第68話〜誰がために〜
俺・・・わたしの生まれ育った場所は冷たい風が吹きすさぶ峡谷にある。
そんな土地柄のせいなのか、暮らす人々は皆精神的に穏やかじゃない性格が多い。稀にだが優しくて力持ち、みたいな人も居るが大半はそんな人たちばかりだ。その里は風厳の里といい凡そ1000人が暮らしている。男と女の割合が、1対9といったところか、とにかく男の数が少ない。これは大昔、大陸に男にのみ流行り病があった名残なんだそうだ。わたしはそれを父親から聞いて育った。
だから自然と男の扱いは丁寧になり女の扱いは雑になる、というのはしょうがないことだ。
他の集落よりもわたしの村では剣術、格闘術が盛んだ、という話を聞いたことがある。その理由を大人に尋ねてみると、峡谷にある風厳の里のさらに奥にある場所、魔風の谷から魔物が突然現れるかららしい。文字通り風に乗ってやってくるように・・・その魔物へ対処するためには何よりも強さが求められる。
また場所は分からないが大陸の何処かに居わす風竜様が風厳の里に残したとされている風喚びの太刀。これは何故か里に居る者のうち女にしか使えない。
その太刀は、風を喚び、風に乗り、風の魔法を使えるという。わたしは一年程前に頭領からこれを受け継いだ。わたしがその太刀を受け継いだのには理由がある・・・丁度その頃里にある不思議な出来事が起きた、というのが最も大きな理由なのだが、それに伴うわたしの次の行動を先読みしていた頭領の思慮深さを流石というべきだろう。
神隠し・・・・・・始めは誰もが何が起きたのかは分からなかったが、ある人物がある日突然里から消えた。その人物は里では最強の剣士とされていた。わたしも幼い頃からその人物に師事してきており剣技、闘気術を学んだ。だからそのへんの魔物がその人物を倒したとは里の誰も思っていなかった。それには1つの根拠があった。その人物が居なくなる直前に障気の高まりを頭領が感じた、というのがもっとも大きな根拠である。それを鑑み他の大陸で伝え聞く魔法ではないか、何らかの魔法で連れ去られたのではないか、という意見が出た。それならば探そうと、里の意見はまとまった。そして、わたしはそれを希望した。その人物を探しに・・・わたしの父を。
ついでに男も少ない里のために婿も探してはどうか、という意見も出た。多数。
・・・基本的には誰も突然居なくなったわたしの父のことはそれほど心配してはいなかった。魔物を一撃でほふりさる腕を持つ父だからなのか、風喚びの太刀と並ぶ名剣を持っているからなのか、おそらくはその両方なのだろうが・・・強さを信頼されているのだろうが、複雑な気持ちだ・・・
ーーーーーー
それが一年前のことだ。年若いわたしを補助するために2人の人物がわたしに付いてきた。(わたしはそいつらは婿探しのほうがメインの目的だと睨んでいる)
そして、土の大陸、水の大陸と回って旅をしたが父に関する手がかりは何もなかった。というよりもどちらかといえばかつて風の大陸を出た男、その子孫を探す(つまり婿足り得る人物)ほうが重要な任務になってきた感のある今日この頃だ。そもそも父程の実力があればそのうちひょっこり帰って来るのではないかという意見ばかりだった・・・頭領も含めて。
だからこの旅は気楽に、本当に気楽に考えて続けていた。一回里に帰ってもいいか、ぐらいに思っていた。あいつと会うまでは。
あいつ・・・トウヤに会ったときにまず思ったことは、ついに風の大陸に縁のある奴を見つけた!ということだった。違ったけど。
わたしは喜び勇んで話しかけたがあいつは素っ気ない、というかなんというか何か用事があるみたいだったので何処かに行こうとしていた。
しかしわたしはそんなチャンスを逃したくはなかったので一緒に行動をすることにした。年も同じぐらいだったし、持っている得物も何らかの加護を受けている、ということは腕も立つのだろう。それなら里に連れていっても何も問題はない。何より、何というか、その、見た目が好み・・・
あいつの用事が終われば里に連れていくという約束も取り付けた。わたしを男と思われているだろうが、里に連れていけばそんなものなんとでもなる。里のみんなにわたしの意図を汲み取ってもらいあいつをもてなす、という。手もある。
だが、問題があった。それはあいつと行動を共にしている奴等の存在だ。
それは女ばっかりだった。まあわたしの里では一夫多妻制なので、いざとなれば・・・
しかし、強力な相手が1人居た・・・
あいつの幼馴染み、奴をなんとかしないと・・・
それよりも今はあいつ自体が居ない。おそらくは父のように魔法で何処かの大陸に行ったという話だ。その場所は分かった。わたしも迎えに行きたかったが止められた。今は待つしかできないので待っている。
でも・・・もしトウヤが本当に占い通りその場所に居るのなら、父の行方も占ってもらえばいい、と思い付いたのは大きな収穫だった。もう一度水の大陸へ行って・・・
フェン・クレアスは火の大陸、カグツチ城の客間でそんなとりとめもない考え事をしていた。
〜〜〜
成程な。
俺は風の大陸から来たおっさん、ハンスの話を聞いて色々と納得ができた。
