第94話〜異質〜
才能というものは生まれ持ったものだろう。何を指して才能と呼ぶのかは其々異なるものだろうが、私がその言葉を聞いて一番に思うのはやはり素質というものだ。与えられた能力と言い換えても同義ではないだろうか。
私の場合は家の風習、というか先祖伝来のものが家にあり幼い頃からそれ以外のことはやってこなかった、上に周りに同じことをやっている者は家族以外誰も居なかったので、自身の実力というか熟達度というものはいまいち見えていなかった。それだけに家の風習であるそれに関して自分に才能があるのかどうかということはまるで分からなかった。自分がどの程度の実力の持ち主か、という比較対象が居なかったために。
しかしながら、ある時自身のおおよその実力というものが判明した。それは何故か。
仕事を始めたからだ。家の事情で口入で丸を稼がなくてはならない状況、だったというのが仕事を始めた最も大きな理由ではあるが、鍛練と実益を兼ねてそのようなことができるというのはかなり合理的だった。そうして仕事をこなしていくうちにある程度等級が上がっていったものだが、そのうちに弟子を取るようになったので仕事の頻度は減っていった。それでも実戦を経ることによって家の風習である技、平たく言えば退魔術の錬度は上がっていた、はずだ。そのため新しく取った弟子には初めのうち望まない態度を取られていたのは余談ではあるのだが・・・
でも今は双子の姉妹が弟子入りした当初に比べれば良好な関係を築いている。それは、弟子入りした姉妹に対して初めにはりきって本意気で技を披露しそれを見た姉妹がかなり引いていたことを考えれば、相当な努力をしてきた。懐柔、というかこれは骨子さえ掴めれば誰にでも可能なことなのだとか事細かな説明から始まり、親しみを込めて名前で呼んでもいいのよ、とか、それはもう・・・
・・・ともかくその甲斐あってか私の事を今では本当の姉のように慕ってくれる姉妹には感謝している。初めての時に私を見る目、あの自分の理解の範疇にないような異質なものを見るあの目は正直に言えばとても落ち込むものだ・・・初めて出会い退魔の技を見た人はほぼ例外なくあのような目になるのはもはや宿命とでも言ったほうがいいのかもしれない。それほどまでに世の中に知れ渡っていない技術、というのは子供の時から嫌になるほどに知っている、その身を以て。今の世ですらそのような認識にあるので数百年前のご先祖様のご苦労が偲ばれるというものだ。
ーーーだからこそ
そんな経験をしてきたからこそ私には理解ができる、のかも知れない。
あの方の・・・あの少年の異質さ、というものを。
今にして思えば、初めてあの少年の実力の一端を垣間見たときに気付くべきだったのかもしれない。ヒトに内在する力、所謂オーラと呼ばれるものは誰しもが持つものではある。それは大なり小なり違いはあれど体外に発現させるためにはかなりの鍛錬が必要なものだ。それに加え、オーラとは別に存在する力であるプラーナはそれこそある程度以上の錬度でオーラを扱えることが必須なものであり、自身の力とは別に大気中に存在するものであるがそれを利用することによって自身の身体能力や技の威力を向上させるという利便性に優れたものだ。ただ優れたものであるがためにその取り扱いは困難を極める。家に代々伝わる話では、最低限その力の存在を感じ取り、自身の力として使いこなすためにはそれなりの時間を要するという話だ。かくいう私も幼い頃からそれの扱いを学んできていながら未だに完成の域には達してはいない。
・・・だがあの少年は齢15にしてその取り扱いは殆ど完成の域に達しているように見受けられた。
ところで。古代より受け継がれてきた物というのが世の中にはある。私はこの年に至るまで(まだ24ですが)話に聞くだけで実際に目にしたことこそなかったもののその話を聞く限りでは眉に唾をつけていたものだった。それは通称『神々の武具』と呼ばれ、太古の昔それこそ世界が形成されたときから存在したとまで言われるものだ。それだけ歴史が深く有名なもの、であるにも関わらず今まで私を含めた家族ですら見たことが無かったというのはその神々の武具が持つ特異性、のようなものによる。それはすなわち、
ーーー持ち主を選ぶ、相応しい使い手でなければ巡り合うことすら叶わない、常人では扱うのも困難、なものらしい。
しかし、弟子を長期の仕事に伴い行った中で出会った人物は別の機会においていとも容易くそれを扱っていた。一例ではあるが、龍を滅するための武具・・・ドラゴンスレイヤーとも呼ばれるその剣を使って実際に龍を斃したあの少年は何故か普通に使っていた。一説にはあれは龍にしか使えず龍を滅するためだけに存在する、とも言われている一際取扱いが困難を極める代物らしいのだが。
それだけではなく、その少年は次に再会したときには別の神々の武具らしき物を手にしていた。それは人ならざる種族・・・亜人と蔑称される種族に伝わる神々の武具で、使えるにしてもその種族にしか使えないはずなのにそれも易々と使っていた。
グラム、ブリューナク、そして竜ノ剣・・・あの少年は何故それらのものを扱うことができるのか。
あの少年と知り会ってから、あの強さを目の当たりにしながら私はその都度疑問に思ってきた。
また、それだけではなくあの少年は・・・
「何の話なのだトゴウ?」
召喚された黒い竜、ニーズへッグと話していると横から声をかけられた。確かに傍で聴いているだけでは黒い竜が何を言っているのか理解をするのは難しいだろう。しかし私は今まで少年、トウヤ・ヒノカという人物と何度か共に行動してきたために何を言わんとしているかが分かった。
「ええ、説明しましょう。その前にイルさん?」
「?」
「貴女はどのようにして、」
その質問に対する答えは私にとって満足のいくものだった。
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「牙っ!」
でかい割に素早いなこいつ!
