第81話〜遺物〜
ーーーによる救済・・・
と言えば聞こえは良い・・・が、例えばどうだろう、そのーーーが○○○ならば・・・
それは認めても良いものだろうか・・・
ある村の老人の回想より
〜〜〜
この人は感情を露にする人だったのだな、と興奮した様子のその人物の顔を見ながらそんなことを思っていた。それにその話の内容には自分も興味があるものだったので珍しい、と言うよりも初めて見るその姿には何も突っ込まずに邪魔をしないようただ黙って相槌を打っていた。
「ーーーーーーというものだ。どうだ、奴の子孫としてその志を引き継ごうとは思わんか?というよりは一国を預かる者として、と言うべきか」
資料庫から舞い戻り、先程から興奮した様子で矢継ぎ早に言葉を繋いできた羅義神人はあたしに向かって若干興奮した様子で言った。
「確かに興味はあるわ。それを達成できれば他の大陸へ往き来するのも容易になるし、それどころか技術面においても他国に先んじることができる、それこそレヴィアスよりもね。国交の際にも貿易の際にも取引の大きさな売りとすることも可能ね。でも・・・それはどうやってやればいいのかしら?」
あたしは口では懐疑的に言っているが実のところは結構乗り気で話を聞いていた。先祖が夢見たという、かつての英雄が語った内容はそれほどまでに心惹かれるものがあったのだ。だから興味津々でその方策について訊いた。あたしが読み解いていない資料にそのような技術に関するものが載っていたとは知りもしなかったし。
「方法は分からん」
ずっこけた。
「いやそれじゃただの夢物語じゃない!」
そして突っ込んだ。
「うむ」
「いや、うむじゃなくてね・・・」
「正直、図以外は殆ど理解できなかった」
「はあぁ・・・折角面白そうな案なのに」
「だが、過去には間違いなく実在していたものだ。あの書物だけではなくこの目で確かに見た」
「生ける証人ということね・・・いや、でも製造方法が不明ならまるで意味が無い話じゃない」
空を飛ぶ乗り物。それを開発できれば地形や魔物に左右されずに他大陸へ航行が可能となる。その利便性についてはあの火の竜に乗って証明されている。何を隠そうあたしは水の大陸からカグツチまで空を飛ぶサラマンドラの背中に乗って帰ってきたのだ。羅義神人の話は、要は竜の手を借りずに人の技で同じことができる、と言っているのと同義だろう。幼い頃に見たことがある、という話だし。
そこまで考えてあたしは現在の押し迫った状況を打破できれば学者を本格的に研究に回したほうが良いかもしれない、と思った。その書物を読み解くために。新技術を開発・・・復活させるために。
と、1つあることを思い出した。
「そう言えば遅いわね?」
火喰い島に行っているサラマンドラのことを。
〜〜〜
矢張りな・・・
あの魔物の指示に従って律儀にも火口付近を隈なく探してみたものの予想通りと言おうか、彼奴の読み通りと言おうか、それらしき石のようなものは見当たらなかった。
『そもそもがあの魔物も言っておったな・・・赤い石とやらが現存している可能性は限りなく低いと』
それでも一応確認を、というところがあの魔物の執拗なところにも感じるがあの魔物は余程その石とやらを欲しているのだろう。あの者は我と目的を同じくする者であり、また我を戒めより解放した者でもある。それ故に我はあの者が欲するところを出来得る限り叶えてやりたいとは考えているのだが・・・
『無いものは仕様があるまい・・・どれ、あの預言の者に伝えるとするか』
そう思い我が分身とも言える刀へと念を送り言葉を伝えよう、としたとき視界の端に何かが映った。
上空を旋回しておりかなりの位置まで見渡せる今の我に見えるものと言えば、
『鳥か?・・・だが、この島は』
とある理由によって鬼族以外の生物の息吹きは感じられない筈だ。
『ああ・・・奴か』
唯1つの例外を除いては。その例外と言える存在が自身の存在を感じたのだろう、此方へ向かって飛翔してくる。
