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第76話〜人智〜

何が起きたのか?

私はその時目の前で起きた出来事を理解するのに僅かに時間を取られた。この辺り一帯に限り、召喚を含めた詠唱を必要とする魔法全てを封じ込める魔法を使い災厄の動作を封じた。そして解き放たれた聖なる剣の一撃により災厄を呑み込む、かと思った瞬間その攻撃である光の球が消え去った。そんなことが起こるはずがない。厳密に言えば魔の特性を持つ者にあの聖なる剣の攻撃を打ち消すことができるはずがない。避けるか受けるか、そのどちらかだ。今ハンスが放った技は並の魔物なら塵1つ遺さず消滅する、そのぐらいの破壊力、殲滅力を秘めていた。だからそのようなことが起きるわけがない・・・ハンスが倒れるようなことが・・・


倒れたハンスに呆然とし、災厄のほうに目を向けると魔物が一体立っていた。何故?召喚は封じたはずなのにこの場に新たに魔物が?

しかもその魔物は人型のもののような姿をしており甲冑を着込んで、大きな剣を・・・・・・・・・

あの剣は!?よく見ればあの甲冑も?まさか、そんなことが・・・?



私は目の前で起きた出来事、その原因と意味に思い至った・・・





〜〜〜





魔物・・・?

それにしてはニンゲンのような姿をしている・・・?

・・・そんなことよりも今私が必殺の一撃で斬り捨てた者はしかし災厄の王と呼ばれる者にしては呆気ない気すらした。

それに・・・?魔物の分際で剣を使うのか?威圧感のあるあのような剣を。だがいくら強者とはいえ災厄の王とやらは今の私にとっては如何程のものではなかった。今の私に溢れる無尽蔵のこの力・・・私は遂に闘法の極意を会得した。オーラを使わずともいくらでも強くなれるこの力。

私が、私こそが最強の・・・



『闇の牙・・・』


「・・・っ!誰ダ!」


私が倒し地面に伏している敵を眺めている最中に後ろから声をかけてくる者が居た。


『・・・その力・・・その殺意・・・まさに闇の牙に相応しい・・・!』


それは姿こそは人間の女性のような容姿をしていた。だがよく見るとその者の背中からは黒い翼、のようなものが生えている。純粋な人間ではない、亜人というやつなのだろう・・・それに今その者が私に向かって言った言葉、


「闇の、キバ・・・?貴様ハ・・・」


『・・・我が名は、』



っ!?

背中が粟立つこの感覚は?背後より怖気を感じる・・・!


聖生矢(ダフネ)!」


「・・・っ!新手だトっ!」


前方より禍々しい力を纏った光状の矢、のようなものが無数に此方へと向かっていた。それを見た私は考えるよりも先に剣に手をかけてその悉くを薙ぎ払いのけた。



「・・・聖なる力を斬り払える!?ミシル殿、貴方のその魔力はっ!?」


「ミシ、ル・・・?」


たった今此方へと攻撃を仕掛けてきたその魔物のような者は自身に向かい意味の分からないことを吠えていた。ミシル?聞いたことがあるような・・・



『素晴らしい・・・その力があれば我を滅する火炎の牙をも・・・』


「・・・先ほどの続きダ、貴様ハ何者だ?」



禍々しい攻撃を仕掛けてきた杖を持つ魔物を尻目に、翼を持つ女性へと問うた。


『・・・我はアンリ・・・どうでもいいそんなことは・・・我に付いてこい闇の牙・・・』


「闇の牙、だと・・・?ワたしのことカ?」


『・・・そう・・・我が及ばず持ち得ない牙のチカラ・・・さらに力を与えてやろう・・・』



・・・私の強さへの渇望は留まるところを知らないようだ。今の時点でこれ以上持ち得ないほどの力を持っている感触を手にしながら、その言葉によって他の何をも考えなくなるほどに強さのことにしか興味がなくなるのだから・・・


