第72話〜異名〜
この感覚は何回目になるだろう?
俺は身体を上に引っ張られるような感覚を味わいながらそんなことを考えた。
しかしそれも一瞬のことだった。
「・・・着いたわよ」
「早いな?それに転けたりしないな?」
目を開けると其処は殺風景な場所だった。が見覚えがあった。
「転ける・・・貴方は何を言っているのかしら?私がそのような適当な魔法を使うとでも?」
俺達を転送魔法で此処鬼ヶ島に連れてきたデュカ・リーナは何だか不機嫌そうだった。
「いやそういうことじゃなくてだな。俺が以前転送魔法を食らった時は転送した先で転けたもんだったから、そういうものなのかと思って言っただけだぞ。それよりも此処は、」
「火喰い島の入口よ。手っ取り早く中心部に行こうと思ったのだけれど・・・」
言われて俺は辺りを眺めた。そう言えば初めてこの島に来たときも此処に上陸したな。
「デュカ・リーナ殿、ありがとうございます」
「・・・貴方は礼儀を弁えているようね、何処かの子供と違って」
一緒に付いてきたガロウに連れてきてもらった礼を言われ、デュカ・リーナは俺のほうを見た。
「だってよ、言われてるぞイヅナ?」
「いやトウヤでしょ?」
俺じゃない、みたいな態度をとったら傍らに居たイヅナに突っ込まれた。(こいつはまたしてもデュカ・リーナみたいな見た目になっている)
「・・・貴方に言ったのだけれど・・・今更ね・・・」
何かを諦めたようにデュカ・リーナは呟いた。
「ねえねえデュカ・リーナ!あたしたち家族に見られないかな?」
「・・・・・・あなたはその姿を押し通すつもりかしらイヅナ?」
「え?うん。アヅナも言ってたしね、こっちのほうが安全だって」
「そう・・・まあ貴女を連れていったおかげでルーも後顧の憂いなく役目に戻ることができたから別にいいのだけれど・・・何か複雑な気分ね」
さっき聞いたらアヅナやルーというのは同一人 (貂)物らしい。光の大陸の入口、首都を警護していた。人間の青年の見た目だったがあれも変化をしているのだろう。
「でもお前はあいつに用があったとか言ってたよな?それはいいのか?」
「ええ・・・もう済んだわ。会おうと思えばいつでも会えるし」
「ふうん」
さっきルーって奴に会ったときに何やら話してたから多分あのことを言っているのだろう。
「それよりお前は今この島の中心部に行こうとしたって言ってなかったか?何で入口なんだ」
「・・・何というか嫌な感じがしたの、神殿のほうから」
「神殿?」
「ええ。島の中心部にある神殿・・・大昔に私が住むために建てたの」
「へえ。じゃあ今は他の奴が住んでるのか?」
「そのはずよ。前に訪れた時は結構な数の子達が居たから」
「嫌な感じってのはなんだ?それで直接行くのを止めたんだろ?」
こいつの言うように其処へ直接転送したほうが手っ取り早いだろうに。
「・・・何というか、」
デュカ・リーナは何かを言い淀んでいる。
「どうし・・・これは!?」
何を言うのを躊躇っているのか分からないので聞こうとしたら、此処から離れた場所に強力な力を感じた。俺と同じようにそれを感じたのか、
「これは魔力、なの?」
「ちがうぞロラン。多分これは精気だろう」
「精気?」
「ああ。大気に充ちるチカラ・・・そういえばこの島はやけに精気を感じるな?」
犬のような見た目の連れがそう言ったが俺は否定した。
「ふうん?魔力かと思ったな。僕には違いがよく分からないや」
そう言えば・・・?
ロランが呟く声を聞きながらリシナが言っていた話をふと思い出した。
・・・いやどちらかと言えば1つの事実に気づいた、と言うべきか。
魔力と精気の違いって何だ?ということを。
それに、アサエ・・・鉄島で会った変な女が持っていた箱、確か知恵の石発見器って物だったか。知恵の石とやらに近づければそれに反応する代物だが、あれはそれと併せて魔力にも反応していた。
で、知恵の石って物はその島で戦ったテツジン・・・鉄の塊を動かす石だった。以前この島でぶった斬った銀色の奴にも似たような赤い石が嵌めこまれていた。そして今のロランの言葉・・・もしかして知恵の石とは、精気とは、そして魔力とは・・・?
