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第83話〜闇〜


一旦光の大陸へ戻る、ということになりジズさんの魔法で光の大陸首都ラズマへと帰還した。

首都の中心にあるラズマ城に入るとそこには一人の青年が居た。


「ジズ様。首尾はいかがだったのでしょうか!よもや失敗したということはありますまい!」


「ラゴス、お主は何を興奮しておる?」


その青年はラゴス・サイモンという人物で聞くところによるとこの城の管理を任されているそうだ。ということは光の大陸の中でもそれなりの立場の方なのだろう。


「・・・剣聖様。災厄を討つという大儀のためにはあらゆる手段を講じる、というのは分からないではありません。ですが死者を、英霊を辱めるという行為はいくらなんでも容認できないのではないでしょうかっ?その意図するところは自分には図りかねますがそこまでしておいて結果がでなければなんのために父は・・・!」


鼻息荒くハンスさんに詰め寄る青年の言葉に皆が首を傾げた。


「ラゴス殿?いったい何のことを仰っているのでしょうか?貴方と同じくラズマ近衛騎士であったジェノス殿は去年病にて召されたでしょう」


「ジズ様・・・私は聞いたのです、此処を訪れた亜人より。私の父が、生きる屍となっていたと。そのような奇跡を起こせるのは貴女しか知りません・・・!」


「亜人・・・?ああ・・・デュカ・リーナ殿のことですか。しかし生きる屍とは?私にはそのような外法を行使した覚えはありませんが。というよりも魔法具なり何なりを媒体としなければ死者を蘇らせるのは私では力不足でしょう・・・光の戦士殿を蘇らすことができたのはそのための準備を行ってきたこと、それに運が良かったにすぎませんし・・・」


「っ!?・・・で、ではいったい誰が・・・あの亜人がそのような謀りをする意味はないはず・・・」


ラゴスさんはジズさんの言葉を俄かには信じられないようだ。


「ふむ・・・死者を蘇らせる術か。アルスよ、お主ならば何か分からぬか?」


話を聞いていてハンスさんも疑問に感じたのか、自身の剣へと語りかけている。それを見たラゴスさんは目を丸くしてハンスさんを凝視している。


『死者、か。その話には不可解な点があるな』


「ほう?」


『まずは誰が生きる屍を生み出したか、ということだ。これは不明だが最も不可解なことはその者は何のためにそのような事を行った、かということだ。私に掛けられた呪いを解き本来の姿を取り戻すというのがジズの目的であったように何かしら意図するところがあったのだろうとは推察できるが、それでも死者を一時的にではあるが蘇らせる魔法は魔力のみならず多大な精神力をも消耗する。ただの遊び心でするにしては少々不可解だ』


「成程な・・・大司教にそのような余裕があるはずもない、か。だがそう考えると益々おかしな話にはなるな」


実際に死者が蘇るという現象を目の当たりにした私にとって、あの時それを行っていたジズさんの消耗は端から見ていても著しいものだった。損得勘定で考えても、倫理的にもそう易々とできることではないというのは頷ける。だからハンスさんの言うようにこれはかなりおかしな話ではある・・・


だが、今はそのことよりも、


「ジズさん。先程のお話ですが、」


私が声をかけると大司教と呼ばれる女性はびくっと肩を震わせた。


「リシナ殿・・・」


そこには私に向けるすがるような視線が貼り付いていた。


「貴女を責めるわけではありません。ですがハンスさんは知っておくべきでしょう」


「ぬっ?トゴウ、何の話だ」


「貴方を斬り裂いた方についてのことです・・・」


そうして私はジズさんが見た状況を語った。





〜〜〜





やっぱり間違い無さそうだな。

息も吐かせぬ連続の剣戟を繰り出す狼を見ながら俺は確信した。

あの剣が。


「加勢しなくていいのか?」


狼の剣に杖で応戦している奴に声をかけると、そいつは首を横に振っていた。

手出しは無用ってわけだ。


「それにしても・・・あの速度の攻撃を全て捌いているだと?あの鬼族の女性は、」


俺と同じく突然火蓋が切られた戦いを傍観していたガロウが驚いていた。


「ああ、ガロウはあいつの戦いを見たことがなかったっけ。ああ見えてあいつは、」


バンッ!



