第86話〜セイジャ〜
その場に留まっていてもどうしようもなくなったので、俺とガロウは神殿とやらを目指すことにした。
「私もこの島に来るのは二度目だが、何というか此処は、」
「のどかだな」
俺は歩きながら率直な感想を述べた。
「あ、ああ。それもそうなのだが私が言いたいのはそこではなく・・・」
聞くとこの島は不思議な場所なんだそうだ。それは草木が生い茂るわりには動物の姿を見ないから、だとガロウは言うが。
「言われてみればそうだな。でももうちょい内部に行かないと居ないとかじゃないのか?集落から出ないように管理をしてるとか、それこそ火の大陸の町村みたいに結界を張ってるとか」
そう言えば以前仕事で来たときもこの島には動物が居なかった。鬼族の奴等は見たけど。
「それにしてもあの女性は・・・」
「ん?デュカ・リーナのことか」
「そうだ。転送、と言ったか。あの技を使うにしても何故我々に何も言ってくれなかったのだろう」
「まあな。おかげで帰る手段を考えないといけなくなったし」
「君はまだいいだろう。いざとなれば飛んで帰れるのだから」
デュカ・リーナに頼って此処に来たもんだからあいつが居なくなると此処から帰るのも一苦労だ。
それにガロウはそんなことを言うが、
「あれは結構疲れるんだぞ?できれば俺も船に乗りたい」
今神殿を目指しているのは鬼族の奴等に船を貸してもらうという目的もある。こんな島に住んでるんだから船の一隻や二隻ぐらいあるだろうというガロウの考えで。
「おっ、建物がある」
そうして話しながら拓けた場所を進んできたら、いくつか建物がある場所に辿り着いた。
「此処が鬼族の?」
「村だろうな」
見れば火の大陸にあるような家よりも大きい。
多分だが鬼族の奴は体がでかいので住む場所も大きいのだろう、とは予想した。
「誰か居ないかな」
言いながら俺は一番近い家の扉を叩いた。
「に、人間?」
するとその建物の中から1人のおっさんが出てきた。赤い髪に大柄な体、それに額に角が生えてるのでやっぱり鬼族なのだろう。
「なあ、神殿って何処にあるんだ?」
「・・・神殿に何の用だ、人間」
そのおっさん鬼族は神殿と訊くと何か警戒していた。
「いや神殿自体には用はないんだけどな。そこに知り合いが居るんで、おっさんも知ってるだろ?ジン・ガトウって奴やロナン・サタクって奴を」
俺が言うとおっさんは目を丸くしていた。
「ガトウ様やサタク様と知り合いだと・・・?お前はいったい」
そう言えばあいつらはこの島では偉いさんだったっけ。それで驚いているのかこのおっさんは。
驚いているおっさんに俺は知り合った経緯を説明してやった。
それでようやく納得したのかおっさんは神殿までの道程を教えてくれた。
「ありがとうなおっさん」
「・・・神殿へ行くのなら」
「おっさん?」
礼を言って建物を出ようとしたらおっさんが何かを言い淀む様子を見せた。
「・・・火ノ鳥は」
「何だって?」
おっさんの呟きは聞き取りづらかった。
「火ノ鳥は西のほうへ行った・・・そのことをカハラ様へ伝えてくれ・・・」
「火ノ鳥?カハラって奴に伝えればいいんだな?」
カハラって奴はよく知らないがそのことを了承して神殿を目指した。
〜〜〜
来客があるというので応対しに行ってみれば、一人の青年が居た。しかしその顔は見たこともない。
「えーと?貴方は誰だったかしら」
外に行ってみるとその青年は落ち着いた様子でカグツチ城の門扉の横に佇んでいた。
見たところ火の大陸特有の顔立ちではなく銀色を伸ばした肩までかかる長髪、赤みがかった瞳、やたらと端整な顔立ち、それに異様とも言えるほどに肌の色が白かった。というよりもむしろ青白いほどだ。