「・・・いいだろウ」


それゆえ一も二もなくその女性の提案を受け入れた。


『・・・行くぞ』


女性は翻り自身が持つ翼をはためかせて上空へと飛翔した。それを見た私も大気の力を使って難なく浮き上がりその女性の後へと続いた。





「そんな・・・」


その場に取り残されたジズは自身が判断した行動により、結果的に起こった事態によって後悔し何かを諦めたように膝をついた。





〜〜〜






飛翔の魔法というものがあるらしい。転送の魔法を使うよりも目的地に辿り着くまでに時間がかかるということだが、その分飛びながら周囲の状況を確認することができるので使い勝手が良いのだとか。こいつは魔法を使えば本当に色々なことができるのだなとその説明をする女の顔を感心しながら見ていた。

俺の視線に気づいたそいつは飛翔の魔法はそんなに難しいものではないの、とやけに謙遜するように言った。なんでも飛翔の魔法とは風の属性の範疇に入るもので風の魔法を扱える奴ならばわりとし簡単に使うことができるものらしい。そういや以前アリナがこの島で戦った鬼族の奴が飛んでいた、と言っていたな。それに剣の力を借りていたとはいえフェンもそんなことができた。ということは、



「別に風の魔法を使えなくても飛べるのか?人でも」


それが可能かどうかを尋ねたところそいつからは可能でしょうという答えが返ってきた。妙に確信を持っているような答えだが、理由を聞いてみると以前にそいつが空を飛ぶ人間を見たことがあったというものがその最たる根拠だった。

それならば俺も、と考えてそいつにやり方を聞いてみた。俺は元々オーラの身体強化によってかなりの高さにまで飛ぶことができるで今まで空を鳥のように飛翔することなど考えたこともなかった。だが、さっき銀色の鳥と戦ったときに空を飛び回ることができれば便利だな、とうっすらと考えていた。それで身近に空を飛べる技を持つ奴が居たので丁度いい機会だと思ってそのやり方を聞いたわけだ。


・・・結果として俺は空を飛べるようになった。

やり方を聞いたそいつが使っている力、そいつに作用している力は魔力というものだが、俺の場合は少し違う。精気プラーナを利用して似たようなことができた。



「・・・大したものね。人間だった頃の私ではそのような真似をできたとは到底思えないわ」



俺に飛び方を教えたそいつ、デュカ・リーナは横並びに飛んでいる俺を横目で見ながら呟いた。


「というか自慢にしか聞こえないぞ?お前なんて自分だけじゃなくて何人も引き連れてるじゃないか」


俺はデュカ・リーナの後方を飛んでいる奴等を見ながら言った。こいつは結界、のようなものを張って飛べない奴も自分と同じように飛んで運ぶことができる。・・・そのうちの1人が俺のほうを見て何やら言いたそうな顔をしていることはさておいて、


「まあ私の場合は魔法を使っているのだからそこまで大したものでもないのだけれど・・・」


「いやそれにしたってな。大したもんだと思うぞ。フェンでも・・・あっ、フェンってのは俺の知り合いなんだけどお前に会ったことがあったっけ。そいつもお前と似たようなことはできるけど剣の力を借りてたからな。自力でそれをできるお前はやっぱり凄いだろ」


やけに謙遜するその態度を遮って素直に褒め称えた。


「・・・・・・私は以前から貴方に対して思っていたのだけれど、」


「ん?なんだ」


「貴方は何というか・・・・・・偏見のようなものを持っていないのね?」


「偏見?」


突然俺に対してそんなことを言い出したデュカ・リーナへ俺は顔を向けた。


「・・・ええ、偏見。普通人間というものは異形のものを弾くものだから、貴方のように何の害意も差別意識すらも持たずにそれらの者と接する人間というのは、少なくとも私は見たことがないわ・・・」