「なにあれ!?」
俺の思考を遮るように叫ぶ声が聞こえた。デュカ・リーナ、のような見た目のイヅナだ。島の中のほうを見ているようだが、つられて俺もそちらを見てみると、
「なんだありゃ?」
銀色の物体が空を飛んでいた。
銀色って言えばあの青い炎みたいなやつを吐いてきた丸太を思い出す、けど?
「鳥みたいな奴も居たのか?」
上空を旋回している銀色は両翼を使い空を飛んでいた。体長は4から5mぐらいはありそうだ。良く見えないが鷹をでかくしたような見た目に見える。
「・・・あれが守護者なのかしら?」
「守護者ってなんだ?」
「貴方が以前言っていたのじゃないかしら、銀色が襲ってきたと。元々私が居た頃は島の住民から何名か強い者を選別して島の警護にあたらせていたのだけれど今の子達はどうやらあの銀色の物体を動かしてその代わりにしていたらしいの」
「ふうん。でもジン・ガトウの口ぶりだとそれもおかしいな?あいつはこの島では立場が上なんだろ、確か。だったらあんな奴が居るってことぐらいは知ってないとおかしくないか。あんなに焦って騒ぐのも変だしそれに、」
暴走した、とあいつは言っていた。
だからそれを考えると、今までとは違う何らかの不測の事態が起こったと考えるべきだろう。
と、悠長に考えていたら、
「す、すごい速さでこっちに来るよ!」
「確かに速いな?」
俺はでかい鳥型の銀色が此方に向かって飛んでくるのを眺めていた。
「こいつ・・・?」
俺達がいる真上にまで近づいた銀鳥が旋回している姿を見て俺は思った。
さっき感じた膨大な精気はこいつじゃ、ない?
「来るぞ!」
ガロウが警戒し焦ったような声を上げた。
来る?と思ったら、銀鳥が落下してきた。
「ちっ、牙!」
「ファング」
俺と同じことを思ったのかデュカ・リーナもその銀鳥を叩き落とすべく自分の得物を伸ばした。(ちなみに光の戦士を復活させたあと金色の杖はジズが銀色の杖はこいつがそれらを造ったという本人から直接受け取っていた)
フォンッ
「「!」」
尖った嘴 (?)を地面に向けてそのまま落下するかと思っていた銀鳥はだが、俺の炎斬とデュカ・リーナの杖を横に飛空して回避した。
「あんなふうに落下してるのに動きを制御できるのか?」
「・・・確かにね。単調な動きかと思えば、まるで隼のようね」
大きさはまるで違うけれど、とデュカ・リーナは言う。
「隼か。どっちかと言えば鷹みたいな見た目だが」
「ええ、見た目はね。でも、」
「キシャアアアアア!」
「っ!今のはあいつが?」
頭上から奇声が聞こえたが方向からすると銀鳥が発したようだった。
バッ!
「形が変化した?」
そして何か大きな物が広がるような音がして、銀鳥の両翼がより鋭利な形へと変わった。
「というかあの銀鳥は発声できるのかっ!?」
「プラーナ、エサ、ウバウ」
プラーナだと!?
「おい銀鳥!」
「キシャア!」
銀鳥と会話を試そうとしたがあいつは俺の言葉に構わずに空中のその場で回転し始めた。その尖った両翼を下に向けながら。
「打つ手を変えた、のか?しかもあいつは何で回りだした?」
俺は奴の真下を避けるように移動しながら呟いた。同じような奴かと思っていたが、どうもこいつは丸太の銀色やボロボとは違うみたいだ。あいつらは単調な攻撃しかしてこなかった。
「クテンオウギ、オン!」
「っ!なんだとっ!」
警戒してあいつの真下には居ないようにしていたが、あの銀鳥はその回転し続ける身体の両翼から不可視の塊を打ち出してきた。しかも九天奥義の1つを使って。本来はオーラを飛ばすものをプラーナに代えて。
「イヅナ!ロラン!」
俺はその塊を防ぐようにイヅナとロランの前に立った。
「トウヤ!」
ドドドドドッ!
