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第85話〜作られた形〜


言うべきでは無かったのかもしれない。しかも私は実際に目にしたわけではなく話に聞いただけなのでその時の詳細を説明しろと言われても難しいのだが・・・誤解を招いただろうか?だが聞く権利はあるはずだ。何せ目の前の人物はその攻撃を喰らった当事者なのだから。


「そういうこと、か。魔法とやらを受けたにしては余りにも不自然だとは思ったが・・・」


当事者、災厄の王に相対していたハンスさんは何か思い当たることがある様子だ。ジズさんから聞いたその時の状況をかいつまんで話した私の言葉に。


「原因は分かっているのですよね?」


「ええ・・・私の読み違いです」


私もその場に居たがそれはあの時点では誰にも分からないことではなかったのだろうか。

・・・つまりはミシル・タイナという人物が災厄の王を庇うような行動を取るに至るという・・・



「むう?お主が何を・・・・・・・・・生気か」


「そうです。話に聞いたことがあるのですが・・・魔石の力は尋常ではないようでした」


「・・・起こったことを悔やんでもしょうがない。それよりも、再び災厄に挑んだところでまた立ちはだかるのではないか?」


「ええ。何故か理由は分かりませんがあの方は災厄と協力関係にあるように見えました。私も仕掛けたのですが悉く打ち払われたもので・・・」


「・・・いい線までいったと思っていたのだがな。少なくとも災厄に関してはだが。となると、あの男を抑える者が必要だな・・・」


ハンスさんはそう言うが、ジズさんの話によれば災厄を庇うように立ちふさがった人物・・・つまりミシルさんは何の躊躇いもなしにハンスさんを切り裂いたということだ。あの顔の歪みといいその行動といい、説得が通じるかどうかは分からない。そう思って言うとハンスさんは首を横に振った。


「トゴウよ・・・お主の考えは分かる。が、あの男は倒すほうが早いのではないか」


「確かに・・・ですが、」


私が自身の説得という意見よりもハンスさんのその言葉を肯定したのには理由がある。と言うよりは経験則とも言えるものだ。ミシルさんにはかつて記憶を失い仲間だった人を攻撃してきた、という前例がある。もしかするとまたもやあの時と同じ状態になっているのではないだろうか。

その上、


「人手が足りぬか・・・あの男ならば並の腕では相手にすらならぬ恐れがあるからな」


そう。私の懸念も正にそこにある。今の状態のミシルさんの前に立つには少々の強さでは太刀打ちできないということが考えられる。だから可能ならば説得を試みるほうが良いのではと思ったのだが・・・私の知る唯一それができそうな人物は今この場に居ない。



「剣聖様!恐れながらその役目は私に務まらないでしょうかっ?」


「ラゴス、お主がか?・・・・・・」


「け、剣聖様?」


いきり立って主張したラゴスさんという方は腕に自信があるようだった。しかしその方を見るハンスさんはどこか冷ややかな視線を返している。


「ハンスさん。そういえば貴方は剣聖と呼ばれていらっしゃいますが、それはつまりは剣技を極めているということなのですか?」


そのことがふと気になったので訊いてみた。


「ああ、それもある。この大陸に来てから呼ばれだした異名だがな。しかし異名をつけられたのはそういう理由だけではなくどちらかと言えば拙者の眼力に因るものだろう」


「眼力、ですか?」


「そうだ。剣士に限るのだが、拙者は剣士の体捌きや闘気を見ることによって大体の強さが判るのだ。もっとも・・・実際に剣を交えてみれば特異な技や隠し球などを持っている者も居るので一概に言えることではないのだがな」


「はぁ。便利な能力ではありますね」


「もっともそのような眼に頼らずとも実際に剣を交えるほうがその者の技や心意気などが判りやすいため、あまり意味を為さぬ場合が多いのだ」


「成る程」


「そもそもこの大陸に来た当初はそんな異名どころではなかったぞ。拙者のような何処の馬の骨とも知れぬ者が大きな顔をしてのさばるのを良しとしない血の気の多い輩が戦いをふっ掛けてきていたからな・・・」


「いや私はジズ様を御守りするために・・・」


「言い訳はいいぞラゴス。お主のような直情的な者のほうが却って有り難かった。おかげで聖剣技とやらを知ることができたのだからな」


つまりハンスさんが光の大陸に来た当初ラゴスさんが戦いを挑んだのだろう。


「・・・だがお主ではあの男には通じまい。あのミシル・タイナという男には」


「っ!・・・それはやはり眼で見られて?」


「そうだ。大司教のような魔力を持つことを差し引いても奴は強い。拙者はあれほどに戦いに特化した体捌きや闘気を見たことはない・・・あれを見れば余程今までに凄惨な戦いを繰り広げてきたことが推察できる。その上躊躇いもなく攻撃してくるということは戦いに於ける重要な要素でもある・・・お主では及ぶまい」


「そ、そんな・・・」


ハンスさんに諭されてラゴスさんが項垂れていた。

だが?