そう言いながらデュカ・リーナは自分が運んでいる二匹のほうをちらりと見た。


「って言われてもな、別に普通にしてるだけだぞ俺は。ただ俺を襲ってくるような奴には容赦はしないけどな」


「・・・そう。私に対しても普通に接してくるものだから余程胆力があるのかとも思ったけれどそういうわけでもないようね」


「お前に対して?普通は違うのか?」


「そうね・・・勿論鬼族の子達は私を見れば親愛を持って接してくるわ。私はあの子達の親のようなものだから・・・でも純粋な人間だと必ずと言っていいほど私を畏怖した瞳で見てくるの。それ以外は敵意、といったところかしら・・・」


「ふうん?でもお前はあれだな、初めて見たときとはどことなく違うよな。何ていうか、優しくなった・・・は違うか。体から出てた嫌な感じが無くなった?みたいな」


「・・・?」



俺の説明足らずな言葉にデュカ・リーナは首を傾げていた。まあ俺も自分で言っている意味がよく分からないからな。ただ雰囲気としてはそんな感じがするってだけだ。


「・・・それに、あのような巨大な生き物に選ばれるべくして選ばれた、というのには何か理由があるのかしら」


「あのような?ああっ!?」


デュカ・リーナが見ていた前方の上空を見てみると、其処には、


『遅いので迎えに来てやったぞ・・・だが、汝等には必要なかったらしいな・・・』



竜が居た。





〜〜〜





〜カグツチ資料庫〜



この膨大な書物の量・・・奴らしいと言えば奴らしいな。火の大陸から離れて二百数十年の月日が経過しているにも関わらず変わらないものもあるのだな、と私は独りでに微笑んだ。



奴が建造したというこの城。どのようなものかと見てみたカグツチという名の街並みもかつて私が大陸のとある村にて暮らしていた頃とはまるで別世界のように趣が異なっていた。

それを見た私はこれが奴が目指し、そして得たものなのだ、と羨望の眼差しで眺めていた。其処で暮らす人々は活気に満ちてそこかしこで威勢の良い声が聞こえてきた。街の外に出れば魔物の脅威に晒されるものの街中は平和そのものといった風景・・・



「・・・だが、奴ならばそのぐらいはやってのけるか」



私はかつての日々を鮮明に思い出すことができる。記憶というものは人によっては自ずと抹消されたり憶えていたくないものなどは自身に都合のよいほうに歪められることが常ではあるが、私にとってはその限りではない。だから、そんな私にとっては戦いの日々も友と過ごした日々も等しくまるで昨日あった出来事のように思いだせる。

二百年以上を生きその全てを憶えている私にとっては何気ない日常の一言ですらかけがえのないものであったりする・・・そのため、ふと思い出したことがある。



「奴によれば確か・・・」


それは私と同じく今居るこの地の礎を造り上げた友の言葉だった。その友は大陸で暮らす人々が一丸となって平和な世を作るという目的があり、誰もが笑って暮らせるような世界を作りたい、という強き想いがあったからこそ似通った目的を持つ別の友と共に戦っていた。それは自身の生い立ちによるものだったのかもしれない、しかし結果として私達や大陸の統一をやり遂げた。強力な魔物や妖魔の駆逐、各地方に点在する武人の制圧。

だが、何故・・・大陸統一の提唱者である須佐之男はそのような考えに至ったのか。当時の奴も私と変わらない年でしかなかったのだが。

・・・私がふと思い出したのは奴がその考えに至ったある出来事、それを旅の最中に尋ねた日のことだ。




▽▽▽




ーーー理由?今さらだな神人。


「確かにな。私は剣を振るう目的を探していた。だから貴様の誘いは渡りに船だったとも言えるのだが、貴様はそもそも何故大陸を制覇しようなどと思い立った?」



ーーー大した理由じゃないさ。お前もそうだし天雄もそうだけどお前らは強いだろ?だから偶に出逢う妖魔にも特に恐怖は感じないと思うんだ。でも、大半の奴等はそうじゃない。みんないつ妖魔に出逢うかと怯えながら暮らしてる。

