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セーラー服の魔法使い  作者: 雨音静香
第五章 幼女とスタジオの怪
125/812

125 幼女、スタジオを訪れる

「ようこそ、穂乃香ちゃん!」

「スタジオは初めてだねー」

 穂乃香を笑顔で出迎えたのは、茉莉と千穂だった。

「千穂お姉ちゃん、茉莉お姉ちゃん、こんにちは」

 笑顔で挨拶を交わすと、穂乃香は左右の手を二人に繋がれて巨大な建物へと招かれる。

 あおいが承諾を得る為に榊原家を訪れてから数日後、穂乃香は撮影スタジオに訪れていた。

「他の皆はちょうど登場シーンだから、もうスタンバってるよ」

「そうなんですね」

 この場に姿の見えない三人のことをさりげなく説明してくれる茉莉に、穂乃香は頷きながら笑顔を返す。

「というわけで、私達は見学、で、今回の監督はあおいさんだよ」

 続く情報提供者千穂は、そう言いながら、穂乃香の手を引いて歩き出した。

 だが、直後、穂乃香は脳裏に響いた声に足を止める。

『主殿!』

(うん!)

 ユラの警告に即座に穂乃香が足を止めたことで、手を引いていた千穂が若干バランスを崩してたたらを踏んだ。

「穂乃香ちゃん、どうしたの?」

 パチクリと瞬きをしながら、穂乃香に千穂が問いかけた直後、ドガアアンと重く大きな音を立てて、三人が進もうとしていた通路に巨大な機材の収められた棚が倒れ掛かり、収められていた金属製の機材が床に散らばる。

「…………」

「きゃああああああ!!!」

 声を無くして目を丸くする千穂と、可愛らしく悲鳴を上げる茉莉に挟まれて、穂乃香は目を細めた。

 視線の先に普通の人間には見えない魔力を纏った黒い靄を見て、頭の中でユラに話しかける。

(ユラ、これは千穂お姉ちゃんや茉莉お姉ちゃんを狙ったもの……だよね?)

『少なくとも、主殿を狙ったものではなさそうだの』

 ユラの断言に、穂乃香は今やその気配すら消えようとする黒い靄を注意深く観察しながら予測を思い浮かべた。

(でも、術者の気配がしないってことは……これは複数人の邪念の集合体によるもの?)

『で、あろうの。役者というのは羨望も嫉妬も集めるゆえに……』

 ユラの回答に頷きかけたところで、穂乃香の視界が急に黒に塗りつぶされる。

 一瞬、慌てる穂乃香だが、頭から降ってくる真剣な声に警戒を解いた。

「大丈夫だった、穂乃香ちゃん、怪我はない?」

 声の主である千穂の声は心配そうな響きを多分に含んでいる。

 ギュッと穂乃香を自分の体に押し付けてその視界を奪った抱擁から解放して、千穂は体のチェックに移った。

 手を上げさせられたり、スカートをめくられたりと、千穂にやりたい放題されながらも、穂乃香は気にすることなく考察を続ける。

 一方、一人震えていた茉莉も、千穂の穂乃香チェックの様子に無事再起動を果たしていた。

「ちょっと、千穂、どさくさに紛れてスカートまで捲らないの!」

 パシッと軽い手つきで、穂乃香のスカートを握りしめていた千穂の手を叩く。

「あ、痛っ」

 と、言いつつもスカートの裾は離さない千穂に対して、今度は茉莉が頭に拳骨を落とした。

「あうっ」

 さすがに今度は手を離して、拳骨の着地地点に手を当てる千穂は涙目で茉莉を見る。

「そんな目で見ても、千穂が悪いことに変わりはないから、どさくさに紛れて何してんの?」

 千穂の行動のお陰で、だいぶ強く脈打っていた心臓も体の震えも収まってきた茉莉は、わずかに声を震わせながら叱りつけた。

 対して、反論できる正論を持たない千穂は「ブゥ」と口を尖らせる。

 そこへ遠くから大勢の人間が駆けてくる音が響き、全員がそちらへ視線を向けた。


「けがはないか?」

「大丈夫、貴女達!?」

 穂乃香たちの元に駆け寄ってきたのは、大勢のスタッフたちだった。

 女性のスタッフは穂乃香、千穂、茉莉の様子や怪我がないかを手早く確認し始め、男性スタッフたちは倒れた棚や転がった機材を手早くチェックし始める。

 そこへ、ゆかりも駆けつけてきた。

「ご無事ですか、穂乃香お嬢様!」

「あ、ゆかりさん」

 ひらひらと手を振る穂乃香に、ゆかりは胸をなでおろすと、懐から取り出したスマホでどこぞに連絡を入れ始める。

「あ……あれ?」

 何か一言あるかと思っていた穂乃香は、微妙な顔で連絡に入ったゆかりを見ながら苦笑を浮かべた。


「一応怪我はなさそうだけど、医務室まで行きましょう」

 体調不良者だけでなく、事故なども起こり得るため、この撮影スタジオに併設される施設には、医師が常駐している医務室が準備されている。

 監督であるあおいたちと連絡を取った女性スタッフは、その医務室への移動を提案し、真っ先にゆかりが承諾した。

「わかりました」

 頷きとともにゆかりは、穂乃香たちに順番に視線を向ける。

「穂乃香お嬢様、千穂さん、茉莉さんも、ここは他のスタッフの方に任せて、まずは怪我などがないか確認しにまいりましょう」

 有無を言わせずに素早く三人の背後に回ったゆかりは、現場から遠ざけるようにそれぞれの背を押して促した。

 女性スタッフもゆかりの動きを確認すると、先導として先頭を歩き始める。

 現場検証をしているスタッフたちを後に、ゆかりにうながされ女性スタッフを追って歩き出した穂乃香は、脳裏でユラに(成り行きを見て貰ってもいい?)と問いかけた。

『うむ、心得た』

 力強い返事に(お願い)と返した穂乃香は、女性スタッフ、ゆかり、そして千穂と茉莉という五人で現場を後にする。

 その場に残ったユラは、スタッフたちが首を傾げながら棚の状況や散乱した機材を確認する姿を見つめながら、同時に周囲に残る黒い靄の痕跡を探し始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 力強い返事に(お願い)と返した穂乃香は、女性スタッフ、ゆかり、そして千穂と茉莉という誤認で現場を後にする。の誤認→五人と思いました
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