第79話〜憧憬〜
ロナン・サタクから話を聞いた俺は取り敢えず精気を探ってみることにした。
「分からないな」
だが、この島に入った時に感じたあの膨大な量の精気は今は感じることができなかった。
「・・・トウヤ、神殿の方角はあちらなのだけれど何か分からないかしら?」
「ああ。俺もそう思ってたけどそのあたりにも何も感じないんだ」
先ほどデュカ・リーナが言っていた嫌な感じがする場所あたりは今は何も感じない。
「おかしい。俺は確かに神殿内で襲われたんだが・・・」
「サタクって言ったか。お前を襲ったのがニルね、ニルナだったのか?」
俺の言葉にロナン・サタクという鬼族は怪訝そうに言った。
「いや、違う。ニルナ・カナワではなく稼働していなかった・・・筈の精気兵だ」
「稼働していなかった?」
「そうだ人間。三体あるそれに対して、お前の仲間のニルナ・カナワとノルエルが何やらこそこそとしていやがった。そしてある時突然一体の精気兵が襲ってきたんだ」
「ふうん・・・精気兵。プラーナで動く兵器ってことか・・・」
デュカ・リーナはそいつのことを守護者と言っていたな。なら俺がこの島に来て初めにぶった斬ったあの守護者って丸太みたいな銀色も精気を使って動いていたことになる。
ニルナが精気に取り込まれた、というのは今のサタクの話も併せて考えればどうやら精気兵っていうのに何かが関係ありそうだな。
「お前の話は分かった。だから急いでニルナとそのノルエルって奴を探さなきゃな」
「だがどうやって?」
「問題はそこなんだよな」
何故か精気を感じとることができない、その上あいつから連絡もないから、
「・・・ロナンの話を聞いて私は思ったことがある」
俺が考えているとジン・ガトウが言った。
「なんだ?」
「先ほど此処に辿り着く前に私は、」
ジン・ガトウの話を聞くと、こいつは此処に来る前に遭遇したらしい、銀色の奴と。
そこまでは先程の俺達と大して変わらない状況なのだが、その銀色というのが、
「山ぐらいの大きさって。でもお前の言う通りだとするとそれだけ大きかったらここからでも姿ぐらいは見えそうなもんだけどな」
何やら動く銀色の山を見たという話だ。それにはさすがに敵わないと思ったのか全力でこの門があるあたりにまで撤退してきたが、そこでサタクに襲われたらしい。踏んだり蹴ったりだなジン・ガトウ。
「逃げる際に距離は大分稼いだからな、奴からはかなり遠ざかったはずだ・・・それよりも対峙した時は絶望的なまでに強大な精気を感じたのだが、今はその欠片すら感知することができない。いったいどういうことだ・・・」
それを聞いて俺はジン・ガトウが見た銀色の山は俺が島に入ってすぐに感じた精気と同一のやつじゃないかと思った。
「ならやっぱりその神殿って建物がある場所に行くしかなさそうだな」
「おい貴様!私の話を聞いていたのかっ?」
俺の提案にジン・ガトウは何やら焦ったように言う。
「お前は何を焦っているんだ?」
その態度を不思議に思い訊いてみると、
「貴様は阿呆か!私ですら撤退するしかないと感じるほどのあの山になんの対策も持たずに行くつもりか!?せめて偵察をするべきだろう!」
「ああそういうことか」
凄い剣幕で捲くし立てるジン・ガトウの顔を見ながらようやくこいつの言わんとするところを理解した。
つまりは得体の知れないその銀の山の元へいきなり行かずその前にその正体、あるいは強さを探るなりなんなりしろってことだろう。
でも、
「ふう・・・ジン君、貴方のその慎重さは知っているつもりだったけれど、それはどちらかと言うと臆病の範疇に入るのではないかしら?」
「なっ!?デュ、デュカ様・・・」
俺ではなくデュカ・リーナに突っ込まれてジン・ガトウは何かへこんでいた。
「そうだな。それにいくら得体が知れないって言っても少々の奴なら大丈夫だろ?お前はともかく俺も居るしデュカ・リーナも居る。それにガロウも居るしな。戦力としては別に不足はないと思うぞ」
まだへこんで項垂れているジン・ガトウを安心させるために俺は言った。
「ぬぐっ」
しかしそんな俺のフォローに対してジン・ガトウは何故か俺を噛みつきそうな目つきで睨んできた。
「・・・まあ、言い方はともかくとしてトウヤの言っていることはあながち間違ってはいないでしょう。先ほどジン君が遭遇したという巨大な精気兵?山?のようなものはプラーナとやらも膨大なものを秘めていたということだったけれど、今度は貴方1人じゃないしね。このトウヤという人間は思慮深さこそ足りないけれど、こと戦いに於いてはある意味で私よりも頼りになる部分もあるから・・・それが人間が扱う特有のチカラ、精気に関しては尚更だと思うわよ?」
俺が思ったことの殆ど全てをデュカ・リーナがジン・ガトウに対して取りなすように言った。褒められたと同時に何か貶されたような気もしたんだが・・・
「というわけだ。その山に会いに行ってみようぜ」
それは気にしないことにしてその場に居る奴等を促した。
あとはあいつからの連絡待ちだな。
〜〜〜
我はいったい何をやっているのだろうか・・・?