何処の大陸の人だろうか。
「・・・あなたがこの地の長か?」
青年は怪訝そうな顔であたしに話しかけてきた。
「ええ。そうよ」
少しムッとしたが努めて冷静に答えた。
疑うようなその顔はあたしの年若さの所為だろうから分からないでもないが。
しかし?あたしを呼びに来た者は警護の兵士だったが何故面識のないこの青年を通したのだろう。
「では案内してくれ」
「はっ?」
つい間の抜けた声が出たがそれは仕方のないことだろう。この青年は何を言い出すのだろうか。
「えっと・・・ていうか貴方は誰なの、それに案内って」
至極真っ当な疑問をぶつけた。
「私の名は・・・」
名乗りを聞いてもその名前は知らなかった。
青年が案内しろ、という場所は知ってはいるが・・・目的は何だろうか。
「此処に居たのか。・・・?どうしたシエル」
「ああ、実はねこの人が、」
あたしがどうしようかと考えていると、あたしを探していたらしい羅義神人がやってきた。そこで今のやり取りを話そうと、
「闇騎士!?」
すると青年が羅義神人を見て驚いていた。
「貴様は・・・?」
「知り合いなの羅義神人?」
「いや・・・?」
しかしその銀髪の青年は羅義神人の姿を見た途端、目に見えて落ち着きが無くなった。
「えーと。アルカード・・・さん?」
埒が明かないので、先ほど名乗った青年へ問いかけた。
「アルカード、だと・・・この男がかシエル?」
あたしにそう聞きながら羅義神人は青年を睨むように見ている。
「闇騎士が何故此処に・・・」
「貴様は真にアルカードか?いくらなんでも・・・」
魔力が無さすぎる、と羅義神人が呟いた。
〜〜〜
何やら入口のところが騒がしいので私達4人は外に出ようということになった。城に居て暇だったということもある。
「それにしても、」
「ネク?どうした」
「いやね、いくらなんでも遅くないかなと思って。ミシルさんたちがトウヤを探しに行ってもう何日も経ったでしょ」
「ああ、言われてみればそうだな。未だに見つけてないのかな」
ミシルさんとリシナさんとガロウさん、あの3人が探しに行ったのだから見つけてないというのもあまり考えられないが、フェンの言うように未だに見つけてないのだろうか。
「ネクちゃん、大丈夫だよ。そのうち帰ってくるって」
「そう、そうね。ありがとアリナ」
私がここ数日ずっと落ち着かないからだろう、アリナが慰めるように言った。
そして、歩いていくうちに城の入口に辿り着いた。
「でか!」
「それでなのか・・・」
入口の騒がしい原因は一目で分かった。
「ああ、貴女たちも来たの」
「え、ええ」
シエルに答えるも目の前に居る大きな存在に圧倒された。
「では貴様だけが龍巣を使いに戻ってきたのか?」
『そうだ・・・あの者があのような姿になっているなどと、尋常な事態ではない。何が起こったのか皆目見当もつかんのだ・・・』
羅義神人という人はその大きな存在、竜と何事かを話していた。
「それで?貴方は先ほどまで鬼ヶ島に居たの?」
『・・・そう、日喰い島に居た。そう言えば汝等が探している人間も彼処に居るぞ』
「え」
『もっともあの島の者が呼びつけたとも言えるが』
それを聞いてわたしは竜へ詰め寄った。
〜〜〜
どうやらトウヤ・ヒノカが見つかったらしい・・・しかも鬼ヶ島で。
意外と近い場所だったな、ということとレヴィアスの祈祷師の占いと若干違うな、ということを思ったが、サラマンドラの話を聞いて納得した。つまりトウヤ・ヒノカは再び魔法とやらで転送を行って帰ってきたということだ。ネクがサラマンドラを問い詰めているので事情が分かった。
しかし?
