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第73話〜歪み〜

剣聖なる人物を一目見た時に思った。この男は相当に腕が立つ、と。


元来私は王の護衛になる数年前までは様々な相手と戦ってきた。

現在・・・といっても既に国自体は存在しないが小国だったウォルスはその立地的条件も併せて水の大陸の各国や他の大陸から多くの人間が流入していた。そのほとんどが友好的なものではなく侵略目的、は過言だとしても文化的後身国であったウォルス内でいかに儲けようとか、一旗上げようとかそういった目的を持つ者が多かった。多すぎた、と言ってもよいぐらいに不穏な輩が多かった。

当時、騎士になりたての頃は私は国境警備の騎士としてそのような輩を相手に剣を振るっていた。国へ進入させぬために。武術という面においては大半の者達は実戦でのみ活かされてきた素人ばかりだったが中には元剣士、元騎士といった戦いを生業とする者が没落して野盗紛いに身をやつした者等も居た。そういった輩は初めから害意を持っているわけではなく仕官の口を探したりだとか亡命しに来たりだとか、とにかく目的の分からない者が多かった。そういった者は無下に追い返すこともできず、また小国ならではの人材不足という問題を常に抱えていたので試しにとその者達の強さを検分していた。

・・・結果は悉くお話にならないぐらい粗末な者ばかりだったのはともかくとして。(余談だが私はその際の功績を認められて王の護衛へと昇格した)

私はそうやって実戦で培った目のおかげで初見の相手でもある程度その剣の実力の程を測ることができる。その足の運びや体捌き、その者が持つ雰囲気によって。


そんな私の目から見てハンスという男は純粋な剣の腕だけならば私が今まで出会った誰よりも上に見えた。いや、完成されていると言うべきか。

・・・魔力やオーラを抜きにしての話ではあるが。


「ミシルさん?どうかしましたか」


「・・・なんでもない。私はしばらく此の大陸に居たが、このような場所があったのかと感心していただけだ・・・」


私と幾度か行動を共にしている者へ何でもない風を装い、じいっと見つめた。

このトゴウという者は初めて見たときから得体の知れない術を使う。一度戦ってみたいものだが・・・


「あ、あの?こ、困ります」


私が見つめているとトゴウは何故か顔を赤くし目を伏せて私から目を逸らした?

まあいい・・・



「それにしても大司教よ、此処には何かがあるのか?此処はなんというか・・・障気が一際濃密なようにも感じるが?」


「剣聖殿、何を隠そう此処こそが私の生まれ故郷なのですよ」


剣聖と呼ばれたハンスは大司教と呼ばれたジズへと自身の疑問を尋ねていた。



「・・・貴様の故郷だと?光の大陸ではないのか。それに人の身でありながらよくも無事に光まで行けたものだな・・・」


私はその話を聞いてつい尋ねた。感心したような呆れたような口調になってしまったが。


「ええ。私はある技を使って力を手にいれましたもので・・・生き延びたのも光の大陸へと行けたのもそのお陰ではありますね」


「・・・ある技、だと?それはもしや魔の力を取り入れるために、願いを・・・」


私が体現した方法のようなことかと思い、身を乗り出して尋ねた。


「ミシル殿、でしたか。貴方が何のことを言われているかおおよそは理解できます。貴方も魔力をお持ちですから・・・ですが私はおそらくは貴方と違う方法を採りました」


「・・・違う方法?」


「ええ・・・技法、と呼ぶほうが分かりやすいかもしれません」


そう言うとジズは俯いた。・・・技法とやらはよく分からんがこの女はその技法を使ったことにより後悔している、ように見える・・・


「そしてこの私の生まれ故郷こそがそれを行った場所でもあります・・・」


「ほう・・・」


言われて私は周囲を眺めた。家のような建物はいくつか見受けられるが誰も人が居ないようでとても閑散としている。


「無人だな・・・」


「今はそうですね。以前はそれなりに人が居たのですが・・・」


だが?と私はジズ以外の者が抱いているであろう疑問をぶつけた。


「・・・それで、何故私達を此処に連れてきた?」


此処に魔法で転送した当初は災厄の王とやらがこの近くに居るのかとも思った。だが、その存在が持つであろう魔力をこの場所、そして近くまで集中させて探ってみてもそれらしいものは一切感じない。


