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リングワールド  作者: seisei
序章

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18/29

だから、常識を持ってくださいって

【ラーク視点】



 今日もセリカさんの優しい笑顔を見れて幸せだった。本当に冒険者ギルドの受付嬢は重要だと思う。


 受付嬢は皆、とても美しい女性ばかりで目移りしてしまう。セリカさんはその中ではどちらかと言うと清楚な感じだ。しかし実力は俺の見た感じでは抜きん出ているように思う。


 女性の好みは人それぞれで派手な感じの美人受付嬢の方が好きだと言う冒険者も多いだろう。しかしギラギラした視線で俺を見下してくる感じが怖くて俺は好きになれない。あんた誰的なオーラを出して睨んでくるので敬遠している。


 俺はまた『ガン見』修練を繰り返しながら教会に向かった。俺は救済日以来できるだけ教会に通うようにしている。お供え物をするためだ。


 最下級のFランク冒険者の俺にとって毎日のお供え物は実は凄く痛い。しかしセーラ様のご機嫌伺いを毎日しろと言うのはアンパロからの指示だ。


 俺は教会の沢山の女神像の中で一番セーラ様に似ている像の下にお供え物を置いてセーラ様にお祈りをした。この像はアルテイシアという女神で愛と戦の神様なのだそうだ。


 お供え物が消えるとホッとする。


 お。女神メモだ。


 俺の目の前をヒラヒラとメモが舞っている。それを手に取って読んだ。


メモ:なんでセーラばっかお供え物すんだよ。私にもお供え物をしろよバカ。


 アンパロからのメールだった。俺は無言でメモをギザギザに破ってポケットに入れた。これからアンパロにもお供え物をしなければならないからまたまた生活が苦しくなる。


 とほほだ。


 俺はそのまま『ガン見』の修行をしながら魔物の森に入って行くのだった。


 すれ違った時に可愛らしい女の子を連れたお母さんがあっちを見ちゃダメよと俺を指して言ったのが聞こえた。


 とほほ。






☆★☆





 最近の俺は『薬草採取のラーク』とさげすまされているらしい。


 確かに冒険者になって三月もの間、薬草採取ばかりしている冒険者は俺ぐらいなもんだろう。


 俺の【分割払い】による支払いもようやく最終段階だ。見た物から必要な情報を取り出して数値化するってところだ。『ガン見』→『記憶』→『分類』→『分析』そして最後に『数値化』の修行に入った訳だ。この頃になって修行が楽しくなってきた。なぜなら鑑定スキルを使わなくても物の価値やら人の実力が一目で分かるようになってきたからだ。


 特にこの修行で有益だったのはあらゆる物質には固有の時間軸が存在しておりその時間軸をずらすとその存在の作られた状況や今後どのように変化して行くかが分かるという貴重な情報を得たことだ。


 セーラ様や土地神のソフィアがやっていた占いなんかも同じ原理なのかもしれない。


 ただ見るだけでどれほどの情報が得ることができるのかこの世界はやはりファンタジーだ。しかしこの修行がこれほど有益だとは最近になって分かって来た事だ。


 最近では俺は森の中に入る前に森を一目『ガン見』するだけでどこに魔物が潜んでいるのかや俺の探している薬草がどこに群生しているのかなどある程度の情報が分かるようになって来たのだ。


 これも【分割払い】の修行のおかげだ。どうしてそんな事が分かるのかは不明だ。とにかく修行のおかげだろう。


 百メートル程先にゴブリン五体がこっちに向かってやってくるのが感じられる。俺はそいつらから身を隠しながら奇襲ができる巨木の根方に身を潜めた。


 ゴブリン達はガヤガヤやかましく話しながら俺の方にやって来てそのまま通り過ぎた。


 俺は背後から忍び寄って駆け抜けざま五匹のゴブリンを討伐した。


 俺は倒したゴブリン達の討伐部位の左耳を切り取った。それから前世からの癖で俺は両手を合わせてゴブリン達の冥福を祈った。死体を見たら両手を合わせるでしょ。


 そして最後に死体には聖水をかけておく。そうすればアンデット化しないのだ。


 直ぐに薬草の場所に移動し薬草の半分を伐採した。残しておけばまた生えてくる。


 毒消し草。解毒草。痺れ除草などのオーソドックスな薬草系を次々と採取して行く。


 おっと。魔物の出現だ。今度はオークの群れだ。全部で二十匹もいる。これは範囲魔法を使うしかないだろう。範囲魔法は森を破壊しかねないのであまり使いたくないのだが仕方ない。


