薬草ばかりじゃない
【メル視点】
薬草狩りのラーク。それがあの男の二つ名だ。銀色の髪の毛がサラサラで頼り無い感じなのに……あの卵のような丸い整った顔はちょっとイカすかも……
噂では無能力で頼りない北西の田舎街の出身で地主の息子だと聞いた。お金には困って無いのだろう。
明らかに高価そうな魔法の武装をしているし、腰にも凄い細工が美しい異国の剣を二つ腰帯のような紐の中に交差させて挿している。
会った時からスクワットばかりして変な奴だと心の中で馬鹿にしていた。
しかもスクワットをしていても一つも息切れもしない事は相当鍛えあげられている事が伺えた。聞いてみるとスクワットを始めてまだ一週間しか経って無いらしいから今まで相当な修行をしてきたのだろう。
とにかく変な奴で大した事がないと思っていたらこいつ凄い腕の剣士だった。あたいとした事がこいつの実力を甘く見過ぎていたようだ。動きなどから相当やるかもとは思っていたが読みが甘かった。あのセリカが褒めちぎっていたからあたいもそれなりに警戒はしていたがあれほどできるとは予想外だった。
セリカはあたいを助けてくれた爺の孫娘なので懇意にしている。若いのにCランクの冒険者だ。それだって十分に凄い事だがセリカの実際の実力はBランク以上だろう。
セリカの親父がギルドの偉い人らしくってセリカは若すぎるのでBランクになれないのだそうだ。ギルドのお手盛りって言われるからだそうだが面倒くさい話だ。そのような政治的な事はあたいには分からないし興味も無い。
そんなセリカがあの男に対して凄い褒めちぎりようなのだ。あたいはセリカがこのちょっとスカしたラークって男に惚れてんじゃ無いかと疑ったほどだ。あたいは恋愛も興味が無いのでどうでもいいって思ってたが……結局セリカの言ってた事は本当だったようだ。
あたいはギルドに所属できないから冒険者ランクは持ってないがこのラークって男もFランクなんてふざけたランクで誤魔化しているが只者じゃないようだ。
お金持ちみたいだし大きな地主だとも聞いた。男の人には人気が無いがセリカを始め受付嬢達には結構人気もあるらしい。実力もある。【奪スキル】は持っているがあの雰囲気ではあたいの能力に手を出すとは思えないし。
とにかく【奪スキル】の効果はセリカに尋ねてから宿に戻って寝よう。とにかく明日は少し時間よりも早く行ってやつの様子を覗いてみてアイツとペアリングするかもう一度ゆっくり考えてみよう。
☆★☆
【ラーク視点】
俺は少し不安になって迷宮の入り口で待っていた。約束の八時を十分ほど過ぎているからだ。
やはりメルは来ないのだろうか。またボッチで迷宮探索しないとダメなのだろうか。一人では心許ないし。不安だ。
その時、メルの気配が感じられた。約二キロほど先から凄い速度で走って来るのが感じられる。俺は安心してスクワットの修行を再開した。
ちなみに俺が探索を目指す水晶迷宮だか。この迷宮が発見されたのは遥かな昔で誰も知らない。
今、攻略組と言われるトップクラスの冒険者達は五十三層辺りを探索していると聞いている。
水晶迷宮がどれほど深いのか何層まであるのかなどは不明だが過去には今の時代よりもずっと深層にまで入っていたと言う記録が残っている。
俺もそんな記述を読んだ事がある。俺が読んだのはマルクスアウレリウスという過去の大魔法使いが残した『魔法大全』と言う書物だ。
ご大層な名前の本だが魔法大全はソフィアの山荘に有ったものを読ませて貰った。
話が明後日の方向に行って申し訳ないがこの魔法大全は魔法言語ゲオルグで書かれている。一見すると変な記号だらけの意味不明な本だ。
ソフィアに聞くと『魔法大全』には大変な魔法の秘密が隠されていると言う伝説がある書物だそうだが誰も解読したものがいない書物だと言う。
俺は『魔法大全』の意味不明なこの記号がゲオルグと関係があるかもと思い色々試しているうちにこの本の解読に成功したのだ。
この本は一連の記号をプログラムに変換しそれを起動すると文字になるみたいな本だった。プログラム言語が魔法言語のゲオルグでそれを発動させて魔法が実行されると文字が出てくるって訳だ。それが分かった時は良くできているなぁと感心したもんだ。