『トウヤ、と言ったか。そなたの強さはその程度か?』
「どうかな!はっ!」
伸ばした炎斬を元に戻し鞘に納めると同時に一気に懐に踏み込んだ。
『ぬっ』
「剣だけじゃお前に当たらないからな!」
徒手空拳の技、と言ってもただ単に拳で連撃を繰り出すだけだ。
何発か拳に手ごたえはあるもののその表情を見るにあまり堪えた様子はない。・・・やっぱり見かけどおり頑丈だなこいつ。
『儂に肉弾戦を挑むとは・・・正気か』
「当たり前だろ」
その硬い身体を殴りつつ後ろをとるべく回り込もうと、
『遠慮はせんぞ・・・土塊障壁!』
「うわっ?」
したら地面からせり上がってきた壁に阻まれた。
地下に飛び降りた俺は銀色に輝く巨大な塊を見つけた。見ていると話しかけてきたそれはどうやら竜族の奴であり永い間此処に居たらしい、その性質を金属に変化させて。それで同じ竜族の奴であるサラマンドラの剣を持っている俺の強さが知りたいと、急にそ身体が発光し始めて大きさを変えて小さくなり(といっても他の竜の奴よりも一回りは大きく見える)俺に闘いを挑んできた。のだが、
『オーラの総量は大したものだが、剣を使わずして儂には通用せぬぞ』
「どうか、な!?」
隙があったので再度殴りかかろうとしたら今度は土の塊が飛んできた。しかも四方八方から。
こいつは遠慮なしに魔法を使ってくる。土を利用した土属性の魔法らしい。同じく土属性の魔法が使えるノルエルは一対一の邪魔をしてはいけないと言いながらかなり遠くまで離れた。
「重た!?」
ずどどどど、と俺の身体に飛来してくる土は殺傷力こそ低そうなものの、その速度や重量は俺の足を止めるのには十分だった。
『しかし何かしら感じるものがあったのだろう・・・あの血気盛んな若者が認めるほどの・・・・・・むうん、地殻歪曲!』
「地面が揺れてる!はあっ!」
うねうねと足場が動き出したので殆ど無意識に飛んだ。ただ、飛ぶことにはあまり慣れてないのでこいつの顔の目の前に来てしまった。
『迂闊だな・・・カアアッ!』
「なっ!?」
そのためその大きな顔についている口から吐き出された息によって俺は吹き飛ばされた。
「あれは、いったい何でしょうか・・・?」
「竜の奴だ」
「いえ、そういうことではなく・・・」
俺が吹き飛ばされた辺りに丁度ノルエルが居た。軽く数十mは吹き飛ばされたということだろう。いくらオーラで身体を強化しているといってもさすがに今のは効いた。
『・・・その闘争心や発想は見るべきところがある。だが、』
「うおおおおおおおおお!」
今度は射程の長いこれで突進してやる!そう思いながら槍を突きだすと、
『単調に過ぎるな・・・』
ドンッ!
