第96話〜襲来〜
なんか一瞬寝てたような、気絶してたようなそんな感じだったな。
やたらと驚いているじいさんの顔を見てそんなことを思った。
『そなた・・・違和感はないのか?』
「違和感?そうだな言われてみれば」
何でじいさんがそんなことを言うのか、その理由は分からないが確かに身体に違和感みたいなものがある。
「やけに身体が軽い気がするな?」
やっぱり寝起きなんだろうか?あんまり寝たような気はしないんだけど。
『そこなのか・・・儂の一撃を防いだのに何か思うところはないのか?』
何でじいさんは呆れてるんだ?
今、目の前に居るじいさん・・・(名前がベヒーモスだっけ?)が槍を使ったあの一撃のことを言ってるんだろうが、
「いや、思うところって言われても・・・何となくできるような気がしただけなんだけど」
『ふう・・・まあ良い。それよりも大事な話がある』
じいさんは1つ嘆息すると急に顔を引き締めた。
「大事な話?・・・あれ?そう言えばあいつは何処に行ったんだろう」
『あいつ?』
「私のことですか?」
「わっ」
いつの間にか背後に居た奴にいきなり声をかけられて驚いた。
「そうだけど・・・あんたは何処に居たんだ?」
後ろを振り向きながら俺はノルエルに向き直った。
「そこの裏に・・・」
そう言ってノルエルはやけに盛り上がっている土を指した。裏、ってことはさっきのじいさんの一撃に巻き込まれないようにあの土の裏に隠れてたのか。
『そなた・・・名を何と言ったかの』
「俺?トウヤだ、トウヤ・ヒノカ」
土を何とはなしに見ているとじいさんが訊いてきたので振り返って答えた。
『ヒノカ、か・・・・・・知らんな』
「そりゃそうだろ。俺とじいさんが会うのは初めてだからな」
そう言えばさっきベヒーモスが名乗った時俺は名乗ってなかったな。
『そうではない』
「?」
俺としては当然の答えだったのだがじいさんはそれを否定し、その上何かを考え込むように眉間に皺を寄せている。
『・・・・・・そうだな。そなたは知っておくべきだろう』
「は?何を」
やがて何かを決意したかのようにそんなことを言い出したじいさんに俺は訊き返した。
『そなたに流れる・・・であろう血、の話だ』
「え?・・・どういうことだじいさん?」
『そうさな・・・さしずめそなたの出生の話、ということになるかの』
それを聞いて俺はいくつか疑問を持ったのでそれはどういうことだと訊こうとした。
のだが、あまりにも真剣な様子のじいさんの顔を見て何も訊かずに素直に話を聞くことにした。
~~~
・・・彼等は何をしているのだろうか。
先程から幾度か地から響く衝撃を不審に思い大きな穴を覗いてみているが、やはりかなりの深さがあるのか穴の底は何も見えない。そして私と同じことを考えているのだろう、この場に居る他の者も先程から見える筈のない穴の奥底を覗こうと躍起になっている。
「なに?」
「いや、なんでもない」
他の者、と言っても人間で言うのならばこの場には私ともう一人の者しか居ない。
・・・思えば警備部の任に就いてから数年、自身で言うのも憚られるが私には相当な胆力が身についているように感じる。まだ駆け出しの頃から首都を各町村を護るために様々な任務に従事してきた経験の賜物なのだろうか、私は多少人ならざる者を見たところで動じなくなっている。それに加えてごく最近身につけた力のおかげで、まるで魔物のようなこの者達に対しても恐れるところすら何もない。それは私の自身の強さへの表われでもある。この身につけた力・・・オーラというものの扱い方を私に授けてくれた師には感謝せねばな。そして、先程この目の前の女性が私に見せつけたようにオーラというものはまだまだ奥が深そうなので更なる研鑽を積まねばなるまい。
だからこの場でこのように足踏みをしている暇などはないというのに・・・
「いや、そうだな・・・下で何をしているのか分からないものだろうかと思ってな」
「そうね。あいつのことだから何かに気を散らしてはいるんだろうけど・・・いくらなんでも時間がかかりすぎているようにも思えるわね。何かあったのでしょう」
先程1人の少年とこの島の住民である1人の女性が目の前にある大穴の中へと飛び込んでいった。確かに底が見えぬほどに深い穴だということは目で見ただけで推察できるものの、ニルナ・カナワの言った通り少々時間がかかり過ぎているようにも思える。そして先程から響く何か・・・これはやはり下で何かがあった、と考えるべきだろう。もうかれこれ1時間は経つ。好奇心を満たしたい、という考えだけではなく流石に彼等の身に何かあったのではないかと心配になってくるので私もこの下に行ってみたいが、問題は、
「登る手段がないからね。やっぱりこうして待つしかない、か」
そう、まさにそこなのだ。降りたはいいが上に戻ってこれないでは話にならない。また様子を見に行って先んじて行っている2人の手を煩わせるのも私の本意ではない。
くっ、私にも先程少年が見せてくれたあの飛翔する技が使えれば悩むことなく行くのだが・・・!
