第74話〜九天〜
私は他者の魔力を感じとることができる。鬼族の中では私だけが持つ能力だろう・・・あのお方を除いてはだが。それにある日、島に侵入者がやってきた時から他者、他の人間が持つ精気を感じとることができるようになった。初めのうちはそれを自分の感覚が勘違いし魔力として認識していたのだが、よくよく感じれば魔力とは似て非なるものだった。
私は他の鬼族、特に4柱の連中に差をつけたことでやはり私が鬼族で最強であると改めて自負していた。
だがそれは所詮鬼族の中では、の話だ・・・
最近出会った他の種族、人間の中には明らかに私を超えているような輩が居る、それも数体。人間ではない者で龍族の者も居るがその者も私より遥かに魔力を持っている・・・
それらのことを考えれば鬼族というのは実は大した強さではないのではないか?と私が思うのも無理はないだろう。
私は目の前に聳え立つ山から感じる力を感じながら冷静にそんな考え事をしていた。
「しかし・・・奴はどこへ?」
奴、というのは私を此の島まで連れ帰ったサラマンドラという者だ。
先ほど、
▽▽▽
「どんな状況かは島に来れば分かる」
そこまで言って私はその体から手を離した。あの人間ならばこれだけ言えば此の島にやって来るだろう、と確信して。
『もう良いのか?』
私が早く話を切り上げたせいなのかサラマンドラは私のほうを見て訝った。
「ああ、世話になったなサラマンドラ。だが、」
私がこの龍の化身に礼を述べたのは、私を此の島に連れてきたことと今サラマンドラを通してあの人間へと話した技、
「念話をできるとはな?かなり離れた場所にも関わらず」
そのことについてだ。実際に話が繋がるとは、凄まじい技術だなと私は感心した。
『ああ。じゃがそれは我の破焔斬を持つあの人間に限るぞ』
「それはそうだが、便利な魔法の使い方もあったものだ・・・例え鬼丸を使ってもそのような大仰な真似はできんぞ」
此の島に伝わる鬼丸、今は私が手に持ってはいるがこれでも精々が目に見える範囲でしか話すことはできない。
『鬼丸・・・汝が持つそれのことじゃな。あの小娘、火の王は随分とそれにご執心ではあったが、元は汝ら鬼族のものであろう。我も実際にこの目でその刀の効力を見たが大したものではあるな』
「まあ、な」
別に私が造ったものではないが褒められて悪い気はしない。
『しかしこの島に充ちる精気は濃密じゃな?というよりもどちらかと言えば一ヶ所に膨大なものが集まっていると言うべきか・・・』
「それは私も感じた。先ほど貴様が迎撃した暴走した一体も以前では持ちえない精気を持っていたことも考えると、」
言いつつ私は先ほど私を襲ってきた精気兵について分析していた。形こそ以前まで使役していたものと同じだったそれはだが、その発する精気の量も動きも機能も別物だった。
あの仕草はまるで・・・
『・・・話を聞けばどうやら汝が知る島の状態ではないらしい。しかし先ほど襲ってきた精気兵?と言ったか、あの技術は何かしら利用できるやもしれん。どうだ?我と汝で手分けして島の異変を調べてみるというのは。固まっているよりは効率が良いだろう』
「そ、」
それは困る、と言いかけたが躊躇した。もしそれを言えば私がサラマンドラの力を当てにしていると思われる。(実際に先ほど襲ってきた精気兵を仕留めたのはサラマンドラではあるが)
「い、いいだろう」
私は自分の強さに自信があるように思わせるため奴の提案を飲んだ。
△△△
しかし、目の前の山を見て早まったと私は思った。
私の氷武器ではこの巨躯には太刀打ちできないだろう。確かに私は鬼族では最強ではあるが、この体格差は少し・・・いやかなり厳しい。 並の精気兵程度ならば屠ることは可能なのだが。
「どうしたものか・・・」
これは!?