と、俺の身体にかなりの衝撃が連続してぶつかった。そのうちにプラーナの高まりが止んで塊が飛んでこなくなったが銀鳥はまだ回転だけしている。
「ぐぅ、盾を造るのが間に合わなかったか・・・無事かイヅナ?」
何とかオーラの身体強化だけで今のに耐えた俺は後ろを振り返り尋ねた。
「うん大丈夫だ」
「そうか、ロランは?」
と、先ほどまでイヅナと一緒に居たと思っていたロランが居なかった。
いや正確に言うと居た。
「ふう・・・大したものね」
「あ、ありがとうリーナちゃん」
いつの間にか此処に居たデュカ・リーナの後ろに。
「お前も俺と同じことを考えたんだな?」
イヅナとロランを庇うことを。
「ええそうよ・・・それより貴方は何を驚いていたのかしら?」
こいつが言うのは俺が先ほど銀鳥に対して叫んだことだろう。
俺はまだ回転し続ける銀鳥を見ながら手短に説明した、銀鳥が使った技について。
「クテン?その技をあの鳥が撃ってきた、ということかしら?」
「ああ、そうやって発声してたからな。はっきりと」
と、話していて気づいた。ガロウはどこだ?イヅナ達の近くには居ない。
「我郎剣、烈空!」
そうやって周りを見渡していると声が聞こえた。頭上から。
「キシャアアッ!?」
頭上を見るとガロウも銀鳥と同じぐらいの高さに居た。しかも今の技はオーラを水平に飛ばすやつだ。
「直撃した!」
今のガロウの攻撃で銀鳥の翼の片側が切り落とされている。
銀鳥は回転をやめて、と言うよりもその場に留まることができなくなり錐もみ状態になって落下していく。その動きは遅い。
「今だ!牙!」
ズドッ!
落ちてくる銀鳥を狙い打ちした結果、俺の炎斬は銀鳥の身体に突き刺さった。
「キシャア・・・」
そして炎斬の長さを戻して銀鳥を引き寄せて近くで見るも、こいつは未だに生きて?いた。ただ明らかに弱ってはいる。って、ああそうか。
俺はその銀鳥の身体の真ん中あたりを見て思い出した。
「ええと、これだな?」
銀鳥の身体の中心にあった赤い石を取り外した。
この赤い知恵の石をとれば多分、
ガシャン
銀鳥は地面に落ちた。ぴくりとも動かず言葉を発することもない。
取り外した知恵の石を見てみると端が少し欠けているだけだ。
「へえ・・・それを使って動いてた、ということなのね?」
「ああ。俺もよく分からんがこれさえ切り離せば動かなくなるらしい」
デュカ・リーナが俺の手元を見ながら感心したように呟くので説明した。
「それはいいとして。ガロウ?あんたはいつのまにあんな上空へ行ったんだ?」
空から降りてきて俺の手元を見ていたガロウに尋ねた。凄まじい跳躍力だと思って、
「ああ、その鳥のような者が君に気を取られているときにあそこへ行って勢いをつけた」
ガロウが指したのは島の入口から入ってすぐにある岩山の方向だった。つまり一回跳んで岩山の上に行き、それから銀鳥と同じ高さまで跳んだってことだろう。
大した機転だな、と思ったあと俺は疑問を持った。何故この鳥は九天の技を使えたのだろうか?と。
もしかしてジン・ガトウが言っていたニル姉の強さに何か関係があるのだろうか。技を教えたとか?
・・・でも鳥は剣も持ってないし喋るとはいえ知能は低そうな鳥が一夕一朝で会得できるだろうか。
あのボロボも突進ぐらいしかしてこなかったし、そもそも知恵の石って何なのだろう?俺が知っていることと言えばこの石を金属に嵌め込むことによって金属が動き攻撃行動をとる、ということぐらいだ。だから本当の意味ではこれが何なのかは分からない。
いやそういえば前にこの島で戦った丸太型の銀色、ジン・ガトウは精気兵と言っていたが、あれは単調な攻撃ながらも強力な攻撃をしてきたっけ?まるで魔法みたいな・・・そんでこの鳥は九天奥義みたいな攻撃を。
どういうことなんだ?同じような石を使っても効果が違う、しかも大きさや形も違う、というのは何か理由でもあるのか?
