口は災いの元……気を付けて話そうね
今日は迷宮探索に来ている。ギルドの受付嬢のセリカさんのアドバイスに添って一応上級者向けの水晶迷宮に潜っている。
現在第二層に入ったところだ。
俺と一緒に潜ってくれているのはメルという名前の女の子。グニッチの荷物持ちだ。
今日はメルと初めてパーティーを組んで潜っているのだ。実質の顔合わせみたいなものだ。
俺は休んでいるメルの横で先程からスクワットを繰り返している。
もちろんただの体操ではない。俺は遂に念願の【奪スキル】を取得したのだ。これからはこのスキルを使ってどんどんスキルを増やして強くなってやる。このスクワットは【奪スキル】を取得したあとの分割払いの修行だ。
修行メモによると俺は基礎体力が全然ダメらしい。だから基礎体力を付けなければならい。アンパロが別メールでスクワットが一番効くぜって言うので暇があればスクワットをするようにしているのだ。
「ラークさん。あたいはあなたの噂を色々聞いたがあなたは聞きしに勝る変わり者っすね」
グニッチのメルがずっとスクワットをしている俺を呆れたように見ながら言った。
「ああ。気持ち悪いだろうが俺はこうやって修行しないと気が済まないんだよ。無視していてくれ。それがペアリングの条件だろ」
俺が答えた。
「ああ。分け前が等分と言う好条件さえ守ってくれればあたいは文句無いっすよ」
メルは軽く受け流した。
メルは獣人のグニッチだ。獣人は本来激怒するなどして変身しないと本当の種族まではなかなか分からないものだが俺には【心眼】がある。彼女は獣人の中でも特に精強な虎種だと分かっている。
獣種は人族の中では長寿な方で能力値は亜人の中でもかなり高い。その中でも虎種は最も強い種族の一つだ。
彼女の年齢は俺よりも二つ年下の十五歳。レベルは25とそれほど高く無いが種族の特性によりスキルが無くとも凄い能力を示す筈だ。特に彼女の場合は他を圧倒するスキルを多数保有している。普段はあまり人の能力を盗み見るような事はしない俺だが、メルには悪いが雇う以上きっちりと能力を鑑定させてもらった。メルがどのようなスキルかについては以下の通りなので彼女のステータスを見て欲しい。
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名前:メル
年齢:15
性別:女
種族:獣人(虎種)
職業クラス:武闘家
称号:無し
Lv:25
HP: 48
MP: 28
STR:22
ATK:28
DEF:18
AGI:24
DEX:12
INT:11
MAG:10
LUK:15
--エキストラスキル--
無し
--常時発動スキル--
【範囲技級身体強化】
【範囲技級魔力武装】
【サバイバル】
--起動型スキル--
【拳術(広域技級)】
→派生技スキル
【広域技級十字拳】
【広域技級縦裂拳】
【範囲技級鉄拳】
【範囲技級熱風蹴り】
【大技級三段付き】
【大技級回し蹴り】
【大技級縮地】
【大技級鉄壁】
【大技級ハリケーン打ち】
【大技級飛龍打】
【槍術(範囲技級)】
→派生技スキル
【大技級飛槍】
【大技級車槍】
【槍技二段突き】
【槍技風車盾】
【属性魔術(火)】
→派生魔術スキル
《第一位階魔術》
【ファイアーボール】
【照明】
【暖気】
《第二位階魔術》
【火槍】
【ファイアーボール大】
【火盾】
《第三位階魔術》
【炎属性武装】
【炎属性身体強化】
【炎柱】
【炎槍】
【俊足】
【生活魔法】
→派生技スキル
【クリーン】
【眠気】
【灯】
【そよ風】
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見ての通り物理系のステータスはかなりの高さだし何よりも拳闘スキルがもの凄い。クラスはノエルの聖技級から一つ落ちるが同じ包括クラスアップスキルの【拳闘術(広域技級)】を持っている。そしてそれから派生した凄いスキルを持っている。
中でも広域技級の拳闘技として【広域技級十字拳】と【広域技級縦裂拳】の二つの派生技スキルが秀逸だ。
広域技級のスキルの威力は名の通りかなり広範囲に及ぶ強力な技だ。ほとんど人外と言っても良いような威力だ。