それに知ってたか?昔はこの大陸には、いやこの世界には今とは比べ物にならないほどの技術があったことを。


「技術?」


ーーーそうだ。最初は俺も地元にある彫像を見ただけなんだがな、それは今の石工技術では到底不可能なぐらい精緻な細工が施されてたんだ。それを見て俺は書物を読み漁ってな、彫像の正体が知りたくて。


「ほう、火竜村にそんなものが・・・それは結局何だったのだ?」


ーーー焦るなって、せっかちな奴だなお前は。まあいくら読書が好きな俺でも結局その正体はよく分からなかった。ただ僅かに残っていたぼろぼろの文献を頼りに、俺はその彫像が何なのかいくつかの仮説を立てたんだ。多分だけどそれはなーーーーーー




私はその仮説とやらを聞いてもあまり意味を掴めなかった。もし須佐之男が言ったことが事実ならば、便利ではあるのか?ぐらいに思った程度だ。

口角泡を飛ばす奴を遮り、


「つまりはそれが理由といいことか」



私は須佐之男が自らの時間を使い力を使い偉業を成し遂げようとする理由を知った。



ーーーそういうことだ。俺は過去の技術を復活させてみたい。ただの我が儘かも知れんがな。それにはまず人々の暮らしを安全にすることが先決だろ?



そう言って朗らかに笑った。




△△△





・・・我が儘、か。結果として技術は発展し火の大陸の人々は豊かな生活を送っている。当時にはなかった技術、蒸気船や大砲等は勿論のこと、各町村に至っては魔物が入れぬように結界まで張ってある。

・・・そのことを思い出したときに私の頭に微かに引っ掛かるものがあった。



実際にお目にかかってはいないが奴が手振りでこのような形と言った時に私が瞬間覚えた引っ掛かり・・・あれはなんだったのだろうか?

その疑問を解くために私はこの資料庫を訪れた。

聞くところによれば・・・城の中にこのように広大な書物だらけの資料庫というものがあるのは建造当初に初代スサノオ、つまり我が友がどうしても必要だ、と言って造らせたものらしい。その広さは人が千人入ったとしてもまだ余裕がありそうなほどだ。

奴は様々な書物を読破して多くの知識を持っていた。だから自分で手に入れたものも併せ自分の後の代になっても可能な限り書物を此処に保管しろ、と言い含め、遺言としたと奴の子孫は言っていた。特に奴の好きだった種類の書物は物語性のある・・・・・・


思考に耽っていた私は資料庫に来た本来の目的を思い出した。

奴が読んだという過去の文献を探しに来たのだ。シエルによれば初代の収集したものならば此処にあるということだったので、私は自分の引っ掛かりを解消すべくそれを探しに来た。戦いに備えねばならないためあまり時間が無いことを思い出した私は過去を懐かしむ自分を諌めて目的の書物を探した。



「あの辺りか・・・」



見れば一段高い棚のさらに上段のほうに、やけに古びた書物がいくつかあった。私は無造作にそのうちの一冊を手に取った。



「読めんな・・・」



しかしそこに書いてある字は所々掠れたり消えたり焼けたりして内容が不明だった。

しかし、



「火語、のような、崩れた字のような・・・?」



もしやこれは相当に古いものではないかと顔をしかめた。



「・・・よくも読めたものだな」



私は読書好きな友へと敬意を込めて呟いた。


捲っていくうちに、



「・・・図か」


何やら図が書かれている箇所を開いていた。



「鳥・・・?」



そこには巨大な鳥のようなものが描かれていた。



「荷馬車?」



別の箇所を開くと車輪のついた荷馬車のようなものも描かれていた。

だが、



「馬が居ない?どういう仕組みだ?」



頁を捲って別の箇所を見ると船、のようなものも描かれている。


察するにこれは乗り物をまとめて描かれた書物だろうか?その全てに人が乗っている姿も一緒に描かれていたことからそう判断した。


「そういうこと、か」



私は理解した。

私の引っ掛かりに合致したもの、私がその書物の図を見て驚いたもの。



「鳥ではない、飛行する物体・・・」



それは幼い頃に私が空を見上げた時目にしたものと同じ形をしていた。

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