一番大きな気づきとしてはおっさんのオーラについてだ。何で知りもしないこのおっさんのオーラを感じたことがあるかと思えば似てたからだ。フェンのオーラと。通常オーラというものは血のように家族だったら似るものだ。
つまりこのおっさんはフェンの、
「親父か。言われてみれば顔が似てる気がするな」
「まさかフェンが里を出ているとはな・・・しかもお主等と知り合いだとは」
クレアスとおっさんが名乗った時にガロウがもしやフェンの血縁の者ではないか?と言うのでおっさんに聞くとどんぴしゃだった。
そのフェンが水の大陸に居たのは、行方不明になったこのおっさんを探すために里を出て旅立った途中だったのだろう、とおっさんは言うが・・・
「え、でも俺があいつに聞いたのは世界に散らばった風の大陸出身の男を探すためだって話だぞ、おっさん」
「うむ、それはそれで重要な役目だな。勿論その目的もあるだろう。しかし拙者は頭領や娘が突然居なくなった拙者を心配しているのだろうと思う」
だからまだ年若いフェンが里を出たのだ、とハンスは言うが、フェンからはおっさんのことは一切口から出なかったな、と思った・・・
「っと、ちなみにお主等は何歳なのだ?」
不意に思いついたようにハンスは聞いてきた。
「俺?十五歳だ」
「私は二十三歳です」
「・・・同じく二十三歳だ」
俺、ガロウ、ミシルと答えた。何故このおっさんは急に年齢を聞いてきたのだろうか、と三人で訝っているとハンスは、
「ふむ。ヒノカ以外は資格があるな」
何やら1人頷いている。
「資格?俺以外は?何の」
「決まっている。フェンの結婚相手だ」
「ぶっ!?」
「何を面白い顔をしている?・・・そうさな、お主はあと一年待ってくれるか?そうすれば立派に資格があるぞ」
「待て待ておっさん!」
何やら勝手に話を進めようとしているおっさんを止めるべく俺は突っ込んだ。
「ぬっ、どうしたヒノカ」
「いや、どうしたもこうしたもないだろ?フェンはまだ俺と同じ年だし、何よりあいつの居ないところで勝手にそんな話を進めたらまずいんじゃないのか?」
「何故?」
「何故って・・・そりゃあ、あいつの意志もあるだろうし、それにそもそも風の大陸じゃあ結婚は十六歳からじゃないのか?」
俺は至極当たり前のことを言った、筈だ。だからそのキョトンとした顔をやめろおっさん。
「・・・風土、文化の相違だな。風の大陸では基本的に数が少ない男は優遇される。だから女は男を探すのに労力をいとわない。奴の年齢は確かに足りんがとりあえず一緒に暮らすぐらいなら問題もないだろう。もう一年足らずでフェンも十六歳になるしな。しかもお主等は闘気を感じる限り強さが足りないということはない。何よりフェンが共に行動するほどお主等と心安いなら何も問題はないだろう?」
「だからって、なあ?」
俺は微妙に納得できずにガロウとミシルの顔を見た。
「自分は役目がありますので申し訳ないが辞退させて頂きます」
「・・・婚姻云々はともかく一度風厳の里とやらには行ってみたい。それにクレアスの話しによく出てくる頭領とかいう輩にも会ってはみたい」
何故か俺を見ながらきっぱりと断ったガロウとは対照的にミシルは意外と乗り気だった。
「そうか・・・まあ今はそれどころではないから一旦保留して考えておいてくれ」
「いえ、自分は・・・」
押しが強いのか断るガロウを無視してハンスはそんなことを言った。まあ、俺には関係ないな。
「で、デュカ・リーナはいつ帰ってくるんだ」
「はいっ?」
俺が話の輪に入ってなかった奴、ジズに尋ねると慌てたような返事が聞こえた。
「トウヤ・・・」
「イヅナ?」
良く見るとジズに抱き抱えられるようにしてイヅナが悲しそうな声を出した。
「えーっと、ジズだっけ?あんたは何をしてるんだ?」
「い、いえ別に何も」
「嘘だ!さっきからあたしを撫でたり抱っこしたりしてた!もうくたびれたよ・・・」
「あんた・・・」
俺はジズを見ながらこいつはまさか少女好きなのか、と思った。
「ご、ごほんっ!あの鬼族の方も転送魔法が使えるのでそう遅くはならないでしょう」
「も?」
何かを誤魔化すように言ったジズは気にしないことにして俺は疑問をぶつけた。
「ええ、私と同じく」
「へえ、あんたもいきなり現れたり消えたりできるんだな。・・・そう言えばさっきデュカ・リーナは闇の大陸にある物を取りに行ったって話だったけど、何を取りに行ったんだ?」
「・・・かつて此の大陸にあったモノを」
「此の大陸に?」
「ええ・・・大昔の話になりますが、万物の生命の力を増幅させる樹、セフィロト・・・その果実を」
「ああ、黒竜が護ってるあれな」
「そう、あれです・・・・・・?何故それを御存じで?」
「貰ったからな。わざわざ闇の大陸に行かなくてもあるぞ」
「えっ?」
もっとも、俺は持っていないが。
「みなさん、お待たせしました!」
丁度それを持っているリシナが遅れてやって来たので俺はジズから聞いた話をリシナに説明した。
〜〜〜
「召喚っていったい何なの?」
「・・・私もこのような形の召喚は初めてなのだけれど」
「でも、リーナちゃんはそれをしに光の大陸に行ったんでしょ?その召喚の契約をしに」
「そうね。でも・・・」
私の呼びかけによって現れた黒竜とは召喚契約をしていない。なのに何故現れたのだろうか、この竜は?