「いったい何者なの、その魔物というのは?」
おそらく転送の魔法、というものを使えるだろうその魔物、鬼族の少女然とした人物についてあたしは竜に訊いた。
『デュカ・リーナ、とあの者は名乗っておった』
「ああ。そう言えば」
報告書でも見た名前だ。
面識はないが確か、
「私の母だ」
「へっ?」
「私の母だと言ったのだ。いや正確に言うのならば私の母の記憶を持つ少女・・・・・・・・・そうか!」
「あのー、羅義神人?」
「その手があったぞシエル!母ならば私よりも鮮明な記憶を持っているはずだ。この前の話だが母に詳しい話を聞けば実現に近づくかもしれん!」
「えーと?話が見えないのだけど・・・」
彼は何を言っているのだろうか。母って。そもそも二百年以上前から羅義神人が生きていること自体が本来あり得ないことなのに、その母とは・・・
そう思い詳しい事情を説明してもらうことにした。
「・・・闇騎士」
と思っていたらそれまで黙っていたアルカードが口を開いた。
「む、何だアルカード?」
「おそらくだが貴様が言うその存在は百年前のあの人間の婆さんのことを指しているのではないか?鬼婦神と呼ばれていた・・・」
「違うな・・・いや正確に言えばそうなるか」
「・・・ということは人間の少女のような姿をしたほうか?」
「そうだ・・・だが何故貴様がそれを知っている?やはり (血)にて貴様を襲撃したという見解は正しかったのか」
「そうだ。私は (血)にて奴に滅ぼされた。一度は・・・」
「・・・?アルカード、それはどういう意味だ。それにうやむやになっていたが、貴様のその姿はいったい・・・まるで人間のようにまるで魔力が無い・・・」
「貴様がそれを言うのか?・・・だが、それについても話さねばならんな・・・私は奴と二度戦った」
「二度、だと?」
「そうだ。一度目は貴様が言うように (血)で。二度目は此処からそう遠くない場所でつい先ほど」
『人間よ。それは日喰い島ではないのか』
「・・・名前は知らん。だが竜は何かを知っているらしいな」
『まあな・・・知っている、というよりも先ほど帰る途中でぶつかり合う魔力を感じた。それにあの魔物はあの島に居たからな・・・』
「それで、いったいどういうことなのだアルカードよ?」
「私がこの姿になったのは、否・・・還ったのは正にあの者と、鬼婦神と戦っていた最中・・・」
そう言ってアルカードは先ほどの出来事について話し始めた。
▽▽▽
「召喚!光神!」
鬼婦神が魔力を高めると同時に目の前が光り輝いた。・・・私は何故かこうして生きている、そして鬼婦神と相対しておりしかも魔法も通じない肉体に変わっている。
以前私を消滅させたあの火炎・・・それを喰らい、むしろ自身の力がみなぎるのを感じたためそう判断した。
「デュカ・リーナ殿!今が我が本領を見せる時!」
「人間だとっ?」
おそらくデュカ・リーナが召喚したのだろう、その人間の騎士のような奴は此方に敵意を向けている。
「ルー!あの浄化の光を!」
「御意!」
人間がそう叫んだ瞬間周囲が更なる光に包まれた。
「な、なんだこの光は!」
「迷える魂よ在るべき場所に還れ・・・浄光!」
「・・・!こ、この光はああああああああ!?」
光を浴びた私はそれから指1つ動かせなくなった。
「引っ張られ?ああああああああ!」
それと同時に鬼婦神も何やら驚いている様子だった。
△△△
そして気がつけば火の大陸に居た、と。
しかも自身の姿を見れば人間のように変わっていた、いや還っていた、とアルカードは言う。
「それで先ほどの話に繋がる、というわけね」
「そうだ、大陸の長よ。先ほど言ったように私を案内してくれまいか?」
「その理由は?」
「伝説に聞くあの者ならば私に力を取り戻せるのではないかと」