 俺はオークがいると思われる地点を頭に入れて魔法を組み上げた。魔法言語と呼ばれるゲオルグを組み上げて行くのだ。


 グラッドやソフィアが剣法や魔法で俺の物覚えの良い事に驚いているが実はタネがある。


 魔法言語ゲオルグだが文法がコンピューターなんかを動かす為の機械言語のアセンブラと同じだったのだ。アセンブラと言うのは理系でないと良く分からないだろうがCPUに直接命令を与える一番基本的な言語だ。


 魔法言語ゲオルグはこのアセンブラと似たプログラム言語だったのだ。自由度がとても高くどんな事でも思いのままだ。


 魔術系のスキルの場合には超複雑なゲオルグが呪文を経由して紡ぎ出されているようだが俺のは全て自前で構築し発動させるようにしているのだ。


 俺は前世ではプログラムの詳細設計を任されていたチーフシステムエンジニアだった。ソフィアの魔法の講義を聞いている内にリングワールドの世界の魔法言語がアセンブラと同じジャンって驚いたわけだ。


 俺はゲオルグで構築した魔法によって魔の森に漂うマナを集約して魔法を具現化した。


 森林破壊が小さくなるように土属性を選び集約されたマナから無数の土の塊を生成する。その塊を槍の形に変形。それをゴブリンに向けて撃ち落とす。言葉にすると簡単だがゲオルグは三万行のプログラムに匹敵するほどに複雑になっているはずだ。


 ソフィアはこれらの複雑なゲオルグを魔術スキルと魔法回路が仕込まれた魔術の杖を媒介として魔法を使っている。


 普通のこの世界の魔術は全てそんな感じだ。しかし俺は全くちがう経過で魔法を実現しているのだ。


 俺は現代のコンピュータ技術を駆使したオブジェクト志向言語と同じような仕組みを頭に作り上げそれを利用して魔法を実現させている。


 頭の中に一種のゲオルグ翻訳回路を構築し頭の中でコマンドを入力する事でゲオルグが構築されるようしているのだ。これは前世の世界では原始言語から上級言語に変換するコンパイラやインタプリタと言われる手法を応用したものだ。


 小難しい理論はともかく俺は前世のプログラムの技能を応用して剣法や魔法を駆使しているのである。だから普通よりも簡単に剣法や魔法の理論を理解する事ができるようになったと言うわけだ。


 今発動した魔法も俺が以前作ってあった魔法だ。これはキーワードである暗唱番号のようなもので発動できるようにしているので発動までほとんど時間がかからない。便利な魔法だ。


 この魔法が一般的に流布すれば魔術スキルと認定されるのかもしれないが似たような魔術スキル【マッドジャベリン】と言う第四位階の魔術が有るので普及する事は無いだろう。


 第四位階の【マッドジャベリン】との違いはその物量の差だ。俺が作ると普通の【マッドジャベリン】よりも量がかなり多目となるようだ。ソフィアがそう言っていたが実際のところは分からない。


 普通【マッドジャベリン】の魔術を使うには、包括属性魔術スキルの【シルバー属性魔術(土)】を持っているか第七位階【マジックジャベリン】の単一魔術スキルを持っていないと使えない魔術だ。


 【マッドジャベリン】は泥の槍を作って攻撃する魔術で攻撃力も弱く低ランクの魔物ぐらいにしか効かないだろう。しかし森林などの自然には優しい攻撃だと判断して使った。


 ちなみに魔術はその威力によって種類分けがされている。魔術師はどこぞやらの塔で修行してより高位階の魔術のスキルを得るために頑張っているらしい。俺のような無能力者には関係ないが魔術には次のような位階があるそうだ。


  位階  |内容

――――――|――――――――

第一位階魔術|生活魔法と大差ない

第二位階魔術|魔法使いさん?

