第69話〜技法〜
リーナちゃんと再び光の大陸に戻った僕は人間が増えていることが不思議だった。
この大陸は殆ど人間しか居ないから別に不思議じゃないかもしれないが、僕が言いたいのはそんなことじゃない。
「・・・トウヤ、だっけ?」
「おお、そうだった。お前はデュカ・リーナと一緒だったんだよなロラン」
「うわっ、やめろっ」
僕は文句を言いたい。何でこの人間は気安く僕に近づいてしかも身体を触ってくるんだ!と。
「はは、思った通りお前はふかふかだな♪」
挙げ句の果てにこいつは調子に乗って僕に跨がってきた。
「ううー・・・」
しかも頭や背中を撫でてくるので僕はよっぽどその手に噛みついてやろうかと思った。
「貴方ねえ・・・」
「ん、何だデュカ・リーナ?」
「ロランも困ってるみたいだし降りてあげたら?・・・」
「えー、だってまだこいつの毛を堪能してないぞ?」
リーナちゃん!
・・・?
僕はリーナちゃんに心底から感謝しつつ、その目線の先を追った。すると、リーナちゃんがもう1人、居る???
「と、トウヤ!そいつから離れて!」
「な、何だよイヅナまで。別にいいだろ?」
「よくない!あたしを撫でろー!」
そのリーナちゃんみたいな奴はトウヤが僕を撫でているのが気にいらない様子だ。
でも僕だって嫌なんだ!
「いやだってお前は今毛が・・・」
ボンッと音がしてリーナちゃんの偽者が急に居なくなった。と思ったら、
「ほら、早く!」
鼬が目の前に現れた。
「まったく・・・イヅナは我が儘だな」
君もだ!
と僕はトウヤに向かって思わず突っ込んだ。
〜〜〜
光の大陸、戦士の鎧がある場所に戻ってみれば、人間が増えていた。
しかもそのうち三名は顔見知りで・・・取り敢えずそのうちの1人を軽く諌めた。私の連れが困っている様子を見かねて。それはいいとして、もう1人は・・・
「・・・奇縁にも程があるな。出来うる限り貴様の顔は見たくはなかったが・・・」
「・・・貴方からすればそうでしょうね。でも、ある意味では私は貴方の為に動いているのだけれど?」
「・・・ふん、だからと言って私が貴様を許したわけではない。勘違いするなよ?私は私の目的の為に貴様を生かしているに過ぎん、ということを・・・」
「・・・ええ、重々承知しているわ」
とはいえ、何故この人間達がこの大陸に居るのか理由が分からない。
私に恨みを持つ騎士と話しているとロランが叫ぶ声がした。
君もだ・・・と?
いや、何がかしらと思いロランのほうを見てみると、その前に一匹の鼬が居た。
あれは・・・
私は思いついてその鼬に近づき、
「貴女は、ルー・・・アヅナの妹、だったかしら?」
尋ねた。
「なんでアヅナを知って・・・・・・?あー!強い人間だ!」
「人間、ね・・・久し振りねイヅナ」
ようやくこれでルーと契約ができる、と私は安堵した。ルーを縛るものはこのイヅナだからこの子を解放すれば問題ないはずだ。
・・・というよりも、よく考えれば現在ルーについている監視はジズの差し金ではないのだろうか?