サラマンドラは火喰い島の上空を飛翔しながら自問していた。
先ほどあの預言の人間と合流したはいいが・・・
サラマンドラは1人納得のいかない表情で先ほどのやり取りを思いだしていた。
▽▽▽
『待ちわびたぞ・・・』
空中を飛翔している者達へと声をかけた。この島に訪れていたことには気づいていたが中々自分のところへと来ないことに業を煮やして態々自ら近づいたのだ。
「サラマンドラ?それがお前の本当の姿なのか?」
我が龍神様の預言の者だと確信している人間が、本来の我が姿を見てそう言った。
『そうだ。そもそも我は当初はあの鬼族の者をこの島に送り届けるためだけに此処にやって来たのだ・・・だがあの者がこの島に起きた異変を感じたということで何が起きたかその調査を手伝ってやっていた。此処は島という割にはかなり広いからそちらのほうが都合が良いらしい・・・また、魔力を消費するこの姿でも魔力を取り戻した我なら多少本来の姿をしていても差し障りはない・・・』
我が言うとその預言の人間、トウヤ・ヒノカという者は何かを考えている素振りを見せた。
『どうしたトウヤ・ヒノカ・・・?』
「いや、な。さっきまでこいつと話してたんだが、」
そう言って傍らの魔物を示した。以前我の封印を解いたこの者は我を見ながら何か言いたそうな表情をしている・・・
『汝はデュカ・リーナ、と言ったか・・・汝には借りがある。我に何か言いたいことでもあれば言うがよい・・・可能な限りは尽力しよう』
「・・・そう。そこまで言うのならば1つ頼まれてくれるかしら?」
『なんだ・・・?』
そう尋ねると預言の人間へと何やら目配せした。
「ああ、成る程な!確かにサラマンドラなら早いし詳しそうだな」
そう言いながら預言の人間は懐から何かを取り出した。
『それは・・・?』
「これは知恵の石って言ってな、」
その石について預言の人間が一通り説明した。その後横の魔物が口を開き我に頼みごとをしてきた。
△△△
確かに永年火の大陸にて生きてきた我ならばその物の存在について知っている。人間達の間で活用されていることまでは知らなかったが、それについてはまだ封印をされる前に実物を見たことがある。
この日喰い島の火山にあるその石のことを・・・
火山とは言うものの今は活動を止めている、この島の奥深くにあるその場所に行くということも我の身体の大きさや飛行速度から判断すれば大した労苦でもない。
ないが・・・
だがそれでも、納得はいかぬ・・・何故我が使い走りを・・・?しかし、あの者には封印より解き放たれたという借りがあるので断ることはしなかった。
今我はあの魔物の頼みにより火山にある筈の石の有無を確認しに向かっている・・・だが条件はつけた。確認した後は我は速やかに大陸へと戻る、ということを。その前に破焔斬を使い結果だけはあの人間へ報告するのだ・・・
あの者たちに良いように使われたようで納得はいかないが・・・
サラマンドラは愚痴をこぼしながら火喰い島の空を飛んでいた。
〜〜〜
・・・あれはいつのことだっただろうか。
私は懐かしき修行時代のことへと思いを馳せた。
▽▽▽
初めはたまたま師の子供が体調不良か何かで剣の稽古を休んでいた日に尋ねたことだった。
・・・私は幼い頃よりいわゆるお転婆というやつで、それを見かねた親が古くからの知己であるお隣宅、剣の道場を開いているヒノカ流という道場へと入門させた。
後年になって親から聞いた話では、師であるタチオ・ヒノカは長年の旅から帰ってきたばかりで道場で子供を相手にするのはあまり気が進まなかったそうだが、親がどうしてもとお願いし半ば無理やりに私を弟子入りさせたそうだ。それを聞いて私は幼い頃は余程人間が出来ていない性格(というよりはむしろ短気だった)だったのだな、と思うと同時に師に申し訳ないような気持ちになった。それは後から思ったことだが・・・しかし剣技を師事しているときはただ楽しくてしょうがなかった。
何せそういう事情で始まった道場だったため最初のころは弟子は私1人で自由にでき、生まれたばかりの妹の世話もしなくてよくなったのは単純に楽だった。それより何より優しく穏やかな師は私を実の娘のように可愛がってくれた。勿論稽古は厳しいものだったがそのぶん私の剣の腕は日々上達していった。結果として後に私は首都で開催される格闘大会で優勝するほどの腕前になっていた。