「では他の方はどうだったのでしょうか?」


私は話を聞いて気になることがあった。


「ぬっ?トゴウよ、それはお主の連れのことか?」


「そうです。1人は私もよく知りませんがもう1人はその戦いぶりを何回か見たことがあります。それこそミシルさんに比肩するぐらい、いえ劣っているとは到底思えないのですが・・・」


「ふむ。そうだな・・・あの男とあの小僧か・・・」


私の質問にハンスさんは暫し考え込んだ。



「リシナ殿?」


「何でしょうジズさん?」


「いえ・・・」


私は何をむきになっているのだろうか。今まで行動を共にしてきた方の強さは端から見ればどのようなものかというのは大いに気になるところではあるのだが、むきになった理由はそれだけでもない

・・・ジズさんは私の剣幕に驚いたのか目を丸くしている。


「ガロウ・サイハとかいったか。あの男も並の腕ではないな。純粋な剣技ならばミシル・タイナに匹敵するかもしれん。だが、如何せん闘気を使いこなしているとは言い難い。その点で言えば僅かに劣るのではないだろうか?」


・・・私から見ればガロウさんの身体能力は並々ならぬものなのだが、納得はできる。闘気を、つまりオーラを使いだしてまだ日が浅いとは言われていた。だからハンスさんの言うことはおそらく正しいのだろう。

しかし?


「ではもう1人のほうはどうだったのでしょうか?」


私が訊くとハンスさんは、


「あの小僧か・・・」


何かを言いづらそうにした。


「トウヤさんのことですよ?貴方の娘のフェンさんと同い年の」


「判っている。何と言うか・・・考えておったのだ。拙者の眼力というのも大したものではないな」


「?・・・仰る意味が?」


「あ、ああ済まぬ。拙者は他者の体捌きと闘気を見れば大体の強さが判ると先に言った通りだ」


「ええ。それが?」


「あの少年、トウヤ・ヒノカと言ったか。闘気は並々ならぬものだった。ミシル・タイナより、ガロウ・サイハより・・・・・・おそらくは拙者よりも上かも知れぬ」


「?・・・それならば一番強いのがトウヤさんということなのですか?」


「・・・それがそうとも言えんのだ。いや強いのは間違いないだろう。体のこなしも大したものだった」


「では、」


「しかし、だ。奴の表情を見るに奴は戦いをするようには見えない。まるで殺気がないのだ・・・いや、気負いがないと言うべきか。ある意味では武の頂に達していると言い換えることができるのかもしれない。だがあの強さで、しかもあの年齢でそのようなことがあり得るのだろうか・・・」


自問するハンスさんの言葉を聞いても何を言わんとしているのかはよく判らなかった。





〜〜〜





その瞬間眩しすぎて何も見えなくなった。

何が起きたんだ?



「くっ、今の光はいったい」


「分からないな。一瞬誰か見えたような気がするけど」


未だに目が眩んでおり何が起きたか確認することができない。

ただ、


「魔力みたいなものを感じたぞ」


「魔力?」


「ああ。だからあいつら以外に誰か居たんじゃないかと・・・」


「またしても突然現れたということだろうか?」


「多分。でもおかしいな?今はその魔力が無くなってる。そんなに現れたり消えたりするような奴が・・・あっ!」


「どうしたトウヤ君」



目が眩んだままガロウと話しておりさっき何が起きたのかを分からないままあれこれと考えを巡らしていた。

その状態から立ち直りようやく目が見えるようになり前方を見ると、



「!?」


「何処に行ったんだ?」



其処には1人の姿しか見えなかった。


「勝ったってことか?」


デュカ・リーナしか。

ということは何らかの方法で狼を倒したのか?