第三位階魔術|はっきりとした効果

第四位階魔術|威力ある効果

第五位階魔術|驚異的効果

第六位階魔術|爆発的な効果

第七位階魔術|爆発的な効果が広範囲

第八位階魔術|広い地域に効果が及ぶ

第九位階魔術|災害級魔術

第十位階魔術|大災害級魔術


 俺の【マッドジャベリン】は第四位階くらいだろうか。


 泥の槍を撃ち込むと森林全体を揺るがす音とオーク達の泣き叫ぶ声が響き渡った。


 俺は直ぐに走り始めた。鑑定の修行で得た感知能力で三匹のオークが攻撃を逃れて生き残った事を察知したからだ。そいつらがいきなりの俺の攻撃に混乱している隙に仕留めようとして俺は急いだのだ。


 前方に串刺しになったオークの群れが見えた。その中で混乱して周りを見回していたオークを発見。駆け抜けざまに切り捨てた。さらに負傷して泣き叫ぶ二匹のオークのトドメを刺した。可愛そうだが魔物に情けは禁物だ。


 そして《合掌》。


 その時俺は別の気配を察知した。どうやら今日はついてないらしい。向こうからやってくるのはオーガに違いない。しかも六匹もいる。オーガは角のある巨人族だ。オークよりもかなり強い魔物だと感じた。


 俺は魔法で身体強化を行った。これはスキルの身体強化とは違い周囲に浮遊している魔力の源のような『マナ』を身体に乗り込んで身体組織を強くする一種の変身術だ。


 魔法言語ゲオルグを構築して辺りのマナを俺の身体に取り込んで行く。身体強化は体内の魔力を使って強化するのが普通なのだが俺は空気中に漂うマナを魔力に変えて身体強化するようにしている。どちらも同じエネルギーなので結果は一緒だがMP《魔力量》を消費しないで済むからだ。


 俺の魔法では大した身体強化はできないがあらゆるステータスは数倍に跳ね上がる。


 俺は時速百キロを超す速度で走りオーガの群れに突っ込んで行った。見上げるように巨大なオーガ達は突然現れた俺に右往左往している。そのうちに俺は次々にオーガの脛を風属性を纏わせた刀で切り刻んで行った。


 六匹の内、四匹を転がす事に成功した。


 オーガは三階建の建物ぐらいの大きさをイメージしてもらいたい。髪の毛は赤色で肌は青色。イメージは青鬼だ。


 大きな棍棒を持っている。あれで殴られたら一たまりもないだろう。幸い頭が悪く棍棒を縦振りして俺を頭から潰しにかかる攻撃しかして来ないので俺は左右に飛び避けながらオーガの懐に入って脛を切りつけた。


 直ぐに残りの一匹目をやっつけたら最後の奴は走って逃げ始めた。しかしそうはさせない。俺は刀を投げて脛を狙った。見事に刀はオーガのアキレス腱を両断してその場にオーガを倒した。


 俺は小刀を抜くと倒れたオーガを一匹づつ仕立てめて行った。


 もちろん。俺は侍のように刀を二本さしている。剣を複数差している冒険者も皆無では無いので不自然では無いはず。


 オーガの討伐部位は角だ。これが高く売れるらしい。なんかの材料になるのだろう。象牙みたいなもんだろうか。


 俺はオーガの角を強化した手刀で根元から折るとそのままマジックバックに入れた。


 オーガを倒したおかげだろう。レベルが上がったようだ。弱っちい魔物ばかりを倒しているので仕方がないが三ヶ月でようやくレベル19だ。


 あれ? 目の前を紙切れがヒラヒラ舞っている。女神メモだろうか。


 俺はメモを掴むとそれは【分割払い】スキルからのメッセージだった。


メモ:祝。修了証

特典 スキルのクラスアップ

説明:あなたの努力のおかげであなたはスキル【鑑定】を完全に修得しました。さらにあなたは当初の目的以上に修行を研鑽したためとても優秀な結果を出しました。よって貴方のスキルは【心眼】という上位スキルにクラスアップされました。


 俺はこのメモを読んだ時『努力は裏切らない』って母さんの言葉を思い出していた。


 『ガン見』してキモチ悪がられる日々がようやく報われたのだ。はははは。


 しかも特典を見て何となく納得した。俺の修行は最終局面で鑑定レベルを超える成果を見せていたからだ。森を見るだけで魔物の位置や数が分かるのが不思議だった。


 これは【心眼】スキルが少しづつ発揮されるようになっていたためだろう。


 とにかく自分を【心眼】スキルで鑑定してみよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

名前:ラーク

年齢:17

性別:男

種族:人族

職業クラス:無し

称号:セーラの婚約者

加護:セーラの加護、アポロンの加護

Lv:19

HP(体力量): 75/78

MP(魔力量):69/72

STR(腕 力):23

ATK(攻撃力):22

DEF(防御力):18

AGI(敏捷性):24

DEX(器用さ):125

INT(賢 さ):22

MAG(魔 力):28

LUK(幸 運):26

--エキストラスキル--

【分割払い】

 どんなスキルでも得る事のできるスキル。しかし後払いの二割増しの修行の支払いを分割してしなければならない。もし支払いが滞るとペナルティが課せられる。修行を終えると女神アンパロによる加護により良い事が有るだろう。