「あの子達も諦めたみたいだし」
「そうだな。仕方のないことではあるが・・・」
尚も諦めきれないまま私は狼と少女のほうを見た。ロランという者と、イヅナという者だ。彼等もまた私と同じく下へ行きたがっていたが途中で諦めていた。
「ふう。仕方がない、此処は1つ休息でも取って」
近くに水場でもないか探そうと思い立った。
「あちらのほうは・・・」
此処に来る途中何処かで見たような気がしたため私は来た道のほうを振り返った。
いや、振り返ろうとした。だがその時、周囲に生暖かい風が吹いた。
何事かと辺りを見回すと、その際にどんっ!という衝撃をこの身に受けた。そんな気がしたが、
「何とも、なっていない・・・?」
それは気がしただけ、だった?確かに今身体に何らかの衝撃を受けた感覚があった、にも関わらず・・・?
だが、自身の身体を確認していたその間に、
「貴様は・・・」
突如私の顔を怪訝そうに見つめる男の顔があった。その大柄な体つき、そして銀色の鎧には見覚えがある。
「・・・?もしや貴君はミシル・タイナか」
その顔に見覚えがあったのでついそのような曖昧な訊き方になった。が、それは無理もないことだろうと言い訳せざるを得ないだろう。というのも、身体つきや顔の形などは私が知る人物のそれではあるのだが、記憶とは異なりその突如眼前に現れたそのミシル・タイナに似通っている大柄な男の雰囲気は以前に会ったときとは違い、何と言うか・・・一種の異様なものだったからだ。
・・・そしてその傍らに佇み、一言も発しない女性もまた異様な雰囲気を醸し出していた。こちらのほうはおそらく初対面ではあるのだが、とにかく並の女性とはまるで違うほど雰囲気が異様なものだった。その異様さを一言で言うのならば、
「・・・ああ。ようやく顔と名前が一致した。しばらくぶりだなガロウ・サイハ・・・」
「ああ、やはりか」
その言葉を聞いて私は安堵した。どうやら人違いではなかったらしい。
しかし?
「そちらの女性はいったい?貴君の知り合いか?」
ミシル・タイナに寄り添うかのように佇む女性はしかし私の問いには答えずしかも此方を見てすらいなかった。その目線の先にはあの大穴がある。
「まあな・・・不本意ではあるが今の私の相棒だ・・・」
「不本意?それはいったいどういう」
意味だと問おうとしたら、
「はああああああっ!」
ニルナ・カナワが斬りかかっていた・・・ミシル・タイナへと。
バシィッ!
「ほう・・・?この太刀筋・・・」
それを片手で難なく受け止めたミシル・タイナはクニツナを、ニルナ・カナワをまじまじと見つめていた。
「は、離せっ!」
「待て!ニルナ・カナワ!ミシル・タイナも!」
何故かやたらと好戦的なニルナ・カナワを止めるべく声を張り上げた。
争っている場合ではない。というよりも何故カナワはいきなり襲いかかったのか?
「が、ガロウ・サイハ、この男は・・・?」
「私の知己だ。敵ではない・・・」
その刀を片手で受け止められた状態でカナワは私に訊いてくる。とても焦ったようなこの女性の表情はいったいどうしたことだろうか。しかも今の一撃は明らかに本気のものだった・・・?
「で、でも!この男の雰囲気はっ?」
「ミシル・タイナ、貴君もその手を離してやっ」
窘めようとしたら、
ずしゅっ、と私の身体を何かが通り抜ける感覚を覚えた。
「・・・・・・えっ?」
私の腹から刀の柄が生えている・・・?
・・・これはクニツナ、の柄・・・か
今、私を刺したのはミシル・タイナ・・・?