「またか!」
またしても土の壁に阻まれた。
しかも、
「火花が出ない?」
土壁の魔法を使ってくるのは何となく予想していたのでそれを貫で通すべく真っ直ぐについたのだが何故か穂先からは何も出なかった。
『神槍にしても使いこなせては・・・いない!』
「うわっ!槍がっ?」
突如出現した土壁に刺さったまま抜けなくなったそれに巻き込まれるようにブリューナクが吸い込まれていき同時に土壁も無くなった。
『儂が手本を見せてやろう・・・』
言いながらそいつ・・・ベヒーモスはまたしてもその身体を発光させ始めた。
「なんだ!?」
その姿は見る見るうちに小さくなっていき俺とそう変わらない背丈にまで変化した。
「じいさん?」
発光が止まったので見てみると、其処には白髪に皺だらけの年寄りが立っていた。見た目で言えばさっきのほうがよっぽど強そうだったんだが、
『武具を扱うには本来の姿では不都合なのでな・・・・・・しっかり受けるのじゃぞ』
見るとその右手には槍が握られている。・・・何処からどう見てもブリューナクだった。
「じいさんはそれを使えるのか?」
『そうじゃな・・・我が一族は神と契約せし者。故に神が造ったとされる武具は大概扱えるぞ。それよりも構えよ、火竜のそれを』
言いながらじいさんは炎斬を指し示した。
「言われるまでもないけどな!」
オーラを全開にして炎斬を正眼に構えた。
『戦いに於ける勘も悪くはない、か。むうん!・・・・・・轟、雷!』
「このプレッシャー!?盾っ!」
そして目も開けていられないほどの輝きと共に手元に凄まじい衝撃が奔った。ただオーラで受けきるつもりだったので盾の展開が僅かに間に合わなかったかもしれない。それでもオーラを全開にしていたのでそこまで衝撃があるはずがないのだが、
「がはっ!」
身体全体が痺れのような何とも言えない力の入らない状態に陥ってしまった。それでも何とかその場には立っているがこれは拙いな・・・
『これが防御不可の技だ』
「防御、不可・・・?」
『そう・・・単純な破壊力のみならずその衝撃を身体に徹す轟雷、かつて天竜が得意とした技・・・儂では威力半減だがな』
「これで、半減なの、か・・・」
ははは、っとじいさんの笑う声が聞こえた気がしたがよく覚えてない。俺はそれきり意識を失った。
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さて。
此処からが本番、といったところか。
目の前で崩れ落ちた人間を見ながらそんなことを思った。それは何故か。
『強化生命・・・では色気がないな。其処の女!』
今の自身と人間のやりとりを離れて見ていた者へと声をかけた。
「・・・なんでしょう?」
おずおずと女が此方に近づいてきた。
『むっ?儂は何か恨まれるようなことをしたか・・・?』
やけに敵意のこもった瞳でその女に見つめられたが、
『・・・ああ。心配せずとも大事には至らんだろう』
おそらくこの倒れている人間と親しいのかこの女は儂を敵視するのだろうが、
『むしろそなた自身の安全を心配するが良い』
そう諭してこの場を離れるように促した。
「し、しかしその者は!」
『・・・実際に見るまでは信じられぬかもしれぬが、実はな』
パァァァァァ
女にどう説明したものかと頭を捻っているとそのあたり一帯が輝きだした。
・・・始まったか。
「っ!?こ、これはっ!」
『女、悪いことは言わん・・・すぐに離れろ』
言いつつ五光の神槍を光に向けて構えた。
光はとめどなく広がっている。
・・・これは想像以上か。果たしてこの老いた肉体でどこまで渡り合えるか。
「わ、わかりました!」
そう言って女は凄まじい勢いで離れていった。この地下空洞ならば島全域に近い面積があるのであれだけ離れればひと先ずは安心だろう。
『問題は・・・せめて理解させることだな・・・』
光の収縮が始まった。
・・・若い者達を思い出すな。やりすぎず、かといって足りなければここまでにはたどり着くことはできない。戦いながらほぼ確信に至ったものの万が一違うのなら、待った甲斐が無かったというものだ。
この地で、新たなる力を発祥させるために最も適したこの地で儂は幾年もの歳月を・・・
『しかし・・・確かに頷けるな』
その収縮する光の中心からは未だかつてないほどの威圧感を感じる。これほどのものならば永い年月をかけて待つ、というのも正しいことのように思える。あの先見のドラグノフが預言した者ならば、この夜を終わらせる程の者ならばむしろこのぐらいは必要なのかもしれぬが・・・
ーーーそして光が弾けた。
『目覚めたか』
光が弾けた場所には一人の人間が立っていた。人間の姿をしている者が。意思の疎通が図れない、と知りつつも声はかける、というのは今までに何回も行った経験の賜物だろう。そうすれば理性を取り戻すのも早い筈だ・・・
「あれ?・・・じいさんは確か」
『なっ!?』
理性を失って、いない・・・?
「俺はじいさんの攻撃を喰らって・・・ええと?あんまり覚えてないな」
『そなたは・・・』
驚愕どころの話ではなかった。ここまで違うものなのか・・・今まで目覚めの際にはどの若い者たちも一体の例外なく理性が無かった。それは急激に手に入れた力に翻弄されて脳が闘争本能を掻きたてるというのが最も大きな理由ではあるが、それが無いのだろうか?
「なんだろうなこの感じ?」
自身の身体を眺めながらその者は呟いていた。
「ああ、思いだした。じいさんもう一回さっきの技をやってくれよ」
今度は止めてみせると、先程取り落としていた火竜の剣を再び構えた。
『いいだろう・・・!』
もう一度轟雷を放つ意味はあまり無いが本当に目覚めたかどうか試すのも良いか、と預言の者の言に従った。
「来い!」
『行くぞ!・・・・・・轟雷!』
龍族特有の魔力をこの身に受けながら、今度は本気の一撃を放った。