私が進退窮まったその時、島の入口あたりに強大な魔力を感じた。
これは・・・
「デュカ様か?それにあの人間のチカラも一緒に?」
私は島の入口に感じた力によって安堵した。
〜〜〜
「神殿の方角ね。やはりあそこに行くべきなのかしら・・・」
俺が指さした方角は神殿とやらがあるらしい。この膨大な精気を感じるところに。
「・・・?どうやらそれだけではないらしいわね」
「ああ。この魔力が多分あいつだろう」
ジン・ガトウの魔力らしきものもそのあたりから感じたので俺はそう言った。
「ジン君か・・・・・・」
デュカ・リーナはそれだけ言って何かを考えこむ素振りを見せた。
「トウヤ君」
「どうしたガロウ?」
どうもあの場所に行くのを躊躇っている様子のデュカ・リーナを訝っているとガロウが話しかけてきた。
「あそこから感じる大きなチカラ・・・それがプラーナというものなのだろうか?」
何でそんな質問?と思ったが、
「ああ、そうだ。でも厳密に言えばこの島全体にもプラーナは溢れてるぞ」
「やはりそうか。ではその付近に感じるチカラもそうなのだろうか?」
「その付近?」
巨大なプラーナの近くに別のプラーナを感じるってことか?でもあるのは精々ジン・ガトウの、
「魔力じゃないのかそれは?」
ガロウの質問の意味がよく分からずに俺は答えた。
「魔力?・・・両者の違いがよく分からんな。どちらもオーラとは違う感じを受けるということぐらいしか」
「ふうん・・・?」
言われてみれば俺は両者のどこがどう違うかはよく分からない。ただ違う、としか言い様がないな。
っと、それよりも、
「なあ、さっき言ってた嫌な感じってのは何なんだ?」
「・・・そうね。強いて言うならば、感情・・・というところかしら?」
「感情?」
転送が直接できないと言っていたデュカ・リーナの言葉を思いだし尋ねてみたが返ってきたのはそんな答えだった。
「・・・そうよ、負の感情とでも言うべきかしら?・・・まるで何かを諦めたような拒絶しているような」
そんなことを言われても俺にはよく分からなかった。
〜〜〜
ーーー私は後悔している。
強さを追い求めていたとはいえ結果としてこんな状態になってしまったために。
此処では誰もが試していない、そのことで私は自身の好奇心を満たすために思うがままそれをやった。初めはそれでよかったが一度成功すると、二度目からは思慮に欠けるという私の癖を発揮してしまいこのような状態になった。
ーーー私は後悔している。
話を聞いた時にはこれほど自身に適した任務もないと思うほどに入れ込んでいた私は成果を挙げたことで調子に乗った。しかしそれだけではなく、同時に思ったことがある。力を集めれば集めるほどそれは私の想いに応えてくれた、いや応えすぎだと言ってもよかった。師も認めてくれたように私はそれの扱いに長けているが完全に究めているというわけでもない。そんな私が調子づいて考えもせずにそれを行ったことで今の状態を引き起こしているというのならそれは自業自得以外の何者でもない。
ーーー私は後悔している。
その巨大な反応を見ていたら流石に危険を感じて自分でその責任を取るべく必死で対処しようとしたが一度動きだしたそれは、命を持ったそれは既に私の力ではどうすることもできなかった。最終奥義とは自分のものにしていない以上は決して軽々しく使ってはいけないものだということは身に染みた。特に奥義の中でも扱いが難しいとされるそれは決して使うべきではなかった。九天・・・それは開祖が世のため人のため生涯をかけて編み出した業だと聞いた。私が軽々しく使っていいものでは決してなかったのだ。
ーーー私は後悔している・・・
〜〜〜
何があるのか分からないため直接転送するのは危険かもしれないと言うので、俺は魔法とかで何とかその場所の様子を見れないかを訊いてみた。
「・・・今さらもっともなことを聞くようだけれど貴方に此の島から話しかけることができるのは誰?」
するとデュカ・リーナは俺の顔を呆れたように見ながら言った。
・・・言われて思い出した。
「ジン・ガトウか」
「・・・いえ、どちらかと言えば火竜のほうでしょう」
つまり何が言いたいのかというと、
「でもさっきのはあいつから話しかけてきたからな。こっちから話が可能かどうかは分からないが」
先ほどあいつが話しかけてきたように今度はこっちから話しかけてみてはどうか、とデュカ・リーナは言いたいのだろう。
それは分かったけど、
「どうやればいいんだ?」
離れた場所に居る奴に話しかける方法が分からない。炎斬を通してたのは分かるんだけど・・・
