第88話〜日緋色金〜
あの鬼族のおっさんに聞いた通りの道を進んでいると何やらごつい建物が見えた。いやでかすぎるだろ!と思わず突っ込みたくなるほどには大きいあれが多分神殿ってやつなのだろう。
「凄いな・・・」
「ああ。でもカグツチにある城もでかいんじゃないのか?」
「いや確かに城のほうが大きいが、何というかこの荘厳な雰囲気に圧倒されていたのだよ。これは神官並みに神事に精通した鬼族が存在している、もしくは存在していたとみるべきだろう」
「ふうん、そんなもんなのか」
確かにそう言われて建物を見てみると、有り難いような神様的な雰囲気を感じるのだから不思議なものだ。
「取り敢えず入ってみよう」
「そうだな」
キィィィン!
「なんだ?」
しかし神殿らしき建物に入ろうとしたら中から甲高い音が聞こえた。
何の音だろうか。
とにかく中に入ってみてたが、
「妙に寒いな?」
神殿の中はやたらと寒かった。
「凍っている?」
「ああ、それで寒いのか・・・?」
ガロウの指摘に建物内の壁や床を見てみると霜が降りていた。冬みたいに。
・・・いや何で建物内なのに凍ってるんだ。
っ!?
「このオーラ?・・・ニルナか」
凍った壁や床を触っていると、奥のほうからオーラの高まりを感じた。
オーラの感じからすると神殿に先行しているはずのニルナのもののようだが、
「この魔力は・・・」
そのオーラの近くにえらく強力な魔力を持っている奴をも同時に感じた。
俺はガロウと顔を見合わせてその場所へと急いで駆けつけた。
ーーー其処には、
「グアアアアアア!」
その場から動かずに、一本の刀を振り回して暴れまわる鬼族が居た。
「ジン・ガトウ?どうしたんだお前!」
そいつは俺達よりも先に此処に来ていた知り合いの鬼族、ジン・ガトウだった。その瞳は血走っているのか真っ赤に染まっていて、体からは目に見えるほどの冷気が立ち上っている。寒いのはこいつが原因か!
「くっ!剣は無いの、ノルエル!」
「え、ええ!神殿には武器はっ」
と、ジンの近くに居たニルナはそのジンの姿を見ながら叫んでいた。同じく叫んでいるでかい女が居たがあれがノルエルって奴か。
「ニルナ!」
「トウヤ!来たの」
「ああ。でもあいつはどうしたんだ」
俺は、何故だかその場から移動せずに刀を振り回しているジンを見ながら訊いた。
「分からない。あいつが急に暴れだしたの」
「急に?」
と、ジンのほうを見ればジンの向こう側にもう1人誰か居た。
「貴様はあの方と共に居たという人間か!」
「あの方?・・・おっさんは誰だ」
そいつはジン・ガトウに負けず劣らずでかい鬼族のおっさんだった。その両手をジンに向けて居るが、このおっさんからもかなりの魔力を感じる。
「・・・私は火喰い島4柱が一角、フェニス・カハラだ。人間!あの方は一緒ではないのか」
「ああ、デュカ・リーナのことか。それがあいつはな、」
パンッ!
俺が話しかけようとしたら何かが爆ぜるような音がした。
「結界が破られっ!?」
「グアアアアアアアア!」
それと同時にジンがおっさんのほうへと斬りかかった。
「ちっ!悪く思うなよジン!」
それを見た俺は取り敢えずジンを止めようと、
「はあっ!」
槍を向けてジンに突進した。
槍の穂先からバチィ、と火花が散ってジンはその場へ蹲った。
「どうしたんだこいつは?」
いくら何でも急に仲間へ襲いかかるのはおかしいと思いおっさんに聞いてみた。
「・・・それが分からんのだ。デュカ・リーナ様と共にこやつが此処に来ていた、と思えば意識を失い起き上がったら突然暴れだしたのだから」
「突然暴れだした?・・・ひょっとして無間戦鬼ってやつか」
「何故それを知っている!・・・・・・そういえばサタクが角を失っていたな。それでか・・・だが人間、こいつの額を見てみろ」
フェニス・カハラにそう言われ蹲っているジンの額を見るもその二本の角は健在だった。
「おかしいな?違うのか」
「そうだ。無間戦鬼などではない」
「じゃあなんで・・・ん?」
蹲るジンはその手に刀を持っていた。
「クニツナ?何故この男が持っている」
「ガロウ?知ってるのかこの刀を」
「ああ。以前姫に見せて頂いた。何でもスサノオ王家に伝わる宝刀なのだそうだ。しかし何故これが此処に・・・?」
言われて刀をよく見てみると確かに力のようなものを感じる。宝刀だからか?