「おいデュカ・リーナ、」



何があったか訊こうとしたら突然吹いた生暖かい風と共に、デュカ・リーナが突然消えた。

・・・多分転送の魔法を使ったんだろう。



「なんだあいつ。何があったかぐらい教えてくれてもいいのに」


「あの女性・・・?」


一声も発せずに黙って何処かへと行った奴に文句を言っていると、ガロウが怪訝そうに呟いていた。



「どうしたんだ」


「・・・あの瞳は」


「瞳?」


「いやいい。気のせいだったのだろう」


「何だよ、気になるな」


「・・・気のせいだろう。あの女性があのような、」


ガロウのその後の呟きを聞いて俺は首を傾げた。

それはあいつがどのような生い立ちでどれほど永い年月を過ごしてきているかを知っていた、という理由による。



ーーー幼子が好奇心剥き出しで見つめるような瞳で。


ガロウのその呟きはだからあいつにはあまり似合っていない表現だと、俺は再度首を傾げた。





〜〜〜





「・・・アンリ、と言ったナ・・・貴様は何者なのダ?」


「我のことはどうでもいいと言った・・・そのような些末なことに拘るよりもお前は火炎の牙を滅ぼすことに専心せよ・・・!」


「っ!貴様は・・・!」


私がこの女の素性を訊いたのには理由がある。



「なんだ?」


「並の亜人、というわけではなさそうダ・・・」


「ほう?・・・何故そう思う」


「・・・この剣・・・こんなものがこの世に存在することすら私は知らなかっタ。だが貴様はさも当然のようにこれの威力を知っている。それに・・・これほどの力を持ってしても火炎の牙とやらを圧倒できるわけではないと貴様は言ウ・・・そのような驚異的な存在と向き合って生きているだト?だから貴様は得体が知れぬと言ったのダ・・・!」


私はヘルヘイムを受け取った後、魔力を吸収し意識的に全力の一撃を放った。

その結果、



「・・・矢張りお前の牙は中々のものだ・・・我の見込み通り・・・」


「五月蝿い・・・!私とて望んだ一撃ではなイ!何者なのダ貴様は!」


視界に入る辺り一面が消し飛んだのだ・・・


「・・・我は想念」


「何!」


「・・・世界に生きとし生ける者が持つ想い・・・」


「・・・どういウことダ」


「・・・憎み・・・怒り・・・哀しみ・・・妬み・・・疎み・・・蔑み・・・そして絶望す・・・」


「・・・感情、ということカ」


「そう・・・人間が呼ぶところの感情・・・負の・・・負の想念・・・それらが集まり形作られたものが・・・」


「貴様、ということカ?・・・だが、」


私は話を聞きながらアンリの姿を見やった。この女は背から生えた翼を別にすれば何処からどう見ても人間のような見た目をしている。


「・・・火炎の牙にその時持っていた肉体を消滅させられ我は闇の国へと追いやられた・・・・・・そこで、あの者に出会ったのだ・・・」


「あの者だト?」


「そうだ・・・闇の国の支配者・・・我にすら不可能な術を使う・・・」


「待テ?闇の国とはいったい・・・」


「・・・そうだな。この世界に住まう者からすれば所在すらも不明だろう・・・かつてこの世界の者はその国の名をこう呼んでいた・・・」



魔界、と。



そう呟くアンリの言葉を聞いて私はいくつか疑問を持った。

では、何故アンリはこの世界へ来ることができたのか、何故肉体を消滅させられた、にも関わらずこの女は存在しているのか、と。



「我は復讐者(アベンジャー)・・・そのためだけに・・・火炎の牙を滅ぼすためだけに、この世界へと顕現したのだ・・・」


私はそれを聞いて思った。それならば火炎の牙とやらはこの世界に住まう・・・人間なのではないか、と。


「・・・だがお前に会えたのは僥倖だった・・・それに、闇の牙よ・・・その剣があればお前の本懐も果たせるのではないか・・・」


「私の望みはお見通しカ・・・そうダ・・・これがあれば奴に勝てる・・・あの強き人間に・・・!」



私は柄を握りしめ、1人のあどけない少年の顔を思い浮かべた。





〜〜〜





この方は何故急にこの場に?


私は突然生暖かい風と共に現れた方の姿を見て首を傾げた。

というのは、



「デュカ・リーナさん、でしたか。あの方達とご一緒されていたのではないのですか?」


確か魔法を使いトウヤさんとガロウさんと一緒に鬼ヶ島に行くと行っていた筈だ。なので私は訊いたのだが、


「帰ってきたんだ」


貴女は何を言っているのと言わんばかりにデュカ・リーナさんは当たり前のように答えた。その青い瞳で此方を凝視しながら。



「え、ええ。それは見れば分かりますが。お一人でですか?」


あちらでの用事が終わったのなら丁度良いのだが、見たところ他に誰も居ない。それに?


「わたしは帰ってきたんだ」


この鬼族の女性はこのような口調だっただろうか?あまり話したことはないが、以前傍で漏れ聞いた口調はこのような感じではなく、まだ大人のようなものだった気がしたのだが・・・


「・・・変わらないのね」


「あの?デュカ・リーナさん?」


デュカ・リーナさんは何故かこの場に居る1人へと視線を向けてそう言った。


「デュカ・リーナ殿?」


言われた本人、ジズさんもどこか怪訝そうな様子だ。


「わたしは帰ってきたんだよ・・・・・・おねえちゃん」


「っ!?あ、貴女はまさか・・・」



優しい語り口、親しげな視線、それらをぶつけられたジズさんが驚愕したようにデュカ・リーナさんの顔を見つめた。

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