「力を?」
「そう。魔力と言うべきか・・・折角拾った命、力を取り戻し今度こそ闇の覇権を狙う・・・!」
「・・・アルカード、私が言うのもなんだが今はそれどころではないぞ」
「・・・?闇騎士よ、それはどういうことだ。ゲン・マドゥやランザーはともかく今の貴様なら魔力を取り戻せば私のほうが確実に上だ!貴様には私は止められん」
「そうではないのだアルカード・・・それに、ゲン・マドゥもランザーもすでにこの世に居ない・・・」
「なんだと!?・・・な、何があった闇の大陸で?」
「そうだな・・・貴様には話しておくか」
そう言って羅義神人は、闇の大陸で起きた出来事、そしてレヴィアスで得た情報を説明していた。
「ーーーということだ。それでも貴様が闇の大陸の覇権を狙う、というのなら止めはしない。行きたければ行くがいい」
「むぅ・・・しかし」
「アルカード?案内はできないけど大体の場所は分かるわよ?・・・それに、」
あたしは傍らに居る竜を見た。
「サラマンドラは彼と知り合いだから案内してくれるかどうか訊いてみれば?」
『ぬっ?小娘・・・火の王よ、何の話だ?』
「アルカードはフェンリルに会いたいんですって」
そのことを言うとサラマンドラは何かを納得していた。
〜〜〜
・・・ジズさんが泣いている。
・・・それこそもう二度と会えないと思っていた人と再会したように、喜びを顕わにして、泣いている。
「泣かないでおねえちゃん。わたしは見てたんだ」
「イルちゃん・・・」
「わたしは・・・」
会話を聴いていてもいまいち要領を得ない。
どういうことなのだろう。この方はデュカ・リーナという名ではないのか?
「・・・イルちゃん、貴女はやはり生け贄の技法で・・・」
「違う、と思う。気づいたら体が動かなくなってたんだ」
「では、私とは違う・・・?」
「・・・多分そう。でもおねえちゃんが生きてるとは思わなかった。あれからわたしは時々この大陸にも来てたのに」
「あれから・・・村が襲われた日からね」
「そう・・・やったのはわたし。いえ、もう1人のわたし・・・」
「・・・・・・」
「だけどわたしの意思じゃない・・・わたしは、わたしは・・・」
「・・・イルちゃん」
「あの!」
たまりかねて口を挟んだ。
「貴女はデュカ・リーナさんではない、ということですか?」
「・・・そう。わたしはイル・・・イル・フェアリアル。あのお婆さんに身体を盗られていたの・・・」
「お婆さん・・・?」
「うん。わたしの身体を盗った・・・多くの生き物を殺してきた・・・こどもに会いたがっていた・・・お婆さん・・・わたしの身体を使ってた・・・」
「・・・・・・と、言うことはそれが貴女の本当の姿なのですか?」
「姿もなにも、わたしはわたしよ。どうしてだか分からないけどお婆さんが何処にも居なくなっちゃったの・・・」
私はそれを聞いて不可解だと思った。
「・・・何故貴女は魔法を使えるのですか?」
「知らないわ・・・気づいたら勝手に使えてたもの」
「・・・何故貴女はここに現れたのですか?」
「それは・・・おねえちゃんに会いに」
「おねえちゃん?ジズさんのことですか?では何故ジズさんがここに居ることを知っていたのですか?」
「知ってたから」
「知っていた?イルさん、貴女は以前此処に来たことが?」
「・・・・・・そう。前にお婆さんがおねえちゃんに会ったときに」
「そうですか・・・」
話を聞いてもいまいち分からない部分はあるが概ね理解はできた。
おそらくこの方は・・・そしてデュカ・リーナという方は・・・
「おねえちゃん、わたしも協力するから!」
満面の笑みでジズさんに語りかける少女が其処には居た。
ただ・・・その笑顔を見た私はどうしてか背筋が冷たくなった。