『召喚師よ・・・汝の手に持つその刃・・・我が想いを込めた護りの黒き刃・・・その使い手の呼びかけある限り我は何度でも応えよう・・・・・・』
「・・・つまり、私じゃなくても貴方を呼び出せるということかしら黒竜?」
『そうではない・・・汝はその刃に選ばれし存在・・・だからこそ・・・』
「貴方を呼べた、ということかしら・・・?」
『・・・・・・力が欲しい時はいつでも呼ぶがいい・・・我が名を・・・』
それだけ言い残して黒竜は霧散した・・・
「あ、消えた」
「・・・選ばれし存在ね。だったら私が・・・」
蘇ったのもこの刃のおかげだろうか、と考えることもできる。
しかし問題は・・・
「帰りましょうかロラン」
「え、でも樹の実は?」
「この有様ではどうにもならないでしょう・・・見たことをそのまま伝えるしかないわ」
「・・・腐ってるしね」
ジズに頼まれたことを実行できなかったため私は僅かに落ち込んだ。
(お・・ちゃ・・・ごめ・・・)
!?
何か今私に話しかけたような・・・?
「リーナちゃん?」
「・・・何でもないわ、行きましょう」
私はジズの元へ戻ることにした。
〜〜〜
〜闇騎士の館〜
自分は我が主、闇騎士シンド・ラギ様にお仕えして早30年になる。あの方は出会った当初から年齢を重ねていない・・・
それが主、闇騎士たる所以なのだろう。お仕えした当初こそ自分も若者と言って良いほど溌剌としていたが今では歳を取りシンド様の部下を纏める存在となった・・・
そもそも私のような人でない者をそのような立場に置くという我が主の度量こそが、闇の大陸の魔物をして容易にこの館を攻め込ませない要因なのだろう・・・
(強き者こそ力)
それがあの方、そしてあの方の下に仕える際に、もっとも大切で揺るぎない不文律でもある。種族、戦法を問わずとにかく強さを・・・という。
自分はしかし強さというよりも何かの衝動をあの方から感じている・・・いや感じていた。まるで何かを打ち消すかのような。僅かに聞いた話の中に出てきた友、とやらに何かしら関係はあるのだろう、という雰囲気は察したがそれ以上は敢えて聞かなかった。どのみち聞く必要もないことだ・・・自分は、自分達はただあの方に従って覇道を突き進むのみ。
だが、あの方は以前とは変わった。それはどういった経緯があったのかは不明だ。
丁度あの方と同盟を結んでいた魔物共の存在が消えた時・・・我が主がこの館に戻られた。が、その際に引き連れていたニンゲン、あの者達が何か関わっていたのだろうか・・・?
自分には分からない・・・また、分からなくてもいい。
亜人とニンゲンの間に産まれた自分、忌み子として扱われてきた自分を拾ってくれた我が主に尽くすだけだ・・・
・・・だが、それももう叶わない・・・
シン・・・ド、さ・・・ま・・・
シンド・ラギの忠臣、亜人と人間の間に産まれたその部下は突如闇騎士の館に現れた一体の存在に応戦していた。
だが、その一体が自身に向けて手を掲げた時、自身の生命が失われていく感覚に陥った。他の闇騎士の部下と共に。
背から翼が生えたその存在はそれを見て、
『闇は闇に還れ・・・』
そう呟きながらその場から姿を消した。