『不死鳥よ、久しいな・・・』
『サラマンドラ!生きてたの!』
その鳥のような存在、不死鳥フェニックスは数万年ぶりに再会したためか自身の姿を見て目を丸くしていた。
『何とかな・・・だが汝のその姿?』
その姿を見て首を傾げた。
水の大陸から火の大陸へと人間達を送り届ける道中にて、封印されていた自身の知り得ない現在の火の大陸の状況を聞いた。その中でこの島の住民や火の大陸に人間に不死鳥の姿についても話を聞いていたが、その中では不死鳥の姿はまだ幼獣ということだった。
『どうしたのサラマンドラ?』
だが今、自身を見つめてくるその不死鳥はどう見ても成獣そのものだった。聞いた話を総合すると不死鳥は転生してからまだ僅かな月日しか経っておらず、このような姿であるはずはないが・・・
『不死鳥・・・汝は何故そのような姿になっている』
『サラマンドラ?あなたはわたしの転生周期を知ってたの?』
『いや知らん。というよりも我は最近まで大陸で起こっていることを知ることは叶わない状況へと陥っていた・・・だがとある人間より汝がどのような姿になっているから聞いていたのだ』
『ああ、そういうことなんだ。人間?、ということはあの女の子かな?闘神と呼ばれていた人間の末裔の』
『そうだな。汝と話したと言っていたが・・・汝は成長速度が上がったのか?』
『そうじゃないよ。わたしも永い間転生を繰り返してきたけどここまで成長が速いのは今回が初めてなの。』
『そうか・・・』
それきり我は口をつぐんだ。何と言うべきか考えていたということもあるが、他に聞きたいことがあったからだ。
『ところで汝は赤い石を見たことはないか。あの中で』
『赤い石?』
この島を拠点とする不死鳥ならば石の有無を知っているのではないか、という我の期待を裏切るかのようなその態度に僅かに落胆した。
『石?赤い石?・・・・・・・・・・』
・・・さて、自身の義務を果たして大陸へと帰るとするか、
『石かどうかは分からないけど、もしかして』
そう思った矢先不死鳥が何かに思い至ったように、だが自信なさげに言う。
『地面に埋まってるあれのことかなあ?』
・・・どうやら穴堀をして再度確認せねばならないらしい。あまり時間に暇がない我はそっと溜め息を吐いた。
〜〜〜
ガキィン!
伸ばした炎斬の切っ先は銀色の山に弾かれた。
「硬いな、やっぱり」
しかしそれは予想通りだ。全力ではないにしろ、オーラとプラーナで強度を上げているにも関わらず弾かれたということは単純な話、銀色の山もオーラとプラーナで強度を上げているということだ。先程の鳥は技こそ使っていたものの強度は大したことはなかったが、この銀色の山・・・ニルナが中に居るだろうそれはその大きな見た目に伴い硬さもかなりあるのだろう。一瞬だが交差した今の一合でそれは感じた。
本当にニルナなのかどうか確認したかったという理由もあるが上手くいけば何らかの反応があるかと思ったが弾かれただけだ。ただ、今の一瞬で膨れ上がったオーラは多分あいつのだろう・・・と思う。
「よし。じゃあ試してみるか・・・あれは何の話かよく覚えてないけど、取り敢えず名前を呼んだらいいんだったよな」
技の成り立ちについて親父が話している時に急にそんな感じの話になったのをうっすらと覚えている。
その話は前にプラーナを取り込み過ぎて自我を失った人の話だった。実例があるために親父があれほど口を酸っぱくしてプラーナの取り込み過ぎに注意したんだとその時はぼんやり思ったものだが。
ええと・・・確か、
なんとかさんへなんとかさんがその名前を呼んだら、なんとかさんが・・・・・・紛らわしいな、呼んだほうが一、呼ばれたほうが二にしよう。一が二に呼びかけたら二が反応をし、そして大気中に取り込まれた二の自我が戻ったとか・・・だった、と思う。
・・・そのためには取り敢えず名を呼びかけたらよかったはずだ。
「ニルナッ!」