「・・・ちょっといいかしら?」
「ん?」
俺が知恵の石について考えているとデュカ・リーナが俺に声をかけてきた。
その手には俺が銀鳥から取り外した知恵の石を持っている。
「・・・これが知恵の石、というもので間違いないのかしら?」
「ああ。俺も見るのは三回目ぐらいだけど、それで間違いないはずだぞ」
「そう・・・・・・ところで貴方はこの島の名前を知っているかしら?」
「島の名前?・・・[鬼ヶ島]じゃないのか?」
「いやトウヤ君、それは通称だ。此の島は正式には、[火喰い島]と言うのだよ。鬼族が居るとされていることから君の言うほうが有名にはなっているがね」
「ああ、言われてみたらそうだな」
俺は口を挟んできたガロウの言葉に納得した。
「・・・そうね。それは正しいの、但し今の時代では。位置的に火の大陸だから分かりやすくするため、という目的もあったのでしょうけど」
「どういうことだ?」
「かつて・・・・・・・・・その前に、以前私が三万年前から存在しているということは貴方に話したわよね?」
「ああ、覚えてる」
「その当時から私は此の島に居たのだけれど、その時は名前が違ったの」
「じゃあ鬼、じゃなかった火喰い島じゃなかったのか?」
「・・・ええ。その当時呼ばれていたのは日喰い島、つまり、」
そこまで言ってデュカ・リーナは頭上を指した。今は午後なので日差しが眩しい。
「太陽を食べる島、という風に呼ばれていたの」
「へえ、それは何でなんだ?」
「・・・まあ一番もっともな理由としては火の大陸から見たらこの方角に日が沈むからでしょう」
「それが途中から火になったのは何でだ?」
「火ノ鳥・・・火喰い鳥がこの島を拠点としていたからいつの間にか呼び名が変わっていた、というところではないかしら」
「ああ、火ノ鳥か。ん?一番もっともな理由、ってことは他に何か理由があるのか?」
「・・・当時言われていたのは文字通り太陽を食べた、ということでその名になったという冗談めいた説があったわ。それはこの島で火山が活動していたことで一時期物凄い高温に包まれていた、という当時の状況に因るものでしょうけれど」
「火山が?今は?」
「今はもう活動していないわ」
「そうなのか。で、お前は何で急に名前の由来を話し始めたんだ?確か知恵の石について話してたと思ったけど」
俺がそのことについて尋ねると、
「これはね、その火口の中にあったものに酷似しているの、色が」
俺に手に持つ赤い石を見せた。
「火口に?じゃあそれは火山岩みたいなものってことか?それが知恵の石の原料っていう」
「そう・・・でも、その火口にあったものはこれより遥かに巨大なものだった。だからひょっとしたら違うかもしれないけれど・・・」
「どっちでもいいんじゃないか?知恵の石の原料がその石だろうがそうじゃなかろうが?」
俺はもっともな突っ込みをした。
「いいえ・・・もしそれが貴方の言う知恵の石そのもの、もしくは原料だとすれば拙いことになるでしょう」
「何で?」
「貴方の仲間のあの騎士、ミシルと言ったかしら?」
「ああ。お前と何回か戦ったって言ってたな」
でも、何で急にミシルの名前を?
「・・・あの騎士に使った魔石、それは私がこの島の火口で採ったものを原料にしているの。だから、よく知りもしないで使い方を間違えれば」
使い手に手酷いしっぺ返しがくるでしょう、と自嘲するように言った。
「そいつはでもお前だからこそ造れたし扱えたんじゃないのか?」
聞いた話だとミシルが使ったのは黒い石らしいし、知恵の石は赤だ。同じものはこいつでもない限りつ造れないだろうと思いそれを指摘した。
「そう、ね・・・私もあれを造る時は魔力を注ぎ込んだから前提条件としてまず魔力がなければ無理、か・・・私の考えすぎね」
俺が言うとデュカ・リーナは僅かに安心したように呟いた。
・・・あれ?
でも待てよ。
俺はここ最近疑問に思っていたことを思い出した。魔力と精気の関連性についてだ。
よく考えれば両者の違いはなんだ?
・・・というか魔力が扱えなくても精気を扱えれば知恵の石を活用できるんじゃないのか?
例えば俺や・・・・・・・・・ニル姉のように。
それに思い至ったとき先ほど島の中から感じた膨大な精気のことを同時に思い出した。
「・・・?どうかしたのかしら?」
「いや、別に」
と言いかけて思い直した。聞いてみるか。
「神殿ってのはあの方向にあるのか?」
「・・・ええ。先ほども言ったと思うけれど島の中心にあるわ」
「やっぱりな」
膨大な精気を感じた場所あたりを指し示した俺はその言葉を聞いて納得した。