見た目は何の変哲もない刀だが、何というか空気ごとその場を圧してくるような・・・そんな雰囲気がある。
「・・・ガトウは鬼丸を闘神の子孫から預かり受けたと言っていた。お前なら何か知っていると思ったのだがな、ガロウ・サイハ?こいつは大陸に行っていたろう」
「そうだな。交換留学という形で其処の・・・と」
「ガロウ?」
会話の流れからジンとニルナのことだろうが何故かガロウはニルナから目線を逸らして指していた。
「うむ。それでガトウがその任務を放り出して帰って来た際に何故か鬼丸を持っていたのだ。なんでも災厄に備えるだの何だのと言っていたな。」
「ああ、成る程。そう言えばそのようなことを言っていたな」
「知ってるのかガロウ」
「そうだな。あの時は、突然居なくなった君を探すためにーーーーーー」
俺を探しに来たこと、ジンが此処に戻ろうとした理由、大体は聞いていたがその話を聞きながら俺はふと気になることがあった。
「なあ、オニマルって言ったっけその刀?」
「そうだ、かつてこの島にあって数百年前に貴様等の大陸の闘神達が持っていった鬼丸だ」
「へえ?元々この島にあったのか」
「ま、まあスサノオ王家に伝わる話でもそう聞いていると姫は仰っていたがな」
「そうだ。故に本来は我々が持っていてもおかしくはない。ただ現状互いに歩み寄るために敢えて返せと無理強いはしていない。が、この男はどういう甘言を用いたのか、鬼丸を持ち帰ったのだが・・・?」
蹲るジンを見ながらフェニス・カハラというおっさんは何やら複雑そうな顔をしていた。
「ふうん。気になったけど、その刀からなんか不思議な力を感じるのは、それはやっぱり神々の武具なのかな?」
「・・・そうだろう、とは思う」
「微妙な感じだなおっさん?」
「誰がおっさんだ!・・・・・・ごほん。というのも無理もない話なのだ。何せあのデュカ・リーナを始めとして鬼族の者は誰も真に使いこなすことが出来なかったのだからな・・・その本来の力を引き出しきれなかったと言い換えるべきか。兎に角、それ故に鬼丸が神々の武具かどうかというのは不明なのだ」
「使いこなすことが出来なかったって、何でだ?」
「いや勿論振るうだけならばできるぞ。しかしその本来持つ力・・・特性とでも言ったほうがよいか、それをだれも発揮できなかったのだから。そのままこの神殿に奉っていたところをかつてこの島にやってきた闘神が持って帰ったのだ」
「・・・だが我が主君は難なく使っていた。それが此処にあっても宝の持ち腐れではないのか?」
「ぬう・・・使いこなせないと言えども我が鬼族の象徴とも宝とも言うべきもの。我等の手元に置くべきだろう・・・」
「大事ってのは何となく分かるけど数百年前にスサノオが持って帰ったんだろ?だったらそれはスサノオのものでいいんじゃないか?」
「人間よ・・・事はそう単純ではないのだ」
「何で?」
「それはとある日に我が始祖である方が言われた言葉による・・・」
「始祖、ってことはデュカ・リーナが?・・・そういえばあいつは何処に行ったんだろう」
「トウヤ君、それはこの際措いてくれ。で、カハラよあの女性は何と言ったのだ?」
俺の疑問よりも話の続きが気になったのかガロウが俺の言葉を遮りフェニス・カハラを促した。
「ああ。デュカ・リーナ様曰く『これは現代では精製することのできない特殊な技術で造られたもの。失うことに固執する必要はないのだけれどできれば大事にして頂戴』と。だから貴重な宝物として保管しておいたのだ。またその際にはそれが本来持っている能力も聞いた。」
「特殊な技術?そうなのか?今のほうが剣に関しては技術が高そうな気がするんだが」
「私もそう思う。単純な強さや切れ味、稀少性で言えば竜の剣や君の持つその槍のほうが余程上に思えるが・・・」
「だよな?何か分からない技術が使われてるのか?」
「ふうむ・・・この島で姫が使われたとき、それに大陸で魔狼の長と会話されていたとき、ということを鑑みると何らかの特殊な力が働いているのは間違いないのだろうが・・・分からんな」
「私もそれ以上は聞いていないので分からん。ただ貴重なものだとしか」
・・・ね
ん?
今なんか聞こえたような。誰かを呼びに行ったノルエルって奴とそれに付き添ったニルナは居ないし、ジンはまだ蹲ってるから俺達3人以外には誰も居ないのに、
・・・よ
居ないはずだが、やっぱり何か聞こえる。
「誰だ?」
またサラマンドラが話しかけてきてるのか?と思い炎斬を見るも特に変調はない。
・・・下よ
下?