グラッドも神様の端くれなので広域級技ぐらいは使える。彼も時々防御系のスキルで広域技級のスキルを使っていたがその防御を破る為には相当な攻撃力の魔法や剣法を使わないと突破できない。しかしそんな威力の攻撃を使ったら最後、グラッドの結界内は悲惨な事になるのは明らかなので俺はグラッドがそんかスキルを使ったら直ぐに降参する事にしていたぐらいだ。
だってダンプで高速でぶつかる奴なんている? 出来る事と実際に行えることってギャップがあるもんだよね。
メルは【拳闘術(広域技級)】を持っているために今後も強力な広域技級の多くの技スキルを派生させて行くだろう。
更にメルはそれだけでなく拳闘の派生技ととても相性の良さそうな確かBランクスキルの【範囲技級身体強化】【範囲技級魔力武装】というクラススキルを二つも持っている。
更にこの子は火属性の包括属性魔術スキルを持っている。属性魔術スキルとしては最も数の多い魔術スキルだがそれでも何千人一人程度しか現れない希少属性スキルで普通なら魔術師を目指すべきだとみなされるスキルだ。
驚くべきは魔術師の塔に参加してもいないのに第三位階の魔術スキルまでマスターしているのも彼女のセンスを伺い知る事ができる。何とも恐ろしい女の子だ。
セリカさんに紹介してもらって一目で気に入った。もちろん外見もだ。獣人らしくモフモフの耳も可愛いし丸い瞳も愛らしい。整った顔の方だろう。
戦闘スタイルは拳闘士タイプで、鉄のグローブに鉤爪が三本付いた『熊鉄』と言う武器を得意としているみたいだ。
それだけでなく彼女は長物も扱える。背中に薙刀を背負っているのだ。包括クラスアップスキルの【槍術(大技級)】を持っている。何とも多才な事だ。
聞いてみると【槍術】は大きな魔物と闘うのに便利なので使っていたら自然と大技級の包括クラスアップスキルを覚えたというから驚きだ。この娘は武術の天才かも知れない。俺との大きな違いに驚かされた。
セリカさんも彼女の評判を知っていて推薦してくれたのだろう。
「メルはどうして俺なんかとペアリングしてくれたんだい?」
俺は疑問に思っていた事を聞いた。こんなに優秀なポーターはいないだろう。
「え? 条件が合ってたからにきまってるっすよ」
メルがなぜそんな事を聞くのかって感じで聞き返した。
「でもメルなら上級の冒険者や攻略組の冒険者とでも組む事ができるんじゃないか?」
俺がそう言うとメルは半身を起こして俺の方を見た。
「ああ。ラークさんはあたいの事を知っているんっすね」
メルは自分の実力を俺がどこかから聞いたと思ったようだ。
「言っちゃあ悪いんだけど……あたいが一番怖いのは人間なんすよ」
メルは鋭い眼差しを俺に向けてそう言った。まぁ彼女のように可愛いと貞操の安全って事には気を使うのだろうなぁと俺は思った。
「メルは可愛いからね。エッチなおっさんから襲いかかられるかもね」
俺は思った通りをズバリと言った。
「ああ。冗談じゃなく何度も襲われたっすよ」
「「「ええ?」」」
俺は驚いて叫ぶとスクワットを止めメルの表情を見た。メルは至って真剣なようで冗談を言っているような雰囲気はない。俺がまじまじとメルを見ているとメルは少し顔を赤らめて慌てたように言った。
「も、もちろん撃退しったすよ。最初の時は向こうが油断していたからなんとかなったっす。まだ十歳になったところだったすよ」
俺よりも年下のメルは想像以上の苦労しているようだ。何ともたった十歳の女の子を襲う奴が世の中にはいるのだ。信じられない。俺は開いた口が塞がらない。
「あたい達のように鑑札を持たない獣人の女の子は歳になれば金持ちの慰めものになるか奴隷として売られるぐらいのもんすよ。たまたまあたいは爺さんにポーターを仕込まれたからこうして生きて行けるけどね」
「爺さん?」
「ああ。人間の冒険者すっよ。あたいがほんのガキの時に食べ物を盗もうとしたら捕まっちまって。その後世話をしてくれた上にポーターの仕事を仕込んでくれた物好きな爺さんすっよ」
メルはどこか懐かしむように言った。多分そのお爺さんはもう亡くなっているのだろう。彼女が初めて見せる幸せそうな笑顔だった。しかし直ぐに渋顔に戻って彼女は話を続けた。
「まぁ、話が逸れちまったすが、そう言った訳であたいはソロであたいよりも弱そうな人間のポーターをする事にしてるんすよ。ラークさんはあたいには都合の良いパートナーって事」