そうして過ごしていくうちに師の息子も道場へと入門した。入門、というよりは家に伝わるものを受け継ぐため、といった雰囲気を子供ながらに感じたが師の子供なのでそんなものだろう、というぐらいにしか思わなかった。
だが、
妹と同じ年のそいつはやはり尊敬する師の子供というだけあって初めからやたらと強かった。私が数ヵ月かけて学んだ技を一月もかからずに修得した時などは思わず突っかかったりもした。そいつはきょとんと目を丸くしているだけだったが。だが不思議なもので師以外には基本的に無愛想な私がその子供は妙に可愛がっていた。妹と同じぐらいか。まあそいつも妹も私より年下だけあって生意気なやつではあった。
ある日そいつが稽古を休んだ日にチャンスだと思い師に尋ねてみた。それは以前何かの時に聞いた話の中で出てきた、師の家に伝わるという剣のことだ。
その子供、トウヤは見たことがあるが触ったことがないというそれを私も見たかったので師に頼んだところ快く見せてもらえさらには触らせてもらえた。
そのことが嬉しくないわけがないが同時にそのとき幼心に傷ついたことがあった。
師はその剣を自由自在に扱っていたが私には扱えなかった。然程重量があるようにも見えないそれを持つことすらできなかったのだ。・・・その時は既に九天の奥義を半分以上身につけていた私を持ってしてもその様だった。なので師に問うた、これはいつ扱えるようになるのかと。奥義を全て使えるようになった時かと。
その時の師は困ったような顔をして、そのうちだと言った。言ってくれた。
だがそれは聞き分けのない子供を諭すための方便だった。
それから年月を経て形だけは奥義を全て修めた私はある日道場に出しっぱなしになっていたその剣に触れた。丁度その時は師もその子供も新たに入門した妹なども居らずに私が一番乗りだったから。
しかしそれは扱えなかった・・・その後に来た師の子供が軽々とそれを振っていた姿を見たとき私はその剣を諦めた。
それから時を経て元服を迎え技と同じく形だけは師に皆伝を頂いたが私は才能、というべきか、それを悟っていた。しかしその剣こそ諦めたもののさらに強さを追い求めて、伝説に聞く神剣を探し求めて口入の仕事を日々こなしていった。
魔物との実戦を数知れず経た私は剣技を元に独自の戦法を編み出した。ようやっと形だけの技を本当の意味で使いこなせるようになった頃には格闘大会で優勝していた。
その後に誘われて来た仕事の場で私は新たな発見、そして自身の可能性を見出だした。
また唯一使いこなせるとは言い難い九天の最後の奥義を使い、否、使いかけて・・・
△△△
後悔している。
今思えば魔が差した、という奴なのだろう。慢心していた、と言い換えてもいい・・・子供の頃に比べれば実戦を経て遥かに腕は上がっている。だが最終奥義というものは軽々しく使ってはいけない、という師の言葉をこの状態になって思いだしても既に遅い。私はおそらくこのままの状態で自我が無くなるのだろう・・・
でも、私は追いつきたかった、いや、追い越されたくなかったのだ・・・あの、
・・・?
・・・!
長い時間、自責の念に駆られていると僅かに残っていた自我へと何か引っ掛かるものを感じた。
気のせい・・・?
今感じた力は・・・?
懐かしい力を感じたような気がしたが過去を思いだすあまり錯覚したのだろう・・・
過去を、あの憧れたものを、
しばらく前から自制が利かずに体が勝手に動いている。それに伴い自身の力、プラーナも時折外部に放出したりしなかったり、とまるきり制御ができない。
そんな自身の今の状態ならどのような錯覚が起こったとしても別段おかしいことでもない。
そう自分を納得させて、再び楽しかった過去にでも思いを馳せよう・・・とすると、
「あれがお前が言ってた山か?」
そんな話し声が聞こえた。それは自身がこの姿・・・この巨大な銀色の山のような姿と同化して初めて向けられた声だった。
「何か不思議だなあれは?さっきの鳥とは違う・・・何処かで感じたことがあるような雰囲気がするな」
・・・そしてその声はかつて子供の頃に・・・いつからかその強さに憧れてやまなかった1人の生意気な少年の声によく似ていた・・・