私は光の大陸に来てからいくつか腑に落ちない点があったのだが、大司教と呼ばれる人物ジズに何1つ聞いていないことを思い出した。
それは何故だろうか?と自問してみると・・・・・・どうしてか本能的に尋ねたくなかった、というのが大きな原因だ・・・
私の本能、というよりも身体がそれを知りたがっていない、と言うべきか・・・私の身体が・・・
「ああ、そういやイヅナはデュカ・リーナに会ったことがあるんだったな」
「ええ、あれはもう五十年は前になるかしら・・・」
「あたしは人間がこんなに強いのかと思ってびっくりしたよ」
「強いって、こいつがお前の兄ちゃんを仲間にするぐらいだからお前の兄ちゃんも強いんじゃないのか?」
「そうだけど・・・」
「あのねイヅナ?そもそも私は純粋な人間ではないのだけれど」
「えっ?そうなの」
「そうよ・・・」
純真な瞳で私を見てくるイヅナに答えていると・・・何やら視線を感じた。
「何かしら?」
「いえ、なんでもありません・・・」
視線の主ジズは何か言いたそうな顔をしながら言った。
「ああ、いえそうでした・・・折角貴女に闇の大陸まで行って頂きましたが、思わぬところで実が手に入りました。御足労おかけしました」
ジズは言いながら私にセフィロトの果実を見せた。
私の時のようにあの人間達にもらったのだろう。
「・・・それは気にしなくてもいいわ。思わぬ収穫もあったし、それに・・・貴女の話の裏付けも取れたから」
「・・・?それはどういう意味でしょうか?」
「そうね、」
私は闇の大陸で見たことを伝えた。
「・・・容易く竜を討つとは・・・彼の者は今も闇の大陸に存在しているのでしょうか?」
「それは分からなかったわ・・・でも、いつ現れるとも分からないから・・・やるべきことがあるのなら早くやったらどうかしら?」
「はい」
何故か私は苛ついている。
ジズが私にすがるような目をしてくるからだろうか・・・それとも
「それでは始めます・・・光の戦士、蘇生の技法を」
そう言って、ジズは金色の鎧の前に二本の杖を立てた。
〜〜〜
どうやら俺達もこの場に居る必要があるらしい。エンキドゥが起きた時のための備え、とあとは首尾良く光の戦士が本当に蘇生したときのために、らしい。
・・・ハンスのおっさんはそもそもこの時のために遠い場所から呼ばれたという話だ。
でも?
「なんでなんだ?なんで態々別の大陸のおっさんを呼んだんだジズ?」
「・・・剣聖殿を呼んだもっとも大きな理由ですね。それは、」
「拙者の持つこれだろう」
と、ハンスは背負っていた剣を抜いて見せた。
「それは?」
かなりの業物というのは分かるが別にそこまで必要とも思えないが?その光の戦士っていう奴によほど警戒でもしているのか?
「これは選定の剣、カリブルヌス・・・風の大陸に伝わる伝説の剣だ」
「ふーん。あれ、でもフェンの太刀は?あれも風の大陸の伝説の剣じゃないのか?」
「この剣はあれとはまた由来が違うのだ・・・風竜様の加護を受けているわけではない」
「そうなのか。何でそれをおっさんが持っているんだ?」
「・・・かいつまんで言うとだな、元々この剣は風の大陸にあったわけではない。一説には天から降ってきたものだとされているのだ。数百年の昔、これが風の大陸にある最も高き山の岩に刺さっていたらしい。それを拙者の先祖が抜いて代々我がクレアス家の家宝にしていたと我が家には伝えられている。この剣は錆びない上に切れ味も相当なものだから、当時のクレアス家の当主が判断したのだろう。とはいえ拙者も大司教に会うまでその銘までは知らなかった。が、その使い手を選んで呼んだという大司教の言葉に因れば間違いではないのだろう」
「成程な。じゃあなんでそれが光の戦士を蘇生させるのに必要なんだ?」
「さあな・・・?拙者もそこまで詳しい説明を聞いたわけではない。しかし大司教が、」
「・・・困っていましたからね。剣聖殿が困っている者を放っておけない性質の方で本当に助かりました」
「と、いうわけで詳しい事情も知らぬまま拙者は今日まで大司教と行動を共にしてきた」
話しながらジズから感じるプレッシャーが上がってきた。魔法を使うのだろう。
・・・?
よく考えると、こいつは何で魔法を使えるのだろうか?
「この魔力・・・すごいわね・・・」
「そうなのか?まあお前も魔法を使うもんな」
だから、さっきデュカ・リーナはジズが今何をしようとしているのか聞いていたのだろう。
「蘇生の技法・・・あれはその実験場だった、というわけね。でも何故其処にルーを配置して?・・・」
デュカ・リーナは何やら呟いているがその言葉の意味はよく分からなかった。
それよりも、
「・・・何故奴は魔法を使える?」
ミシルが言うようにその疑問は俺もさっきから持っている。
・・・あいつも魔石を使ったのだろうか?
というか、何でハンスの剣が必要なのかを聞いてなかったな。
「なあ、」
「はぁぁぁ!」
そう思いジズに聞こうと思ったがやめた。見るからに今はそんな余裕はなさそうだ。
魔力を高めているのか何やらジズの周囲が光輝いている。
「光の戦士よ顕れ給え!」
鎧と杖が?
