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第95話〜感じるもの〜

・・・あれはいつのことだっただろうか。

人の身を捨てたときからか、それとも同郷の者を手にかけたときからか、はたまた永すぎる待ち時間に飽いたとある日の気紛れで不意に思いついただけだっただろうか?

その記憶こそは定かではない、しかも初めてそれを発したにも関わらず何故だかしっくりとこの手に馴染んだもののようだった。

獄炎・・・それは一見魔力による物質生成のように見えるものだが実際は異なる。というのは、あれはエーテルを収斂させて弾けさせるという仕組みだけで言えば単純な魔法である爆裂や獄裂などとは違い、自身の魔力を糧として別の場所より持ってきているところがその特殊な部分であるからだ。すなわち獄炎は魔力を注ぎ込むことによってこの世ならざる場所より炎を呼び出している、言わば召喚と同じ現象を行っている。次元や世界を超えているとでも言おうか・・・あれはこの世には存在しない筈のモノだ。

何故そのことを今さら自身が気づいたのだろうか?おそらくではあるが今までは肉体があるのをいいことに召喚とは意識せず無意識的に獄炎を繰り出していたからだろう、と考えることができる。肉体があるということはそれだけ魔力の収縮、発現が容易である上にここ百年は本来の只の人間の身体を無理やり魔石で造り変えたようなものよりも、あの少女の肉体は魔法を扱うのに適したものだったことが今になって分かる。今の自身は意識こそこの武具の中にあるように感じるがやはり本来持っていた肉体を失ったことにより身体を動かすことですらそれなりの労力が必要だ。但しこの金属の身を動かすことにはあまり意味はない。おそらくこの古来より伝わる金属で形成された刀は誰かに使われることによって初めてその本領を発揮するのだろう。何故光を浴びた後に自身の意識がこの刀の中に組み込まれたのか、その理由はまるで見当もつかない。しかしながらこの状態に落ち着いたことでどこかしら安堵している自分も居るからおかしな話だ・・・あまりにも不可思議な現象であり、また言葉を発するだけでも魔力を消費するため、今は限られた者としか意思の疎通を図らないようにはしているが出来得ることならば自身はあの子に手に取ってほしいと願う。それは我儘なのかもしれないが・・・

だが、自身が肉体を持っていた時分に聞いたことがあるこの刀の特殊な力・・・それが今の状態では使えないのには何か理由でもあるのだろうか?万物との交流、一説には無機物ですらその意思の介在を探ることすらできる、とまで言われていた鬼丸・・・かつて大陸を支配していた種族を滅ぼしたと言われているこの鬼丸はその本来持っているであろう力を発揮できずに大陸のとある地に眠っていた。この刀の持つ逸話に惹かれたというわけでもないが、かつてこの島にて自身が造り上げた新たな種族、通称・・鬼族。その原型となった頑健な肉体を誇り多種多様な魔法を操るといわれていたあの種族・・・それすら凌駕するために。

・・・しかし、長い年月何も手を加えなかったためか、はたまたその能力に比する者と出会わなかった所為か久方ぶりに目にする自身が造り上げた鬼族・・は目に余るほどに弱体化していた。太平の世ならばそれでもいいのだろう、だが世界に脅威が生じた現況でこの日喰い島という地に眠る大事なものを護るためにはあれではいけない。あの弱さでは。


・・・かつて人の身を捨てこの島に拠点を移した際に1度だけ声を聞いた。それは幻聴だったのかも知れない。しかしその声があったからこそ鬼族という新たなる種族を造りだすことができたのもまた事実ではある。

あの日あの場所で石を探していた。あの約束の地と名付けたあの場で聞いた声があったからこそ島は滅ぶこともなくまた鬼族も繁栄していった。元を辿れば只の無人島だったにも関わらず。