「・・・・・・・・・少しお待ち下さい」


そう言い残してジズは建物の1つに入っていった。

・・・?それにあちらへ行く直前に見せたあの表情は・・・まるで泣きそうなあの・・・




「・・・ハンス、と言ったな。あのジズというのはどのような人物なのだ?」


しばらく待ってもジズはまだ戻ってこない。

手持ち無沙汰になった私は傍らの男に話しかけた。


「うむ。大司教はああ見えて100歳は超えている。どのような人物、かというと・・・・・・拙者も聞いただけの話ではあるが、光の大陸でかつて起こっていた戦争を終結に導いた者らしい」


「100歳以上だと?・・・ならば奴が魔導を扱えるのもそれに関連しているのか?」

私は闇の大陸で会った騎士、そして1人の憎き少女を思い出した。



「詳しくは聞いていないが・・・あ奴は選ばれて、そして自らの意思で力を望んだとは言っていたな。それ以上は説明してくれなんだが」


「・・・!」


それを聞いてますます魔石に願うあの方法のようだ、と私は考えた。しかし、技法とはいったい?



「あの方は何やら隠しているような気がしますね」


「・・・貴様もかトゴウ。私もそのような感じは受けた」


特に何の説明もなく我々を此処に連れてきて、しかも待たせるとは。

というより、光の大陸で私がこの者達に付いて行きたい旨を述べると、あのジズという女は初めは難色を示した。そのあとしばらく何かを考えている様子だったが不意に同行を許可したのだ。が、あの急な心変りは何かを私達に隠しているとみるべきではないだろうか?


「むう・・・だがきゃつは困ってはいた。困っている奴を捨て置くわけにはいかんと思い手伝いをしたが・・・しかし拙者にとってはそれは結果として得をしたことにはなるな」


「・・・ほう、それは何故だハンス?」


「決まっている。これだ。これからは凄まじい力を感じる。得物がこのように強力なものになるのならば、結果論にはなるが拙者の手伝いもそう無駄なものではなかったな」



言いながらハンスは背負っている剣を見やった。

確か・・・エクスカリバー、と言っていたな。感じる力、というよりもプレッシャーは確かに大したものだ。あれにオーラを込めればいったいどれほどの・・・


「お待たせしました」


話しているとジズが歩いて戻ってきた。その手には何やら抱えている。


「・・・それは?」


よく見るとそれは書物のように見えた。


「これは、ただの絵本です。子供向けの・・・」


そう言われてよく見ると所々変色し欠けているようだ。


「・・・そうか。では説明してもらうぞ。急いで災厄を滅ぼさねば、と言っていた貴様が何故時間を割いてまで此処に来たのかを」


「そうですね。早くしなければいけないというのはよく分かっております。ですがどうしても確かめたいことがあるのです・・・」


と言いながら抱えていた絵本を地に置いた。

・・・そして何故かその絵本を中ほどまで開いている。


「あの鬼族の方、デュカ・リーナと仰いましたね?」


「・・・ああ、それがどうした?」


何故ジズはここで奴の名を出した?



「・・・あの方の肉体は本物でしょうか?」


「・・・何が、言いたい?」


私の言葉に返事をせずにジズは続けた。


「あの方には本来別の肉体があったのではないでしょうか?」


「・・・・・・」


開いた絵本を虚ろな目で見ながらジズは続ける。私は無言でジズの話すままにまかせた。


「あの方は、他人の肉体を、奪ったのでは、ないで、しょうか・・・?」


・・・?

よく見ればジズの目には涙が溢れていた。



「だとしたら、私は、私達は、このような宿命を背負わずに・・・」


ジズは何が言いたい?

それにこの魔力の高まりはいったい・・・?



「もし、そうだとしたら・・・」


そこまで言ってジズは言葉を切った。


「・・・貴様は何が言いたい?・・・否、何をするつもりだ・・・!」


私はジズを見ながら剣を抜いた。


「あら・・・貴方は勘が良いお方ですね?流石は悪魔に魂を売った、ということでしょうか・・・?」


「・・・知っていたか。それよりも勘が良い、ということは、」


「ええ、残念ですが貴方には犠牲になって頂きます・・・・・・・・・これも全ては平和のため・・・」



!?

何だ、力が入らん・・・?


「貴方も腕に自信がおありでしょう。ですが必要無いのです。魔を以て魔を制すことはできませんから・・・」



そうか・・・!

力だけではなく魔力をも集中できんのか。だが何故?