ジズの声に応えるかのように鎧と杖が中空に浮き上がった。周囲はジズから発せられた光によって照らされている。眩しいな。
パァン!
と、何かが弾けるような音がして光が一際大きく輝いた。
そして、
「おお」
その光の中に誰かが立っていた。
〜〜〜
・・・私は自身はおろか他者の魔力もある程度なら測ることができる。それはこの力を手に入れた時に得た能力でもある。
この魔の力を・・・
・・・思えば私は数ヶ月前に祖国で起こった出来事以来加速度的に強さというものが上昇している。それはその出来事に要因があることではあるが、よく考えると通常では考えられないことだ・・・剣を持って十余年、血の滲むような努力をして剣技を身につけた。
剣に関して私には誰よりも生まれ持った素養がある、というのは私が十代の頃にその強さを上回った剣の師の言葉だ。その言葉通り私は国で最強の騎士となり騎士の中でもっとも誉れである王族付きの護衛騎士となることができた。
王を護ることは、できなかったが・・・
だが、と今では思う。結果論ではあるが私自身にとってはそれでよかったのではないだろうか、と・・・勿論使命を全うできなかった点については未だに悔やむ日もある。しかし、結果として私は人智を越える力を手に入れた。それはあの日あの時あの出来事があったからこその結果だ。
オーラ、プラーナ、そして魔力・・・護衛騎士を務めているだけのあの頃では知りもせず決して手に入れることのなかった力・・・
私が最強の・・・
「ミシル?どうしたんだ」
「・・・いや何でもない」
私を高みへと押し上げた一因であるこの少年、この少年も強さの素養という点では常軌を逸したものを持っている・・・だが?
「魔力、か?こいつは」
「・・・そうだな」
何故この少年は魔力を持たないにも関わらず他者の魔力を感じることができるのだろうか?
まるで私や魔物のように・・・
〜〜〜
俺はジズがあそこまでして光の戦士を復活させた理由が分かった、ような気がする。
「プレッシャーが凄いな・・・」
その素顔は金ぴかの兜に隠されてよく見えないが今あそこに立っている奴が光の戦士なのだろう。この凄まじいプレッシャーの持ち主が・・・ただ、あの金ぴかの鎧の中にそのままそいつが現れるなんて、蘇生の技法とはどういう仕組みなのだろうか?
とは思ったが聞いても分からないだろうし、どのみち俺は魔法が使えないから意味がないので特には尋ねなかった。だからジズがそいつと話すのを傍観していた。
「おお・・・光の戦士殿」
『・・・・・・・・俺は何故生きている?』
「私の勝手な都合で安眠を妨げて申し訳無いとは存じます。しかし、どうか貴方のお力添えを頂きたいのです。この世界のために」
『・・・この世、界・・・・・・?お前は魔族ではないのか?』
「いえ、私は人間です・・・私は人間であり大切なこの世界のためにーーーーーー」
そしてジズは蘇った光の戦士へ現在、というよりも現代の情報、それも含めて何故自身が蘇ったのかその理由を説明していた。
『そうか、それで俺は再び此処に居るというわけか・・・それにしてもお前からは匂いを何とはなしに感じる・・・』
「匂い、ですか?」
『そう、匂いだ・・・闇の大陸における濃密な空気のような・・・』
「っ!・・・・・・流石貴方は闇の大陸を源流とされるお方ですね・・・」
『お前も闇の大陸から来たということか?・・・お前の話によれば此処は光の大陸という話だったが』
「そうです。貴方と同じく闇の大陸から来たのです」
『だが純粋な人間なのか・・・?お前はまるで』
「・・・それについては後で説明します。それよりも今は、」
『災厄、か・・・』
「ええ」
『・・・俺を永き眠りから起こした理由はそれか・・・』
「そうです。本来なら貴方の御力を借りずに済むはずだったのですが何故か・・・」
『聖剣が未完成だった、というわけだな・・・』
「はい・・・剣聖殿!それをこちらへ」
会話を聞いてもあまり意味が分からなかったが、その後の様子を見ると何となくは分かった。つまりは光の戦士を蘇らせた理由を。
ジズに言われたハンスがカリブルヌスをジズに渡している。