俺は試しにと柄を握りながら、
「サラマンドラ!」
叫んでみた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
しかし何も起こらなかった。
「・・・あのね。先ほどジン君の声が聞こえる前にその刀の持つ魔力が僅かに高まったのでしょう?それならば魔力、ないしは精気を刀に込めるという方法を試すべきではないかしら?」
「ああ、そうか・・・そうだな」
もっともなことを指摘されて俺は少し落ち込んだ。
気を取り直してもう一回、今度は僅かに大気中の精気を取り入れて炎斬へと込めた。
「サラマンドラ!ジン・ガトウ!」
しかしあいつらの声は、
『・・・聞こえているぞ。島に着いたのか?』
聞こえなかった。俺が知るジン・ガトウやサラマンドラではない知らない奴の声は聞こえたのだが・・・
「お前は誰だ?サラマンドラかジン・ガトウが近くに居るんじゃないのか?」
『預言の・・・我がサラマンドラじゃ・・・』
俺の質問に答えたその声は何か呆れていた。
「え?サラマンドラってそんな声だっけ?」
『説明するのも億劫じゃが・・・・・・声が汝の知る我のものと違うのは、』
サラマンドラは実に面倒臭そうに俺にそのことを説明した。前に俺と会ったときとは違い魔力を取り戻した自分の姿形、ついでに声も違っていると。だから今は子供の姿ではなく成人した男の姿をしているらしい。
・・・そういやミシルがそんな話をしてたっけ。
「それはわかった。で?今お前らは島のどのあたりに居るんだ?」
俺は島内での指針にすべくサラマンドラ逹の居場所を聞いた。でも?ジン・ガトウは一緒じゃないのだろうか。
『我と鬼族のあやつ、ジン・ガトウは別々に行動しておる。本来ならば奴の魔力を辿るところではあるが現在この島には様々な力が溢れている・・・そのため奴の居場所は分からんが我は今、』
その居場所を聞いた俺はそれならば島の中心ではないんじゃないかと勝手に決めつけた。だから、
「其処には転送ができるだろ?」
転送の魔法を使える奴に頼んだ。
「・・・あそこに居るのね火竜は」
デュカ・リーナはため息と共にそう呟き魔法を使うべく魔力を高めた。
〜〜〜
時は遡り、
〜歴??年〜
俺は知り合いの頼みにほだされて妖魔退治を手伝った。巷では魔物などとも称されるそれは確かにその知り合いの幼馴染みが言う通り強いものが多かった。だから、あいつ・・・須佐之男が強い仲間を欲しがる、というのは分からんでもない。でも俺は武術とかはろくに知らない。戦ったことがあるとすれば精々が熊とか猪とかそんな程度だ。
だから俺は鬼退治に行こうぜ!というあいつの誘いを蹴った。理由として、俺じゃあ役に立たないとか俺が行く意味が分からんとかお前がやれとかそんなことを捲し立てたような気がした。が、あいつはそんな俺の拒絶を意に介することもなく半ば無理矢理引き摺るようにしてお供をさせやがった。
ーーーだが、
それは結果としては正しかった。
あいつのお供をしながら遭遇する魔物や妖魔の相手をするうちに俺は自分の能力を開眼した。
その能力・・・体内から発する力であるところのオーラを俺は、多分ではあるが仲間内で誰よりも使いこなせていた。仲間には妖術を使う奴や黒い剣を巧みに操る奴などその戦闘方法は多彩だった。
・・・よく考えれば戦いに於いて一番役に立たなかったのはあの野郎、須佐之男だった気がするが、何というかあいつは人の心を掴むのが上手かった。だからこそ一弥や神人ほど強い奴等が供にその旅路についてきたのだろう。それはまあ余談だが。
あの戦いの日々を物書きが綴った書物のネタ元はあの野郎で間違いないと確信している。あれを読んだ火竜村の知り合いに聞いたところ評判は上々だったのはまあ悪い気分じゃないけどな。
でも名を伏せた俺の異名が拳神ってお前・・・確かに俺は無手で魔物とかをたこ殴りにしてたのは事実ではあるけども。自分は覇王とか誰にばれても何も問題ないような名前を使っておいて。でも他の奴も戦い方に応じたそのまんまの名前だったから単に考えるのが面倒だったのだろう、と思い至った時はあの野郎らしいなとも思ったりはした。 鬼族との条約のあたりをぼかし、単に退治したとだけ書かれていたのは今後国を治めるために必要な誘導だったのだろう。大変だろうが頑張れ。
そんなことよりも。
重要なのは須佐之男や俺達があれほど必死になって駆逐していった大陸の魔物、そいつらが一向に数を減らす気配を見せないことだ。やつらは何故際限なく現れる?やつらは何故所構わず現れる?
