第71話〜持たざるチカラ〜
炎斬を通して話すと魔力を消費するらしい。もっともその量は微々たるものということなので俺はジン・ガトウに詳しい説明を求めたが島に来れば分かる、という一点張りであいつは説明してくれなかった。
まあ、俺に対する嫌がらせというよりは何か焦っているような口調だったので炎斬を通して話すのをやめたのだろう。
しかし、俺に来いというのはいったいどういう理由からだろうか?あいつの短い説明だと俺の知り合いであるニル姉が関わっているような感じだったのだが、なんで俺なんだろう。精気って言ってたからそのあたりに関係あるんだろうか?
とにもかくにも一回鬼ヶ島に行ってどんな様子かを見てみないことには何も分からないに等しい状態だ。なので俺は、
「ーーーってことなんだ」
「・・・そう。確かにそれだけでは何が起こったのかよく分からないわね」
今ジン・ガトウから聞いた話をデュカ・リーナに相談してみた。
鬼ヶ島と言えばこいつが詳しいし、
「それでだ、お前の魔法ってやつで俺を鬼ヶ島に連れてってくれよ」
手っとり早く行くためにはそのほうがいいと思って。
「・・・あなた」
「なんだ?」
「ふう・・・いいえ、ただいい度胸ねと思っただけよ・・・私を乗り物代わりに使おうだなんて」
デュカ・リーナは何か呆れたように俺に言った。
「だめなのか?意外とけちな奴だなお前は」
「・・・・・・」
「なんだよ?」
感情のよく分からない碧眼で俺をじいっと見つめてくるので思わずたじろいだ。
「・・・顎で使われるようで癪に触るけれど良しとしましょう・・・私も火喰い島の状況を知りたいから・・・癪に触るけれど・・・」
「お前なんか怒ってないか?」
「・・・怒らないと思える貴方は図太いというか何というか・・・」
「?」
「・・・まあそれはいいわ。でもあの子はどうするの?」
「あの子?・・・ああ」
デュカ・リーナの目線を追うとイヅナが居た。俺はそもそもイヅナをこの大陸へ送り届けにきたのでそのことを言いたいのだろう。
あれ、でも待てよ?あいつを拐って閉じ込めた奴らは此処に居るし、そいつらは目的も今果たしたようだから今後はイヅナに危害を加えることもないんじゃないか?
それに、さっきのあの女の態度を考えると・・・
「おいジズ!」
「はいっ?何でしょうか?」
俺は光り輝く剣を見ていたジズを呼んだ。
「あのな、イヅナのことなんだけど、」
俺はジズへイヅナを元居た場所へ連れ帰るように指示した。元はと言えばこいつがイヅナを拐ったからな。まさか断ることはないだろう。
「・・・分かりました。私が責任を持ってあの貂を送り届けましょう」
「頼むぞ」
「ちょっと待ってトウヤ!」
俺とジズの話を聞いてたイヅナが割り込んできた。
「トウヤはどこかに行くの?」
「ああ、俺はちょっと用事ができたんでな。お前を送れなくなって悪いけど代わりにこいつに頼んだから」
「あたしも行く!」
「いやお前は家族のところに帰るんだろ?それに今から俺が行くところはいまいち状況が分からないんだ。ひょっとしたら危ないかもしれないし」
「行くったら行くの!」
「やめといたほうがいいぞ?」
「むー!」
「やめとけって」
「・・・・・・」
「お前は兄ちゃんに会いたいんだろ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・わかったよ。というわけで、こいつも一緒に頼む」
無言で俺を見つめてくるイヅナの態度に俺は折れた。
「・・・随分となつかれているのね。まあいいわ、火喰い島に行く前に先にその子の兄に会いにいきましょう」
「えっ、いいのか?」
「・・・私はむしろそのために此の大陸に来たのよ」
「そうなのか。じゃあ決まりだな」
デュカ・リーナが行くとなれば勿論ロランも一緒に行くことになるだろう。
「じゃあ早速行くか、」
と思ったが、
「・・・待てトウヤ」
「話が見えないのだが」
「ご説明をお願いします」
ミシルとガロウとリシナに止められた。そういやこいつらはわざわざ俺を探しに此の大陸に来たんだった。さすがに説明しないと悪いかなと思い、俺はジン・ガトウから聞いた話を説明した。
「それならば私も行こう。トウヤ君も知っているかもしれないが現在カグツチ政府と火喰い島では交流を持とうとしている。そのような状況ならば私が直接行って状況を把握しておくべきだろう」
「そうか。それなら俺はともかくこいつに頼んだほうがいいんじゃないか」
俺はデュカ・リーナのほうを見た。
「・・・もう1人増えるということね。ええ、いいわ・・・」
やけに疲れたようにデュカ・リーナは呟いた。
「・・・私は大司教共と行くことにした。災厄・・・どのようなものかこの目で見てみたい」
ミシルはジズ達と一緒に災厄って奴に会いに闇の大陸に行くらしい。光の戦士に聞くとあの剣を扱えるのはハンスだけらしいのであまり行く意味はないと思うが。
「私も鬼ヶ島へ行きたいところですが・・・」
「いいってリシナ。退魔師ってこういうときに本領を発揮するんだろ?鬼ヶ島よりはそっちに行ったほうがいいと思うぞ」
リシナも鬼ヶ島に行きたそうだが災厄の王って奴は得体が知れないのでリシナみたいに治癒ができる奴が居たほうが安心だと思い俺が止めた。
っていうか俺も災厄の王って奴を見たかったんだけどな、ジン・ガトウの焦りからすると鬼ヶ島も急いだほうがよさそうなので諦めた。あとは、
『・・・俺はまだこの場から動けん』
光の戦士は未だに気絶しているエンキドゥを見ながら言った。
あいつが起きるのを待っているのだろう。でも?