『精製の技法、か・・・お前は俺を蘇らせるほどの技を持っている。そのままお前がやれば良いのではないか?』
「・・・最初はそれも考えました。ですが可能性のより高いほうに賭けたかったのです」
『ふん・・・俺でも失敗するかもしれんぞ』
「貴方ならおそらく成功するでしょう。2つの杖を造られた貴方ならば・・・」
『・・・貸せ』
ジズが光の戦士へと剣を渡した。
『これは・・・!』
しかしそれを見た光の戦士は何やら驚いている。
「どう、されました・・・?」
『・・・わざわざ俺を蘇らせてくれたことには感謝する。しかし、この状態では俺でも完成させることはできん・・・』
「それは、何故でしょう・・・?」
『・・・この剣自体は完成している。斬るだけならば特に問題はない・・・未完成だとお前が言ったのはこの剣の特殊能力を発揮できなかったからだろう・・・ただ未完成なだけならば俺でも何とかなったかもしれん。だが、これには呪印が刻まれている・・・』
「呪印・・・?」
『そうだ、しかも最も強力な・・・・・・おそらくは魔族それも最上級に位置するほどの魔力の持ち主が施したのだろう・・・・・・まるで俺がこれを見るというこの時を予見していたかのように・・・』
「そんな・・・!ではどうすれば?」
『俺も力になってやりたいがどうすることもできん・・・』
今の一連のやりとりでジズのやりたかったことが大体分かった。
つまり、まず選定の剣とやらの持ち主であるハンスを呼んだ。そこまでははいいものの、それが何やら未完成だったらしく、その後イヅナを鉄島に閉じ込めたのは杖を造るためで、その造った杖を使って光の戦士を蘇らせて、未完成の剣を完成させようとしたのだろう。
でも、光の戦士の口ぶりだとそれも無理な感じだ。
「呪印というのは解呪できないのですか?」
『・・・並の魔物程度が施したものならばな・・・だが、これは・・・幻魔、いやおそらくは真魔の呪いだ・・』
「真魔?」
『そう・・・それならばそれを打ち消すには少なくとも神の祝福、かもしくは神の力が要る・・・』
「・・・!」
見る限り光の戦士でも剣を完成させるのは無理な様子だ。もう諦めるしかないんじゃないか?そもそも災厄って奴を倒すのになんであの剣が必要なのかも分からないし。
「なあジズ?もう諦めたほうがいいんじゃないか?それを使わずに何とかする方法を考えたほうが、」
見かねてつい俺は二人に声をかけた。
「いえ・・・これがなければ倒せないのです、アンリ・マユは・・・」
「何で?」
「あの存在は並の武器はおろか神々の武具さえ通じません。というよりもそもそも物理攻撃も魔法も通じないのです・・・」
「そんな奴が?・・・前はどうやって倒したんだろう、いや倒したのか?」
「それは分かりません。前に倒した時もその肉体を消滅させたのみで完全には倒し切れていなかったという伝承ですし・・・それも分からないものですから、一年前全ての魔を討ち祓うとされている伝説の聖剣を使い手とともに呼んだわけなのです・・・」
つまりジズは災厄の王って奴がこの世界に顕われるのを一年前から予見していたということだろう。でもそんな無敵な奴が居るなんてな・・・話を聞けば俺もその剣を何とか完成させたほうがいいような気がしてきた。
『・・・?・・・おいお前、その犬はなんだ?』
「ぐるるるる」
俺の下で何故か俺に敵意を剥き出しにしているロランを見て光の戦士が聞いてきた。
「こいつはロランだ。俺の友達で、」
「君なんか友達じゃない!降りろ!」
「ええー、そんなつれないこと言うなよー」
「うるさーい!さっきから僕を撫でたり僕に跨ったりもう我慢できない!」
「ちぇっ」
何かロランの機嫌が悪くなったので俺は渋々ロランから降りた。
『・・・喋る獣・・・犬型の・・・そして内包する魔力・・・』
「?どうしたんだ?」
ロランを見ながら光の戦士がぶつぶつと呟いているので俺は尋ねた。
『・・・その獣も闇の大陸から来たのか?』
「そういやそうだな」
俺はロランの村に行ったことを思い出して答えた。
『ということはもしやその獣は・・・』
神の祝福を受けたのではないか、と光の戦士は呟いた。