と言う事らしい。つまり襲われても撃退できるように戦力は絶対優位なソロとしか組まないって事だろう。
「じゃあ相棒は女の子の方がいいんじゃ?」
「本当はね。でも女の子のソロなんてのはなかなかないんすよ。学者さんの道案内とかぐらい?」
俺は納得してまたスクワットをはじめた。
「まぁ、それで俺と組んでくれるようになったんなら俺は良かったけどな。宜しくねメル。ちなみに俺は変なスキルを持っててね」
俺はスクワットをしながら散々に自分のスキル【分割払い】をこき下ろした。
「変わったスキルが有ったもんだな」
メルも俺の話を聞くとはなしに聞いているようでそんな評価だった。
「そんでね、【鑑定】を取ったんだよ。これは意外に便利なスキルでさ、薬草採取してるとさ薬草の場所とかも何となく分かるようになったんだよね」
「鑑定にそんな使い方があるんすか?」
「だよね。俺も変だと思ってたんだよ。そのうち何もしないのに魔物の位置とかが分かるようになってさ、便利なんだよ」
「それは鑑定能力を超えてるんじゃないんすか?」
「そうそう。知らない間に【心眼】なんてスキルに成長していたんだよ」
「「「はあ?」」」メルが驚きの声を上げた。「し、【心眼】って言やぁ何でもお見通しのスゲェスキルじゃないっすか。ラークさんはそんな凄いスキル持ってんすか?」
「ああ。つい最近ね」
「つい最近って」
メルは呆れて俺の顔を見ている。
「そんでさ、今度こそ本命のスキルを取得してこれから迷宮探索する事にしたんだよ」
「はぁ。そんで今度はどんな凄いスキルを取得したんすか?」
メルも興味を持ったようだ。俺はメルにも俺の能力の事を知っといて貰った方が今後のパートナーとしても色々好都合だろうと思って俺の能力の事を説明しているのだ。考えてみると俺の能力の事を説明したのはグラッドとソフィアぐらいのもので人間では初めてかもしれない。
「今度、俺が取得したのは【奪スキル】さ」
俺がそう説明した時だった。メルの雰囲気がいきなり変化した。
俺が驚いてメルの方を見た時、そこには先程までの愛嬌のある女の子の姿はなく髪の毛を逆立てた夜叉のような女が立っていた。
「どうしたの?」
俺は不思議に思って聞いた。
「お前。あたいの能力を奪うつもりでここまで誘ったな」
メルは低い声を上げて威嚇しつつ言った。そこで俺はメルがとんだ勘違いをしている事に初めて気付いた。
「まてまてまて」
俺は両手を体の前で左右に振ってそんなつもりは更々ないって事を示しながら言ったがメルは全く聞く耳を持つ雰囲気ではない。
「ふん。あんたあたいの能力を読み違えたな。奪えるもんなら奪ってみろよ」
メルはそう言うと目にも止まらない速さで俺に鉤爪の攻撃を仕掛けて来た。
俺は慌てて空間属性の魔法を呼び起こした。俺の操る魔法は詠唱も事前準備も不要だ。コマンドを頭の中で唱えると十数万行に及ぶ高度な魔法言語ゲオルグが紡ぎだされるようになっているのだ。
そしてゲオルグがスタートすると直ぐに魔法が発現した。魔法言語ゲオルグが発動すると迷宮の中の濃いマナを一瞬で集約してゲオルグに仕組まれたプログラムに従ってマナを様々なエネルギーに変換し直ちに現実世界に影響を与えた。
俺が操ったマナは俺の想定通り俺の直ぐ背後の空間をごっそりと消滅させて大きな穴を開けた。空間が消滅した空間に周りの空気が爆発的な力で雪崩れ込んだ。俺はその空気の勢いに乗っかる形で後方に大きくジャンプした。
俺の目の前に驚愕で目を大きくしたメルの可愛いか顔が見えた。それはそうだろう。メルは人間族よりも何倍も身体能力が高いと言われている獣人だ。しかも彼女は只の獣人ではない。
獣人の中でも飛び抜けて身体能力が高いと言われている虎種なのだ。普通なら俺の十倍もの身体能力の高さを誇る彼女なのだ。
しかも彼女は今、Aランクスキルである【拳闘術(広域技級)】の派生技スキル【大技級縮地】を使って拳を突き出しできたのが俺のスキル【心眼】で分かった。
彼女は自分の攻撃に絶対的な自信を持って攻撃したはずだ。
「「「くっ! 油断した」」」
メルは俺が後ろに飛び退ったのを見てスキル後硬直で動けないのだろう。悔しそうに唇を噛み締めるように言った。
俺はメルが硬直で動けない間を利用してゆっくりと刀を鞘から抜いた。
その動作を驚愕の眼差しでメルが見つめた。