「大丈夫なのか?此の大陸に伝わる話だとお前はエンキドゥに・・・」
『・・・どういうことだ?』
俺は光の大陸に伝わる話を本人に話してやった。つまりエンキドゥが光の戦士を・・・
『・・・話がねじ曲がって伝わっているのか・・・』
「えっ、じゃあそうじゃないのか?」
『違う・・・俺は死の間際のことを微かに憶えている。俺はエンキドゥと共に戦っていた。だから違う、と断言できる。が・・・』
「誰に殺されたか分からない、ってことか」
『そうだ・・・相対していた奴は思い出せん・・・俺の鎧が牙に貫かれていることを考えれば獣のようなやつではあるのだろうが・・・』
いったいどういうことなんだ、誰がこいつを?とその話を聞いて首を傾げた。まあ考えてわかることでもないし、と気を取り直した。
「・・・じゃあ行くか」
俺とデュカ・リーナ、ガロウとロランとイヅナは鬼ヶ島へ、ミシルとリシナはジズとハンスに付いて闇の大陸へと行くらしい、ギルガメッシュとエンキドゥも。
お互いの無事を祈り俺達はその場を後にした。
〜〜〜
時は遡り、
~???年~
~とある大陸~
『ふんふんふんふふふーん♪』
其処には機嫌良く鼻歌を歌う一人の青年が居た。その機嫌の良さはまるで悩みなど何1つない、といった風情だ。それもそのはず・・・全ての出来事はその青年の思惑通りに進んでいたから。
その青年にできないことはそう多くはない。僅かながらできないことの1つにこの世界の生物の命を奪う、というものがその身に科せられてはいるものの、仮にそれを行ってみたところで特に不都合は無い。その青年にとっては。それに純粋にこの世界で生まれた者でない限りはそれも関係はない。ただ、永すぎる生をより楽しむためにそれを自らに科しているに過ぎない。世界の理の範疇の外にある事柄ならば青年は深くは考えない。
ーーー思えば初めに生まれ落ちて世界の理を発見した時から今の自分の生き方が決まったな、とその青年は他人事のように考えていた。そして自分が他の誰よりも何よりも上の力を持っていると気付いたときに、その永い時間を如何にして潰すか、それのみを考えていた。
今その青年が行っていることは自身にとって唯一障害となる可能性のある、そしてこの世界よりさらに上にある、
『・・・・・・』
『いやー!君も中々だったよ!流石は龍神界の落とし子だけあるね!僕には全く通用しないとはいえ!』
龍神界と呼ばれる龍族が住まう世界。その龍族がこの世界の各地に散らばっていると知り、会いに行っていた。暇潰しに。そして今青年の目の前にはその内の一体が、うつ伏せている。生命を維持できる極限までその力を削り取られて。
『・・・・・・』
『おやおや!喋る元気すら無くなっちゃったのかな!』
その龍は本来持っていた魔力を根こそぎ削り取られおよそ身体の至るところに傷を負っていた、目の前の青年の手によって。青年は命さえ奪わなければ何をやってもよいと自分で決めていたのでそのような姿を見ても何ら感じることはない。いや、ただ1つ「暇潰しの玩具が減ったな」とは考えていた。
『しっかし、本気なのかな!その程度の強さで本気で僕を止められると考えているのかなあ!』
青年は機嫌が良さそうでいてどこかしら不満そうでもあった。それもそのはず、いつの日かは分からないがようやく自分を止められる可能性のある者が出てくると思い、それに関連した者・・・龍族とやらに会ってその力を見たのにそのあまりの弱さに拍子ぬけしたからだ。
『話ではこの世界の龍君達が全員ってことだったけど君達程度が束になっても、ねえ?』
『・・・・・・!』
そこに倒れ伏す龍は喋ることもままならず感情のままただただその青年を睨みつけるのみだ。自身の力が通じなかったというその屈辱によって。世界の破滅の訪れを予感して。何より己の使命を全うできなかった自責の念に駆られて。
『戦うべきじゃなかったのかなあ?でも僕だってここまで弱いって知ってたなら手は出してないよ!』
それはそこで倒れ伏す龍にとってなんという侮辱に満ちた言葉だったのだろうか。龍神界よりこの人間界に落とされて長い年月を経た。その間にその大陸の住民・・・少数派のほうではあるがかくあるべきと自身を模範とされ信頼を寄せられ、奉られてきたその龍にとっては。
『もう殺してあげよう!と言いたいところだけど僕は退屈ってやつが大っっっっっっっ嫌いなのさ!だからもし傷が癒えて君が今以上の高みに立った時多少でも僕に追いつくぐらいの強さになったらもったいない。そう思うから殺さないでおいてあげるよ!それに、何時の日になるのか知らないけど』
預言っていう楽しみもある、と青年は顔をぐにゃりと歪めた。それを聞いた龍は何故この者は龍神様の預言について知っているのだろうか、と訝った。