ソフィアは俺が魔法大全を解読したと言ったら目を丸くして驚いていた。その食いつきようが凄かった。
魔法大全に書かれているのはマルクスアウレリウスが生きていた『ルビーの時代』の事ではなくそれよりも更に古い『ダイアの時代』や更に古い『神話時代』の事だった。
主に各地に残る伝説を纏めたような内容になっていた。伝説なんて書かずに『ルビーの時代』の魔法理論でも書けよとか俺は思ったもんだ。名前が魔法大全なんだから。
せっかく解読したのにと残念に思ったのを記憶している。小説のような面白味の全くない読みにくいだけの伝説など退屈ですぐに飽きてしまった。
ただ、知識フェチ的なところのあるソフィアが最後まで読んで聞かせてくれとせがむのに応えて俺は嫌々ながら最後まで読み終えたのだった。そして最後まで読んだその時になって驚きの記述に遭遇する事となった。その記述とは確かこんな感じだった。
『この魔法大全は余の魔法技術の全てを込めて記述した。他の魔法使いは詩歌などにして己が技術を継承すると聞くが余の魔法技術はそのような短文ではとても表しきれぬ。それ故に各地の伝説を母体として我魔法のアルゴリズムを後世に残す』
つまりこの本は本当にマルクスアウレリウスの『魔法大全』なのだとこの時に分かったのだった。
俺はその記述を読んで直ぐにソフィアへ『魔法大全』がマルクスアウレリウスの魔法技術を継承する為に書かれた事や彼の魔法技術を凝らした魔法言語ゲオルグのアルゴリズムが仕込まれている事などを説明したがソフィアにはちんぷんかんぷんだった。
とにかく俺は嫌々だったが知らず知らずの内にマルクスアウレリウスの魔法理論であるゲオルクのアルゴリズムを勉強する事ができたのだ。
実際。マルクスアウレリウスのアルゴリズムは見事なものだった。どうやれば物質を構成するマナを操って世界に影響を与えるかを学ばさせて貰った。
期せずして分かってしまったのだが……まぁ、俺にしか分からんだろうと『魔法大全』をそっと閉じたのを覚えている。
話が脱線して申し訳なかった。話を元の水晶迷宮に戻そう。『魔法大全』に書かれている伝説の中に水晶迷宮の記述が有ったのだ。
その『魔法大全』の記述はとても古い神話時代のものだった。つまりそれほど古くに水晶迷宮が発見されていたって事だ。
『魔法大全』にはこの迷宮の地下深くに数え切れない水晶が埋蔵された層があることが記されていた。
水晶が地下深くにたくさん存在すると言うのは前世の俺には自然な感じを受けるのだがリングワールドの古代の人々には驚異的に感じられたのだろう。水晶だらけの層から持てるだけ水晶を持ち帰ったとある。
その時に発掘された水晶のお陰で水晶迷宮と名付けられたようだと魔法大全には書かれていた。
ちなみにその層に辿り着いた伝説の冒険者はさらに深層に向かったところ恐ろしい魔物と遭遇して全滅したらしい。その恐ろしい魔物はフロックコートと言う服を着た一見すると騎士のような男だったらしい。俺はフロックコートってどんな服か分からなかったので軽くスルーした。
瀕死の状態で帰ってきた者がその時の惨状を伝えたため伝説として残ったのだとマルクスアウレリウスは記述してした。
その水晶のある層は九十層を超えた辺りから産出されると記憶しているのでこの伝説的な冒険者達は百層辺りまで攻略していたはずだ。
今の冒険者が五十二層の辺りをウロウロしている事を考えると何とも古代の冒険者は偉大だったようだ。
何しろ水晶迷宮は強力な魔物がそんなに深く無い層から現れるのだ。たった三十層程度ですら危険度ランクA級の強力な魔物が徘徊しているらしい。百層もの深層にどれだけ強い魔物がいるのか想像するのも恐ろしい。
しかも『魔法大全』の連中は神成りする程には強く無かったわけだから俺ってどれだけ頑張らないといけないのだと少し陰鬱な気分になってしていまう。
本当に……とほほだ。
☆★☆
俺は【心眼】のお陰でメルの行動が手に取るように分かった。自動車に乗ってやって来るようなとんでもない速度で走って来たかと思っているとどう言う訳か三百メートルくらいまで近づいたところでメルはピタリと止まってしまった。
(あれ?)