「何でお前は動けるんだ?」
俺が刀を正眼に構えた瞬間にメルはスキル後硬直が解けたのだろう、回し蹴りを放ってきた。しかしこれはフェイクだ。直ぐに俺の【心眼】によりスキルが発動されるのを感じる。そしてメルはスキル【大技級回し蹴り】を放って来た。
先程の鉤爪の攻撃よりも素早く激しい攻撃だった。最初の右足の回し蹴りが目の前を通り過ぎるとそれを追い越すかのような左足の後ろ蹴りが後頭部を狙って突き刺さるような角度で振り下ろされた。
俺はグラッドの剣法『受け流し』を発動した。グラッドの剣法は、ソフィアの魔法とまた別のシステムで発動されている。魔法言語ゲオルグを頭の中で構築したりはしない。
剣法の技は動作がキーとなって発動される仕組みになっているのだ。
しかしグラッドの剣法の動作も魔法言語のゲオルグと同じで一種の記号化されたプログラムなのだ。
俺は剣法の技が様々な動作の変化の順序に仕組まれている事を早いうちに理解できて良かったと思う。どうしてそんな事が分かったのか不明だがプログラマーの勘だろうか。
グラッドはこの動作による剣法を『作法』と呼んでいるがなんとなく分かりにくいので俺は動作言語と言う意味でGLと呼んでいる。このGLもゲオルグと同じでコンピュータの言語と似たようなロジックを構築しマナを操作して技を発動させているのだ。
もちろんGLとゲオグルは別系統の言語なので全く別物の結果になるが基本的な考え方は一緒だと俺は思っている。
俺はグラッドにGLとゲオルグの理屈を説明しようとした事があるが良く理解してもらえなかった。
俺はグラッドの剣法をグラッドの言う『作法』の微妙な動きの変化からGLを読み取りそれを再現させる事で剣法の技を動作させているのだ。
まぁ、小難しい説明はこれくらいにしておく。とにかく俺は自分の前世におけるシステムエンジニアとしての知識を有効活用してうまくGLを組み上げてグラッドの剣法を簡単に修得する事が出来たのだ。
俺はグラッド剣法【受け流し】のGLを発動させると剣にマナを纏わせてくるりと一回転させた。俺の剣法の法則に則って空間が歪曲して剣先にメルの攻撃が流れ込んで来た。
メルの後ろ回し蹴りが俺の頭の上から剣先に向けて流されて跳ね飛ばされた。
メルが唖然として自分の足先から消えた俺の後頭部を睨みつけていた。
「なっ! どう言う事だ?」
メルは訳が分からないと言った顔をして距離を取った。
俺は次に魔法言語ゲオルグを形成して土属性のマナに働きかけてメルの足元の土を持ち上げるとスキル後硬直により動けなくなっているメルの足を土で固めて動けなくした。
メルがスキル後硬直中でも動かす事ができる目と口をせわしなく動かして驚いている。メルの驚愕の表情もなかなか見ものだ。
メルは自分の両足に盛り上がって来た土の山に驚愕の視線を送り真っ青になった。土はメルの足のくるぶしまで盛り上がりそのままメルの両足を絡め取って塊になって次第に硬く強固になって行った。
俺はそこで大きなため息を吐いた。
「落ち着いてよメル。頼むからさ」
俺はメルの拳が届かない距離に立つと言った。
「「「糞っ。油断した」」」
メルは渾身の力を込めて脚に絡みついた土の塊に手刀を叩きつけていた。驚いた事に手刀が振り下ろされる度にメルの足元の土の塊がひび割れて行くようだ。
「凄いね」
俺はメルの攻撃力の高さに脱帽する思いで見ていた。
「お前。そんな余裕をかましていて後悔させてやるぞ。次は本気で行くからな」
メルが唸るような声で宣言するような大声で言った。
「メル。よく聞きなよ。俺の【奪スキル】は一日一回だけしか使えず。たったの数パーセントの成功率でその上俺よりもレベルが低いものからしかスキルを奪えないスキルなんだよ。つまり俺よりレベルの高いメルからはスキルは奪えないんだ。分かった?」
「はあ? そんな事信じられるもんか」
「信じられるも何も【奪スキル】の効果や制限は一般的に知られているから調べてみなよ。俺はメルがおっかないから今日のところは先に退散するよ。明日は朝八時に迷宮前に集合だよ。この辺には魔物も人もしばらく来ないから安心してその足枷を壊したらいいよ。じゃあ」
俺はそう言うとメルを一人置いてその場を去ったのだった。
明日から七時半ぐらい投稿するようになります。