『それにしても君達龍族よりも弱いこの世界のニンゲンがねえ?僕には信じられないよ!あっ、でも1つ面白い話を聞いたっけな!ええと確かーーーーーー』
青年はかつてこの世界に存在していたある1体の魔物について語り出した。
『ーーーーーーそう考えればニンゲンって奴もまんざらじゃあないのかな?でも結局は倒し切れてなかったって話で・・・そうだ!』
青年は何かに思い至ったように再び顔をぐにゃりと歪めた。
『それをやってみれば面白いかもしれないな!うんそうしよう!』
『・・・・・・?』
『あとは・・・そうだな!感情ってやつも知りたいな二、人間の!』
『・・・!?』
その龍は思った。この目の前の悪魔はまさか人間を・・・
『へえ、その顔?流石は此の大陸で勇者って呼ばれるほどのことはあるね。魔族から派生した亜人とニンゲン族の懸け橋になろうと躍起になって頑張ってたんだっけ?』
『・・・・・・どぅ、す・・・る・・・つも・・・だ』
『ほうほう!もう喋れるぐらいには回復したのかい!流石は復活を得意とする龍君だけのことはあるね!・・・どうするつもりかって?それはね、今この世界においてもっとも絶望を感じている人間のところへ行くのさ!』
『・・・なん、・・・のため・・・に』
『決まってるさ!パーティーへご招待!ってね。魔の深淵へ踏み込む・・・そんな人間が居たとしたら面白くないかい!丁度と言うべきかな?そんな人間が君のお友達の近くに一体居るんだ!』
『・・・!?』
『えーと?これは何処の大陸になるんだろう?・・・じゃあまたね!次に会えるのを楽しみにしてるよ!』
それだけ言い残し青年は目の前から消えた。
残された龍は残されたありったけの魔力を使い回復へと専念した・・・今己にできることはそれしか残されていなかったために。
悪魔、め・・・・・・
そしてその悪魔じみた青年を憎むこと、ただそれだけしかできなかったため・・・
しかし、とその龍は思い立った。今の己ではあの悪魔に手も足もでなかったが時を経て己が強くなればどうだろうかと。
この世界に落ちてから今まであのような圧倒的な力の持ち主に出逢ったことがなかったため対処も何も思いつかなかったが、一度目の当たりにすれば両者の実力がどれほど離れているか凡そは測ることができた。
そう思い己が今後どれだけの高みに辿り着けるかをその龍は予測してみた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しかし、己が最大限に実力をつけたとしても及ぶべくもなかった・・・あれは、あの悪魔は己はおろか我が神である龍神すらも超えている、と気づいた。ではどうするか?
その龍は今までにない存在との邂逅によって自分達の種族がいかに矮小な力の持ち主でしかないことを悟った。
その龍は考えた。
そして思い出した。
この世界に来る前に居た場所、己の生まれた場所龍神界で聞いたことを。己の力で足りないのならば・・・
己だけの強さで及ばないのならば・・・
そう考え1つの方法に思い至った。
いつの日かは分からないが己を従える者が現れる日を待つということ。そのためには・・・
そして、その龍はその場から動かなくなった。自らの意思で・・・
〜〜〜
〜火喰い島〜
一応手は打った。不本意ではあったが自分の手には余る事態なのでそうせざるを得なかったと言うべきだろうが。
ジン・ガトウは眼前に広がる光景を見ながらそんな自嘲めいたことを考えていた。
「精気兵・・・我々は当然のようにそれを使っていたがそもそも誰が何の目的で造った・・・ただの便利な魔導具ぐらいにしか思っていなかった・・・」
目の前の光景を見上げて考えれば考えるほどその存在について謎が深まるばかりだった。
「あれがこの膨大な精気を、造りだしているのか?否、膨大な精気を与えられたからこそあれがこのように・・・」
ジン・ガトウは氷系魔法の使い手である。本来は近距離用、中距離用に氷の武器を造りだして相手にそれで攻撃するのが常套手段でもある。しかしそれはあくまで人間や鬼族などに対して通じる手段でありそれ以外の相手、例えば、
「しかし何故これほど巨大になっているのだ?」
そうやってジン・ガトウが上に向かって叫んだ銀色の相手にはおそらく通じないだろう。自身の数十倍はあろうかという銀色の山には。その形状としては以前島を守護していた精気兵とそう変わらない。問題はその規格外の大きさだった。
「それに他の者は・・・?」
目の前の動く山から距離を取りながら他の鬼族の魔力を探った。
だが間近にある膨大な精気を感じすぎるため感じとることは叶わなかった。




