかりました、アプローチをかえますので、少しお待ちください」

 言うなり、穂乃香からわずかに距離を取って、ゆかりは小声で指示を出し始めた。

(ねぇ、ユラ、ゆかりさんは、迷いなく結論にたどり着いたよね)

『うむ、我らのような存在に心当たりがあるのかもしれんの』

(え!? 私の魔法バレてる!?)

『それは我にはわからんの……覗くかえ?』

(え?)

 中空に浮く自分にしか見えないユラを見つめながら、穂乃香は思案する。

 頷けばゆかりの心中を頭の中をユラが探ってくれるだろうが、他人の心を、それも最も信頼し身近な相手の気持ちを覗くのは、穂乃香には選べるものではなかった。

(ユラ、ごめん、覗かない)

 穂乃香の言葉にユラはわずかに口元を笑みの形に動かす。

『主殿がそう決めたのであれば、我に否は無いの』

(そのかわり、さっきの場所を見ててもらっていい?)

『心得た』

 遠ざかっていくユラの気配を感じながら、穂乃香は指示出しを続けているゆかりに視線を向けた。

 その視線に気づいたのかゆかりが穂乃香へと振り返る。

「お待たせしました、穂乃香お嬢様」

 ぺこりと頭を下げたゆかりは、そのまま体を起こすと、続きを口にした。

「今の間に知りえた限りの情報ですが、落下物の置かれていた棚に劣化や欠けなどはなく、地震などの揺れも観測されていない上での落下だったことが確認されました」

 ゆかりの言葉に、穂乃香はコクリと頷く。

「つまり、穂乃香お嬢様の指摘通り、情念のようなもので引き起こされた可能性があるということです」

 わずかに穂乃香を窺う様な視線を向けたゆかりは、すぐに目を閉ざした。

 この場にユラがいれば、穂乃香がゆかりの心中を覗かない決断をした表情に似ていると指摘していただろうが、ここにはいない。

 お互いに思い合いながら、お互いに言葉にしない主従は、知りえた情報に首を傾げ合いながら、今回の目的地でもある撮影スタジオのプリッチの現場に向かって移動を開始した。

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