デュカ・リーナについてガロウに説明しかけると何かが弾けるような音が聞こえた。


「・・・強力な魔法の使い手だぞ、魔法の」


突然の爆発音と砂ぼこりが巻き上ったようにたった今使ったみたいだし、飛んだり転送したりと様々な技を見せられてきた今更言うのは遅すぎる感もあるけど。


「ああ、それは知っていたのだが。こと戦闘に於いてもあれほどの腕だとは・・・あの小柄な細身で」


驚きようから察するに、やはりガロウは魔法を使った戦いというものはあまり見たことがなかったらしい。


「でも今の魔法をあっさりと防ぐなんてあの狼も魔法を使える、のか?・・・何よりも、」


素早く位相を変えながら絶え間なく剣戟を続ける狼の手元を改めて見てやはり、と俺は驚きを隠しきれない。


「君が何を言いたいか分かる気がする・・・あの男、ミシル・タイナと言ったか。あのかつて騎士だった男の剣だなあれは」


やはりと言うべきかガロウも狼の得物の正体に気づいていた。


「ミシルに何かあったのか?」


あの狼に尋ねてみたいと思うが今目の前で繰り広げられる戦いを見ると口を挟める雰囲気でもないから声をかけないほうがいいだろう。

先ほどからの狼の連続攻撃に対してそれを捌き、時折魔法で反撃しているデュカ・リーナのあまり余裕がなさそうな表情を見て、そう判断した。





〜〜〜





何故だろうか?

腑に落ちないところがあり、気を抜けない戦いの最中でありながら私はいくつか疑問を覚えていた。眼前で殺意を剥き出しにしてくるアルカード・ブラッディへと。


以前私はこの犬っころを魔法で焼きつくして殺したので、恨みを持たれているというのはこの犬っころにとってはまあ正しい感情なのだろう。(その際に私の恨みを晴らすべく若干屈辱的な行為をさせたことも併せて)


光の大陸へ行った時に死者を蘇らせるという魔法も実際に目の当たりにしたものだから誰かしら魔法でこの犬っころを蘇生させた、というのも有り得ない話ではない。

問題は誰が何の目的でこの犬っころを蘇らせたかということだろう。それに何故この犬っころがこの剣を持っているのか。

・・・あの騎士が扱っていた剣。何回もその斬撃をこの身に受け・・・一度はこの肉体を斬り裂いたこの剣を。

それに、今のこの状態自体・・・


「ワンちゃん?貴方はどうして私の居場所が分かったのかしら」

「オマエヲコロス!」


・・・会話にならない。余程私を恨んでいるのだろうか。だが、そのような些細なことよりもアルカードは何故私の居場所を知り得たのか。そして転送の魔法を行使することができたのか・・・飛翔ではなく転送の魔法は失われた魔法の範疇に入るものの竜族が使えるように、(龍巣から龍巣という限られた条件下ではあるが)莫大な魔力が必要なものというわけではない。転送魔法を行使するために何が困難かと言えば、その方式・・・魔法の術式と言うべきか、それを頭の中に思い浮かべて体外へと放出する作業がそれにあたる。元々の知識で知っている者や私のように自ずと魔法が使えるようになった存在を別にすれば後付けで使用できるようになるのは不可能に近いはずだ。

・・・以前私は自身の復讐のため、目的を果たすために、かつて闇の大陸で私を討ち倒した狼、獅子、悪魔について事前に調査したが、その時には少なくとも悪魔以外は術式を利用する魔法の使い手はいなかった。だからそもそも狼が誰の助けも借りずに魔法を使うなどとは有り得ない話だ。


「何か焦臭(きなくさ)いわね・・・」


私は永年人の道から外れて生きてきた存在だ。その経験から考えれば、有り得ない、理屈に合わないことが起こるという時は大体人以外のものの力が働いている。(単純に死した状態から蘇った狼が新たに魔法を行使できるようになったと考えるには私は経験を積み過ぎているのでどうしてもそうは思えない。

・・・それに別の根拠になるが光の大陸で見たリビングデッドは、蘇ったにしてもぎこちなさもなしに動いていたし生前に培ったらしき生きざまや知性も垣間見れた。確かジェノスと名乗ったその存在は。

しかし対比してみるに目の前の狼は、人狼族の中でも随一の知性の持ち主と言われていたアルカード・ブラッディは、会話を試みても何の要領も得ない。

・・・私への恨みが強すぎて会話すらしたくないという意思の表れか、とも考えたが、どうやらそうでもないらしい。ただ単に蘇って動いている、というだけだ。私がそう思い至った理由は狼の、