「この絵本・・・そして私に喜びを与えるこの杖の導くままに・・・」


「・・・貴様が私の魔力、いや生命力を吸い取っているのか・・・?」


「・・・そうです。うまくいけば貴方は気絶する程度で済むでしょう・・・それでも貴方には申し訳ないとは思っております・・・」



私の疑問を肯定したジズはしかし、ただ喋っているだけだ。どうやって、そのようなことを・・・



「次に貴方と出会った時は事が済んでいるでしょう・・・また出会えれば、の話ですが」


「・・・貴様、は・・・死ぬ、つもりか?」


「・・・運が良ければ」



言ってジズは微笑んだ。

・・・運が良ければ死ぬ、だと?それではまるで死にたがっているのでは・・・

それに、


「・・・さ、先ほど何故奴の話をした・・・?」

涙を流してまで。



「・・・本人に確かめようとしました。ですが否定されたのです。それならばと、あの方とただならぬ因縁がありそうな貴方の口から聞けば何かが分かりそうでしたので・・・それに、」


「・・・そう、か。私の気を逸らす、ためでもあったというわけか・・・」


「感謝しますミシル殿。貴方から頂いた力、無駄にはしません・・・」


「・・・待、て」



感覚で理解した。私の体内における魔力が枯渇したことを。オーラまでも尽きたことを。

体内の力を急激に奪われ、私の意識は遠退いた。




〜〜〜




「大司教、お主!」


私はジズさんがミシルさんと話す様子を見ていた。

しかしみるみるうちにミシルさんの様子がおかしくなったのが見えたので近づくと、



「気絶している?」


ミシルさんは地面に倒れ伏していた。



「剣聖殿、あれを滅ぼすには多少の犠牲はつきものです。気にしないように・・・」


「とは言ってもな・・・拙者も何も聞かされておらなんだから騙し討ちのようになったぞ?」


「・・・だからこそ油断してくれたのです・・・リシナ殿、ミシル殿をよろしくお願いします」


ミシルさんの容態を診ていた私にジズさんはそう言った。



「あまり納得ができるやり方ではありませんが・・・命に別状はないようではありますが・・・」


私は大司教という女性が何故私達を一緒に連れていくことを許可したのか、その意図に気づいた。

つまりはこのために。ミシルさんの力をこの場で奪い取るために。



「・・・ですが、お二人で大丈夫なのですか?」


「・・・これは私の役目なのです。剣聖殿は私が巻き込んだようなもの・・・」


「役目?どういう意味ですか?」


「・・・リシナ殿。貴女は何故災厄が今この世界に現れたのか、その理由が分かりますか?」



私は偶々水の大陸でそれを知ったわけだが・・・



「いえ、何故かは分かりません」


「そうでしょうね。ですが私は知っていたのです、百年前から・・・災厄が今現れることも、その理由も・・・」


「百年前・・・ジズさん、それはどういう意味でしょう?」


「そのままの意味です・・・私が持つ特殊な力はそれを予見していました・・・」


「!?・・・で、では貴女は今から起こることも見通しているということでしょうか?」


「・・・いえ結末までは。ただ、私が力を持ったことも災厄が現れた一因なのです・・・そう言えばお分かりになりますか?私がやらねばならないという理由を・・・」


「ジズさん、貴女はいったい・・・?貴女の力というのは・・・」


「話が長くなりましたね。私達は行きます・・・・・・アンリ・マユ、既にその存在を感知しています」


それだけ言い残しジズとハンスはその場から消えた。




「予見していた存在・・・自身が力を持つことで、現れた?」


あの女性はそう言った。しかし意味をよく考えるとそれはおかしい。何故それを分かっていながらわざわざその存在が現れることを許したのだろうか。いや自分の力ではどうにもできないことだったということなのか・・・しかも、話を聞くとあの女性はそのことだけに専心していたわけでもなく光の大陸で起こった戦争をも終結に導いたという話だ。世界を闇に陥れるという災厄に備えるのならばそのような暇はないようにも思える。

・・・・・・それかもしくは、災厄が現れることと戦争を終わらせたことには何か関連が、



「ぅ・・・」


考えていると呻き声のようなものが聞こえた。


「ミシルさん!気づかれましたか?」


「・・・ああ、ドうやらネムっていたらしいな・・・」


私は倒れていたミシルさんが目を覚ましたことに安堵した。


急に倒れたので顔色を見たほうが、



えっ!?



「・・・ミシル、さん?」


「どうシた、トゴう・・・?」


「その、顔は・・・?」



しかし、起き上がったミシルさんの顔を見て私は何かの見間違いかと思った。



「かオ?キサまハナニを言っテいる・・・?」



起き上がったミシルさんの顔が酷く歪んだものに変わっていたのだから・・・


「な、何故そのような・・・?」



そう、まるで何かにねじ曲げられたような・・・禍々しい何かが入り込んだような・・・

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