1本の刀は其の場で音を発することなく思考を巡らせる・・・目の前にある大きな穴から迸る魔力をその身に感じながら。




~~~





おかしい・・・


私は横で苦悶の表情を浮かべる女を見てそんなことを思っていた。この女は出会った当初から、決してそれほど表情豊かな者ではなかった。だが、出会った場所・・・あの力が満ち溢れるような感覚を覚えるあの闇の大陸よりこの大陸へと移動したあたりから女の態度は変貌していった。それはさながら来たくない場所に無理やり連れてこられた子供のような拒否反応、のようにも見える。それ故におかしいのだ・・・


「貴様・・・何があった?」


この女自体がどうなろうと構わないものの、このままでは自分の目的を果たすために支障を来たすと考えた私は仕方なく女へと問うた。


『ぐ・・・が・・・が・・・』


しかし女は私の問いかけに答えることなくただただその端正な顔を歪ませるばかりだった。


「ふん・・・似合わぬものだな」


その様子から埒が明かないと判断し、1つ嘆息してその場で休息を取ることに決めた。その場に置き去りにしてこの女に行動の指針を左右されずに気ままに動こうかという考えも頭を掠めたが (それは連れ歩く女に大して良い感情を持ち合わせていないというのが最も大きな理由だ。平たく言えばこの女の何から何まで癪に触る)先の戦いにおける例もある、と思い直してこの女と行動を共にすべきだろうと結論づけた。


しかし、以前聞いた話によれば・・・?


「貴様は人ではないのだろう?にも関わらずその姿はまるで、」


『・・・ぐ・・・が・・・』


何かに思い悩む人のようだ、と思ったが口に出さずにおいた。言っても栓の無いことでもあるし今の状態のこの女に話しかけたところで有益な答えが返ってくるとも思えなかったからだ。それにこの女に構っているばかりでも時間の無駄でもある。


「まあいい・・・私にはやるべきことがある。貴様はしばらく其処でそうしていろ」


そう言い残し女をその場に置いて茂みの中へと入っていった。此処は移動した先の大陸ではあるが緑豊かな草木の生い茂った山中だ。女の居るあの場で試しても良かったのだが、目的を果たした後にあの女がいずれ自分の前に立ちはだからないとも限らないため、見せる手の内は最小限に留めておくべきだろう。そのような計算を働かせねばならないほどにあの女は得体が知れない存在だ。だからあの場を離れた。その思いと併せて先の戦いでは予想以上と言うべき収穫があったので1人でそれを吟味したいという考えもある。


・・・しかし先の戦い・・・あの男、ヒノカと言ったか。

あれほどの男の指導があったからこそ、奴はあれほどまでに凄まじい強さを・・・



▽▽▽



視認でき得るほどの凄まじい力の奔流。今何事かを言い放った眼前の大柄な男から感じるものはそれのみだった。この力の種類こそは自身もこの身に持つものではあるがここまで強大なものを発現させるのはおそらく自身では不可能だろう・・・そうあっさりと認めてしまえる程にその男、タチオ・ヒノカのオーラ、そして威圧感は常軌を逸したものだった。かつて味わったことのないこの力の奔流・・・この眼前の大男は只の人間の筈なのだが・・・


「あんたのような危険な奴は、」


上段?凄まじい威圧を此方に放ちつつヒノカは手に持つ凶悪なまでの力を持つであろうオーラの剣を上段に振りかぶった。


「面白い・・・!」


力の高まりから察するにこれがこの男の奥の手なのだろう。であるならばその一撃を受け切ってこそ・・・否打ち破ってこそ私がこの男よりも上だということが証明できる。私が感じていたものは恐怖、とうよりも歓喜の感情だった・・・


「あいつとは会わせない!!」


ごう、と一陣の風が吹いた。それは周囲の草花が青々と生い茂るこの温暖であろう季節に似つかわしくないほど冷え冷えとしたものでその勢いたるや突風のようなものだった。そして、それを肌に感じると同時に私の手は無意識的に動いていた、目の前の男に合わせるかのように我が全力を以て。


「「!!!」」


その所為だろう、私とヒノカの繰り出した一撃は同程度の凄まじい規模の衝撃を生み出してお互いがその場に踏みとどまる結果となった。


「な、んだと・・・?俺の全力を受け止め、やがる?」


「ふん・・・大した威力だ・・・が!」


衝撃の押し合いは互いの意地のようなものと力で絶妙な均衡を保っている。私と同じく奴も全力の奥の手らしきものを出したためか驚きは隠せていない様子だ。


「この、力?これが魔力ってやつ、か?」


「そうだ・・・!剛剣技の最大威力を持つ技、それが・・・!」


私は答えつつさらに限界を越えて力を高めた。絶斬で奴のオーラの衝撃を斬り払うべく・・・!


限界を超えて周囲の大気から自身の体内から力を収斂させた結果・・・ゴォッ、という力の奔流が私の力となり衝撃をヒノカのほうへと押しやって私を僅かに優位に立たせる。


「お、らあっ!」


「なに!?」


だが限界を越えて繰り出した私の衝撃を更に押し戻すように奴の衝撃の威力もまた跳ね上がった。

否、それどころかこの男は、


「き、貴様?オーラの総量が?」


「そうだ!あんた、程の強者が相手なら、この身を、削ってでも!」


つまるところオーラとは人が体内に持つ内在的なものだ。人の周りにしか留まらない力の奔流を見ればそれは一目瞭然だ。目に見えるほどのオーラというものは生命力の体外への発現と言い換えてもいいだろう。