「単調な動き・・・」


剣、噛みつき、剣、噛みつき、と狙いこそ頭や内蔵を目掛けての急所ではあるものの何も考えずに似たような場所ばかりを攻撃してくる狼は、よく見れば虚ろな焦点の合っていない瞳をしている。

これは無意識的に、あるいは盲目的に私へ攻撃していると判断すべきだろう。 私からすればそのような単調なただ素早いだけの攻撃などはさして本気も出さずにいなすことが可能だ。


「そろそろ終わらせてあげましょうか・・・爆裂(バースト)!」


先ほど狼の足を一瞬止めた魔法を再度放った。先ほど放った時は傷こそ負わなかったものの狼の動きが明らかに鈍ったそれを今度は連続で数発・・・


「カラダガ!」


しかし放った爆裂(バースト)は必要以上に後退った狼の素早い動きに全て回避された。


「キオクガ!」


狼は何かを叫びつつ回避をしている。


「へえ・・・反応は対したものね」


「・・・・・・」


「でもこれならばどうかしら・・・・・・獄炎(ヘルブレイズ)!」



炎の魔法は爆裂の魔法と違い広範囲に放射されるため、多少動きが早い程度ならば回避は不可能なはずだ。まして先ほどの狼の魔法に対する過剰な反応はかつて自分の身に傷を与えたものに対する怯えの色が濃かった。

それ故以前狼へ止めを差したヘルブレイズを放った。


だが、


「アツイ!・・・・・・・・・」


「なっ!?」


「コレハ・・・チカラが溢れる?」


アルカードからたどたどしい口調が消え、魔力の高まりを感じた。


「そう言えば・・・」


その知性を取り戻した、かに見えるアルカードを見て私は光の大陸で会った1人の人間を思い出した。



「私は何故・・・・・・?それに何故、鬼婦神が再び目の前に?」


「・・・ワンちゃん?戸惑っているなんて余裕ね!ネイルッ!」


生きる屍・・・その特性の1つに気づいた私は剣形態にした杖を有無を言わさず狼の頭上に降り下ろした。


「・・・この反応?」


「再び鬼婦神と相交えるなどと!何故かは知りようもないが今度は奴を殺す!」


私の斬撃を持っている剣で受け止め生気のある知性が窺える視線を私に向ける狼が其処には居た。


「・・・前のようにはいかないようね」


言いつつ魔力を高めた。魔法の直接攻撃は通じないとみたために。




〜〜〜




〜素の大陸、とある場所〜




『おかしいわ?そんなはずは・・・』


そう呟く金髪の女性はその場所の前方を見ながら、自分の関知能力をまず疑った。その次にその場所に居る筈の知り合いの気持ちを慮った。


『あの巨体が動けば大陸の住民も何かしら異状を感じるだろうし、何よりあの彼が理由もなしに割当てられた大陸から移動するなんて・・・』


矢張りそれは考えられない。余程の力が作用したのか、はたまた何かしらの出来事・・・様々なことを見通せる自分の力を持ってしても予見できない何かがこの大陸で起こったのか。


『魔力の片鱗すら無い、ということは・・・最近のことじゃないのかしら』


仮にあの巨体が何処か別の大陸に移動しているとしてもその名残や残しょうすら一切感じられないというのはおよそ考えられない。

それは自分のその知り合いの持つ一族の中でも規格外の重量や体積から考えることができる。つまりは彼はその存在が圧倒的に大きいのだ、主に物理的な意味合いで。それ故この世界に落とされた時に一も二もなくこの世界の物質の根源足るべきこの大陸に彼が割当てられた。


しかし、


『いつの出来事かは分からないけど私がまるで視えないということがあるかしら・・・』


自分の能力に絶対の自信を持っている金髪の女性、レヴィアタンは納得ができないように呟いた。

戦いの能力はともかくとして自分の能力、世界を跨ぐ海から海の生命からあらゆる情報を集積しそれを脳内で纏めて知識と照らし合わせて結果を導き出す能力に何の情報も引っ掛からないというのは到底納得ができるものではない。

何の情報もない、ということは闇の中で何も見えずに手探りで欲する事柄を探す行為に等しい。多くは得られずとも何かしらの情報は入って然るべきはずなのに・・・


『何処に行ったのかしら・・・』


しかし情報も何も無い以上は彼を探す術がない。まるで自分の元へ情報が行き届かないように何かに阻害されたような・・・見えない存在が自分へと知られまいと行った行為のような・・・


『ベヒーモス・・・』


レヴィアタンは俯いたまま、ただその場で知り合いの名を呟くことぐらいしかできなかった。

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