--常時発動型パッシブスキル--

【心眼】

 鑑定の上位スキル。あらゆる物を見た瞬間に真の価値を知るだろう。戦いの時は相手の技がどのような効果があるか分かる。知りたいことを考えてその物を見れば知りたい情報を得る事ができる。


--起動型パッシブスキル--

無し


−−種族固有スキル--


無し


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 【鑑定】スキルが【心眼】に上がったのでステータスの見え方がかなり変わっている。一緒くたにしか見えなかったスキルがエクストラスキル、常時発動パッシブスキル、起動型アクティブスキルの三つに分けて表されるようになった。


 ちなみにスキルの説明欄はスキルを見た瞬間に頭に浮かぶ説明文をそのまま示したものだ。


 救済日に俺のスキルを鑑定してくれた司祭は俺のスキルもっと高いランクと判定すべきエクストラスキルだったのにFランクってランクに格付けしてくれたが彼は俺の様な見え方がしない鑑定スキルしか持っていなかったのだろう。


 今の俺の鑑定スキルは【心眼】にレベルアップしたため、スキルが三分類されるようになった事に加え職業クラス欄、称号欄、加護欄の三つが増えている。確かソフィアに鑑定してもらった時にも確かにそれらの情報を教えてもらったのを記憶している。


 もちろん初心者冒険者の俺が職業クラスなど持ってる訳ないし、何の成果も出していない俺が称号などおこがましいがセーラ様の婚約者って称号が付いている。そしてセーラ様の親愛というとアンパロの加護も付いているようだ。


 【セーラの加護】や【アンパロの加護】はどんな効果があるのだろうと思ったら心眼の効果だろうか以下のような驚きの説明が頭に流れた。


セーラの加護:異界の女神セーラの加護。親愛レベル。浮気・怠惰・忌避などで能力値にマイナス補正されセーラへの崇拝や親愛を持つ事で能力値にプラス補正される。レベル限界突破。成長速度にプラス補正(大)。能力値アビリティにプラス補正(大)。補正は概ね三十パーセントの補正。


 俺はその説明を見て凄い効果に驚いてしまった。セーラ様から強い愛を感じて『勇気百倍だーー』って感じになったのは言うまでも無い。続いてアンパロの加護だ。


アンパロの加護:能力値アビリティにプラス補正(中)、約十パーセントの補正。レベルアップ時にスキル【分割払い】の成功報酬が二段階レベルアップの成長補正。


 この加護も半端無く凄い効果だ。セーラ様とアンパロの二人から凄い恩恵を受けていた事が改めて分かった。女神様の加護ってとんでも無い効果のようだ。何だか俺も神々への道が不可能では無くなったようなそんな気になった。


 俺だけレベルが低いのに能力値が少し高いなぁと思っていたがこれで理由が分かった。


 とにかく今日は凄いスキルを手に入れた。薬草も充分採取したし帰る事にしよう。





☆★☆





 何故だかセリカさんはとても困った顔をしている。いつも大袈裟に驚いた顔をしたりしていたが今日は異常な驚き方だ。なぜかは分からない。


 俺がオーガの討伐部位である角をマジックバックから取り出そうとしたからだろうか。確かにオーガの角は一メートル五十センチはある。重さも百キロぐらいはあるだろう。こんな物を出したら邪魔だよね。


 角をバックからグイって出したところでセリカさんは困った様な呆れた様な顔をして慌ててカウンターから身を乗り出すようにして俺の手を止めてオーガの角をバックに押し込んでいた。慌てたセリカさんも可愛かった。