俺の叫びに伴ってまたしても山から感じるオーラが上がったような気がした。たださっきと同じく一瞬のことなので確信は持てない。ズオオッ、という音は聞こえたが。
「名を呼ぶだけじゃだめなのか?」
確かに反応があるにはあったが今のはおかしい。俺が叫んだ途端目に見えて山が後退したのだから。なんでだろう?あの話を聞く限りではそれでいいと思うんだが。
・・・そう言えば、あの時俺と同じく話を聞いていたニルナは何故か顔を背けていたような?いやそれもうろ覚えだからはっきりとは言えないが・・・
「トウヤ君。先程からの一連の行動はいったい?」
俺のしていることを不審に思ったのかガロウが訊いてきた。
「俺も確信は無いんだけどな。多分だけどこの目の前の山は、」
ガロウに俺が気づいたことや聞いた話を説明した。端から見れば何をやっているんだ、と思ったということは分かるからな。
「成る程な。私もプラーナについて教えられたのは僅かだが、それでも取り込み過ぎには気をつけろとはタチオ師匠に言われた。其れほどにプラーナというものは取扱いに注意を払う必要性があるのだろう」
俺の話を聞いて頷くガロウの顔を見てふと気づくことがあった。
「そういやガロウ、あんたはニルナを知っているんだったっけ」
「・・・知っている」
「?」
何でガロウは顰めっ面になったんだろう。まあそれはいいとして、
「じゃあ、呼びかけるのを手伝ってくれよ。今した話は知り合いの奴がそれをすれば自我が戻ったってことだから、やり方は間違ってないとは思うんだ。手は多いほうがいい」
「・・・承知した」
俺の提案に何やら渋々といった感じでガロウも呼びかけ始めた。
こいつは叫んだりするのが嫌なのだろうか?
それはともかく俺は銀色の山へと意識を向けた。自我を失っているということは無意識にこっちに攻撃してくる可能性があるということだ。さっきから攻撃こそしてこないが、警戒しておくに越したことはないだろう。
・・・ヤ
しかし、俺の予想が正しいとしても呼びかけるだけでいいのだろうか?確かに反応はしていたが俺の声が中に居るだろうニルナへと届いているかどうかは確認しようがない。
・・・ウヤ
そもそも銀色の山から感じた力が本当にニルナのものかは確信が持てないし、
・・・トウヤ!
ん、なんだ?今俺を呼ぶ声がしたような、
「なあ、今誰か呼んだか?」
そう思って後ろを振り返ったが誰も俺を呼んでないと言う。
・・・?
じゃあ、今の声は、
・・・目の前よこのクソガキ!
「へっ?」
何か聞き覚えのある呼び方が聞こえたぞ。しかも目の前って・・・
「この山しか無いよな」
ということは・・・
「誰がクソガキだ、このクソババア!」
山に向かって突っ込んだ。少しイラッとしたし、全力で叫んだ。
そう、俺をクソガキなんて呼ぶような奴は1人ぐらいしか思い浮かばない。なので、先程の予想は確信に変わった。
〜〜〜
「・・・私を試していルというわけカ」
この墓場に連れてこられ、女が私にさせようとしていることの意味を何となく悟った。
この女は私の、
「だがこのようナ魔物、ものの数ではなイ!」
叫びつつ突然現れたその魔物の横腹へ向けて剣を薙いだ。
『当然だ・・・お前にとっては所詮雑兵、見たいのは牙の力・・・・先程見せた牙の力を見せてみろ』
「貴様、誰に物を言っていル・・・私に指図するナ!」
私の戦いに高みの見物を決め込んでいる女、アンリという亜人はどうやら先程見せた私の全力を見たいらしい。だが奴の指示通りにやるのも業腹なのでその弱い魔物を何の力も込めずに無造作に斬り裂いた。
『お前・・・何故我の命令に背く?』
「・・・貴様ハ言っていたな?私に力を与えルと。ならばそれを早く寄越セ!」
そう言って私はアンリを刺すような目付きで睨んだ。このような下らんことに時間を費やしている暇はない。早く、奴の元に行かなければ。
『・・・我にとっても力は必要なもの・・・もう一度お前の牙を確認してからでなければ渡すわけにはいかん・・・』