聞いた話だと一弥率いる妖術師部隊が大陸に点在する集落各々の周囲に結界を張って、それから出ない限りは平穏に過ごせるらしいが・・・だがそれでは、今はそれでよくてもいつの日にか必ず破綻を来すだろう、と俺は予測している。
自分にできることを最大限やっている仲間を見倣って俺も自分に何かできないか模索してみた。
そして大陸を1人旅することによって魔物が現れる原因を探すうちに1つ成果が現れた。
お伽噺に出てくる神剣?みたいなものを見つけたことだ。これと併せて俺はあの戦いの日々で得た体験を形に遺そうと決めた。
今まで見たこともないような技を剣で繰り出す奴や、自身の力だけではなく大気の力を利用して自身の強さを増幅させる技、それらを俺なりに噛み砕いて新たなる技として形にした。
大体戦いに役に立ちそうなものを纏めて紙に起こしてみると、大別して8つに分けることができた。それらを実践込みで研究した結果、それらは全て理論上だけではなく実用に耐えた。俺はそれを火語で火ノ牙流剣技と名付けた。その中でも特に強力な、奥義とも絶招とも切札とも呼べる8種の技を火語で八天奥義と名付けた。牙や盾、等々・・・あとはこれらを煮詰めて究めて普遍的なものにし、道場でも開くかな。
そう思った矢先だった。その噂を聞いたのは。
ーーー日山村で人型の魔物が出た。そいつに村は壊滅させられた。
それを聞いた時俺はそんなバカな!と耳を疑った。
何故ならその村には、一弥が張った結界がある筈だからだ。あいつに聞いたところ魔物が結界内に入るためには一種類しか方法がないらしい。それはあいつが結界内に入る許可を出した魔物に限る、と。あいつの術は異質なもので結界というのも本来は誰もその中には入れないらしい。そこで暮らす人達が何故その中で生活できているかと言えばあいつが人や獣に限り侵入を許可する術式を施しているとかなんだとか。だから魔物が村内に入るなど通常なら考えられない。結界に何かの間違いや不具合でも起こったのだろうか?
ただ俺が驚いているのはそこではなくその惨劇が起きた村の名だ。
・・・日山村、そこにはあの羅義神人が居るはずだ。剣鬼とまで呼ばれた剣の達人のあいつが居れば多少強力でも魔物程度なら蹴散らすはずだ。それが何故そんなことに・・・
村で起こった状況を知るべく俺は日山村があった場所まで足を運んだ。
▽▽▽
「・・・これは非道いな。新種の魔物だろうか」日山村の家屋や建物果ては木々までもが薙ぎ倒されている様子を見て俺は嘆いた。これほどの有り様だと神人はもう・・・
だが?
俺はその破壊跡を見て少し様子がおかしいことに気づいた。
斬撃?
魔物に襲われたにも関わらず家等についた傷跡はまるで剣で切り裂いたかのようだった。それを見て考えられるのは2つ。1つはでかい魔物がその鋭利で大きな牙や爪を使って切り裂いていったか。だがそれではおかしい。噂と噛み合わない。人型の魔物、と聞いている。であるならば・・・そいつが剣を使ったか。だが鬼族の奴等ならばともかく知能の低い魔物がそんな真似ができるだろうか?
俺は村を回りながら傷跡を子細に調べた。
しばらくして太陽が沈みかけたとき、
「此処には入れるの?」
日山村の入口から声が聞こえた。
俺はその女の声を聞き、中に入るなと注意を促そうと振り返った、
ーーー瞬間、息を呑んだ。
「他の場所には入れないのに・・・」
「・・・お前はこの村の関係者か?」
俺はその妖艶な女を見ながら平静を装って訊いた。
その女は俺が今まで見たこともないほどの美しい容貌をしていた。黒い長髪に黒い大きな瞳、それと相反するかのような白い肌、すらりとした体躯・・・見たこともない着物、何よりもこいつの発するこの雰囲気は・・・
「あなたはだれ?」
俺がその女に悟られないように体全体を眺めていたら、妖艶な見た目とは裏腹にその女は幼子のように俺に話しかけてきた。
「俺は火竜村から来た火ノ牙、火ノ牙天雄だ」
「火ノ牙・・・わたしは九遠」
ーーーその日の出会いがなければ火ノ牙流は完成に至らなかっただろう。八天ではなく九天、それは単に門戸を開くだけで、技を究めるだけでは決して辿り着けない境地にある技だからだ。俺の血を受け継ぎ、そしてなにより九遠の血を受け継ぎし者にしか使えない最終奥義を使いこなせて初めて九天の奥義は完成する・・・
△△△