不思議に思ってスクワットを止めてメルの方を見ようとしたらメルがサッと隠れるのが分かった。
(【心眼】を持つ俺から隠れてどうするよ)
と俺は思い呆れてメルがいる辺りを見つめたが姿は見えなかった。
凡そその場で五分ほどメルはジッとしてからメルは何事も無かったかのように歩いて来るようだ。
(どうしただろう)
俺はそう思いながらも修行のスクワットを再開させてメルの方を見ていた。
直ぐにメルの姿が肉眼でも確認できるようになった。メルは俺よりも二歳歳下の未成年だが女の子の成長は早い。胸なんかもう凄い。あっとと。いかんいかん。思わずそっちに意識が行く。下手をするとセーラ様に愛想をつかされて大変な事になる。
何しろ婚約が成り立たないと俺はあの世行きなのだ。
メルの姿を見ながら俺はとても嬉しそうな顔をしているのだろう。俺は締りのなさそうな自分の顔を想像して少し顔を引き締めた。
「来てくれたんだね。嬉しいよ」
俺は正直に言った。
「ふん。来るかどうか迷ってその辺を行ったり来たりしてたんだっつうの。とりあえず来てやったっすけど」
メルは俺から視線を避けると怒ったような顔をして言った。しかしメルの言っている事と行動に違いがある。これを現行の不一致って言うのだろうか。いやあれは言った事が先で行動が後か……まぁそんなのはどうでもいい。
見るとメルの可愛い二つの猫耳の丁度真ん中に寝癖でできたのだろう髪の毛が凄い勢いで立っている。もう一つの猫耳のようだ。俺はその寝癖を見てメルの行動の意味がようやく理解できた。メルは寝坊して慌ててやって来たがそれを誤魔化しているのだろう。
しかし俺は素知らぬふりをして。
「来ないかと思って心配したよ。良かった」
それは本心だったので自然な笑顔で言えたと思う。
「そ、そんなに言うならラークさんとペアになってやるよ」
メルは怒ったように言ったがなぜか頰が赤い。
(照れ性なのか。ツンデレさんめ)
そう思ったが口では違う事を言っておく。
「いやぁ。メルみたいな実力者とペアリングできるなて俺はラッキーだよ。でもメルは弱い奴としか潜らないんじゃ?」
俺が一番心配していたのはそこだ。
「そうっすけどラークさんは嫌がる女の子を無理やりなんて事は無いっすよね。ラークさんは変な奴っすけど悪人じゃ無いっす。あ、ごめん余計な事を言ったっす」
メルが慌てたように謝った。
「いいよ。最初は誤解はつきものだし、人の気に入らないところは胸の中にしまわないで言った方がお互いの関係を作るには良いことだからね。俺はメルの言うように変わった男だよ」
何しろ俺はずっとスクワットの修行を続けている変な奴だ。
「そうっすね。ラークさんがただの変な奴ってわけではないのは良く分かったっすよ。しかしラークさんはまだ私に隠し事をしているっすよね。ラークさんは【奪スキル】を持ってるんだからどれほど凄いスキルをたくさん持っているのか想像もできないわけっすけど昨日、私の蹴りを避けたあの剣術のスキルの名前だけは教えて欲しいっす。あれは凄いスキルだった。今後の修練の参考にしたいっすよ」
「ああ。あれは剣術スキルじゃないんだよ……」
俺は隠す必要も無いのでメルに剣法や魔法の事を説明した。俺の長い説明を黙って聞き終わったメルは目を丸くして俺の顔をまじまじと見てから言った。
「ふぃー。剣法と魔法? 悪いすけどなかなか信じられない話すね。その土地神ってのも含めて」
「ああ。彼らの許しを得てからだけど良かったら紹介するよ」
「何とも不思議な男っすね……」
メルは驚いた顔をしてマジマジと俺を見ながらため息をつくようにして言った。
今日二つ目の投稿です