「・・・・・・」
「ミ、ミシ・・・」
・・・此方を見つめるミシル・タイナの顔は冷静そのものだった。
腹を押さえながらその顔を見て、私は先程目の前の女性に抱いた印象をふと思い出した。
あの異様さは、
・・・死の・・・臭い
そこで耐えきれずに意識を手放した。
~~~
この地ではないのか、という私の疑問を否定するかのように、アンリは首を横に振った。また、その顔色は青ざめているので此処で間違いではないのだろう。
だが予想に反して此処には強者は居なかった・・・いや、かつて強者だと思っていた者は居た。ガロウ・サイハ・・・この男は以前の記憶によればかなりのオーラ量そして多彩な技を持っていたはずだが、現在それほどの脅威は感じなかった。その自身の感覚を裏付けるかのようにこの男は他愛もなく崩れ落ちたのだから。
「あ、あんたはっ?」
そしてこの場にはもう一人、人間が居る。私の殺意を感じ取ったのか、いきなり斬りつけてきたこの女は何者だろうか?
「我が名はオルレアン・・・女、貴様は」
ガロウ・サイハよりも感覚が鋭そうなこの女に僅かに興味を覚えた私は女が何者か気になった。それはこの女の先程の一撃が、見たことのあるようなものだったからだ。
「牙!」
「むっ・・・?」
問答無用とばかりに再び私を攻撃してきた女の得物は腰に差していた木剣だ、ということは・・・そして先程の太刀筋からも・・・
私はオーラで形成された剣を手で払いのけ、
「はっ!」
内在する力を高めた。
「なっ!?か、身体が・・・?」
影縫い・・・余程の力か意思が強くない限りは動けまい・・・
「そう殺気を向けられてはてはおちおち話もできん・・・女よ、貴様はヒノカ流か?」
「っ!?・・・な、何故」
「分かったかということか・・・?そうだな、あの男の太刀筋に似ていた。そして今の技、トウヤ・ヒノカが得意としているものだろう」
「あの、男・・・?トウヤのことじゃなさそうね・・・?」
女は私と会話する気になったのか動けぬ体勢のまま眉を寄せた。
「そう・・・あの男、タチオ・ヒノカだ」
「・・・?タチオ師匠を知って」
怪訝そうな女へ向かって私はあの男とのやりとりを話した。
~~~
「成程な」
じいさんの話を聞いて今まで知らなかったことが分かった。
『・・・あまり驚いてはいないようだな』
「まあ、な。逆に腑に落ちたな」
『そうか・・・』
少し落ち込んだようなじいさんに俺は、
「まあでも、ありがとうな。竜の奴らが言ってたことはあんまり気にしてなかったけどなんかすっきりしたし」
慰めるべく声をかけた。
『そうだ、な・・・今の状態こそがそなたの本来の』
ドンッ!
「なんだっ!?」
上のほうから、つまり地上のほうから何か凄まじい音がした。それと同時にオーラの高まりのようなものも感じた。
『これはもしや・・・』
「あいつらに何かあったのか」
俺はガロウやニルナが居るはずの地上のほうを向いた。
『凄まじい魔力を感じる・・・敵意に染まったこれは、おそらく』
「魔力?・・・とりあえず戻ろう!」
聞き捨てならないじいさんの独り言を聞いて俺は傍らのノルエルに声をかけた。
「ニルナ?」
「どうしたノルエル?」
「これは、ニルナのプラーナ・・・」
「・・・ってことはニルナが戦っている、のか」
だとしたらいったい誰と?
とにかく急いで戻るため俺はじいさんに別れを告げて、ノルエルを抱きかかえた。
そんな俺の行動に馬鹿にされたとでも感じたのか、(自分で地上に帰れると言うがそれでは遅くなるので)ノルエルは顔を真っ赤にして怒鳴ってきた。でもそっちのほうが早いので無視した。
『まさか災厄が此処に・・・?』
まるで有り得ない出来事が起こったかのようにベヒーモスは上を見て呟いた。
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このオーラ・・・?
話を聞き終えた女が突如その身体から放出し始めたオーラの奔流、それを感じた私は、
「奥が深いものだな・・・」
感心した、人の持つ可能性に。
「あ、あんたはっ!」
「大したプレッシャーだ、女・・・」
「師匠の、仇!!」
「貴様も我が糧となるがいい・・・!」
私は剣を抜いた。