「これをあと五つですか?」


 セリカさんが目を丸くして驚いている。


「ええ。オーガ六匹。オーク二十匹。ゴブリン五匹です」


「そんなに。一人で。たった一日で……それに何てマジックバックなのよ……」


 セリカさんは驚いたような顔をしている。セリカさんの大袈裟な褒めのジェスチャーがどんどん派手になっている。セリカさん本当に褒め上手だ。


「いえいえ。迷宮の低層の弱小魔物ですから」


「オーガは中層の魔物で、魔物ランクはDですよCランクの四人以上の冒険者で討伐する事が推奨されるような危険な魔物です。しかも六匹なんてCランク冒険者なら三パーティのクランでも無ければクエストも受けられませんよ」


 セリカさんがいつものように大袈裟に俺を褒めちぎってくれた。どうも俺の周りの人達は俺に甘いようだ。


 あの程度の魔物がそれほど凄い筈がない。


「ははは。たまたま偶然。まぐれですよ」


 俺はセリカさんに合わせて言っておいた。


「偶然やまぐれで倒せる魔物じゃありません」


 憤然とセリカさんが言った。


「これはラークさんの実力です。さっさと魔物討伐クエストを受けて冒険者ランクを上げてください。お考えがあってされているのでしょうが薬草採取では冒険者ランクは上がりませんから。報酬が少なくて申し訳無くって」


 報酬などよりも命の方が大切だ。俺は他の命知らずの冒険者達のようにがむしゃらに迷宮に突入するなんて度胸は無い。


「いや。俺なんかが迷宮に入ったらイチコロですよ」


「ラークさん。オーガ六匹をソロで倒せるような方は中層迄は楽々行けるでしょう。そこから少しづつレベルを上げながら新記録だって……」


「そ、それって水晶迷宮の事ですよね」


「もちろん。現在五十三層を攻略している筈ですから迷宮の最深部は不明ですけど男ならやはりそこでしょ」


「いえいえ。そんな難しい迷宮などとても無理ですよ。俺は白泉迷宮で充分です」


「は、白泉って、あれは初心者向けの迷宮ですよ。ラークさんなら中級者向けや上級者向けの水晶迷宮でも充分にやっていけるでしょ」


「いえいえ。順番に白泉迷宮から攻略します」


「はー」


 セリカさんは腑に落ち無いようだ。


「それとセリカさん。僕にはパーティメンバーなど贅沢な物は望めないので誰か良いグニッチをご存知無いですか?」


 僕がそう聞くとセリカさんは明らかに顔をしかめた。グニッチとは戸籍が無いなどのために正式にギルドに加入できない者達の事だ。一般的には貧民街の住人や亜人で流れ着いた者達だ。


 もちろん亜人でもちゃんとした手続きをして入国した者は正式にギルドに入れる。しかし亜人には少なくない差別があるように思う。俺は亜人はファンタジーだから大好きだが。


「彼らはタチの悪い者達が多いので気をつけた方が良いですよ。それよりパーティーメンバーなら私が斡旋してあげるけど」


「いえいえ。グニッチの荷物持ちを雇いますので戦闘参加型の荷物持ちの斡旋をお願いします」


 俺は【分割払い】で新しいスキルを獲得するつもりだ。今度こそ【奪スキル】にするつもりだが、そうなると例の『ガン見』のような恥ずかしい修行をずっとしないとダメだ。そんな奴とパーティーを組んでくれる者などいないだろう。


 しかし雇い主なら別だと思ったのだ。冒険者でないと魔物の討伐をしてはならないのが国法だ。だからグニッチは冒険者と一緒にしか魔物の討伐をする事ができないのだ。


 その為にグニッチは搾取される事になるのだ。そんなわけでグニッチによる魔物討伐の裏組織まであると言われている。


 セリカさんがグニッチと聞いて眉をしかめたのはそんな裏があるからだ。


「はい。わかりました。ソロで活動している優秀な戦闘参加できるグニッチの荷物持ちですね。一人良い方がいるので当たってみましょう」


 それでもセリカさんはそう言ってくれた。頼もしいかぎりだ。


「ありがとう。よろしくお願いします」


「いえいえ。斡旋料は頂きますから」


「もちろんです」


 俺はそれからセリカさんに連れられて別室に入って行った。オーガの角を六本も受付で出すのもどうかってことで別室で討伐部位をマジックバックから出して渡したのだ。


「本当に。これを。たった一人で。たった一日で……」


 セリカさんは先程と同じような事をため息混じりに言っていた。本当にセリカさんは人を褒めるのが上手だ。

訂正:魔術のグレイドを『階位』から『位階』に変更しました。

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