・・・それ故にこの男は!その自らの生命を削って・・・?


「限界を越えてやるさ!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


押し・・・きられる?

・・・確かに私も全力を以て限界を越えてはいる。先の闇の大陸における戦いのときよりもチカラの総量自体は上昇している上に闇の大陸にて生き延びた私が最強というだという自負もある。

・・・だがこの男は更にその上、絶対に負けないという意志のようなものまでも上乗せして・・・いる?


「終わりだオルレアンッ!!」


「こ、この私が!最強であるこの私があ!!」


やられ、る・・・!?

私は負ける、のか・・・?あの者と戦うことすらなく?そんなことは認めない!認めてなるものか!私が私こそがこの世界における最強の・・・!


・・・この身体だけではなく私のこころ、そして今まで培ってきた強さへの研鑽、此の場所へと辿り着くまでに歩んできた戦いの数々・・・まるでそれらの全てが凌駕されるかのようなヒノカの圧倒的な力と想いの前に私は刹那、敗北を意識した・・・・・・だが、


ーーーその瞬間頭に閃くものがあった。

そうだ、あの死線を乗り越えた・・・私は只の、騎士では・・・・・・・・・



ない・・・!!!


「な!?」


その閃きに従いそれを行使することによりヒノカの力の勢いが僅かに衰えた。

勝機・・・!


「私の・・・勝ちだっ!!!」



そしてそのまま奴を押しきった。





△△△





おそらく本来ならば・・・あの時あの男の前に私は破れていたのかもしれない・・・もっともそれは我が糧となったあの黒い魔神の眼を発現できなければの話だが・・・


あの閃き、何故あの瞬間にあのような考えが頭に浮かんだのだろうか。魔剣とやらの効力はこの身を以て知ってはいる。平たく言えばこの剣は斬った者の力が私自身の血となり肉となるという便利な代物だ。だが、獣や人を斬るのとは違いあの魔神は一瞬で死を予感させるほどのこの世ならざる力、技の持ち主であった。であるならばこの世の者である、筈の私にはその技の発動方法などは知る由もないだろう。にも関わらずあの瞬間、敗北を感じた瞬間私の頭に閃いたものは魔眼の発動方法だった・・・とは言うもののあの黒い魔神が使っていた程の浸透力はなかったのか、あれ自体ではヒノカを死に至らしめることはなく僅かに動きを止めるに留まっただけだったが。まあ・・・あれほど力が拮抗していた状態ではそれだけでも充分ではあるのだが。


「・・・やはり不完全ではあるな」


あの戦いで繰り出した魔眼の感覚を身体に叩きこむべくこうして石などの無機物や草木を相手に行使しているものの結果としてはあまり満足のいくものではない。眼を見開いてそれらの動かぬものを凝視してみても精々が枯れたり割れたりする程度だ。この程度の威力ならばあの戦いで奴の動きを止めるほどのものでは決してないだろう・・・これならば剣を一振りしたほうが遥かに早い、上に破壊力も甚大だ・・・


「発動方法が違うのか?」


しかし威力こそ低いものの確かに結果は出ている。で、あるならば力の出し具合か?それとも何か本来の発動方法のようなものが存在するのか?


『・・・オルレアン』


あの時のものを再び繰り出すべくあれこれと試行錯誤している時だった。

離れた場所に置いてきた女、アンリがどう嗅ぎつけたのか私の元へとやってきた。


「・・・・・・なんだ」


修行めいたものにようやく興が乗ってきたところだったため、またこの女のやけに縋るような顔つきが視界に入ったため私の声はとても不機嫌になった。


『・・・感じるのだ』


「なに?」


・・・だがその不機嫌さを掻き消すほどに驚いた。それはアンリが・・・この出会った時から居丈高で傲岸だったアンリがその見た目通り、まるで少女のようにか細く震えている姿を見せたからだ。この女が恐怖する、だと・・・?


『・・・認めたくはないもの、だが・・・』


「なんだと?」


そしてアンリは自身の身体が震える原因を語った。



「貴様の勘違いではないのか・・・?」


だがそれを聞いた私はアンリのあまりにも大げさな物言いに咎めるような口調になった。

何故ならば、


「そのような魔力・・、私が感じぬ筈がない・・・!」


アンリがこの地からそう遠くない地に人智を、自身を超える程の魔力を感じると言うからだ。だが、それほどまでに強大な魔力の持ち主がこの近くに存在するのならばアンリだけではなく私が感じぬ筈がない。


『・・・お前には分からぬ、か』


「聞き捨てならんな?貴様だけには分かるというのか」


『そうだ・・・決して認めたくはないこの力・・・』


「認めたく・・・?それはどういう意味だ?」


『・・・このために世に顕現した筈なのだがな・・・この肉体には荷が重いということか・・・』


自嘲するような呟き、それを耳にした私は以前この女が言ったことを思い出した。


「貴様、ということはつまりその魔力とやらが?」


『そう・・・火炎の牙だ・・・』


どうやらアンリの震えはその宿敵の存在と似通った魔力を感じたためらしい。しかしそれほどまでに強大な力を何故この私が感じないのだろうか?


『・・・火炎の牙の力・・・おそらくは』


・・・アンリは使えそうもない、と治まる気配のない目の前の女の身体の震えを見ながら私は心中で舌打ちした。

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