と、その声に従って見ると、
刀が動いていた。
「鬼丸が!?」
「何でだ?」
さっきから蹲り動かないジン、その手から離れたオニマルはゆっくりと移動している・・・ように見えた。
「おっさん、これもオニマルの特殊能力ってやつか?」
「莫迦な・・・鬼丸が・・・?」
「おっさん?」
さっき聞きそびれた刀の特殊能力とやらで、オニマルが勝手に動いているのかとも思ったがおっさんの態度を見ればそういうわけではないらしい。
『違うわ』
声!?
・・・今度ははっきりと誰かの声が聞こえた。
しかも聞いたことのない、女のような声が、
『これは私の意思で動かしている・・・フェニス、先の話だけど1つ言い忘れているわよ。貴方ももう年かしら・・・?』
「っ!?そ、その口調、もしやデュカ様ですか!・・・?しかしどちらへ?お姿が見えませんが・・・」
デュカ様?デュカ・リーナのことか?
確かにおっさんのいうとおり声はしても姿が見えないな。
でもデュカ・リーナはこんな声だったっけ?あいつの声は幼いものだったんだが。
『私は此処よ』
カツンカツン、と音がして刀が垂直に立ち上がった。
いやまて。動くのもそうだけど、おかしいだろ勝手に立つ刀は?
『何故かこの中に居たのよね・・・?どうしてだか分からないけれど・・・流石は神話の時代からある物質、といったところかしら』
その言い方、そして刀の動き、まさか?
「お、おい、まさかお前がデュカ・リーナか」
確かめるべく俺は動く刀に話しかけた。
『・・・いくら貴方でも驚くようね。そう・・・私の意識はこの鬼丸国綱の中に在るわ』
「いや当たり前のように言われてもだな・・・」
意識が剣の中にあるってどういうことだよ?
『しょうがないでしょう、事実ですもの・・・まあその気になれば、もしかしたら抜け出せるかも知れないけれどそれをしたらしたで今度は実体が無くなるかもしれないわね』
「・・・話が見えないのだが、つまりはあの鬼族の女性がこの刀の中に居る、ということなのだろうか?」
訊かれても、
「大丈夫だガロウ。俺もよく分からん」
『ふぅ・・・まあいいわ。それは仕方がないでしょう・・・』
「あ、貴女がデュカ様というのは何とか理解しましたが・・・何故そのようなことに」
立派というべきかフェニスのおっさんは目の前で起こっていることに納得しているようだ。
『多分ねフェニス、先の貴方の言い漏らしにその理由があると思うのよ・・・?』
「私の言い漏らし、ですか?」
『そう、あれは二千年以上は前のことだったかしら?・・・確かその時に私は言ったわよね、この剣が貴重な理由を?』
「え、ええ。それを人間たちに教えてやりましたが」
『そうね。私もそれを聞いて思い出したのだけれど。つまりはこの刀を造るために必要な物質を』
「つまりはその物質とやらが現状に関わりがあると?」
『そう・・・神話の時代から、神代から伝わるとされている物質・・・日緋色金・・・鬼丸国綱にはそれが使われていると言われていたの・・・だからこそ様々な特異な性質を持っているのではないかと、私はそう思うわ』
日緋色金?それがオニマルって刀に使われてる物質の名か?
「え。ということは、そもそもお前がオニマルを此の島に持ってきたのか?」
何故かやたらと刀に関して詳しいデュカ・リーナ?の話を聞いて俺はそれに気がついた。というかよく考えてみたら、こいつが鬼族という種族を造ったのだからそう考えるほうがむしろしっくりと来る。
『そう、ね・・・あの時代からもう三万年経つのね・・・私が、この刀と共に大陸を出て・・・・・・永い、本当に永い人生だった。でも今思えば私は今の世を生きるために力を与えられたのかもしれない・・・神人に再び出会うために、鬼族の子達と出会うために、そしておそらくは・・・私が引き離した姉妹を・・・引き離される苦しみを誰より知っている私が引き離した家族を再会させるため・・・私は死してもなお生き永らえていたの、かもしれない・・・』
・・・・・・不思議だな。かすれるような、そんな弱々しい声はすれども刀には何の変化もない。でも何故か俺は感じるんだ・・・
デュカ・リーナの、いや・・・かつて1人の子供の母親だったやつ、の泣き声のようなものが・・・
そして同時に1人の老婆の泣いている顔が、どうしてか頭に思い浮かんだ。