確認だと?実際にどのような力かは不明だが、もしや私に渡すのが惜しくなったのではあるまいな・・・
「貴様・・・私にこのような魔物をあてガった真意はそれカ?」
目の前の獣人の成れの果てを見下しながら私はアンリの欲するところを悟った。
『そう・・・その獣ならばお前の牙を試すのに丁度良い・・・・・・何処を見ている、まだ終わってはいないぞ闇の牙・・・?』
「なニ!」
たった今胴から真っ二つに斬り裂いた筈の獣人が物も言わずに眼前に立っていた。
虚ろな目をしたその人狼は目標が定まらないのか目の焦点が合っていない。
「無傷だト・・・?」
確かに我が剣で斬り裂いたそいつは斬られた痕すらなく五体満足な姿をしていた。私がアンリへと目を向けていたあの数瞬で再生したということか・・・
『全力の牙を放て・・・さもなければお前が喰い殺されるぞ・・・』
「ふん・・・このような緩慢な動きにやられル私ではなイ!」
「・・・・・・」
だが、この獣は何故襲ってこない?体躯こそ私とそうは変わらないが獣人特有の素早い動きで今の間にも攻撃は可能だったはずだ。というよりこの獣の身体はいったい・・・
『・・・人狼種史上最高の頭脳・・・業火に焼かれて死んでいたとはな・・・・・・都合が良い』
「死んでいた・・・だト?」
アンリの呟きに引っかかった。
『そうだ・・・その獣は既にこの世の者ではない・・・』
「・・・・・・成程ナ。貴様は死者を蘇らせることができる、というわけカ。それでわざわざこのようナ場所へ」
言われて見ればその獣の虚ろな瞳には生気をまるで感じられない。
「斬り倒せぬわけダ・・・」
だが、アンリという女がそのように死者を蘇らせる力を持っているとは・・・それならば奴の言う火炎の牙なる者も蘇らせた者で当たらせればよいのではないか。例えばこの人狼のように。
『火炎の牙・・・奴に不死兵は通じぬ・・・火炎の力は生命の輝き、対極に位置する死者では太刀打ちできぬ・・・!』
私の目線に気付いたのかアンリは苦々しい口調で言う。過去に試したということだろう、そして通じなかった。
・・・?
「ということは、だ・・・私の剣はその火炎の牙とやら二似通っていルのではなイか・・・?」
『違うな・・・我が求めた闇の牙は・・・』
「っ!?獣ガッ!」
油断していたわけではないが眼前の獣が突如飛び掛かってくるのに気付かなかった。それ故その隙を突かれて首筋を噛みつかれた。
「目を離せば襲ってくルということカ」
しかしそれも1瞬のことでその獣を地面に打ち落とした。
「ガルルル・・・?」
「ほう・・・耐えたカ・・・・・・!魔力が上がっていル?」
しかし地面に這いつくばっている獣から感じる魔力が先ほどよりも上昇していることに気づいた。
「貴様・・・何をしタ?」
おそらくその要因を生み出したであろう女へ問うた、
『我ではない・・・その雑兵の唯一持つ特性だろう・・・吸血か・・・』
「な二?」
「・・・・・・ドコダ・・・!」
「っ!?・・・・・・この獣人は?」
突如言葉を発した人狼のその言葉を聞き私は理解した。
「魔力を吸収しタだト?」
片方が欠けているその顔の牙を見ながら私はその事実に気付いた。今の私は大気から無尽蔵に魔力を吸入できるため減少した分は即座に補填している。その私の強大な魔力をこの人狼は、おそらくはその残った方の牙で吸収したのだ。
『ほう・・・思わぬ力だな・・・それなりに使えるか』
「使える、だト?」
『そうだ・・・お前の牙の力を見るための捨石だったが・・・中々使える力のようだ・・・』
居丈高にほざくアンリを傍目に目の前の獣に意識を割いた。
「・・・・・・ジャマダ・・・」
「どうやラ全力でやる必要があルようだナ・・・!」
『そうしろ・・・どちらにせよその程度の雑兵にやられるのならば牙の力は要らん・・・』
私は力を手に入れたら真っ先にあの女を殺そうと決心し体内の力を高めた。




